そこで、秦は・・・ 鳳翔の父親に殴られる覚悟を・・・
帰省3日目の早朝。
秦、鳳翔、睦の三人は、秦が借りてきたレンタカーで実家を出た。
目的地は、鳳翔の実家である。
そして・・・ 秦と鳳翔のケッコンを報告するためである。
実家を出ておよそ2時間。
途中、休憩を挟み、ようやく鳳翔の実家に到着した。
既に昼過ぎだった。
門の前で、三人が見あげた。
「それなりに大きな家だね。」
「はい。 一応、旧家で地主だったようですので・・」
と鳳翔が答えた。
「お入りください。」
と案内する。
母屋の玄関を開け、
「ただいま戻りました。」
と声を掛けると、奥から女性が出てきた。
母親のようだ。
「はいはい、あら、鳳翔なの?」
「お母さん、ただいま戻りました。」
「お帰りなさい。 で、そちらの方が・・・」
母親が秦を見た。
「ええ。 電話で話した、私の旦那様よ。」
「初めまして。 楠木 秦と申します。 この度は・・・・」
「まあ、ここでの立ち話はなんですから、お上がりください。」
と居間に通された。
居間のテーブルには既に鳳翔の父親らしき男性が、上座に座っていた。
胡座をかいて、腕を組んで座っていた。
緊張する秦と睦。
母親が奥からお茶を煎れて持ってきた。
そして、その男性のとなりに母親が座り、向かい合わせに、鳳翔、秦、睦が座った。
「お父さん、お母さん、ただいま。 大事な話があって、彼を、この人を連れてきたの。」
「初めまして。 楠木 秦と申します。 こちらは娘の睦です。」
「こんにちは。 楠木 睦っていいます。」
「ご報告が遅れてしまい、申し訳ありません。 鳳翔さんと一緒に住んで、先日、ケッコンさせてもらいました。 そのご報告に参りました。 本来ならば事の前にご報告すべきところですが、順序が違いまして申し訳けありません。」
と秦がお詫びを含めて話を始めた。
ケッコンに居たる経緯も含めて。
「・・・・という訳で、鳳翔さんとケッコンさせていただきました。」
「お母さんには前に話した通りでしょ? お父さん、私はこの人、秦さんに付いていきます。 ですから・・・」
そこまで黙って聞いていた父親が口を開いた。
「話は分かった。」と。
「楠木君。 君は、提督なんだよね?」
「はい。 横須賀鎮守府で提督をしております。」
「この子は、鳳翔は、役に立っているかね?」
「はい。 それはもう。 私の秘書艦として、戦場においても、また鎮守府においても、艦娘達の母としても、優秀であり有能であり、誰よりも頼りになる存在です。 また、私の心の支えにもなってくれています。」
「そうか。」
父親はその一言だけを言ったが、その顔は、娘の活躍に微笑んでいるように見えた。
「娘も、もう子供では無い、と言うことは分かっているつもりだよ。 ただ、ウチには鳳翔の下に娘がいるが、息子はおらん。 以前は、鳳翔に婿を取らせ、この家を継いで貰おうと考えていた・・・」
父親はそこまで言って秦をみた。
「連絡してきて、ケッコンしたんだと、それも提督と、と。」
「最初は、殴り飛ばしてやろうと、思っていた。 どんなヤツであろうと、ね。」
「はい。 その覚悟はしてきております。 それで許されるならば・・・」
「君たちの話を聞いて、その顔を見れば、その決意は固いと分かった。」
「鳳翔や。 いいんだね? 彼で、本当にいいんだね?」
「ええ。 秦さんがいいんです。 それに、お父さんに反対されたら、家を出るつもりできたの。」
「そうか。 そこまで・・・。 分かった。 お前の好きにすればいい。」
父親は秦を改めてみた。 そして・・
「娘をよろしくお願いします。 」
そう言って頭を下げた。
「頭を上げてください。 こちらこそ、よろしくお願い致します。 お義父さん、お義母さん、よろしくお願い致します。」
父親、母親、秦、三人はお互いに頭を下げあった。
「うぅぅ、よかった、よかったですぅ。」
目に涙を浮かべながら鳳翔が秦に抱きついた。
「睦ちゃん、だったかな。 この二人はどうなんだ? 喧嘩とかしてないかい?」
「ううん。」
と首を振って、
「私が居るのに、ラブラブのイチャイチャの恋人みたい。 こっちが目も当てられないくらいだよ。」
「そう。」
と母親がにこりと答えた。
母親も父親も微笑んでいた。
「秦君? 今日は泊まっていきなさい。」
「え? よろしいのですか?」
「私には、初めての”息子”ができたのだ。 今晩、杯を交わしてくれないかね?」
父親が秦を見て、優しい笑顔で、秦を誘った。
「分かりました。 それでは、お供させていただきます。」
この時点で初めて秦と睦は気を緩めた。
すると、玄関が開く音がした。
誰かが来たようだ。
「ただいまぁ。 お? お姉ちゃん、帰って来たの?」
どうやら、妹のようだ。
「あら、お帰り。 尚子。 こっちへおいで。」
5人がいる居間に入ってきた。
「尚子、こちらが鳳翔の旦那さんと娘さんだ。」
「初めまして。 楠木 秦と言います。 こちらは、娘の睦です。」
「初めまして。 睦です。 よろしくお願いしますにゃ!」
「にゃ?」
「あ、あまり気にしないでください。」
「あたしからすると、姪になるのかな? お父さん?」
「そうだな。 睦ちゃんから見ると、叔母さんだけど?」
「う・・、その言い方は、拒否するわ。 花のJKにその言い方はないわ。 睦ちゃん、”お姉ちゃん”って呼んでね?」
「じゃ、尚子お姉ちゃんで。 よろしくお願いします、尚子お姉ちゃん。」
「へぇ、睦ちゃん、か。 なんか猫っぽいわね? 髪の毛も栗色で綺麗だし。」
そういって尚子は睦を抱き寄せ、両手で頬をフニフニしていた。
「あたしにも、妹が出来たのかぁ。 へへへっ。」
といって笑っていた。
「うう、お姉ちゃん、い、痛いにゃ。」
フニフニがグリグリになったようで、睦が痛がった。
「あ、ごめんごめん! 大丈夫?」
「だ、だいじょうぶにゃ。」
「これ、尚子。 睦ちゃんをいじめないでちょうだい。 私の娘なんだから。」
「わ、わかったわよ。 鳳翔お姉、そんなに怒んないでよぉ。」
どうやら尚子は高校生になったばかりらしい。 鳳翔とは10才近く離れているらしかった。
その日の夕食は、鳳翔と母親の、親子による手料理だった。
「提督さんだったら、もっといいものを食べてらっしゃるのでしょうけど、ウチはそんなに裕福ではないので、お口に合えばよろしいのですけど・・・」
と母親が謙遜して言うが、彩り豊かな、美味しそうな料理が並んでいた。
「いいえ。 私ももとは田舎の兼業農家の子ですので、そんなに、いいものなんて食べられませんよ。 それに、鳳翔が作る料理ほど、美味しいものはありませんよ。」
みなで「「いただきます。」」と。
「うん、父さん、これ、美味しいよ!」
「美味しいかい?」
「うん。 おばあちゃん、鳳翔さん並に美味しい。」
「あらあら。 よかったわ。」
母親がニッコリと微笑む。
「この子の料理はどうかしら?」
「ええ。 鳳翔の料理は、すごく美味しいです。 鎮守府一の腕前だと思います。」
「あ、あなた、恥ずかしいです。」
と言って頬を赤めていた。
「で、でも、秦さんもお料理はお上手ですしね?」
「お、そうなのかね、秦君。」
「うん。 父さんも料理はするよ。 結構、いい腕前だよ!」
と睦が秦にかわって答えていた。
「いや、それほどでもありませんが・・・」
「それじゃぁ、今度は秦君に作ってもらうとするかね。」
と賑やかな夕食となった。
夕食後、父親と秦は居間に残って、二人でお酒を呑みながら話し込んでいた。
日本酒の冷や酒と漬物。
話と言っても、難しい話では無かった。
父親が杯を空ける。
「ふぅー。 秦君。 繰り返すようだが、あの子を頼みます。 家を出て以来、帰ってきた事の無いあの子が連れてきた君に、全てをお願いするのはお門違いと思うが、今は君しかいない。 よろしくお願いします。」
そう言って再び頭を下げてきた。
「頭を下げないでください。 私はあなたの義理の息子ですよ。 その息子にそこまでしないでください。 お願いですから。」
といって頭を上げさせた。
「私の全力をもって、二人で、いや、睦もいるので三人で幸せになって見せますから。」
「そうか。 期待させてもらうよ。」
と話は尽きそうになかった。
そこへ鳳翔が追加のお酒を持ってやってきた。
「男二人で何を話してるんですか?」
「いや、大したことはないよ。 お義父さんに、鳳翔を幸せにしますって言わされているのさ。」
「ま、お父さん!」
そう言って、父を睨んだ。
「おお? 秦君、その言い方は無いだろう。 幸せにすると言ったのは、君じゃぁなかったのかね?」
「はははっ、そうでしたかな?」
と秦と父親が大声で笑った。
「もう、二人とも、呑み過ぎです! このお酒は飲ませられません!」
と鳳翔がプンプンと怒った。
「それはそうと、睦はどうしたんだ?」
「今、尚子ちゃんと一緒にお風呂に入ってますよ。 尚子ちゃんが引っ張っていきましたから。 そのまま二人で寝るんだって言ってましたよ?」
「え? そうなの?」
「ええ。」
「それじゃぁ、うちもそんなに広いわけじゃぁないから、秦君はこの子と一緒に寝てくれ。」
とシレっと父親が爆弾を投げ込んできた。
秦と鳳翔の二人の顔が、一瞬で真っ赤になった。
「お義父さん!」「お父さん!」
二人の叫び声が重なっていた。
はははっと父親が笑っていた。
そうやって夜が更けていった。
翌朝。
秦たち三人は、鳳翔の両親と妹の三人に見送られながら、帰路についた。
「鳳翔や、また帰ってくるのよ。」
「はい。 お母さんも元気でね。」
「睦ちゃん、また、遊びにおいで。」
「うん。 バイバイ、尚子お姉ちゃん! またね!」
「秦君、娘をよろしく。 遠慮なく、いつでも帰ってきていいからね。」
「はい。 そうさせて頂きます。」
と挨拶を交わして・・・
「では、お世話になりました。」
と。
レンタカーを駅で返却して、横須賀へと向かった。
「昨日はどうだったんだ、睦?」
「およ、何が?」
「尚子ちゃんと一緒にお風呂に入って、一緒の布団で寝たんだろ?」
「うん。 楽しかったよ。 でも・・」
「でも?」
「もう、尚子お姉ちゃん、あたしをぬいぐるみか、何かだと思ってるんだよ? 扱いが人じゃなかったよぉ?」
「はははッ。 そうなのか。 それは、ある意味、災難だったなぁ。」
「ごめんね、睦ちゃん。 あの娘ったら、もう。」
「で!」
ん?
「父さんとお母さんは、どうだったの?」
「どうって?」
「昨日は、一緒の布団で寝たんでしょ?」
「ぶっ。」思わず秦が吹き出してしまった。
「尚子お姉ちゃんが言ってたよ? ”ラブラブな二人なら、何かあるよ、きっと”って。」
ニヒヒヒっと笑っていた。
確かに、秦と鳳翔は一つ布団で寝た。
寝たけど、何も起こらなかった、いや、起こすことは出来なかった。
強いて言えば、二人で手を握り合って、抱き合っていたことくらいだろうか。
秦は酒の呑みすぎでスグに寝入ってしまったし、鳳翔は鳳翔で、気疲れからこちらもスグに寝入ってしまったのだった。
それでも二人は、口付けだけは交わしていた。
それを思い返して、二人とも真っ赤になった。