捻くれた俺の彼女は超絶美少女   作:狼々

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どうも、狼々です!

最初に言っておきます。
私はポケモンガチ勢ではありません。

厳選と努力値振りくらいしかしてません。

では、本編どうぞ!


第10話 夕焼け

 素晴らしいくらいのイルカショーを見終えた俺らは、二階から一気に四階に上がる。四階は、可愛らしい海の動物のゾーンだった。具体的な動物を挙げると、ラッコとかアザラシとか。魚じゃないけど、海に住んでいる動物がこのゾーンに集められていた。

 

「あっ、ラッコ可愛い!」

「お、ホントだな。俺はアレが見たい。貝ぶつけるヤツ」

「あれは一回見てみたい気もするよね~」

 

 おぉ、小鳥遊の笑顔が今までで一番だ。どうやら、ラッコが一番お気に召したようだ。ラッコ可愛いって言っている小鳥遊可愛い。あの夢中になってる笑顔は、その笑顔を見ている者も魅了して夢中にさせる。

 

「あ、あれも見たい! 寝てる時に手を繋ぐやつ!」

「あぁ、あれか。確かに見てみたいな。聞いたことはあるが、実際に見てみたい」

 

 そう言うと、小鳥遊が俺と繋いだ手を見て、ふっ、と穏やかな笑顔を見せた。え、なに、その笑顔? 俺、期待しちゃうよ? 残念ながら、俺は男だからね。勘違いで生きる生き物だからね? 「あ、俺と手を繋ぐのが嬉しいんだ」って勘違いしちゃうからね?

 

 と、そこまで思って踏みとどまる。俺の捻くれた考えでは、非リアの方が優秀なんだ。そう結論付けたじゃないか。それに、今まで何人の男が、勘違いで爆散していったと思う? 数え切れないほどいるだろう。俺は学べる人間だ。勘違いで爆散などという馬鹿げた理由で傷を負いたくない。

 

 いるんだよな、絶対に。告白失敗した時に、翌日学校に行ったら何故かそれが広まっていることが。俺じゃないが。俺はまだ初恋も経験していない。物心がついた頃には、既に捻くれた根性になっていて、恋愛どころか友愛もありませんでしたとさ。ぐすん。

 

 ラッコの次は、アザラシへ。えっと、ゴマフアザラシ、という種類のアザラシらしい。俺、最初このアザラシを、『ゴマフ』アザラシじゃなくて『ゴマ』アザラシだと思ってたんだよね。食べ物みたいで覚えやすいって思ってたら、間違えてるっていう。恥ずかしっ!

 

 もふもふしてる白いのは、赤ちゃんらしい。じゃあ、あれは赤ちゃんなのか。え~っと……あれだ、あれ。ゲームに出てきた……

 

「あ、そうそう。リズム天国のコロコロ探検隊だわ」

「あ~、あれもアザラシだったね。意外に楽しいやつだよね、あれ」

「そうだよな――って、通じるのか?」

 

 正直、意外だったのは、小鳥遊に通じたことだ。ゲームとかするのか。意外だった、ホントに。しない方の人間かと思っていた。偏見だったか。話も合いそうだ。

 

「うん。でも、私はタマザラシの方が好きかな?」

「おぉ、ポケモンの。で、その心は?」

「可愛いし、努力値を上手く振ったら、クレセリアに勝てなくもない」

 

 は……!? お、おいおい、努力値って、え? マジで? 俺もポケモンはガチ勢とも言えないくらいなのだが、努力値振りくらいはしている。あと、厳選も。これは話が弾むぞおい。いやぁ、これは意外な収穫だった。しゅうかくと言えば、ナッシーだよね。てか、クレセリア勝てんの? 勝てなさそうだが。輝石にも限界あんだろ。

 

「え、そうなの? 勝てるとは思えないけど」

「うん、単体だと難しい。けど、ガブリアスと組めばいけるかもね。相手も、タマザラシ選出は考えないでしょ? 特殊受けだよ。ヌメルゴンよりも弱いけど、さっき言ったように、タマザラシは予想できないから、仮想敵と戦えやすい」

 

 な、なるほど……誘うのか。そらそうだ。罠があると考えるか、完全にネタだと思うかだろうな。てか、六匹の枠の中からタマザラシが一枠を占めるとか、異色だろ。何気に、ガブリアスとタマザラシのタイプ相性がいいという。

 

「……正直、意外だった。小鳥遊の知らない一面を知れてよかったよ」

「あ……そ、そう。ありが、とう?」

 

 なにそれ可愛い。タマザラシみたい。コロコロ転がってそう。どんな顔だよ。ま、それだけ愛くるしいってやつだ。

 

 

 

 最後に、一階に戻って出口へ。と、その前に。筒状になったガラス張りの道を通り、泳ぐ魚を全方向で見るという、竜宮城ゾーンが。たくさんの魚が四方八方で、軽快に泳いでいく様を見ていると、今から竜宮城へ行くのではと錯覚させる。薄暗い道の中、弱めの光が差し込んでいて、かなり神秘的・幻想的だった。

 

 何故かここには人がいなかった。俺達以外には。神秘的・幻想的が加速していく中、海の中を通っていく。お互いの顔も、じっくりと見ないと表情がわからない程暗い。そのため、つい意識してしまうのだ。隣の美少女を。手が繋がれた先の少女を。

 

 でも、それも一瞬だった。神々(こうごう)しいの一言に尽きた。俺には、小鳥遊があの大水槽の時と同じように見えた。女神みたいな美しさ――いや、女神そのもの。慈愛が溢れている、優しげな笑顔。魚よりも、小鳥遊に見惚れてしまう。

 

「……ホント、綺麗なんだね」

「そうだな。……楽しそう、だったか?」

「そうそう。楽しそう」

 

 小鳥遊の笑顔が、声に出る。神々しさはどこか欠けてしまったが、瀟洒(しょうしゃ)、という言葉が似合っていた。

 

 揺らめく幻想の中、足元さえも不安定な道を、二人で手を繋いだまま進んで行くと思っていた。けれど。俺の想像のさらに一歩先を行く出来事が起きた。

 

 俺の腕に、小鳥遊が抱きついた。少しだけだ。手は繋いだままだし、正直あまり変わらないようにも見える。しかし、それは第三者からの目線だ。俺と小鳥遊からしたら、大きな変化。俺が多少驚きつつ隣を見ると、小鳥遊と目が合った。数秒とも数十秒とも思える時間、見つめ合っていた。

 

「ぁっ……少しだけ、いいかな……?」

「あ、あぁ、いい、ぞ」

 

 ぎこちない。ただひたすらに。お互いそうだ。初々しいと言えば、聞こえは良いだろう。いつもの俺だったら、情けないの一言が頭に浮かんだだろう。けれど俺は、この場は、初々しいをとった。今日の俺は、いつもとはまるで違う。どうしたのだろうかと、自分でも不思議に思う。しかし、答えが出てこない。

 

 道を進んで行くにつれて、密着度も高くなっていた。段々と腕に腕が絡まり、思い切り密着してしまっている。そして、やわらかいものもヒット・アンド・アウェイどころか、連続ヒットしまくり。そして心臓もバックバク。悲しいかな、俺は男なんだよ。

 

 

 魚を見ることも忘れ、腕に注意が集まったままゾーンを抜けた。おい。ここ水族館、魚見るとこだぞ。いや、仕方ないやん。ゾーンを抜けた俺達は、ショップエリアに行って、お土産的な何かを。どれにしようかな~っと。

 

「あ、これ可愛い!」

 

 小鳥遊がそう言って手に取ったのは、ラッコのストラップ。マスコットの丸っこい、可愛いやつだ。それを三つ手に取った。……三つ? 俺はというと、イルカのぬいぐるみにした。吹雪、俺、……あと、小鳥遊にやるか。ということで、俺も三つ。そこまで意外なことじゃなかったか。

 

 精算を済ませて、ショップエリアを出る。あとはもう帰るだけだが、もう少しゆっくりして帰ろうか。

 

「小鳥遊。飲み物買ってくるが、何がいい?」

「ん~……サイダーがいいな。お願いしていい?」

「あぁ。行ってくるよ」

 

 自動販売機まで歩いて、お金を入れてサイダーとコーラのボタンを押す。それぞれのペットボトルが落ちてくるのを待つ。落下音が聞こえたら手早く回収して、小鳥遊の元へ。ここまでに五分程かかっただろうか。

 

 出口付近で待っている小鳥遊の元へ戻る。しかし……小鳥遊がいない。

 

「あ、あれ……?」

 

 しばらく見回して、外で小鳥遊を見つけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――()()()()()()()()()

 

「はぁっ!?」

 

 い、いやいや、さすがに二重のデートはない……よな? そして、気づく。

 

 

 

 

 ――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ……

 

 …………

 

 なるほど、ナンパかよ。三人組は……見たことがある。しかも、つい最近。最近も最近だ。

 

 あのチャラそうな三人組だ。イルカショーにいた、あいつら。

 

 なんだろうか、不思議と殺意が湧いてくるんだが。少なくとも、ここ最近で一番頭に来ているかもしれない。愛原・降旗の時も頭に来たが、それ以上に。殺意のような、ドス黒い怒りの感情が、もう爆発しそうなんだが。

 

 で、周りのやつらにも呆れる。なんで止めようとしねぇんだよ。嫌がってんのは誰が見てもわかるだろ。さすが人間。他人となると薄情になる、都合のいい生き物だ。

 

 さて、俺はどうしようか? 決まっている。最初から選択肢は一つだ。

 

 俺は外に出て、小鳥遊の手を乱暴に引いている一人の男の腕を、思い切り掴んだ。

 

「いっ……! てめえ、なにしやが――!」

「あっ、柊く――!」

 

 小鳥遊と男の言葉が、途中で途切れた。それは多分、恐怖だろう。俺は元々、目つきが悪い。それが、怒りの感情で爆発しそうになっている人間だったら。それはもう、かなり怖めに睨んでいることだろう。自分でもわかる。こんなに敵意むき出しで睨んだことは、人生で初めてなんじゃないか。

 

「……おい。お前らこそ何してんだよ。離れろよ」

 

 あくまでも冷静である口調で。しかし、顔は怒りで満ちていて。

 

「あぁ? いい度胸じゃねえかよ。やんのかおい!」

 

 腕を掴んでいた男が、今度は俺の胸倉を左腕で掴む。後ろの男二人はニヤニヤと。小鳥遊は恐怖の表情。しかし、俺は一般的な人間とは違う。これくらいで怯えるような性格をしていない。今まで、どれだけの人間から否定され、侮蔑され、嘲笑され、蔑まれてきたと思ってんだよ。

 

「やれるものならやってみろよ。正当防衛が成立するくらいには殴られたいものだなぁ?」

 

 逆に思い切り嘲笑い、狂気とも思える表情を顕在化して見せる。残念ながら、俺には周りという盾がある。こんなところで殴れば、少しは騒ぎが起きるし、それは相手もわかっているはず――

 

「あぁ、そうかよ。じゃあ遠慮なく――!」

 

 え、ちょ、待って。周りに人が――ドズッ、と。

 

「がはぁっ……!」

「柊君!」

 

 人がいるのに、お構いなしで俺に腹パン。いてぇ、めちゃめちゃいてぇよ……! かっこ悪い、かっこ悪すぎる、俺……! いや、まだ挽回できる。このままあと少し殴られれば、正当防衛成立だろ。証人は小鳥遊と周り。

 

 ……あっ、正当防衛が成立しても、俺じゃ三人相手に勝てねぇ。気付いて気付かないフリを決行することに。

 

「……はっ! もう終わりかよ……? 威勢だけか。それじゃあ何もできねぇ弱い人間なだけだな?」

「ひ、柊君! もうやめて!」

 

 小鳥遊の悲鳴にも似た声が飛ぶ。おいおい、なんで小鳥遊が泣きそうな顔になってんだよ。泣くの、普通俺だろ。と、いうことで。当然やめるはずもなく。

 

「弱いなら弱いなりに、小さく縮こまってろよ。あぁ?」

「てめぇ、言わせておけば――!」

 

 そう言って、男が手を上げる。あぁ、痛そうだなぁ。自分で言った手前、避けられない。てか、避けさせてもらえない。

 

「さ、さすがにこれ以上はまずい! やめとけ!」

 

 と、後ろの男の一人が叫ぶ。ようやく気付いたかよ。周りが少しざわついていることに。てか、なんで気付かないんだよ。殴られ損だろ。

 

「……ちぃっ!」

 

 男が乱暴に、放り投げるようにして俺を下ろした。重力に逆らわず、投げ飛ばされたことを強するかのように尻餅をつく。やがて男達は逃げていき、通報する者もいない。全く、ここまで薄情だとは思っていなかった。まだ俺も捻くれ具合は足りなかったようだ。これ以上捻くれてどうする。

 

「柊君! 大丈夫? 痛くない!?」

 

 小鳥遊が血相を変えて俺に近づく。涙が目に浮かんで、今にも流れてしまいそうだ。

 

「……大丈夫だ。ほら、サイダー。取り敢えず、帰ろうか」

「う、うん……」

 

 元々帰ろうとしていたので、予定に全く問題はない。俺が小鳥遊の腕を引いて、小鳥遊は俺の腕に引かれて。俺が何より嬉しかったのは、俺が小鳥遊の腕を引いた時に、拒絶されなかったことだ。少なくとも、あの男よりは上。それだけで、お腹に残り続ける鈍痛も、一瞬で引いていった。

 

 

 

 電車に揺られながら、小鳥遊から威圧的な質問を受けていた。ええ、わかってますよ。尋問ですよ。拷問じゃなくて本当によかった。俺にも人権はある模様。自由権、身体の自由。にしては俺には精神の自由がない気がしてならない。

 

「で、なんであんなことしたの」

 

 あ、あれ~……小鳥遊さん、なんでそんなに怒ってるんですかね。

 

「柊君が傷付いたからに決まってるでしょ!」

「なんで考えてることがわかったんだよ」

 

 エスパーってすごい。てか、怒ってる小鳥遊も可愛い。怒られてる自覚がなくなってしまう。むしろ自分から怒られにいくレベル。こんなに可愛いエスパーがいるとは。あんなことやこんなことを考えてたらまずいな。でも、妄想は進んで行くのだ。

 

「本当に殴るとは思ってなかったんだよ。ま、小鳥遊が無事でよかったよ」

「……なんで、そんなこと言っちゃうのさ」

 

 少ししょんぼりとして、サイダーを飲みながら小鳥遊が言う。その姿も可愛い。俺がさっき言ったことは、本心だ。小鳥遊に何かされるよりも、俺がされた方がいい。デートなんだから、少しはかっこつけたいものだ。それよりも。両手で飲む仕草に俺が死んでしまいそう。

 

「いや、元々俺が小鳥遊を置いてったのが悪いんだ。ああなることは予想できないわけじゃなかったはずなのにな」

 

 小鳥遊の容姿は完璧。これに尽きる。理想をそのまま具現化させたような感じだ。だからこそ、周りの目に気を付ける必要があった。完全に、俺のミス。失敗。

 

「それに、俺なんかで代わりになるなら――」

 

 そこまで言って、小鳥遊の人差し指が、俺の口に当てられた。おぉ、なにこの萌えるシチュエーション。そう思ったけれど、小鳥遊の目も顔も笑ってない。むしろさっきより怒ってる。

 

「……また『なんか』って言った。それは言っちゃダメ」

「わ、わかったから。でも……本当にごめん。せっかくのデートだったのにな」

 

 俺は、謝ることしかできない。どうにもならない。俺にできることは、これくらいしかない。

 

「いや……私も、ごめんね。怖くて、何もできなかった。柊君も怖くて、痛かったのに……!」

 

 小鳥遊の目に、また涙が浮かび始める。知っての通り、俺は泣かれると弱い。どう励ませばいいのかわからない。だけど、今できることはしたい。それが、俺のために泣いているのなら、尚更だ。

 

「いいんだよ。そうやって悲しんでくれる人間がいてくれるだけで」

 

 そう、俺はいつもぼっち。いかなる場合でも、いかなる時でもぼっちを貫いてきた。どんなに悲劇的な結果でも、自分独りで受け止めてきた。それを、悲しんでくれる人間がいる。実際、嬉しいものだ。

 

「それに、俺は今日楽しかったし、気にしてない。そんなこと気にしてたら、ぼっちはやってけねぇよ」

 

 皮肉を込めて、笑顔を見せる。残念ながら、俺にはこれくらいしかできないのだ。何か気の利く言葉を返すことも、優しい行動をとって配慮することもできない。だから、せめて。

 

「ぁ、っ……ふふっ、最近は私がいるからぼっちじゃないね。それに……」

 

 小鳥遊の顔に笑顔が戻って、そこで言葉を一回切った。そして、俺の右手に、彼女の左手が重なって、繋がれた。

 

「私も、今日は楽しかったよ。ありがとう、柊君!」

 

 彼女の笑顔は、頬は、夕焼けによって赤く染まっていた。




ありがとうございました!

今回は珍しく短めのタイトルでした。
捻くれた要素もないという。

さて、頬が赤く染まっていたそうですね。
ホントに、夕焼けなんでしょうかね?

ではでは!

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