ハズされ者の幸せ   作:鶉野千歳

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ケッコン式を終えた二人。
その後の朝の様子を、少し・・。


二人の、時間・・

秦と鳳翔が同じベッドで寝るようになって久しい。

カーテンから漏れる日差しが徐々に強くなってきていた時間・・・

ベッドの中で一人・・・

 

「う ・・ うぅぅぅん ・・・・」

 

と、息が漏れる。

徐々に意識が覚醒するが、まだまだ頭はぼーっとしていた。

 

「あ・・・・ あの人の匂いがするぅ・・・」

 

枕に鼻をこすりつけて匂いを嗅いでいた。

 

(スゥーー・・・スゥーー・・・)

 

存分に感じた後、再び眠りに落ちていった。

そして・・・・

 

「いってきまああああす!」

 

「ああ。 行ってらっしゃい! 気をつけてな!」

 

と階下から聞こえてきた気がした。

 

(え!?)

 

(今の、睦ちゃんと、あの人の声だったような・・・・)

 

そこに至ってやっと、状況を理解した。

 

「ハッ!!」

 

と飛び起きた。

 

(い、いま何時?)

 

すでに0730を廻っていた。

 

「い、いけない!!」

 

と、ベットの反対側を見ると・・・誰もいない・・

もう秦はいなかった。

急ぎ、草履を履いて階下に降りていく。

食堂を覗くと、秦が調理をしているようだった。

 

「あ、あなた!」

 

そう言って秦に近づく鳳翔。

 

「やあ、やっと起きたかい?」

 

鳳翔の声に顔を上げた秦だったが、その顔はものすごく、優しい表情だった・・

その表情を見て、一瞬、見惚れた。

見惚れて頬を赤める鳳翔だった。

 

「あ、あの、睦ちゃんは・・」

 

「ああ。 さっき学校へ行ったよ?」

 

「え? じゃあ、お弁当は?」

 

「ん? ちゃんと作って持たせたよ?」

 

「そ、そうなんですか・・・」

 

そして・・・

徐々に意識が明確になってきた。

 

「それはそうと、な、なんで・・・ なんで起こしてくれなかったんですか!!」

 

頬を赤めた顔から、プンプンと怒り顔へと変わった鳳翔。

 

「起こしてくだされば、ちゃんと・・・」

 

そこまで言ったところで、秦が、右手で胸元辺りを擦っている事に、気が付いた。

 

え?

 

「鳳翔・・・ お叱りは受けるから、その・・・ 胸元・・・はだけてるよ・・・・」

 

と秦が、顔を赤めながら、細々と言った。

 

はい?

 

と、自身の浴衣を、確認すると・・・・

寝間着としての浴衣は来ているものの、胸元が・・ 結構、はだけていた・・。

乳房までは見えないものの、覗き込めばそこそこ見えてしまうほどに。

一瞬で顔が赤くなる!

 

「きゃああああああ!!」

 

と叫びながら、後ろを向いて、浴衣を直し始めた。

 

「もう!! スケベです! エッチです!!」

 

と散々な言い分であった。

そんな赤い顔の鳳翔を、秦が後ろから抱きしめた。

 

「鳳翔。」

 

「ふぇ!?」

 

と驚いた声をあげた。

そして、秦が鳳翔の耳元でささやく・・・

 

「起こさなかったのは、悪かったよ。 でも・・ あんなに可愛い寝顔を見てると、起こせなくって・・・ ホントに、可愛かったんだぞ・・ 誰にも見せたくないと思うほどに、ね。」

 

「も、もう! そんなこと言って!!」

 

「じゃぁ、鳳翔は、俺の事、キライ?」

 

と聞いてみた。

 

「そ、そんなわけないじゃないですか!」

 

とそこまで言ったのだが、

 

「じゃあ、どうなのかなぁ? キライじゃないとすると・・・」

 

「イジワルですね・・・ す、好きですよ。」

 

「じゃあ・・ こっち向いて言って?」

 

もう、と鳳翔が首をまわす。

それに併せて、秦が顔を前に倒していく・・。

鳳翔が半身を廻したところで、秦に唇を、奪われた。

んっ、ふっ・・・

最初は、優しくついばむように・・・

次第に、強く・・

口づけのまま、互いに正面を向き、なおも抱き合っていた。

唇が離れると・・・ お互いの顔は赤かったし、目はトロンとしていた。

 

「もう・・・ 強引なんですから・・」

 

そう言った鳳翔だったが、そのまま身体を秦に預け、秦の胸に顔を埋めていた。

 

「昨晩、寝るときは・・ こうやって寝たはずなのに・・ 起きたら、いないんですから・・ 目が覚めたら、寂しかったんですよ?」

 

と、二人以外にいない食堂で、抱き合ったままだった。

そのうちに、クゥゥーーっと、鳳翔のお腹の虫が鳴いた。

 

「ヤダ・・」

 

と更に顔が赤くなる鳳翔・・・

 

「さあ。 着替えてきて。 ご飯にしよう。 準備は出来てるからね?」

 

「あ・・ はい。」

 

一端、寝室に戻り、いつもの着物に袴姿で身支度をしてきた。

食堂に入ったときには、既にテーブルの上には、朝食が用意されていた。

一人分だけが・・・。

秦は既に、睦と済ませていたから・・・。

 

「アジの味醂干しがあったから、焼いてみたんだ。 それと、卵焼き、サラダと、お味噌汁。」

 

席につくと、秦がご飯をよそって持って来た。

ご飯から湯気が上がっている。

アジも、お味噌汁も暖かそうな湯気が・・・

 

「さあ、召し上がれ。」

 

「あ。 はい。 いただきます。」

 

と言って、食べ始めた。

 

(うん、お味噌汁、シジミですね。 お味噌の具合がいいですねぇ。)

 

(アジの味醂干しも、火を通すと、また美味しい・・)

 

箸を進めていた鳳翔だったが、ずっと秦がこちらを見ているのに気が付いた。

 

「あ、あの・・ そんなに見つめられると、お箸が進みません・・・・」

 

「あ、ゴメン。 困らせるつもりは無いから。 でも・・ 鳳翔は美味しそうに食べるね。 作りがいがあるよ。」

 

「はあ・・」

 

(そう言われても・・・)

 

終始、にこっりと見つめている秦。

意識しだすと、気になって仕方がなく、余計に顔が赤くなる鳳翔だった。

それでも、なんとか食べ終えたのだが・・・

 

「ごちそうさまでした。」

 

「お粗末様でした。」

 

食後のお茶を二人で啜っていた。

 

「あ、そうだ! ところで、あなた。 睦ちゃんにはなんて言ってあるんですか?」

 

「ん? 睦に?」

 

「はい。」

 

「んーとね・・・ あまりにもぐっすり眠ってるから、起こしづらくて・・・とは言ってあるんだけど?」

 

「ホントにそうなんですかぁ?」

 

鳳翔は疑いの眼差しを秦に向けている。

 

「なに、その目は? ホントだって。」

 

焦っている秦を、ジーっと見つめる鳳翔。

暫くそうしていたが、間もなく0800になろうかと言う時間になった。

鳳翔に問い詰められる秦であったが、鳳翔に対する気持ちは変わらない事だけは分かってもらって、

 

「ごめんよ。 ホントだから、さ・・・」

 

と言って再び唇を合わせる二人だった。

 

 

鳳翔が寝坊?しても、秦が睦のお弁当を作ったために、残るは・・洗濯くらいだった。

それもいつもの調子で、すぐ終わる。

その後、秦は提督としての執務に。

鳳翔は秘書艦の仕事に。

午後になると、睦が学校から帰ってくる。

 

「たっだいまあ!」

 

その足でまず、執務室に来るのだった。

 

「父さん、ただいま。 今帰ったよ。」

 

「お帰り、睦。」「お帰りなさい。 睦ちゃん。」

 

秦と鳳翔が迎える。

 

「あ、お母さん、大丈夫だったの?」

 

「え? なにが?」

 

「なにが? って、体調不良で寝込んでるって、父さんが・・・」

 

その言葉を受けて、鳳翔が秦を、キッとみた。

 

「あ、あなた!! さっき聞いた内容と、違いますけど!!」

 

「え? そんな説明、したっけ?」

 

と、すっとぼける秦だったが、ジーっと見つめる鳳翔には、敵わなかった。

 

「分かったよ。 ちょっとフェイクが入ってるけど、ぐっすり寝てるから、起こさないで来た、と言ったんだよ。」

 

「ほんと? 睦ちゃん?」

 

「うん、私はそう聞いたよ?」

 

さらに、

 

「ぐっすり寝てるって事は、体調不良なのかなって。 そうじゃなかったの?」

 

「ええ。 ちょっと疲れていただけよ。 ごめんね、睦ちゃん。 もう元気だから。」

 

「良かった。 心配したんだよ。 毎晩、父さんがお母さんを寝かさないんだって思っちゃったんだ。」

 

ぶ!

 

「睦! なんてこというんだ! そんなことは、無いからな!」「そうよ、無いからね!」

 

と二人して否定したが、その顔は赤かった。

だから、まんざらでは無いんだなぁと思う睦だった。

 


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