ハズされ者の幸せ   作:鶉野千歳

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避難島民を乗せた2部隊が合流する。
そして、本土へと急ぐ、が・・・


合流

秦たちが二見港を抜錨したころ、既に母島の島民の収容を終えた卯月たちは、会合点へと北進していた。

卯月たちは予定より1時間早かったのだ。

 

「海は荒れ荒れ、でも、うーちゃん、順調、順調。」

 

と、脳天気に独り言を言っていた。

それを椿が叱った。

 

「卯月ちゃん、静かにしてよ。 駄弁るより、警戒監視をしっかりやってちょうだい!」

 

「う~、いいじゃん、いいじゃん!!!」

 

(はあぁ・・ まったく、落ち着きが無いったら、ありゃしないわ・・・ 睦月型ってみんな、こんなんなのかしら・・・・)

 

と椿は呆れていた。

合流地点に到着し、ビーコンを発信する。

 

「予定地点とうちゃくぴょん! ラジオビーコン、はっしぃぃん!」

 

「真面目にやって!」

 

「う~、また怒るぅ~」

 

「怒らせてんのはだれかなぁああ?」

 

椿の蟀谷にピキピキと音がするほどしわが入っている。

二人がやりあっている間、油槽船と輸送船の乗員乗客達は呆れながら見ているだけだった。

そのうち、東から荒波を蹴って艦隊が接近してきた。

由良を先頭とした、楠木隊だ。

旗艦由良から、”艦隊集合、針路を北にとり艦隊速度20ノットで進め”、との発光信号が発せられ、卯月たちが北に針路を変えつつある秦たちに合流した。

 

「うーちゃん、合流するぴょん!」

 

「卯月ちゃん? 真面目に、ね?」

 

という鳳翔の一言で卯月が

 

「はいぃぃ!」

 

と大人しくなる。

椿は(私のいう事は聞かないくせに、鳳翔さんのいう事は聞くのね。)と心の中でぼやいていた。

 

 

艦隊はここで初めて本格的な鋒矢陣を成した。

先頭は、旗艦由良。

由良より右斜め後方に向かって、椿、欅。

同左斜め後方に向かって、楓、樫。

由良の後方に、朝霜、鳳翔、油槽船、兵員輸送船、最後尾に卯月が就いた。

各艦との距離は2500メートル。

波が荒れている事を考えれば、もっと間隔が欲しいところではあるが、秦は敢えてこの間隔とした。

(背が低い駆逐艦が波間に消えない程度の距離のつもりなんだけど・・・・)

 

だいたいこの陣形では、大将は、傘の柄に陣取る。

今の陣形でいくと、鳳翔の位置にあたる。

しかし、今回、旗艦は由良であった。

陣形の先頭である。

敵と正面からぶつかれば、真っ先に攻撃にさらされる位置である。

秦は、由良に乗るのは初めてであったが、現状においては、初めてであっても由良を頼るしかないのである。

もっとも、秦は由良を信頼している。

由良というより、艦娘を。

彼女たちは、秦よりも多くの戦場に立ち、激しい命の削り合いを潜り抜けている。

そんな彼女たちを疑う事は、全く持って失礼であるし、人間と共に戦ってくれる同志として思っている。

 

南にそれていた低気圧は、迷走ぶりを発揮し、北西へ針路を変えていた。

見たかたち、楠木隊が低気圧を引き連れている様にも見えていただろう。

艦隊は低気圧の縁のギリギリを航行していた。

波は高いが、艦載機が発艦できないほどではなかった。

秦は、今後の事を考え、偵察機を飛ばすことを決めた。

北、北北東、北東の3方向だ。

由良より鳳翔へ信号が送られる。

鳳翔の甲板に露天駐機されていた偵察機の発艦作業が始まる。

 

「偵察機隊第1陣、発艦準備! 準備完了次第、順次発艦!!」

 

作業が完了した機から飛び立っていく。

全機がいったん由良の上空を通過していく。

(発艦終了したわね。 由良へ連絡、と。)

 

連絡を受けた由良が秦に報告する。

 

「提督さん、発艦終了したようです。」

 

「了解。 さぁて、何もなければいいが・・・」

 

心配な秦であった。

 

 

艦隊は既に聟島を通過し、針路をやや東寄りに変えていた。

北東に向かった偵察機が高度5千で1時間ほど飛んだ頃、針路右手に、航跡を引く多数の艦船を見つけた。

 

「右舷下方に多数の航跡!」

 

と監視妖精。

 

「用心して近づくぞ!」

 

と操縦妖精。

雲間に紛れながら所属不明艦隊に近づく。

 

「!! 敵艦船と認む。 艦種は、戦艦クラス1、大型空母クラス4、巡洋艦クラス3、小型艦6!」

 

「旗艦に打電!」

 

「これだけではあるまいに。 まだ居るんじゃないか?」

 

さらに付近を捜す。

そのころ、北北東に向かった偵察機も所属不明艦隊を見つけていた。

 

「敵艦船を発見。 戦艦4、小型空母1、小型艦4を認む。」

 

報告を受けた秦は考えていた。

(2艦隊で20数隻・・ 部隊としてはかなりだが、もう一つくらい居るんじゃないか?)

 

「由良はどう思う? まだ居るような気がするんだが・・・」

 

「どうでしょう、北東の艦隊は、艦隊としての規模が大きいので後に2つに分かれるのではないでしょうか。 空母部隊と水雷部隊と。」

 

「今は、分かれる前、だと?」

 

「はい。」

 

「北北東の艦隊は、明らかに攻撃部隊ですね。」

 

(そうなると、だなあ・・・ ちょっと、無謀かもしれないが・・・)

 

秦は一つの案を思いついたが、ちょっと無謀かも、と思っていたが・・・。

 

「鳳翔? 私だ。」

 

「はい? どうされました、提督?」

 

「北東方向の、敵艦隊Aとするが、敵Aの空母を潰したい。 艦戦に爆装できる?」

 

「「えっ?」」

 

聞いていた由良も、鳳翔も同時に声を上げた。

 

「烈風に爆弾、ですか? 爆弾も積んでいますから、いちおう、できますけど。」

 

「なら、鳳翔に下命する。 艦戦全機を爆装させ、敵Aの空母を爆撃せよ。」

 

「! わ、わかりました。 露天駐機の全機に爆装をさせます。」

 

「目標は、空母の飛行甲板だ。 沈めなくていいから、甲板だけを狙ってくれ。」

 

「了解しました。 発着艦不能にするんですね?」

 

「そうだ。 大型空母4隻分だと、、総数400を超える艦載機があるだろうから、こいつを潰しておかないと、我々に勝ち目はない。」

 

「了解しました。 全機に下命しますね。」

 

鳳翔はそう言って艦内に命令を下した。

 

「全機、爆装! 目標、敵A艦隊の空母の飛行甲板!」

 

格納庫内の避難民は一様に驚いていたが、作業はすべて甲板上で行われている為、見る事はなかった。

30分を掛けずに出撃準備が整った。

烈風全16機の翼下と胴体下に25番が3発。

計48発が搭載された。

 

「全機、発艦!!」

 

カタパルトから1機また1機と飛び立っていく。

敵Aまでの距離は徐々に縮まっていておよそ150km。

残っていた偵察機の先導を受けてまっすぐに敵空母へと飛んでいく。

片道30分と掛からないが、雲を縫っていくので小一時間掛かる算段だ。

そして全16機が発艦したころ、敵Aの各空母からも攻撃隊が発艦していた。

偵察機から連絡が入る。

 

「敵A各空母より攻撃隊発艦! 目標は・・・われら楠木隊ではありません!」と。

 

「! 遅かったか。」

 

「無理もありません。いつも先手を取れるわけではありませんから。」

 

と由良が慰めてくれる。

敵攻撃隊はどこへ向かったのだろうか。

続けて偵察機より報告が来た。

 

「敵A攻撃隊、北西へ向かう。 およそ200機。戦爆の構成は不明。」と。

 

「奴らの目的は・・・ 呉隊か?」

 

そう秦は思ったが、

 

「方角からすれば、たぶん・・・。」

 

と由良が後を押す。

秦たちは知らなかったが、敵の目標は、確かに呉隊であった。しかも、約半分の90機が航空魚雷を抱いている。

明らかに艦船攻撃だった。 それらは第1次攻撃隊で、第2次攻撃隊が甲板で準備に入っていた。

その敵空母に対して、鳳翔を飛び立った攻撃隊が襲いかかろうとしていた。

 


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