その戦果は・・・
鳳翔を飛び立った攻撃隊は、高度3千で敵前10kmまで来ていた。
その時、隊長機から指示が飛ぶ。
「隊長機より各機へ。 これより敵空母に対し、攻撃を開始する。 第1、第2小隊1番から8番機は高度5千まで上昇し、急降下にて敵空母に対して投弾。 第3第4小隊は水平爆撃を行う。 第3小隊9番から12番機は敵左前方、第4小隊13番から16番は敵左舷後方からだ。 全機、健闘を祈る!」
第1、第2小隊各機が高度を上げる。
第3、第4小隊各機が高度を下げる。
更に敵に近づいたら2手に分かれた。
敵艦隊から第3、第4小隊へ向けて対空迎撃が始まった。
巡洋艦、駆逐艦からの対空射撃は、艦が重なったりして存分にその威力を発揮できないでいた。
それでも機体のすぐそばを銃弾が飛んでいく。
対空砲弾は、飛行針路の手前で爆発する。
その破片や爆風が機体を襲う。
良くて機体が凹む。悪ければ機体を突き抜ける。
爆発の振動も伝わる。
その中を各機は、それぞれの目標、空母の飛行甲板に向けて飛ぶ。
中には曲芸飛行の様に、機体を左右に振りながら敵弾を躱そうとしている機体もある。
1機あたり爆弾は3発。
第3小隊4機が目標の空母に近づいていく。
爆撃侵入コースはバッチリだった。
そして各機が狙いを定めた。
「第3小隊各機、投弾用意! 投弾!!!」
小隊長機がまず目標に向かって爆弾を投下する。
続いて隣の空母に向けて・・・・・
敵空母1隻あたり1機ずつ。
第3小隊各機が投弾を終えた時、第4小隊各機が突入する。
第4小隊各機も爆撃侵入コースに乗っていた。
「第4小隊各機、投下ぁ!!」
第4小隊各機が各目標の飛行甲板に向けて爆弾を投下する。
第4小隊各機の爆弾が命中する前に、第3小隊各機の爆弾が着弾し、爆ぜる。
空母1隻に対して爆弾6発。
飛行甲板のど真ん中に落ちたものあったが、半数は前部、後部にずれていた。
それでも、甲板上に発艦作業中の機体があったために、爆弾による被害が広がっていく。
艦橋に爆弾2発が命中した艦があった。
艦橋が吹き飛び、黒煙が上がる。
甲板上の航空機に爆弾が命中し、被害が広がる。
投下し終わって敵艦隊の上空を旋回しながら通過していく攻撃隊に対して、送り狼の攻撃を加える敵艦もいた。
旋回中に、後方からの攻撃を受け、海に落ちていく機体がいくつかあった。
撃ち落とした砲では、歓声が上がっているであろうが、次の瞬間、上空から第1小隊と第2小隊の編隊が釣瓶落としで突入してきた。
1隻あたり2機。爆弾は6発。
「全機、突入!!」
隊長機が先陣を切って急降下していく。
降下角60度の角度で突入する、いや、落ちていく。
エアブレーキを展開しながら。
ようやく気付いた敵艦からの迎撃が始まるが、既に高度1000を切っている状況では、ほとんど無意味であった。
砲弾が上がるより、落ちる方が早かった。
「投下ぁぁ!!」
高度600で投下し、機体を引き起こしていく。
爆弾はほぼまっすぐに敵艦に向かっていく。
既に煙を吹いている空母の飛行甲板に。
3発が見事に命中する。
続けざまに後続機の3発も命中する。
命中弾は、甲板を突き破り、格納庫内炸裂するのもあった。
そうなれば、目も当てられない。
艦内には航空燃料、航空魚雷、爆弾など、爆発物がいっぱいなのだから、そこに火が入ると、更に爆発する。しかも大爆発だ。
鳳翔攻撃隊の攻撃が終わり、攻撃隊は悠然と引き返していく。
その後方で、敵空母群の飛行甲板はもうもうと黒煙を上げている。
火元をみるとオレンジの炎が立ち上がっている。
4隻のうち、艦橋に直撃弾を喰らい、指揮不能になった艦が1隻、その艦の飛行甲板では直撃弾と誘爆で甲板に大穴が空いていた。
2隻は飛行甲板に直撃弾6、格納庫での誘爆を起こし、傾斜していた。航行不能状態だった。
残り1隻は誘爆が機関部におよび、航行不能のうえ、艦尾から沈み始めていた。
その様子を上空の偵察機が見ていた。
「攻撃隊の攻撃終了。敵空母、大破2、中破2、艦隊の往き足が止まった。」と連絡した。
連絡を受けた秦たちは、「よしっ!!」と声を上げた。
(これで、こちらの壊滅的打撃を被ることは無くなったか・・・)
だが、秦は気になっていた。
こちらの攻撃隊が到着前に敵の攻撃隊が発艦していたからだ。
「呉隊、無事だといいんだが・・・」
そう呟く。
「大丈夫ですよ、きっと。」
と由良が応える。
応えるが・・・由良も根拠があるわけでは無かった。
◇
その頃、既に呉隊は敵深海棲艦の艦載機による空襲を受けていた。
呉隊は護衛空母からの直掩はしていたものの、数が違った。
我が軍の大型空母は、横須賀隊の赤城、加賀の2隻と大湊隊の翔鶴、瑞鶴の2隻の計4隻。
呉隊には軽空母の2隻があるだけだったが、そのくせ戦艦は6隻いた。
呉提督は、敵側面から打撃を加えるつもりだったようだが、敵はそんなに馬鹿ではなかった。
戦爆連合の200機にもおよぶ攻撃は熾烈を極めた。
爆撃機は戦艦を、攻撃機は中小型艦船を狙っていた。
爆撃機は、戦艦の上部構造物の破壊を目指していた。
戦艦は、航空機による上空からの攻撃には、比較的弱い。
大和、武蔵を有する呉隊であったが、船体中央部の高角砲群は、上空からの攻撃には弱いのだ。
上空から攻撃機が飛来するたび、機銃や砲が破壊されていく。
46センチ砲を3基9門揃える大和、武蔵も航空機のやりたい放題にさらされている。
傍を行く長門、陸奥も巨砲を持つが、対航空機には不向きだ。
そのうち、旗艦武蔵が被弾した。
しかも艦橋に、直撃だった。
攻撃機は小中型艦を目指した。
快速で小回りが利く小中型艦は、魚雷による肉薄攻撃を得意とするが、その攻撃をさせまいと、先手を打って航空攻撃が行われた。
駆逐艦も回避運動を繰り返し、攻撃をかわしていくが、次第に命中弾がでる。
敵航空魚雷が1本、また1本と命中していく。
大型艦ならば数本あたったところで持ちこたえる事はできるが、駆逐艦クラスでは1発で致命傷だ。
1時間にもおよぶ敵の空襲が終わったとき、呉隊の全艦が被弾していた。
被害は・・・
撃沈:戦艦2、軽空母2、駆逐艦4
大破:戦艦1、重巡2
中破:戦艦3、軽巡2
一次攻撃だけで半数が沈んでいた。
結果からすれば、壊滅である。
大破、中破の8隻は辛うじて航行が可能であったが、攻撃能力は大きく落ちていた。
◇
鳳翔攻撃隊の攻撃終了から小一時間。
攻撃隊が帰還してきた。
出撃数16、帰還13、未帰還3という結果だった。
「鳳翔、よくやってくれた。 飛行妖精たちを労ってやってくれ。」
「了解です。 提督。」
そう会話をすると
「では、本土へ急ごう。」
と指示を出した。
「提督さん? 敵の、呉隊を攻撃した攻撃隊はどうしますか?」
「放っておいても大丈夫だ。 もう帰る家は無いから、海に落ちるしかないさ。 ただ、とばっちりは嫌だから、対空警戒は厳にね。」