夜、秦は自室の布団に入り、寝ようとしていた。
すると、入口の扉が静かーに開いた。
その隙間から覗いている顔があった。
睦だった。
「ん? ん、なんだ? 睦か?」
「うん。」
睦が部屋に入ってきて、ごそごそと秦の布団に潜り込んできた。
「どうした? 今日も鳳翔さんとこじゃないのか?」
「今日は、父さんと寝るの!」
と言って。
「そうかそうか。 よし!」
と言って秦はギュっと睦を抱きかかえた。
えへへへっと笑う睦が秦の腕の中に居た。
「良かったのか? 俺で。」
「うん。 父さんの腕、太いね。」
「そうか?」
頷く秦だった。さらに・・・
「睦。 これで良かったのか?」
「え? なにが?」
怪訝そうな顔をする。
「俺と睦の二人きり生活だったのに、人助けとは言え、急に三人になっただろ? 睦が嫌な思いをしていなければ・・って思ったんだけど?」
「そんなことないよ。 まぁ、鳳翔さんじゃなかったら、考えちゃうけどさ。 鳳翔さん、お姉さんっていうより、お母さんみたいだし。 それに、優しいし。 あたしはいいよ。 父さんは? 鳳翔さんのこと、満更でもないんでしょ?」
腕の中から秦の顔を見上げる睦の目が、笑っていた・・・。
「その目は・・・良からぬ事を考えとるやろ?」
「そんなこと、ないよ。 で、どうなの? 鳳翔さんの事。」
「うん、会って時間がそんなに経ってないのに、傍に居て欲しい、と思ってるんだよねぇ。」
「やっぱり、そうなんだぁ。 で、それだけ?」
「は?」
「まさか、それだけじゃないよね? どうなの、父さん?」
思わぬ質問だった。
秦は・・・ちょっと慌てた。
「な、なにを、言ってるにょかにゃ? むちゅみちゅあん?」
「え~?!」
怪しいぞ、と言わんばかりの、睦の目が、視線が秦に刺さっていた。
「な、何も、ないぞ・・・・」
「ふぅーん、ま、今日のところは勘弁してあげるから。」
といって、秦に強く抱き着いてきた。
ここで秦が逆に睦に聞いてみた。
「睦。 睦は鳳翔さんのことどう思ってんだ?」
「どうって?」
「ん~。 お姉さんより、お母さんみたいって言ってたけどさ?」
「んとねぇ。 朝、鳳翔さんが見送ってくれたのね。 その時、友達に、誰って聞かれたの。 その時、父さんのいい人って答えたの。」
「ぶっ。」 思わず吹き出してしまった。
「な、なんと言いましたか?」
「ん? 父さんのいい人、だよ。」
はぁ・・・とため息をついた秦だった。
「それ、わざと、だな?」
「え? だってぇ、事実じゃん? それにちゃんと言ってあるから。」
「なにを?」
「あたしの・・ お母さんになって欲しい人って、皆に。」
キャハッ ってな顔をして睦が言う。
「ぶっ。」またも吹き出してしまった。
「む・つ・み・ちゃ・ん!」
「今すぐでなくてもいいから、ね?」
睦が微笑んでいる。
(まったく、可愛い顔をして、考えることは結構、キツいんだけど・・・)
「考えておいてね、お父さん?」
「それって、はい、とも、いいえ、とも言えないだろう?」
「もう。 しょうが無いなぁ。」
呆れ顔をする睦である。
「可愛い娘の言い分くらい、聴いてよね。 分かった?」
秦の腕の中で、人差し指をピシッと立てて、はっきり言いなさい!的な目で見ている睦だった。
「でも・・・ 今は、私だけの司令官だもん!」
と秦の胸に抱きつく。
睦の髪からはいい匂いがした。
「そうだな。」
と言いながら、秦は睦の頭に軽く口づけをした。
「お休み、睦。」
「うん。お休み、父さん。」
睦の爆弾は結構、効いている。
(まったく、睦め。 しかし、睦はお母さんが欲しい、か。 結構ハードルは高いんだぞぉ、簡単に言うけどさぁ。 はぁ・・・)
ドキドキが睦に分かってしまうかも、と思いながら、目を閉じて寝入った。
こうして夜は更けていく。