捻くれた俺の彼女は超絶美少女   作:狼々

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どうも、狼々です!

今回の前半は、いつもよりも会話文が少ないです。
さらに、説明的な文章が続くので、読むのが苦痛かもしれません。
ご了承ください。

では、本編どうぞ!


第13話 俺は上機嫌になど、なっていない

 長崎原爆資料館を出ると、もう既に日が傾いていた。今からホテルへ移動する。少しだけ涼しくなった外を通って、バスの中へ。昼間程ではないが、クーラーが効いている。涼風に当たりながら自分の席へ向かい、本を取り出す。小鳥遊が来るまで本を読んで、来たら本を閉じて小鳥遊と会話。他愛もない話でも、最近は少し面白く感じてきた。

 

 いつの間にか、小鳥遊の機嫌は良くなっていて、俺と小鳥遊は後ろにいた茜とも時々会話をする。後ろにいたのか、全然気付かなかった。時々頭を撫でられた。どうやら本格的に調教を始めるらしい。その度に小鳥遊の口が忙しなく動く。言いたいことがあるなら言えばいいのにな。

 

 

 

 そんなこんなで、結構大きなホテルへ到着。大きい荷物を持って入ると、その大きさがより感じられる。どうやらここは結婚式も行えるようで、それなりに豪華なつくりとなっている。中央には大きな噴水、天井にはシャンデリアがあり、この建物は、全部で四階ある。一階がここ、二階が諸々。詳しくはわからない。取り敢えず、出入りは禁止とのこと。三階・四階が宿泊施設となっていて、男子が四階、女子が三階を貸し切り。

 

 一階にある大浴場は男女交代で使い、食堂は今日の夕食、二日目の朝・夕食、三日間の朝食の、計四回訪れることになっている。俺は三階で小鳥遊と茜と別れ、俺と吹雪は四階に上がる。自分の使う部屋は事前に決められているので、それに沿って入室。一部屋につき、二班が宿泊する。

 

 扉を開けて中を見るが、ここの豪華さが部屋にもちゃんと現れており、ベッドが全員分用意されてある。布団を敷く必要はなし。皆が感嘆の声を上げ、我先にとベッドの場所を決め、ベッドに飛び込む者までいる。全く、いくら合宿だからといって、はしゃぎすぎではないだろうか。俺と吹雪、それに黒宮が落ち着いた段取りで荷物を置いて準備を進める。

 

「ははっ、おい、皆。少しはしゃぎすぎだぞ。早く用意をしないと、この後はすぐ夕食だからな?」

 

 黒宮が笑いながら注意し、準備を促すと、それに忠実に従って準備を始める。え、何その技。すげえ。黒宮のような爽やかで人望厚い人間だけが成せる技だというのか。カリスマってすげ~!

 

 全員が準備を終え、部屋を消灯。施錠を確認して食堂へ。施錠は本当は必要ないのだろうが、先生方曰く「一応貴重品もあるから」、とのこと。鍵は二班の班長どちらかに保管を任せる。この部屋は勿論黒宮。やはり、人間って平等じゃない。

 

 天は人の上に人を作らず、人の下に人を作らず、なんて言葉を福沢諭吉が言ったが、これは本当なのだろう。けれど、意味が無いんだ。それは、その作り出された存在である人間が上下を作るからである。いくら最初が平等でも、それを人間がわざわざ崩す。不思議な話だ。

 

 そんな下らないことを考えていると、黒宮が俺の方に寄ってきた。え、俺にどうしたの。俺はぼっちなので、皆とは少し後ろに離れている。隣には吹雪。いつも悪いな。

 

「ここ、結構広いな。なんかわくわくしてこないか?」

「あ、あぁ、確かにそうだな。嬉しくなってくる」

 

 黒宮は持ち前の爽やかスマイル。俺は突然話しかけられたことに対する、汚い苦笑い。何この笑顔一つにある差は。天と地程じゃねえか。まさか、黒宮から話しかけられるとは思ってもみなかったのだ。俺みたいな奴に話しかける人間だとは、到底思えなかったからだ。

 

 

 

 

 少しだけ黒宮とも会話を展開して、吹雪とも会話。そうしている間に、食堂に着いた。今の一時で俺のコミュニケーション能力が一レベル上がった気がする。なんか、自分より上と感じた人と会話するのって、遠慮しちゃうよね。少しぎこちなくもなる。話しかけられただけでも、感謝してしまいそうになるほどだ。

 

「お、来たね。こっちだよ、誠~」

「柊君~」

 

 席に座っている茜と小鳥遊が、小さく手を左右に振って場所を示してくれる。どっちも可愛いな。茜の方は無邪気なお子様って感じだが。きっと本人に言ったら怒られるんだろうな。俺、吹雪、黒宮が席に座る。茜と小鳥遊以外にも、降旗と愛原も来ていたらしい。あ、いたんですね。

 

 そう思った瞬間、愛原の方が俺を睨みつけてきた。え、めっちゃ怖い。なにその蛇みたいな目。さしずめ、俺は蛙といったところだろうか。すれ違った時、彼女が足を組んでいるのが見えた。そのオレンジ髪と睨みと足組みは、合わさったら恐怖しかない。まるでヤンk――あ、また睨まれた。そっと目を逸らして回避。冷や汗がすごい。超怖い。さらにエスパーなのかよ。勝ち目ないじゃん。

 

 

 

 

 

 食事の係がいただきますの礼をかけ、食事を始める。しかし、緊張感がすごい。降旗はまだ温厚な方だ。だが、気の強いオレンジちゃん(恐怖)が(もたら)す威圧感が半端ない。俺以外はあまり気にしていないというか、気付いていないのだろう。俺にだけ覇気みたいなのが送られてくるのだ。覇王色だったら気絶してた。

 

「どうした、誠?」

「うぇっ!? あ、いや、なんでもない。ありがと……」

 

 箸が止まっている俺を見かねた黒宮が、俺に心配の声をかけてくれた。っていうか、あまり親しくないつもりだったが、突然の名前呼びとは、不意を突かれまくった。それに、呼ばれた瞬間の覇気が強くなった気がした。今の、俺は悪くないよね? それに怯えて変な声まで出てしまった。

 

 小鳥遊は不思議そうに、茜は笑いを全面に出して、吹雪は……へえ、珍しい。笑ってない。愛原の覇気がついに届いたか? ……おい、表情にも出さず、肩が震えなくなったのは進歩したな。けど、箸がありえないくらい震えてるぞ。器に当たってキンキンと音がなってる。後で問い詰めよう。

 

 

 

 

 夕食を終えて、部屋に戻ると、皆はトランプやらUNOやらを取り出して遊び始めた。これらは学校から許可された持ち物なので、堂々と遊べる。しかし、俺は輪に入らず、隅に隠れるように読書。自我境界を強く持つ。ぼっちの鑑だ。吹雪を遠くから手招きで静かに呼び、こちらに来るのを待つ。

 

「どうしたの? 何か用?」

「夕食の時、箸が震えてたぞ。そんなに面白かったか?」

 

 俺がそう問うと、吹雪の顔が少し白くなった……気がする。

 

「い、いや、怖かったんだよ。あの目は睨みとかいうレベルを超えてた」

 

 あぁ、怖かったのか。笑っていたわけではない、と。

 

「お~よしよし。怖かったでちゅね~」

「俺が言うのもなんだけど、あまり馬鹿にできないと思うよ、あの視線」

 

 その通りだから反論できない。あれは殺意が湧いてたよね。ちら、と時計を一瞥する。……もう時間か。

 

「じゃ、キャンプファイヤーの係は今から集合だから、ちょっと行ってくるわ」

「はいはい、小鳥遊さんと二人でいってらっしゃい」

 

 吹雪の声は聞こえなかったことにして、集合場所のある一階へ。階段を降りようとすると、踊り場に小鳥遊が壁に背を預けて待っていた。小鳥遊が俺を見つけると、笑顔になって小走りでこちらに来る。え、なにその反応。可愛すぎでしょ。うっかり惚れそうになっても知らないぞ。

 

 

 

 

 キャンプファイヤー係の会議が終わって、部屋に戻る。会議中、二人に接触できないかとも考えたが、人が多すぎるのと、小鳥遊と同じキャンプファイヤー係で、見られやすいということで無理という結論になった。先に女子の入浴、次に男子の入浴が行われた。入浴後も皆は飽きずに色々な遊びをして、俺は読書を再開。そして、修学旅行とかのお約束とも言える会話が始まる。

 

「なあなあ、お前の好きな子って、誰だよ?」

「俺は小鳥遊さん一筋だわ」

「俺もかな~。やっぱ可愛いよ」

「いや~、俺は茜ちゃんかな~。ちっこくて可愛い」

 

 そう、俗に言う恋バナというやつだ。俺からすれば関係などないのだが。興味も湧かないし。これを聞いているのは苦ですらある。関係ない奴の恋バナ程、聞くに堪えないものはない。話を振られた時、どういう反応をするのが正解なのか、わからない。本をしまい、部屋を出て、ホテルの玄関から外に出る。先生には、「具合が悪くなったんで外の空気吸ってました~」とか言えばいい。

 

 

 玄関を出ると、昼の気温が嘘のように下がっていて、涼しい風が吹き抜けている。夜空に沢山の星々が浮かび、三日月が妖しく輝いている。それを見るだけでも、若干の涼しさを感じる。涼風と相まって、さらに涼しさを引き起こす。やはり、こういった静かな場所で一人でいるのが、俺の(しょう)に合っている。

 

 

 消灯の一時間程前になっただろうか。もうここに来てどのくらいの時間が経ったのかも忘れた頃に。

 

「あ、やっぱりここにいたんだね」

 

 真っ黒な夜空に、透き通った透明の声が響いた。決して俺のものではなく、玄関を出てきた小鳥遊のものだった。俺は少々驚きながらも、言葉を返す。

 

「どうして、ここにいるのがわかった?」

「色んな人に聞いて――あっ! いや、たまたま、かな?」

「……そうかよ」

 

 『かな?』ってなんだよ。にしても、俺を見つけ出すとは、中々いい目をしている。俺が隠れんぼをしたら、ウォーリー並だぞ。物になると、『ミッケ!』だな。やったよね、小さい頃。友達とどっちが早く見つけられるかで一喜一憂しただろう。俺は、元々友達がいなかったから、寂しく一人で暇つぶしにやっていた。悲しい。

 

「で、なんか用か?」

「あ、いや、その、そうじゃなくて……い、一緒に、いたいな、って……」

 

 おいおい、やめろやめろ。そんな甘い、恥ずかしそうな顔でそんなことを言うな。もじもじしながら言うな。勘違いしちゃうだろうが。ドキドキするだろうが。こういう顔って、俺みたいな恋愛経験ゼロの童貞には凶器になるから。

 

「……別に、断る理由もねぇしな」

「ぁ……ありがとう!」

 

 なんでお礼言ってんだよ。言われることでもないだろ。そんな嬉しそうな顔までして。勘違いが加速しそうになるだろ。その勘違いが、今までどれだけの男を(おとしい)れたか、数え切れないだろう。だから、俺は期待をしない。期待をした分だけ、絶望や後悔が後から押し寄せるから。

 

 

 でも。少しは、楽しんでもいいとは、思うんだ。今が夜で、本当によかった。

 

 

 ――夜じゃなかったら、俺の赤くなった顔が見えていただろうからな。

 

 

 

「ねぇ、今日はどうしたの?」

「は? いや、何が?」

 

 小鳥遊と暫く話していて、急に尋ねられた。当然、俺からすれば何がなんだかわからない。質問で返すと、彼女はこう応えた。

 

「今日の柊君、考え事してる時が多かった気がする」

「そうか? そんなことはないと思うが」

 

 思い当たるのは、あの二人を陥れる方法を考えることくらいだ。なんか、これだけ見ると、ただの鬼畜なゲス野郎だな、俺。でも、やられたからには、同じ悲しみを味わってもらわないとな。勿論、小鳥遊に言えるわけじゃない。悪いが、黙ったままにさせてもらおう。

 

「いいや、バスの中でも、資料館でも、会議中でもそうだったよ?」

「……気のせいじゃねえの?」

 

 てか、どんだけ俺を見てんだよ。いつも見てるの? 恥ずかしいというか、嬉しいというか。行き過ぎないようにしてほしいが。行き過ぎたら、ストーカーの疑惑が出てしまう。

 

「……そう? ならいいんだけど。何かあったら、何でもするよ。だから言ってね? 前も私にこう言ってくれたからね」

「あぁ、わかった」

 

 ん? 今何でもって……まぁ、頼る気もないし、言う気もない。今までずっと一人で頑張ってきたんだ。今までと何一つ変わらない。同じことを繰り返せばいいだけなんだ。

 

 ふと、ホテル内の時計を見ると、もう消灯まで三十分ちょっととなっていた。そろそろ戻らないといけない。

 

「よし、部屋に戻るか。行くぞ、小鳥遊」

「う、うん……ねぇ、いいかな?」

 

 もうホテルに向かいかけていた足を止めて、小鳥遊の声に振り返る。小鳥遊はというと、忙しなく口元を動かすだけ。

 

「……どうした?」

「い、いや、ごめんね。やっぱり何でもない……」

 

 こういうパターンが一番気になる。「あのさ~……やっぱ何でもねぇわ!」っていうの。何でそこで勿体振るんだって言いたい。引き止めるかつ間を空ける分、余計に気になるのだ。ここでも聞きたい衝動に駆られるが、生憎時間が時間だ。もう戻らないといけない。

 

 わかった、と返事をして、二人で部屋に戻る。皆はとっくに部屋の中にいるので、廊下を歩く二人分の足音と、噴水から聞こえる水音のみが、高い天井に反響して返ってくる。妙な緊張感に苛まれながら、三階で小鳥遊と別れる。四階に上がって、自分の班の使う部屋に。

 

「お、戻ってきたか。どうしたんだ?」

 

 黒宮が、相変わらずの爽やかボイスで俺に話しかける。俺のことも気にかけるあたり、やはり高カーストは人間性から違うようだ。

 

「ちょっと外の空気を吸いに行ってたんだ。特に何もないよ」

 

 そう言って、自分のベッドの中に入る。消灯まであと少しあるが、特段やることも無いので、明日に備えて早めに寝る準備をする。が、ベッドの中に堂々と侵入してくる吹雪。やめろやめろ。

 

「何だよ、何しに来たんだ」

「さっき、小鳥遊さんに会って来たでしょ?」

「……参考までに、どうしてその考えに至ったか聞いておこう」

 

 驚いた。開口一番、吹雪が真剣な顔つきでこんなことを言ってきたのだ。

 

「顔。顔が少し上機嫌になってるよ。あと、なんか小鳥遊の為にしようとしてるでしょ?」

「吹雪、お前は何者だよ。全部当たってるよ。上機嫌を除いてな」

 

 なのに、吹雪はいつもの笑顔がない。柔らかく、時々イラッとくる笑顔が。

 

「いや、少し顔が緩んでる。上機嫌の証拠さ。それで、俺にできることはするから、言ってごらんよ」

「……小鳥遊が泣いたことの報復を考えている。降旗と愛原、特に愛原の方にな」

 

 恐らく、というか愛原が小鳥遊を泣かせた張本人となっているのは、確定的だ。偏見かもしれないが。取り敢えず、あれだ。睨まれたの怖かったし。それの仕返しってことで。

 

「で、吹雪は自分の判断でいいから、合宿の班行動中、一度だけ小鳥遊を俺と降旗、愛原から遠ざけてくれ。聞かれたら、十中八九止められる」

「りょ~かい。俺の一番だと判断したタイミングにするけど……それで本当にいいのか?」

「大丈夫だ。正直、吹雪の目が俺よりも優れているだろうからな」

 

 人同士の関係云々は、俺よりも吹雪の方が分かっているだろう。それまで視野に入れないと、成功しないし。

 

「わかった。それだけだね。おやすみ、誠」

「あぁ、おやすみ、吹雪」

 

 挨拶をしてすぐ、まだ消灯もしていない中、一人眠りについた。

 窓からは月光が差し込んでいるが、照明で掻き消されたようになっていた。




ありがとうございました!

音葉ちゃんが大分誠君に近づいてますね。
踊り場で待ってて、誠君が見えると笑顔で寄って。
しかも、色々探し回ってやっと見つけたらしいですよ。

一日目で二話使いました。
このままだと、単純計算で六話分使うことになります。
ですが、魂恋録を見てくださっている方にはもうわかっていると思います。

私の未来の言葉、全く当たらないんですよね。

わざと避けてんじゃないのかって疑われても仕方ないくらいに。
私の言葉は、基本外れると思って下さい。上手くいくことはそうそうありません。

少し長くなりましたが、ここで。ではでは!

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