捻くれた俺の彼女は超絶美少女   作:狼々

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どうも、狼々です!

今回は、いつもと違って、音葉ちゃん視点がメインです。
キャンプファイヤー後の二人の反応を書きました。
残念ながらと言うべきか、三日目にはまだ移りません。

では、本編どうぞ!


第16話 十三年の片想い

「あぁあ~……」

 

 キャンプファイヤーが終わって、部屋に戻った俺。係だが、当日の仕事はもうないのでよし。ベッドの上に寝転がって、一人うなされていた。恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい! 何で俺は抱き締め返したんだよ……受け止めるまではよかった。そこで止めといてもよかっただろ……!

 

 ……まだ、心臓の鼓動が煩い。耳元でドクンドクンとなっているみたいだ。それを感じて、自分の隠れた欲深さと、期待に呆れていた。まさか、抱きつかれるなんて、思わなんだ。ドキドキしっぱなしだ。

 

 正直、彼女のことで頭がいっぱいだった。何であんなことをしたんだろうとか、どうしてフォークダンスを誘ってくれたのだろうとか。色々と都合の良い解釈ばかりを持ち上げて、自惚れそうになる。期待したら、その期待が裏切られた時のダメージが大きいのに、期待せずにはいられない。

 

 男って、どうしてこんなにも単純明快なのだろうか。ここまでくると、嫌気が差してくる。俺のぼっち生活で培った経験と思考等などが、一瞬で打ち砕かれていく。あんなの、反則だろうよ。恥ずかしくなりながらフォークダンスを二人きりで踊って、転んだ拍子に抱きつく。それだけじゃなく、離れもせずに、腕を回して抱き締める。

 

 俺も俺だ。なんであそこで抱き返すような真似をしたんだろうか。雰囲気に流されてしまった。俺も、まだまだということだろうな。これから精進せねば。

 

 とかなんとか考えてはいるものの、あるたった一つの可能性に一番の期待を寄せて、そうであってほしいと願って、そうであったらと先のことを想像して。全く、醜いったらありゃしない。今の俺はどこか変だ。どれだけの男がこれで騙されたか、俺はもう知っているはずだ。学習したはずだ。

 

 そう理解していても、頭の中で張り付いてしまっている。

 

 ……今日も早いが、もう寝ることにしよう。俺は、この考えを白に変換すべく、瞼を閉じる。精神的にも肉体的にも疲れたからか、すぐに眠気が襲ってくる。それに身を委ね、視界が暗転する。そして、直前にもう一度だけ、頭の中でぐるぐると廻り続けていた疑問が浮かび上がる。

 

 ――もしかして、彼女は俺のことを――

 

 ――そして、俺は彼女のことを――

 

 ―*―*―*―*―*―*―

 

「うわわぁぁあ~……」

 

 顔を真っ赤にしながら、枕を抱いてそれに埋める。倒れ込んだとき、彼が受け止めてくれた。体の殆どが密着して、ダンスで高まった興奮を、さらに高めた。自分の欲を我慢できず、彼を抱き締めてしまった。突然抱き締められたら、嫌われるかもしれない。そう思ったけれど、どうしても耐えられなかった。

 

 彼に触れた瞬間から、頭が回らなくなっていた。頭が真っ白になって、耳まで赤くして、あの時間がずっと続いてほしいと思った。受け止められた時は、もっとひどかった。

 

 彼の声が、匂いが、暖かさが、私を支配していた。息が苦しく、荒くなって、頭はもっと真っ白になって。忙しなく心臓が鼓動して、心も締め付けられる。彼が腕の中にいる。その認識が、私の感情を先行させる。切なさが彼と抱き合って埋まったはずなのに、それ以上の切なさが襲い掛かってくる。

 

 心が潤ったと思ったら、また乾いた。欲求が埋まると、それ以上の欲求を求め始めてしまう。そんなのは強欲で、怠惰的で、慢性的だ。わかっているけれど、求めてしまう。一番、彼がほしい。他の物の一切を捨てて、彼だけがほしい。その欲望に、自分の感情も体も支配される。

 

 ――その感覚は、ひどく悲しいわけでもなく、逆に頭が飛びそうなくらい嬉しいのも、悩みものだ。

 

「どしたの、音葉ちゃん。そんなになって」

 

 枕から頭を放すと、こちらを覗く茜ちゃんが見えた。不思議で仕方がない、という顔をしている。

 

「い、いや、なんでも……」

「あ、そうそう。誠とのフォークダンスは楽しかったかい?」

「楽しかったし、恥ずかし――うぇえ!?」

 

 驚きすぎて、変な声まで出てしまった。茜ちゃんがこれを知っているということは、あれを見たということで――!

 

「えぇえ!? み、見た、の……?」

「あ、やっぱり踊ったんだ。予想通りだね。見てはないよ」

 

 その言葉を聞いて、安堵の表情になる。あれを見られていたら、死にそうになるくらい恥ずかしい。それも、最初から見られていたとしたら、私から抱きついたことがバレている。欲深だと思われてしまう。でも……実際欲深さが全面に出ていたから、何も言い返せない。

 

「あれあれ? どうしたの、その『あぁ、よかった』、みたいな顔。もしやもしや? 他人に見られちゃまずいことを……」

「し、してない! してないから!」

「そうやって、必死になって否定しているとこ。ますます怪しいですな~」

 

 茜ちゃんがニヤニヤと悪戯な笑みを浮かべる。茜ちゃんはこうやって、面白いと感じたことはとことん求める性格だ。気に入ったら、最後まで調べ尽くし、知り尽くす。なぜなら、それが面白いから。単純で純粋な欲求だからこそ、彼女の悪戯はくすぐったくて仕方がない。

 

「して、ない……から……」

 

 自分の言葉が尻すぼみになって、背徳感を感じていることを露呈させてしまっている。その背徳感があったからこそ、あの時間の幸福感があったのだが。

 

「で、本当のところはどうなの? 周りに言うようなことはしないよ。そんなことは、面白くないからね」

 

 茜ちゃんの悪戯な笑みが、優しげな柔らかい笑みに変わった。声も同じく柔らかい。茜ちゃんの言うことの真偽は、最近になってわかるようになってきた。この表情と声からして、本当のこと。他言はするつもりはないのだろう。茜ちゃんは、時々ふざけるような性格だけれど、大事な時や真面目であることが必要な時は、真剣になってくれる。

 

「……一緒に、踊った」

「それはさっき聞いてる。他には?」

 

 やはり、どうにも躱すことはできなさそうだ。このままずるずると追求され続けるのも、限界がある。私は、こうなった茜ちゃんには、さっさと正直なことを言うのが一番だと知っている。

 

「……抱き、合った……」

「へ~、そうかいそうかい、抱き合っ――え? そ、それは、ハグのことだよね? 合ってるよね?」

 

 恥ずかしくなりながらも小さく頷くと、茜ちゃんがとても嬉しそうな顔になった。その顔があまりにも魅力的だった。そして、一番初めにこう思ってしまった。『彼をとられないだろうか』、と。まだ自分に振り向いてくれるともわからないのに、どこまでも強欲な私が、そう思わせる。

 

「ふふっ、それはよかったね。やっぱり、その……()()、なの?」

 

 茜ちゃんの質問に、少しどころではなくドキッとした。自分の中では、既に答えは出ている。それが、見透かされている気がしてならない。全部がお見通しのようで、どこか気恥ずかしい。さらに自分から答えを口にすることも、とても恥ずかしい。

 

「……私は、()()()()、だよ」

 

 ……言ってしまった。ずっと他言はせず、自分の中でしまい続けたこの思いを、初めて他人に言った。そのことによる恥ずかしさは頂点に達し、今にも逃げ出してしまいたくなる。けれど、そんなことでは、きっと彼とは結ばれることは、一生ないのだろう。悶える気持ちを抑え込み、その場に居座る。……枕で顔は隠したけど。

 

「うん、やっぱりね。見ていたら、なんとなくはわかるよ。で、いつからなの?」

 

 落ち着いた声で、茜ちゃんは言う。『見ていたら』という部分に、私と彼がいつも一緒にいる、みたいな意味があると感じてしまう。自分の中で妄想を広げ、自分の中で勝手に恥ずかしくなって蒸発する、という馬鹿なことをしてしまった。こうやって、自分がおかしくなるのも、恋の難点だ。

 

 それに、一回おかしくなったら、後になって歯止めがかからなくなる。自分の恋愛欲を満たすことだけしか考えられなくなる。彼を求めて、酔いしれて、溺れて、底無しの海に沈んでいく感覚。呼吸がままならない、苦しくなる感覚は、本当にそれと酷似している。抜け出そうとしても抜け出せないし、抜け出したくないと思ってしまう自分がいる。

 

 その自分を真っ向から否定できず、欲に甘えて身を委ねる。それにどうしようもない中毒性があって、一度吸ってしまった甘蜜(かんみつ)を途中で止めることなど、できるはずがない。そうやって甘い思いを形成させる。それが、どれだけ幸せなのか、わからなくなってくるくらい幸せ。湧き上がる恋が、永遠に続いてほしい。

 

「まずね、柊君が覚えてるかどうかわからない。けど、私と柊君は、三歳……幼稚園の年少で知り合ってるの」

「三歳!? へぇえ~……じゃあ、今年で知り合って十三年目になるの?」

「うん。さっきも言った通り、覚えているかわからないけどね」

 

 今までの様子を見る限りでは、きっと覚えていないのだろう。転入した日、隣の席が彼だったことには、もう心の底から驚いた。ブレザーの名前の刺繍を見た瞬間、夢なんじゃないかと自分を疑った。けれど、名前も後からわかって確信した。この柊君は、紛れもなくあの時の『ひいらぎくん』なのだと。『柊』の文字が読めたのも、そのお陰。その名前を再び読むことができたことが、奇跡。それだけに、嬉しすぎた。正直、泣いてしまいそうになった。

 

 覚えてくれていないのは少し悲しかったけれど、仕方がない。なにせ、もうずっと前のことなのだから。けれど、覚えていてくれているんじゃないか? という淡い期待が、捨てきれないから、『覚えているかわからない』と自分の考えを隠逸(いんいつ)させる。けれども、やっぱり仕方がない。私の、彼への一方的な感謝から芽生えた――()()なのだから。

 

「私はもう、()()()()()()()()()()()()()()()んだよ。本当に好きとわかったのはつい最近だと思うけど、思えばその時から、恋をしていたのかもね」

「これはまたなんとも……一途って、私は素敵だと思うよ」

 

 また、この優しげな笑み。この笑顔が彼を惹きつけてしまったら。そう考えると、心がざわついて、涙が出てしまいそうになる。どこまでも欲深く、独占的であることに呆れてしまう。

 

「で、抱き合ったってことは、誠も音葉ちゃんを抱いたってことだよね?」

「ふぇっ!? あ、そう、だね……」

 

 抱いた、と聞いて反射的に淫らな想像を、一瞬だけ……してしまった。本当に、恋は自分をおかしくしてしまう。いつもの私なら、そんなことは絶対にないのに。頭が飛ぶほどの幸せと引き換えと考えると、妥当なのかもしれないと、少し納得してしまいそうにもなる。

 

 そうやって納得して、自分が中毒に浸ることを正当化させて、背徳感をなくそうとしている。けれども、それは実際に消えない。ただ、満悦至極を得ようとすることに、何等(なんら)変わりもない。依存が加速するのみだ。

 

「ってことはさ、少なくとも嫌じゃないってことじゃない?」

 

 確かに、そうだ。好きではないにしろ、嫌なら拒絶の反応を見せるはずだ。だけど、彼は違った。拒絶どころか、受け入れる以上のことをしてくれた。

 

 もしかしたら、彼も私を求めてくれているんじゃないかと、儚い期待を持ってしまう。けれども、それは叶わない恋故に。一方的な片思いから始まった私は、彼とは平行線となっている。だから、叶わない。そうわかっていても、そうであってほしいと願っている以上は、道を歩むことは止めないのだろう。

 

「そう……だね」

「だったら、アタックを続けるだけだよ。恋愛フラグは建った。なら、後は回収するだけだよ。じゃあ、わらひは寝うよ~ぉ」

 

 欠伸(あくび)混じりに言って、ベッドへと潜っていった。眠いのを我慢してくれていたんだろう。

 

 フラグ、か……そのフラグを、どれだけ回収し損ねたかは、わからない。クイックセーブもなし。セーブデータは一つのみ。さらには、リセットも効かない、正真正銘の一回勝負、ワンチャンス。その一回に、私の恋の全てを捧げたい。彼だけを、ずっと好きでいたい。

 

 好きでいるために、どうすればいいだろうか。そうなると、茜ちゃんの言う通り、アタックの他に選択肢は無い。

 

「……頑張ろ」

 

 自分に言い聞かせるように呟いて、瞼を閉じる。

 

 すぐに眠気と暖かさに覆われ、彼との抱擁の姿が瞼の裏に甦ってくる。儚い夢に縋りながら、その夢がいつか現実となるように。頑張っていかないといけない。

 

 ――彼を、好きでいるためにも、彼に好きになってもらうためにも。




ありがとうございました!

音葉ちゃんの一途な姿、とてもかわいらしい。
私も一途な彼女がいてくれたら……

魂恋録を見てくださっている方はわかっていると思いますが、
私の恋愛作品は、『彼』と『彼女』が多いです。
その理由が、自分に置き換えられるという、なんとも悲しい理由です。

私の自己満足かもしれませんが、よければ置き換えてみてください。
それ相応の悶える恋物語を書けるかは、保証できませんが。

ではでは!

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