ハズされ者の幸せ   作:鶉野千歳

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暫くぶりでした。
再会させていただきます。

ついに横須賀鎮守府へと三人がやってきます。
さてさて、どうなりますやら・・・。


重なる思い
入寮


この年の梅雨時期の夕刻。

ここ横須賀鎮守府に親子に見える三人組がやってきた。

一人目は父親に見える、楠木秦。

二人目は娘に見える、楠木睦。

三人目は母親に見える、鳳翔。

秦は、週明けからこの鎮守府で働く予備役大佐である。

睦は、秦の娘であり、元艦娘。

鳳翔は、元呉鎮守府所属であったが、少々問題があって今は横須賀鎮守府所属で秦が管轄権を持つ予定の艦娘である。

 

門番に事情を話し、鎮守府内に通された。

鎮守府内を三人は進んでいく。

目的の建物は、ここ横須賀鎮守府内にあるという、家族寮だ。

元々、鎮守府内で住むことは想定していないが、秦が望んだのだった。

もっとも、鳳翔が現役の艦娘である以上、鎮守府外で暮らすのは様々な問題を生むので、寮を希望したのだ。

そうしたら、ちょうどいい家族寮がある、とのことだった。

秦は即答で了解した。

家族寮ならば、秦、睦と鳳翔の三人で暮らせる、と言うのもあったが。

 

三人は家族寮の建物の前で足が止まる。

 

「ん-、まさか、こんなにデカいとは・・・・・」

 

「おっきいね。」

 

「そうですね、この大きさは・・・私も、呉でも見たことはありません。」

 

三人の素直な感想であった。

建物は2階建てではあるが、一般の住宅とは言えないほど、デカい。

 

「いったい、どんだけ部屋があるんだか・・・」

 

そう呟く秦であった。

そこに秋吉と赤城がやってきた。

 

「よお。 やっと来たか。」

 

「これは、秋吉中将。 ええ、たった今着いたばかりです。」

 

「遠路、ご苦労様です。」と赤城が労いの一言をくれたが・・・

 

「中将、これは・・・・  これが家族寮ですか?」

 

「ん? そうだが?」

 

怪訝そうな顔をする秋吉である。

そこに赤城が口を添える。

 

「もう、提督ったら。ちゃんとお話ししませんと。 ほら、大佐が困っていますよ?」

 

「ああ、そうだな。 じゃ、赤城、頼むよ。」

 

と言って赤城に説明を任せてしまった。

赤城も、もうっと呆れ顔だ。

 

「では、私からお話しいたしますね。 ここは元々提督用の官舎だったんです。秋吉提督はここを使っていませんので、ちょうど空いているところに大佐がお使いになる、という事です。」

 

「はぁ、元官舎ねぇ。」

(それにしても、デカいだろ・・コレ・・・・)

 

「はい。部屋数は寝室が4つ有りまして、うち一つは、提督用で、小さいながらも仕事部屋が続部屋であります。 それと、ここで提督が会議が出来るようにとダイニングとは別に大広間があります。また浴室も2つ備えてあります。 ご自由にお使いください。」

 

建物に5人は入っていく。

玄関ホールも、住宅にしては立派だった。

玄関ホールから続く大広間。ここは10人ほどが座れる大きなダイニングテーブルがあった。

さらに、奥には台所があり、大広間とは別にダイニングルームがある。ここでも6人は座れる代物だった。

水回りは1階、寝室は2階のようだった。

1階の居間も広く、応接セットが既に置いてあった。

 

「基本的に、各部屋の掃除は済んでおりますし、什器も揃っておりますから、今からでもお使いになれます。」

 

と赤城が教えてくれた。

秦たちの荷物は1階の玄関ホールに置いてあった。

 

「今日からここで寝泊まりしてくれ。ま、片付けが必要だろうが、明日中には終えてくれよ。休み明けにはワシの執務室まで来てくれ。正式な辞令を渡すからな。」

 

と言って、赤城と共に出て行った。

 

「デカい・・・・前の家と比べるのがおこがましいくらいだな・・・・」

 

辺りをきょろきょろしている。

気が付くと、鳳翔と睦が居ない。

 

「あれ??   おーーーい、鳳翔さ--ん!、睦ーー!」

 

すると奥から鳳翔がやってきた。

 

「どこに行ってたんだ?」

 

「お台所とお洗濯場とを見てきました。 ずいぶんと広いんですね。あ、冷蔵庫も洗濯機も完備でしたよ?」

 

「そうなの?」

 

「はい。しかも冷蔵庫は、中身がいっぱい入ってます。お料理のし甲斐があります。」

 

とにっこりと笑う。

続けて睦が2階から降りてきた。

 

「2階は一人ひとりの部屋だよね?」

 

「ん? もう見てきたのか?」

 

「うん。 みんなおっきな部屋だったよ。」

 

とにかく。荷物を整理しなければ、生活が出来ない。

2階の部屋を三人でみて、一応、一人一部屋を割り当てる事とした。

提督用と言われた部屋は使わない事とした。

各部屋にはベット、クローゼット、机、本棚が既に完備されていた。

秦は、持ってきた本を本棚に、服をクローゼットにしまった。

 

「さてと、こっちは何とか片付いたかな。 睦の方はどうだろ??」

 

あらかた片づけてしまったあと、睦の部屋を覗いた。

コンコンと扉を叩き、

 

「入るぞ?」

 

こっちもあらかた片付いてはいたが、睦が椅子に座って、何やら考え事をしているような。

 

「どうした?」

 

「あ、父さん。 部屋が大きすぎて、なんか落ち着かなくって・・・ 持ってきた教科書なんかを全部並べても、スカスカでさ・・・」

 

見ると机の本棚に教科書が並べられているが、まだまだ十分な容量が残っていた。

クローゼットも扉が半開きで中が見えているが、こちらも十分な容量が残っている様だった。

納まり過ぎた状況にちょっと不安気な顔をしている。

 

「なんだ、お前もか。」

 

「父さんも?」

 

「ああ。 なんか落ち着かなくってさ。」

 

秦と睦の二人、顔を突き合わせて、笑っていた。

そして二人して鳳翔の部屋へといった。

コンコンと扉を叩き中を覗く。

鳳翔の部屋も既に整理が終わっていたが、睦と同じように、ベットに腰かけて考え事をしているようだった。

 

「入るよ。」

 

「あ、提督。」

 

「どうしたの?」

 

「ええ、あまりに広すぎて、どうしようかと。」

 

その言葉に秦が笑う。

 

「ははははっ  なんだ。三人とも同じか。」

 

「そうだよ、鳳翔さん。 私も部屋が大きすぎて、考え込んじゃって。」

 

「そうだったんですね。 私たち、似た者同士なんですね。」

 

そうだな、と三人で笑いあった。

実際、各部屋は16畳ほどの広さがある。

ベットも大きく、キングサイズだ。一人で使うには十分な大きさだ。

机も本棚も大きく、部屋の入り口には衝立が置いてあるのだった。

机も、よくある事務机よりひと回り、いや、ふた回りは大きいだろうか。

机の左右に脇机が付属しているし、机上のライトも明るいものが2つある。

本棚も、なんとか大全集が一式入りそうな十分な容量があった。

それぞれの部屋の整理が終わると、次は居間と台所だ。

持ってきた食器を水屋にしまったが、元からある食器類や調味料類がたっぷりあった。

元からある食器は・・・

金の縁取りをしているし、描かれている絵は海軍らしく、菊水の絵や錨の絵が施されている。

フォーク、ナイフ、スプーンの類は、銀製だった。

 

「これ、いいものですね。 何組あるのかしら?」

 

と鳳翔が唸るくらいだった。

居間もソファーは元からあったが、一人掛けでも二人が座れるほど大きいし、三人掛けまで置いてあった。

持ってきた荷物で新たに置いたのはテレビくらいだった。

余った荷物は箱のまま、2階の空き部屋に押し込んで、荷物の整理が終わった。

 

「結局、持ってきた布団は余ったな。」

 

これが一番嵩高いのかも知れなかった。

 

夕刻になり、三人は1階の居間にいた。

 

「そろそろ、お夕飯の支度をしますね。」

 

といって鳳翔が台所に入っていった。

改めて秦が居間の窓から外を見ると、家族寮の目の前は、広場になっており、その先は海だった。

右手には、提督の執務室がある建物、鎮守府のメインとなる建物が見える。

そこには艦娘たちの自室やら食堂やらがある、ハズだ。

振り返ると、睦がテレビをつけたまま、ソファーで寝てしまっていた。

それを見た秦は薄手の掛け毛布を持ってきて、睦に掛けてやった。

 

「今日は、移動だけでも結構、疲れたもんな。 無理もないか。」

 

といいながら睦が眠るソファーに腰かけ、頭を膝の上に載せてやった。

テレビの音が、子守唄の様に聞こえたのかも知れないな、と思っていた。

軽く小気味よい寝息を立てている。

しばらく睦の頭を、栗色のショートヘアの髪を撫でながら思いに耽っていたとき、鳳翔がやってきた。

 

「お夕飯の準備が出来ましたけど・・・・・」

 

人差し指を口の前で立てて、しーっと、秦が言った。

そして小声で・・・

 

「ああ、ありがとう。」

 

「睦ちゃん、寝ちゃったんですか?」

 

「ん? うん。」

 

「気持ちよさそうですね。」

 

と鳳翔が言う。

それに秦が声を落とし気味に応える。

 

「そうだね・・・。」

 

「提督?」

 

「ん? ちょっと考え事を、ね。 睦月が睦になってから1年余り。いつもころころと、ニコニコして、一見、楽しそうにしているけど、ホントは疲れているんじゃないかと思うんだ。」

 

秦は今の睦を見ながら思っていた。

 

「舞鶴での俺の様子を見てたから・・・心配させまいと楽しそうにしてくれている、その気持ちが嬉しいのと同時に、悪く思えてね。 ・・・俺の為、なんて思わなくてもいいのにってね。睦には睦らしい人生を送って欲しい。そう思うんだ、俺の事は気にせずに。」

 

「そうだったんですね。 私の前でもいつも笑ってましたね。」

 

「いつも明るい睦、俺の心を温かくしてくれる睦、・・・もう、掛け替えのない娘、だなってね・・・」

 

そう言って、睦の額に軽くキスをした。

 

「提督・・・ ホントにお父さんの顔ですね。うふふ」

 

秦はまんざらでもない、ニコリと笑った。

秦と鳳翔の話声で睦が目を覚ましてしまった。

 

「ん、ん? あれ? 寝ちゃった・・の?」

 

「ああ。気持ちよさそうにね。」

 

ニコリと笑う秦の顔が目の前にあった。

 

「提督を膝枕に、ホントに気持ちよさそうでしたよ?」

 

と微笑む鳳翔。

 

「ひょっとして・・・二人して見てた?」

 

「可愛い寝顔だったよ?」

 

恥ずかしくなったのか、睦の顔が赤くなった。

 

「それはそうと、お夕飯の準備が出来てますよ。さ、ダイニングへどうぞ。」

 

鳳翔の一言でダイニングへと向かった。

睦は秦の腕に抱き着いて・・・・

(ぶー。 父さんのいじわる! でも、大好きだよ!)

 

ダイニングテーブルは、6人が座れるが、秦をお誕生日席とし、端っこに三人が座る格好で、夕飯を食べた。

 

「鳳翔さんのご飯、どのメニューも美味しいね。」

 

「うん、美味い。」

 

と睦と秦が言う。

鳳翔がうふふふっと二人を見つめていた。

 

 

夕食を終え、三人は順番にお風呂に入った。

ここの寮にも脱衣所付きで、お風呂があった。

鎮守府の浴場より小さ目ではあったが、二、三人は余裕で入れるほどの大きさだった。

お風呂から上がり、居間でくつろいでいたが、時間も遅くなり・・・

睦と鳳翔が「おやすみ」と言って2階の自室へ入っていった。

が、しばらくして、睦が2階から降りてきた。枕を抱えて・・・

 

「どうした、睦?」

 

「うん、やっぱり、初めての部屋は・・・緊張して寝つけなくって・・・」

 

と小さな声で言ってきた。

 

「ねぇ・・・一緒に、寝て、くれないかな?」

 

「一緒に?」

 

「うん・・・父さんと・・・一緒に・・・」

 

「分かった。」

 

そう言って、二人で秦の部屋のベットに二人で入った。

 

「どうだ?」

 

「ん、あったかい・・・。」

 

「今日はもう遅い。お休み、な?」

 

「うん。 ・・・ねぇ、父さん?」

 

「なんだ?」

 

「うん・・・ ずっと三人だよね? あたしと父さんと、鳳翔さんと。 ね?」

 

睦が、三人だよね、という。

秦も、三人でいいと思っていた。だから・・

 

「そうだな。 三人でいいぞ。 この家が賑やかになるなら、みんなが幸せと思うなら、ね。」

 

「うん。」

 

と睦が返事をする。

 

その顔はとびっきりの笑顔だった。

そして、睦、秦ともに眠りに落ちた。

 

一方の鳳翔はベットの中で考え事をしていた。

この家での自分の存在について。

この家に居たい、三人で居たい、と思っていた。

自問自答を繰り返しても結論は出なかった。

考えあぐねても仕方が無かったが、結論が出ないまま、睡魔に襲われ、ついには勝てなくなってしまった。

 


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