今回は、キャンプファイヤー編です!
事前に書いておきます。
二人の距離が、縮まります。
今後の合宿の展開ですが、どうやら小さくは争いっぽいのができそうです。
激しくはないけど、人間関係が絡んでくるのを目標に。
では、本編どうぞ!
大規模に
最後の確認が終わったら、皆が何かを決意し、やり遂げようという引き締まった顔になる。俺はというと、全然、全くもってそんな表情は、微塵もさせていない。イベント事だからと言って、舞い上がったり、つけあがったり、はしゃいだりはしない。それが、最上級のぼっちというものだ。俺の自意識は、水平線として保たれている。
いるんだよな、どこの学年・どこのクラスにも。いつもは暗い雰囲気だとか、ぼっちだとかを配役される人間が、こういう特別な行事となったらでしゃばる奴が。そんなことをしても周囲は戸惑うだけで、何のいいこともない。逆に「あいつ調子乗ってね?」とか思われることも多々ある。出る杭は打たれる、やっぱりこの言葉は正しいのだろう。
点火の前に、今まで会議の司会を務めていた生徒が、衣装のような何かを着る。白い布で
その司会は、『火の神』として、周りの『火の子』にトーチからトーチへ火を分け与え、神と子が一斉に火を点ける、ということになっている。衣装は火の神だけにあり、火の子にはない。火の子は、今いる周りの生徒や寝巻と同じく、栄巻高校のジャージだ。今は気温も低いので、全員長袖。燃え移る可能性が否めない。万が一だが。
火の神を先頭に、予め決められた場所に一列で整列する。火の神の持っているトーチに先生が火を点けると、暗闇の中で一点のみ光る火に、皆から注目を集め、少々ざわつき始める。今は夜なので、テンションとかも高いのだろう。さっきの通り、イベント事はノリが良すぎる傾向にあるからな。
周囲の係以外の生徒を外円とし、係が内円となって、上から見て二重丸の形となって組んだ木を囲む。そして、火の神の台詞。高々とトーチを掲げる様は、どこか聖火ランナーを想起させる。
「火は、
司会が、誓いの言葉を綴る。周りのざわつきも嘘のように消え去り、夜の
ある程度言葉を言い終えると、火の神が前から順に、火の子の持つトーチに火を分けていく。一つ、また一つと灯りは増え、各々の手元とその周りの闇を照らす。自分のトーチも灯りとして機能し始め、思いがけない暖かさに驚きかける。灯りが円を描いて一周すると、火の神が元の場所に戻ってから、火の守が時計回りに声を上げる。
「私は、友情の火をいただきました。この炎のように、どこまでも熱い友情を築き上げていくことを、誓います」
それぞれの言葉が掲げられていく中、俺に順番がまわってくる。俺も周りと同じく、一歩前に出てトーチを上に。
「私は、誠実の火をいただきました。この炎のように、確立した一つの存在として変わらない心を持つことを、誓います」
全く、自分で言っておいてなんだが、心にもないことを言うものだ。まず、俺の配役が間違いだ。誠実なんて言葉、俺ほど似合わない人間も珍しいくらいだろうに。そう思った瞬間、頭の中に小鳥遊の言葉が浮かび上がった。
『曲がってて捻くれてるけど、本当は真っ直ぐで誠実』
本当に、誰も彼も間違いだらけだ。誠実? 俺に限ってそれはない。もしも俺が誠実だと言うのならば、周りの全人類はたった今聖人……いや、それこそ神になるだろう。『誠実』の定義の広さが疑えるレベルだ。
クラスごとに火の守は並んでいるので、隣には小鳥遊。……その厳かな雰囲気を宿した灯りに照らされていた彼女の表情が、柔らかい笑顔だったのは、気のせいだろうか。
中身のない言葉を並べて間もなく、点火の時間に。トーチごと組んだ木へ入れて、幾つもの灯りが消え、一つの大きな炎となった。パチパチと音を立てて燃え、黒煙が闇と同化して消失する。
「燃え盛る炎を前に、皆で『燃えろよ燃えろ』を歌いましょう」
火の守の声がかかり、生徒が立ち上がり合唱を始める。事前に練習はしておいたので、中々いい出来なのではないかと思っている。きっちりと三番まで歌い終わったところで、再び火の守の声。
「さぁ今宵、この炎を囲むことができることに、感謝して、この後を楽しみましょう」
そこまで言い終わり、退場に入る。言い終えた瞬間、キャンプファイヤーを囲む生徒が声を大きく上げ始める。
……俺は、この雰囲気が大嫌いだ。他人に流されて、雰囲気に流されて、少しも自分を持っていないのだろうか? そんな浮き輪のような軽い存在だということを、声を大にして恥ずかしくはないのだろうか? 俺には、とてもそんなことはできない。
バス中とはまた違ったレクリエーションがすぐに始まった。始まってすぐに、俺は近くの木々に逃げ込んだ。森のようにもなっていて、バカ騒ぎする生徒の声は殆ど聞こえない。こんなことをしていいのかと言われたら、まぁダメだろう。けれど、今日俺がやらなければならない係の仕事は、片付けのみ。なので、今は戻らなくとも大丈夫だ。レクリエーションが終わったあたりにでも顔を出せばいいだろう。
宵闇に浮かぶ星々が、炎とはまた一味違った煌めき。永遠に衰退することもなかろうと思うくらいに誇張されている。標本として切り取って保存してしまいたい。
しばらく見惚れていると、騒ぎ声が小さくなっていった。もうそろそろ時間だろうか。速やかにキャンプファイヤーの場所に戻る。
「あ! 柊君! どこに行ってたの!」
戻ってきて早々、小鳥遊に怒られました。
「いや、ずっとここにいただろ。あれか? 存在すら認識できないほどぼっち極めてたか?」
「い~や、いなかったね! 最初からずっと捜してたけど、全っ然見つからなかった!」
すぐにバレた。小鳥遊には嘘は吐くもんじゃないな。てか、最初から捜してたって……どんだけ暇だったんだよ。
「あれだ、あれ。俺はレクリエーションとかは――」
「今から、フォークダンスの準備を始めます!」
準備係の内の一人が大きく声を上げ、周りからは歓声、女子の高い悲鳴にも似た声、男子の野太い歓喜の声。多種多様な叫び声とそれに乗せられた意味とが交錯し、入り混じる。小鳥遊も準備係の声につられてそちらを向く。……抜けるなら、今だな。
「はぁぁあ~……」
先程と同じ場所に戻り、深く溜め息を吐く。遠くからはフォークダンスの音楽のみが聞こえる。けれど、すぐさまそれを意識から排除する。聞こえるのは、木々の囁きのみ。
自然は、自分の雄大さを堂々と持っている。俺は、それがとても素晴らしく思える。人間なんかよりも、よっぽど利口だ。そもそも、人間が今こうやって生きていられるのも、自然あってのお陰だしな。俺の口から、無意識に笑みが溢れる。しかし、その笑みをすぐに抑える。
今は二日目の夜、もう残り丸一日で合宿が終わる。それに、バイオパークでは、ほぼそれぞれの自由行動。接触を図るチャンスはあと一、二回ほど。下手すれば……
……今に至るまでずっと、考えている。最初の小鳥遊の
何故小鳥遊は涙した? それを何故周囲が咎めなかった? 何故いきなり小鳥遊と二人組はコンタクトをとった? まず、黒宮達三人がこの班に入った理由は何だ? 大まかに分けると、この四つが問題になってくる。もっと言うと、小鳥遊が泣いた理由はこの際どうでもよく、
――順を追って、一つずつ考えていかないとダメだろう。そうでないと、不正解の結論を飾ったり、結論すら出ない可能性がある。それだけは絶対に避ける必要がある。何故なら、余計に小鳥遊と吹雪……それに、途中参加の茜にまで被害が及ぶことが、完全に否定できないから。
全てが偶然の重なりである。それも一つの答えだろうが、色々と説明がつかない。恐らくではなく、確実に不正解。
この班構成には、何の、誰の意図が――
「ほら、また見つけた。さすが私だね」
突然他人の声が聞こえ、振り返った先には小鳥遊。胸を張って、得意気な顔を作っている。ゆったりとしたジャージでも、その反則的な体は健在していて、夜ということもあり、一層意識してしまう。
「で、早く戻った方がいいぞ。どう考えても山ほどのお誘いがあんだろ」
「……まぁ、数人はあった」
小鳥遊が、はにかみながら言う。その顔も可愛げがある。察するに、数人ではないだろう。もっとこう……十数人とか二十人とか。それ以上も十分に考えられる。他クラスが相手でも踊れるのだから。
「だったら、そん中から選んどけよ。こんなとこにいると、時間だけが過ぎてくぞ」
「はぁ~……どうして、わからないかなぁ……」
「いや、わかるもなにも、ここにいること自体も大変だろ」
途中で抜け出すことに等しいこの行動。あまり良いとは言えない。
「わざわざ捜しに来たの!」
「俺はいいだろ。ここにいるよ。終わったら戻るから」
宵闇の今、
「あ~そうじゃなくて~……!」
もどかしいながらも、何かを決心するかのように表情が固まる。
「その……貴方と一緒に、お、踊りたいな、って……」
「……はい?」
……俺と? 中々上手い冗談じゃないか。ただ、俺に言うのが間違いだな。誘われることがないとわかっているから、簡単にバレる。
「だ、だから……えっと、ダメ……?」
「え、それ本気で言ってんの? 慈悲とかはいいからな?」
小鳥遊が、小さく縮こまって首を縦に振る。可愛い。
「い、いやでも、皆に見られたら――」
「ここで、踊ろ? 静かに、二人で」
「……断る理由もないし、仮にあったとしても断らねぇよ」
……そんなに嬉しそうな表情で返されても困る。幸いというべきか、ここにも十分音楽は届く。先導すべく、手を差し出す。再び嬉しそうな表情を浮かべて、俺の手を取る小鳥遊。この時点で、俺の心臓はバックバク。そして、ここから密着しなければならない。
手を引いて、お互いの荒い吐息が届く。赤面した顔も、この距離だと闇で隠れることもない。小鳥遊も……顔が紅潮している。それが、どこか嬉しいような気もした。
暫くして、ステップの数が多くなってくる。ここは森のようなところで、周りに灯りは一切ない。
「あ~……小鳥遊、暗いから足元に気を付けろよ」
「う、うん。わ、わかっ――あっ!」
「お……っと!」
小鳥遊が言ったそばから
「ぁ、っ……!」
「おい、だいじょう――」
大丈夫か? そう言おうとして、俺の手が小鳥遊の手と離れて――
――
「あ? お、おい、小鳥遊?」
「ん、っ……!」
呼びかけるが、逆に抱き締める力が強くなり、俺の体が小鳥遊に少し引き寄せられる。
この状況は、非常にまずい。恋愛は全くしたことない俺が、超絶美少女に抱きつかれる? 対処の仕方がわからない。俺の頭が軽くパニック状態になる。
これは……抱き締め返すのがいいのか? それとも、このままの方がいいのか? いやしかし、腕を回したのは小鳥遊。
「……どうなっても、知らないぞ」
「ぁあっ……!」
俺は――
何分、そのままでいただろうか。フォークダンスの音楽が終わって、辺りが本格的に静寂に包まれる。ささやかな星の煌きだけが、俺達を照らす。
「――あっ! ご、ごめんね!」
「あ、あぁ、いや、こちらこそ……」
我に返ったのか、小鳥遊が突然離れる。そんなに速いスピードで離れられると、逆に傷付く。
「「…………」」
そして、この無言である。一気に気まずくなる。ここに響くのは、細かく揺れ続ける植物の葉と、虫の小さな鳴き声のみ。
「……戻るか」
「そ、そう、だね」
俺が少しだけ早歩きで、小鳥遊を後ろに連れて元の場所に戻っていく。取り敢えず俺は、自分の顔を見られたくなかった。
甘い蜜を吸ってしまって、感じたことのない充実感と高揚感から、心の高鳴りを到底抑えられないような、羞恥で赤く染まった顔を。見られるのが、恥ずかしかった。どうしようもなく、期待してしまった。
戻った頃には、キャンプファイヤーの火はすっかり勢いが弱くなってしまっていた。けれど、どこか荘厳な雰囲気を携えていた。
ありがとうございました!
火の神・火の守の言葉は、全て、完っ全に自作です。
「こんなの言わないだろ!」とか、「方法が違うだろ!」って思った方もいたと思います。
すみません。私の限界なんです。
音葉ちゃん、大胆ですね。
意外と奥手かと思いきや、自分の想いに従順でした。
宣伝です。活動報告にも書いた通り、新作を投稿しました。
タイトルは、『クーデレの彼女が可愛すぎて辛い』です。
タイトル通り、ヒロインはクーデレ!
時々ツンデレも入ると思います。
よければ、そちらの方も見てやってください。
ではでは!