ハズされ者の幸せ   作:鶉野千歳

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帰省から数日。
ここ横須賀鎮守府では、秦と鳳翔のケッコン式の準備の真っ最中!!



ケッコン式

帰省から帰り着いて数日。

鎮守府では、朝から秦と鳳翔のケッコン式の準備に大忙しだった。

遠征と訓練の合間を縫って、いつもの食堂でケッコン式で飾り付けの真っ最中だ。

ケッコン式の総監督は加賀だった。

赤城が秋吉の付添で、遠征が無いときは不在なのだ。

 

「さあ、パパッとやりなさい。 時間との勝負よ!!」

 

飾り付けの実施は、駆逐艦娘たちが行った。

ワイワイガヤガヤと賑やかに行っている。

 

「こっちは花飾りを置いて、あっちはレースの布を・・・・」と。

 

今準備ということは、ケッコン式は今日の昼なのだ。

衣装は由良たちが用意した。

 

「やっぱり、鳳翔さんは、白無垢だよねぇ。」

 

「そうだねぇ。 ウエディングドレスも用意したけど、やっぱり、白無垢が似合うよね。」

 

「そうなると、提督さんは、紋付だね。」

 

「軍服って言わないかな?」

 

「そう思う?」

 

「うん。」

 

「う~ん、やっぱり、紋付を着させようよ。 白無垢に合せてもらおうよぉ。」

 

それを言うのは、由良の妹分、阿武隈だった。

秦と鳳翔は執務室に居た。

 

「ケッコン式だなんて・・・ 大げさな事を・・・」

 

「いいじゃないですか。 私はいいですよ?」

 

「いや、嫌じゃないんだ。 嬉しいんだよ。 でもなぁ・・ 結局のところ、隼鷹あたりが、騒ぎたいだけなんじゃないのか?って思うんだけどさ・・」

 

「それは、ご愛嬌、ということで。 もし、そうなると、いつもの事ですね。」

 

といって、ふふふと笑っていた。

 

「鳳翔・・・ お前さん、楽しんでるだろ?」

 

「ええ。 楽しみです。 ケッコン式は、女の子の夢ですから。」

 

満面の笑みで答える。 胸の前で手を重ねて。

 

「ったく・・・」

 

そういう秦も、楽しそうにしている鳳翔を見ているのが嬉しかった。

 

「ねぇ。 早くお母さんの花嫁姿、見て見たいなぁ。」

 

と興味津々、と言った顔で睦が言う。

 

「もうしばらくだよ。」

 

と微笑みながら秦が言っていた。

 

 

今日のケッコン式。

ケッコンカッコカリにもかかわらず、ケッコン式を挙げることにした秦だったが、その思いは、カッコカリではなかった。

最高練度の上限を解除する、という意味を持つケッコンカッコカリだが、秦はそうとは思っていない。

艦娘が相手とは言え、自分が惚れ、選んだ女性なのだ。

カッコカリなハズはない。

受ける方も、その気がなければ、受けることもないはず。

だから、秦は通常の結婚式と同じように挙式を挙げることを選んだ。

秦としては、鳳翔を生涯の伴侶として、周りに認めさせるため。 また、自身へのケジメとして。

挙式を挙げることで、鳳翔にもわかって貰いたかった。

鳳翔は鳳翔で、思い人たる秦と夫婦になることを望んでいたし、気持ちもカッコカリではないことを示したかった。

故に、今日このケッコン式なのだ。

 

 

時間になって、由良と阿武隈が二人を呼びに来た。

鳳翔は阿武隈に連れられ、秦は由良に連れられて、執務室を出て行った。

婚礼衣装に着替えるためだ。

秦は由良たちによって、執務室の別室で紋付袴に着替えさせられた。

軍服はダメですからね!と念を押されていた秦だったが・・・

 

「う~ん、やっぱり、体格がいいと紋付は似合いますねぇ。」

 

「そうか?」

 

「もち! しれいかん、かっこいいです!」

 

そう言われて、悪い気はしなかった。

とは言え、男は簡単だ。 

どちらかと言うと、花嫁の方が大変だった。

阿武隈に連れられて控え室にきた鳳翔だが、いつものの袴姿から白無垢に着替えさせれたのだが・・・

結構、着物は重いし、嵩張る。

それに、白粉をして、紅をさして・・・と化粧も本格的に行っていた。

髪も結い上げようとしたが、そこは鳳翔が断った。

文金高島田ではなく、今の髪型で綿帽子にすることにした。

化粧が終わって、白打掛を着る。

懐剣を差して、着替えが終わった。

 

「わぁぁ、鳳翔さん、キレイ。」

 

阿武隈が目をキラキラさせて言う。

 

「うぅぅぅ、お母さん、きれいですぅぅぅ。」

 

手伝っていた五月雨が、涙を浮かべていた。

 

「そ、そう? ありがとう。」

 

と頬を朱に染めて鳳翔が答えていた。

式の開始時刻前になって、秦が鳳翔のいる別室にやってきた。

 

「入るよ。」

 

と言って扉を開けて部屋に入った。

 

そこには、手伝った阿武隈、五月雨と共に白無垢、綿帽子姿の鳳翔が椅子に座っていた。

扉からは後姿しか見えなかったので、秦が鳳翔の前に廻りこんだ。

 

「どう? ほうしょ う、お わ ・・」

 

そこまで言って言葉を失った。

そう。 その姿に見惚れた。 そして思わず、

 

「美しい・・・」と。

 

秦からすれば、和装の鳳翔は想像できたのだが、こう印象が変わると、出てくる言葉も、それしか出てこない。

 

「は、はずかしい・・」

 

と言って俯いてしまった。

 

「司令官。 綺麗ですよね? ね、ね!!」

 

「ああ。 本当に、綺麗だ。」

 

頬を赤めて、しばし見とれていた。

 

「鳳翔、ホントに綺麗だよ。」

 

「あ、ありがとうございます。 はずかしいですけど・・・ そう言っていただけると、嬉しいです。」

 

秦を手伝っていた由良も部屋に入ってきて、

 

「わあ! すっごく綺麗! 提督さんにはもったいないです。」と。

 

「なんだよ、それ? もったいないって、どういう事だよ?」

 

「へへへっ、それほど、綺麗ってことでしょ。」

 

相変わらず、からかわれる秦だった。

 

会場となる食堂では、全ての準備がおわり、みなが秦と鳳翔が来るのを待っていた。

この時の為に、近くの神社から神主さんと巫女さんを呼んでいたのだ。

開始時刻となった。

既に、鎮守府の艦娘たちは席にて待っていた。

現実では神前に向かって右側が新郎、左側が新婦の親族が座るのだが、今日はそんなの関係なく座っている。

扉が開かれ、秦と鳳翔が入ってきた。

巫女を先頭に、紋付き袴姿の秦、白無垢に綿帽子姿の鳳翔が続いた。

 

「しれいかん、かっこいいですぅ。」という声が掛かるが、やっぱり・・

 

「わぁ、鳳翔さん、綺麗~。」「素敵ですぅ~。」の声の方が多かった。

 

艦娘と言えども、ひとりの女の子だし。

二人が神前の前まで歩いて行く途中でも、声がかかる。

 

「お母様、おめでとうございます。 それに、とても綺麗です。」と、加賀と赤城。

 

二人の目に涙が浮かんでいた。

 

「ありがとう。 加賀ちゃん、赤城ちゃん。」

 

そう答える鳳翔も目に涙をためていた。

神前まで来ると、斎主からお祓いを受けた。

お祓いが終わると、祝詞が読み上げられた。

この時点で秦と鳳翔のケッコンが、神様に報告された。

次は、三三九度だ。

神酒を杯で二人で飲み交わした。

ここで神楽が舞われるのだが、今回は省略だ。

そして・・・

秦と鳳翔による、誓詞。 そ。”誓いの言葉”だ。

秦と鳳翔が神前に進み出て、読み上げる。

 

「今日のこの日に、私達はケッコン式を挙げます。今後は、互いに敬い、苦楽を共にし、穏やかに、明るく温かい生活を営み、終生、互いに愛することをお誓いいたします。」

 

「新郎、楠木 秦。」「新婦、鳳翔。」と。

 

次は、指輪の交換だ。

カッコカリでは、秦用の指輪はないのだが、それではいけない、と秦用の指輪を用意したのだった。

改めて、秦が鳳翔に、鳳翔が秦に指輪をはめた。

 

「鳳翔、綺麗だよ。 何度でも言うよ。 綺麗だ。」

 

「は、恥ずかしいです。 そう、何度も言われると、余計に恥ずかしいです・・・。」

 

秦が鳳翔の綿帽子を外した。

誓いの口付けのために。

二人の唇が触れる。

一瞬の短い間だったが、今はそれで十分だった。

 

「父さん、お母さん、おめでとう!」

 

「お母様、ケッコン、おめでとうございます!!」

 

出席している艦娘たちはみな、誓詞を神妙に聞き入り、中にはうれし涙を流すものもいたが、みな拍手を贈った。

秦と鳳翔が皆に向かい、

 

「私、楠木 秦と、鳳翔はケッコンした。 したとは言え、何ら変わらず、みんなと、楽しく、愉快にやっていきたい。 そして、誰も失うことなくね。 今後ともよろしく。」

 

と改めて挨拶した。 

皆からは【はい!!】と。

こうして、二人のケッコン式が終わった。

そしてお待ちかねの、披露宴、ならぬ、宴会だ。それも大宴会。

 

「仕切りは、この隼鷹さまがやるよぉ! さあ、みんな! グラスを持った、持ったあ。」

 

グラスにお酒、ジュースを注いでいく。

 

「いいね??  じゃあ、今日この良き日の二人に。 プロージット!!」

 

【プロージット!!】

 

とグラスを上げ、重ねる。

今日の話題は、秦と鳳翔だ。

この二人を中心に輪ができた。

二人の元に行っては、おめでとう、と言い、涙を流す。

そんな光景がずっと続いていた。

今この瞬間、皆、幸せを噛みしめていたが、この後に来る別れを誰も考える者は居なかった。

 

 

大宴会も終わり、秦と鳳翔は秦の自室にいた。

既に、同じ部屋で過ごし、同じベッドで寝起きしている二人だったが、今はベッドに腰掛けて話し込んでいた。

 

「まったく。 結局、みんな、騒ぎたかっただけじゃないのか?」

 

「ふふふ。 そうだとしても、今日は楽しかったですよ。 みんなに”おめでとう”と言われて、うれしかったんですから。」

 

「鳳翔がそう言ってくれるのなら、何も言えないよ。 鳳翔、改めて言わせておくれ。 今後ともよろしく、と。 そして、愛している。 誰よりも。」

 

涙を流しながら鳳翔が答える。

 

「はい。 わ、私も、あなたを、愛しています。」

 

そう言って鳳翔は秦にもたれ掛かった。

何度も交わした口づけを、また、お互いが求めた。

今度は、強く、長く・・・。

その夜、二人は互いを求め、愛し合った。何度も・・・・。

 


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