ハズされ者の幸せ   作:鶉野千歳

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ケッコンカッコカリを済ませた鳳翔のお仕事を少し・・



”お母さん”の役目

最近、執務室に朝霜がちょくちょく遊びに来る。

遠征や訓練の空き時間になると・・・

 

「しれーかん! 邪魔するよ!」

 

とドカッっと、入口のドアをノックもすることなく勢いよく開けて入ってくる。

まるで、片言の日本語をしゃべる、某高速戦艦娘みたいに・・・。

 

「あ? 朝霜か。」

 

といつもの事か、と秦が溜息をつく。

 

「あんだよ? 連れねぇじゃんか?」

 

「何言ってんだよ・・・いつもの事じゃないか。 もう、驚かんよ・・・」と。

 

「あ、冷たい事いうじゃん。 せっかく遊びにきてやってんのにさ。」

 

溜息をつきながら秦が朝霜のそばまで進んで・・・

パカーン!

書類で朝霜の頭をはたいた。

いい音!

 

「我ながら、いい音だな。」

 

「ひぃぃぃっぃ、イテェ!」

 

と頭を押さえる朝霜。

 

「あ、あにすんだよ!」

 

「ここは仕事場だ。 遊ぶところじゃない!!」

 

「ええぇぇ? 遊ぼうぜ、しれーかん!」

 

そこへ鳳翔が執務室に帰って来た。

 

「あら、朝霜ちゃん? また、遊びに来たの?」

 

「ほ、鳳翔さん、 ち、違うの! しれーかんが遊びたいって思ってるだろうなって、さ?」

 

「誰がじゃ? 朝霜はソファーにでも座っとれ。 まったく。」

 

秦は呆れて、更に溜息をついていた。

 

「提督、これが今回の島民帰還護衛任務の報告書です。 廊下で第1艦隊の霧島さんから受け取りましたよ。 第1艦隊、第2艦隊全艦無事、とのことです。」

 

「あぁ。 ありがとう。  そうか、無事に終わったか。 霧島は何か言ってたかい?」

 

「いえ、特には。 小笠原諸島への避難民の帰還は無事完了したと。 ただ、敵の姿を見なくなって、残念がっていましたよ。 いても小物ばかりで艦隊の頭脳としての働きが不十分だと嘆いてましたよ。」

 

「そうか。 島民の帰還がスムーズにいって良かった。 ま、戦闘にならなかっただけでも、いいことだよ。 不安は残るけどね。」

 

敵深海棲艦の前回侵攻時に避難した小笠原島民の帰還を、横須賀鎮守府の艦艇で護衛していたのだ。

あの侵攻以来、敵の動きは弱い。 いや、無いに等しい。

だから、秦は、不安だった。

 

秦と鳳翔の会話をよそに、ぶーぶーとソファに座っている朝霜が言っていたが、その座り方がちょっと、女の子らしからぬ座り方だった。

ソファーとは言え、胡坐をかいて座っていた。

もともと、スカート丈は短いのに、だ。

秦からすると、ちょっとスカートの中が・・・という状況だった。

そうしていると朝霜の傍まで鳳翔が近づいて・・

ピシャ!!

と膝を叩いた。

 

「もう! いつも言ってるでしょ? スカートに注意してって!」

 

「イテ! いいじゃん? 座り易いんだよぉ」

 

「いけません! 女の子なんですから、もっと慎みを持ちなさい!」といって、また、

 

ピシャ!!

と膝を叩く音がした。

 

「イテッ!」

 

「ほら、ちゃんと足を揃えて! スカートを直して! いい? 周りの視線、スカート注意、人生の基本ですよ?」

 

「はぁぁい。」

 

と渋々言う事を聞いていた。

 

「これじゃぁ、足が痛いよぉ。 しれーかん、なんとか言ってよぉ?」

 

「泣きついてきても、ダメ。 鳳翔のいう事は、ちゃんと聞きなさい。 お前たち艦娘のお母んが言ってるんだ、いいね?」

 

「うう~~」

 

秦にはつっかっかて来る朝霜だが、鳳翔には頭が上がらず、言う事を聞くのだった。

 

「はぁ。 そこで大人しくしとれ、まったく。 大人しくしていたら、遊んでやらんこともないぞ。」

 

「ホントかい?」

 

「提督? だめですよ。 お仕事が終わってないんですからね。」

 

「ああ。 分かってるよ。 だから、早めに片づけるぞ。 その時は鳳翔も一緒にな。」

 

「え? 私もですか?」

 

「ああ。 みんなであそぼ。」

 

「仕方ありませんね。 じゃ、頑張りましょう。」

 

「やったあ!」

 

そう言って秦と鳳翔は残りの処理にかかった。

 

艦娘のお母ん・・・

秦と鳳翔がケッコンカッコカリしたため、鳳翔が秦の妻としての座を得た。

それだけならまだいい。 赤城と加賀が鳳翔を”お母様”と呼ぶものだから、同時に、艦娘たちの母、という地位が必然的についてしまった。

もっとも、在籍の艦娘のなかでも、霧島や矢矧、阿武隈、由良の”お姉さん”組はお母さんとは呼ばないが、一目置いている。 駆逐艦娘たちは、完全に”母”と慕っている。

また、鳳翔も”母”と呼ばれることに、満更ではなさそうで、いつもニコニコとほほ笑んでいた。

その行動も”母”と言っても誰も疑わないほど、母性感満載の鳳翔であった。

あの、霞でさえも、鳳翔を母と慕っている。

 

ある日、鳳翔を目の前にして、モジモジしていた。

 

「あ、あの! その・・・」

 

霞は鳳翔をまともに見ていない。 俯いて話そうとしている。

 

「何かしら、霞ちゃん。」

 

「え、っと・・ 鳳翔さ、ん・・・」

 

緊張からか、顔は真っ赤だ。

 

「はい?」

 

「あ、あの、お、・・・」

 

言葉が続かない。

 

「お?」

 

「おか、あ・・・さ・・・ん」

 

やっと出た。

鳳翔は理解した。

霞は、甘えたいのだ、と・・・。

 

「はい。 どうしたの、霞ちゃん?」

 

ニコリとして霞を見つめていた。

霞の顔は真っ赤だ。

そして・・

鳳翔が霞を、そっと抱いた。

「ふぇっ」と霞が変な声を上げた。

 

「はい。 お母さんですよ。 緊張しちゃったかな?」

 

優しく声を掛けると

霞は声を出すことなく、鳳翔に顔を摺り寄せていた。

 

「へへへっ お母さん・・・・」

 

提督たる秦には、なかなか見せない、霞の一面は、鳳翔にだけ見せるのだった。

しかし、その姿は見られていた・・・。

 

「霞ちゃん、甘えてますねぇぇ。」

 

とニヤニヤした顔の皐月、五月雨、初霜に。

その声に霞がギリギリと音を立てているかのように首をまわした。

その顔は・・・ヤバいところを見られた!、という引きつり顔をしていた。

 

「あ、あんたたち、い、いつから、そこに居たのよ?」

 

「えぇ? 「おか、あ・・・さ・・・ん」って言ったあたりからかなぁ。」と皐月が答えた。

 

ほぼ全てであった。

霞の顔が赤くなっていく。

 

「司令官には、突っかかるくせにぃ。 お母さんには甘えるのねぇ。」と初霜が弄る。

 

「う、うっさいわね! いいじゃない! 鳳翔さんはあたしたちのお母さんなんだから!」

 

そう言いながらも、鳳翔から離れようとはしなかった。

 

「ほらほら、みんな喧嘩しないの。」

 

と鳳翔が声を掛けた。

 

「だって、ねぇ?」

 

三人は互いの顔を見やった。

そして、鳳翔が左手で霞を抱えたまま、右手を広げた。 微笑みながら。

 

「ほら、いらっしゃい。」

 

「「「えっ??」」」

 

三人は一瞬、戸惑った。

戸惑ったが、みな、鳳翔に、お母さんに甘えたかった。

だから・・・

わぁっと抱き着いた。

皐月も、五月雨も、初霜も甘えたかったのだ。

 

「ふふふっ。 もう、甘えたさんね、みんな。」

 

と言って微笑んでいた。

抱き着いた方は

 

「「「へへへ、お母さんだぁ」」」

 

と笑っていた。

母、とは言え、この状況はまるで保母さんに群がるこども達のようであった。

 


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