ハズされ者の幸せ   作:鶉野千歳

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やはり、艦これですので、戦闘っぽいシーンが欲しいと思い、追加しました。
よろしければお付き合いください。

新空母・鳳翔が登場します。
まずは、訓練から、です。


楠木隊、出撃!
慣熟訓練


秦は鳳翔を伴って秋吉の執務室に来ていた。

 

「失礼いたします。 楠木です。」

 

「おお。 どうした?」

 

「はい。 中将が先日仰っていました、鳳翔の”艦”の事で、ご相談にお邪魔いたしました。」

 

「ん? なんだ?」

 

「今ドックで改装中の、改造空母を頂きたいと思いまして。」

 

「そんなことか。 構わんぞ。 好きに使ってくれて。 何しろ、使ってくれる艦娘がいないからな。」

 

「はっ、ありがとうございます。 では、早速、使わせて頂きます。」

 

秦はそう言って、次に鳳翔へと振り返った。

 

「よかった。 いいね、鳳翔?」

 

ホッとした秦であったが。

 

「はい。 新たな私の”艦”として使わせて頂きます。」

 

と鳳翔が答えた。

 

「で、”艦”は1番ドックだったな? 赤城よ?」

 

「はい。 ほぼ艤装工事が完了していますから、すぐにでも使えるはずです。」

 

「艦籍の登録はこっちでやっておく。 では、すぐ使うか?」

 

「はい。 そのつもりです。」

 

「分かった。 後は貴様に任せる。 良きに使ってくれ。」

 

秋吉がそこまで言って、思い出したように追加で声を出した。

 

「ああ、そうだ。 空母だけでは訓練にはならんだろうから、ワシの所属から駆逐艦1隻を貴様にまわすことにするからな。」

 

「駆逐艦ですか?」

 

「そうだ。 駆逐艦だ。 鳳翔の随伴艦で使ってくれ。」

 

駆逐艦1隻を秦の配下にしてくれるという。

ま、トンボ釣りを行う上で、空母以外で1隻の補助艦艇が必要となるから、有り難かった。

 

「それで、誰になるのでしょう?」

 

「赤城?」

 

秋吉は、赤城に答えるよう、即した。

 

「はい。 楠木提督にお預けする駆逐艦は、夕雲型駆逐艦16番艦、朝霜ちゃんです。 もう呼んでありますよ。」

 

赤城が続き部屋に入っていき、一人の少女を連れて戻ってきた。

 

「朝霜ちゃん、入って。」

 

「失礼するよ! 夕雲型駆逐艦16番艦、朝霜。 以後、楠木提督の配下にてお世話になるわ!」

 

青白い? いや、銀髪か? 長い髪を揺らせている。

秦がにこやかに挨拶する。

 

「楠木です。 よろしく。 で、こっちが・・・」

 

「楠木提督の秘書艦を務めています、鳳翔です。 よろしくお願いしますね。」

 

と鳳翔もにこやかに挨拶した。

 

「ほうしょうさん? ひょっとして・・・元一航戦の? 空母娘の母と言われてる?」

 

「あら? 確かに私は元第一航空戦隊所属ですけど、そんなに立派でもありませんよ?」

 

「いえ! そんなことはありません! こちらこそ、よろしくお願い致します!」

 

と堅い敬礼をしていた。

そんな朝霜を微笑ましく見ている秦であった。

 

 

今日は、鳳翔と艦との精神同調を行うため、1番ドックに来ていた。

問題が無ければ、慣熟訓練航海を行う為である。

横須賀は呉に次いで所属艦艇が多く、その分、港湾施設も大きく、数も多い。

そのうちの一つ、1番ドックに秦と鳳翔、朝霜が来ていた。

 

「ここが1番ドックのようだな。」

 

先日の赤城の話の通り、ほぼ艤装工事は完了しているようだった。

 

「こいつか・・・。」

 

岸壁に立って、艦を見上げていた。

 

「やはり、以前の艦より大きいですねぇ。」

 

と鳳翔が言った。

”以前の艦”・・・鳳翔の初期艦は、空母として最初から設計された世界初の航空母艦であったが、

全長が約165m、速力が24ノット、搭載機数も20機程度と比べると、

全長でほぼ50m、速力で10ノット、搭載機数で30機あまりと、新型艦のほうが大きい。

 

「実際、ひと回り以上大きいな。 操艦のイメージもだいぶ違うだろう。」

 

「そうですね。前は、艦橋は甲板下にありましたけど、この艦は、甲板上に艦橋がありますから。」

 

ドック内にあるといっても、既に進水しており、いつでも出航できる、といった具合だった。

 

「司令官? アタイはどうすればいいのさ?」

 

「これから”鳳翔”の試験を行うから、朝霜は随伴として一緒に慣熟訓練に参加してもらうからね。 なので、港の出口あたりで待機しててくれるかい?」

 

「了解ですぅ!」と可愛く敬礼する。

 

そして、自分の”艦”へと走って行った。

 

では、と秦と鳳翔の二人は、艦橋へと登っていく。

この艦の羅針艦橋に登った。

指揮官席に秦が座り、艦娘席に鳳翔が座った。

戦闘指揮所は階下だった。

羅針艦橋の上に航空管制室があった。

既に妖精さんは配置についているようだった。

 

「では、これより、”鳳翔”との精神同調試験を行う。精神同調試験に引き続き、慣熟訓練に移る。」

 

と秦が今回の目的・指示を出した。

 

「了解しました。」

 

鳳翔が羅針艦橋内を一通り見廻したのち、

 

「提督、始めます。」

 

と言って、艦との精神同調を始めた。

妖精さんとの共同作業だ。

<精神同調、開始。>

<船体、船隔問題なし。各砲塔、各銃座、異常認められず。各装備、異常認められず。機関、異常認めず・・・>

<各部・・・よし!>

<精神同調、完了!>

 

「精神同調問題なし。各部異常なし。行けます。」

 

「よし。 出航準備!」

 

「はい。 出航準備。 機関始動。」

 

微かな振動が足下から伝わってくる。

 

「妖精、各部配置。」

 

「各部、出航配置完了。」

 

「抜錨!」

 

「岸壁を離れる。 前後スラスター始動。」

 

<スラスター稼働、問題なし。>

艦がゆっくりと岸壁を離れる。

 

「舫解け!」

 

艦と岸壁を繋ぐ舫を解いていく。

<舫解け、完了!>

岸壁から10mは離れただろうか。

 

「両舷前進微速。」

 

徐々に速度がでて、艦が前進を始める。

岸壁を離れ、港の出口を目指して進む。

 

出口付近で1隻の駆逐艦が待っていた。朝霜だ。

 

「待ってたよ、司令官、鳳翔さん!」

 

「うん、朝霜は鳳翔の前1000に就いてくれ。」

 

「了解!」

 

朝霜を先頭に、2艦は単縦陣で進む。

そして、そのままの速度で港を出た。

 

「港外に出ます。」

 

「了解。 艦隊速度、原速へ。 進路変更。進路房総沖南100kmへ。」

 

「進路変更、房総沖南100kmへ。」

 

 

”朝霜”と”鳳翔”は海上を14ノットの速度で進んでいく。

秦はデッキへ出て、海を見ていた。

 

「うん。 いい潮風だ。 やっぱ、艦はこうでなきゃ。」

 

後に続いて鳳翔が来た。

 

「どうですか? 久しぶりに海に出たご気分は。」

 

手すりに肘を掛けながら秦が答える。

 

「やっぱり、いいね。 何か、ホッとするなぁ。 この肌で感じる潮風がいいね。」

 

「ふふ。 提督は海の男という感じはしませんね、やっぱり。 肌も色白ですし、日に焼けていませんから。」

 

にこりと笑いながら鳳翔が言う。

 

「えぇ? そうかい? 一年前まではちゃんと海に出てたんだけどなぁ。 ”艦”に乗って海に出ても、結局は室内勤務みたいなもんだからなぁ。 日に焼ける事がないよな、確かに。」

 

秦も、はははっと笑っていた。

しばらく海の上を進んでいたが、

 

「よし。 それじゃ、各機器のチェックをしてしまおう。 それと、富津の航空隊に連絡。 発着艦訓練を行うと。朝霜には”鳳翔”の右後方2000に就くように連絡を。」

 

「了解しました。 各機器のチェックを開始します。 同時に、富津の航空隊に発着艦訓練を下令します。」

 

対空電探、対水上電探のチェックと試験が開始された。

同時に水中聴音も稼働した。

 

「報告。 対空電探に異常なし。 半径1万mまで電探の反応なし。」

 

「報告。 聴音、異常なし。 半径1000mに反応ありません。」

 

「報告。 対水上電探に異常なし。 正面一二時方向1000に駆逐艦、朝霜と、右舷二時方向5000に漁船らしき小型船の反応あり。数は2つ。」

 

「どれだ?」

 

秦が右側の窓から双眼鏡で確認をする。

 

「あれだな。 ・・・二時の方向、距離5000に小型船2を視認。どうやら漁船のようだな。進路からして・・・港へ帰るようだな。 」

 

「朝霜? 念のためだ。 漁船の確認をしておくれ。 確認後、”鳳翔”の後ろへ。」と秦が朝霜に連絡する。

 

「はあぁい。 了解です!」と朝霜が返事をする。

 

同時に舵を切って漁船へと向かう。

 

「第二戦速へ増速! 速やかに確認するよ!」と妖精さんに激を飛ばす。

 

朝霜が鋭く回頭すると、あっという間に漁船に接近した。

 

「目標に接近。 船籍番号・・・確認。 三崎漁港所属の遠洋漁船と確認。速度10ノット。 船体に異常見られず。 これより所定位置へ向かいます!」

 

「了解。 確認、ありがとう。」

 

「い、いえ。 指示通りしたまでですから。」

 

朝霜はちょっと驚いていた。 司令官から”ありがとう”なんて言われたことが無かったから。

(なんか、心が熱くなりますね、これは。)

 

朝霜が鳳翔の右後方2000の位置に達した時、鳳翔の対空電探に反応があった。

 

「! 対空電探に反応あり。 北東方向より接近する未確認編隊、多数確認、距離2万、高度5千!」

 

と妖精さんから第一報が入った。

 

「念のためだ。 対空戦闘用意!」秦が対空戦闘を指示する。

 

12.7cm砲の揚弾作業が始まる。

各銃座の銃身が空を狙う。

補充弾薬も準備万端となった。

 

「富津の航空隊かしら? 確認できる?」

 

「しばしお待ちを。 未確認編隊を視認! 接近中の編隊は友軍ですね。  ・・・富津の航空隊です!」

 

「我、鳳翔第1飛行小隊。北東より高度5千で接近中なり。」

 

と航空隊から連絡が入った。

 

「よし、 対空戦闘用意解除。 これより、発着艦訓練を行う。 まずは、タッチアンドゴーからだ。」

 

秦の指示で甲板上で着艦準備が始まった。

着艦指示灯に火が入る。

通常、制動索が引き出されるが、今回は要は無い。

捕獲網も用意されるのが普通なのだろうが、今回は出ていない。

甲板上ではタッチアンドゴーの準備が出来た。

艦の後方から烈風改の1番機が降下してきた。

<高度500より降下>

<主脚降下!>

<着艦指示灯、視認!>

<降下角よし、方位よし。 甲板上クリア!>

やや機首上げ気味に主脚が甲板に接地する。

ガッ っと音と振動がする。

同時にスロットルを開け、操縦桿を僅かに引き、甲板上を通過していく。

艦を通り越したかと思うと次の2番機が降りてきた。

そうして各機のタッチアンドゴーが終わると、着艦に移った。

 

「これより着艦に移る。」

 

先ほどは使われなかった制動索と捕獲網が用意される。

<制動索、準備良し>

<捕獲網、準備よろし>

再び1番機が降下してきた。

今度は着艦フックを下している。

<主脚降下!、着艦フックダウン!>

<着艦指示灯、視認!>

やや機首上げ気味に着艦フックを制動索に引っ掛ける。

主脚が接地し、制動索によって急ブレーキが掛かる。

機体が停止すると着艦フックを格納する。

捕獲網を一旦格納し、機体を捕獲網より前方に押し出す。

 

「どうでぃ! 上手いもんだろ!」

 

と1番機の飛行妖精が言うが、

 

「何言ってるの! 接地後あんなに飛び跳ねて! まだまだ訓練が足りません!」

 

と鳳翔にダメを出されていた。

 

「うわっ、厳しいぃ!」と嘆いていた。

 

甲板後部では次の2番機に取り掛かる。

1番機は前方のエレベーターで格納庫に降りていく。

格納庫では燃料の補給が行われた。

一旦、全機が格納庫に収納され、補給の終わった1番機から後部のエレベーターで甲板上に引き出されていく。

 

「風に艦を立てよ。」

 

艦が風上に向かって速度を上げる。

今回はカタパルトは使用せずに発艦を行った。

<エンジン定速回転>

<甲板上クリア>

<発艦始め!>

<滑走開始!>

エンジン音が高鳴り、機体が甲板上を走っていく。

甲板を走りきるまでに、ふわりの機体が浮き上がっていく。

1番機が終われば、2番機、3番機と続いた。

着艦と発艦を繰り返し行われた。

2度目の発艦はカタパルトを使った。

念のために風上に向かって発艦したものの、滑走による発艦作業よりかは、発艦時間は短かった。

とは言え、カタパルト使用に戸惑いが見られ、総時間は短かったが継続的な訓練が必要と判断された。

そして、鳳翔所属機全機の訓練が終わった。

その頃には日が傾きかけていた。

 

「ようし。 今日の訓練はこれまで。 鳳翔、朝霜、お疲れ様。 朝霜を先頭に、全艦港へ帰るぞ。」

 

「了解しました。 進路変更。 進路横須賀港。」

 

「朝霜、了解です。」

 

朝霜を先頭に単縦陣で港を目指す。

 

「だいぶ、時間が掛かったね。」

 

「無理もありませんね。 この艦に降りるのはみんな初めてですからね。」

 

「その割には、みんな上手かったね。 さすが、鳳翔お艦の飛行妖精だな。」

 

「そうですね。 結局、飛行妖精たちは呉から配属変更してきた、昔からの私所属の子たちですから。」

 

「そうだったな。」はははっと秦は笑っていた。

 

富津の飛行隊は、旧”鳳翔”所属だったものを秋吉が呼び寄せたものに、補充をしたものだ。

元々”鳳翔”隊は訓練が厳しかった事もあり、練度が高い妖精が多かった。

 

「でも、アタイは暇だったよ? だってぇ、誰も落ちないんだもん。」

 

「はははっ。 そう言うな、朝霜。 落ちないってことはみんな練度が高いってことだからさ。」

 

「それはそうだけど。 やっぱりねぇ、暇だよ。 ヒ、マ、」

 

朝霜は暇すぎてむくれている様だった。

 

「そう言うが、知ってるぞ? ちゃんと位置取りを変えて、左右の位置を確認してただろ?」

 

「えっ、なんで? なんで、バレテル??」

 

「ははは。 即席の提督じゃないからな、俺は。 それくらいは見えるさ。 な? 鳳翔。」

 

「ええ。 ちゃんと位置取り出来てたわよ。」

 

朝霜の顔が赤かった。

 

「へへへ。」と笑っていた。

 

(ちゃんとしてるじゃん、今回の司令官は。)

そう言いつつ2隻と三人は帰港していった。

 


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