Blank stories   作:VSBR

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作品の解説

 この作品も、自分がお世話になっているサイトに掲載していたものです。ただ、他の作品とは少し違うお話の作り方をしました。

 

 そのサイトでの活動が活発だった頃、他の参加者がよく「キャラ募集」という企画を行っていました。読んで字のごとく、サイトの参加者からキャラクターの設定を募り、そのキャラクターを物語に登場させるというものです。

 自分も他の人の「キャラ募集」に乗っかったりしていたのですが、集まってくるキャラクターの設定を読みながらこんな事も考えていました。

 

「ここまで細かく設定を書くなら、もうお話にしちゃった方が早くない?」と。

そして、

「この設定を集めて一つにすれば、それだけで一つの物語になるんじゃね?」と。

 

 だったら自分でもやってみようと思い、企画を立ち上げました。

 

 以下の文章は、その時に募集要項と一緒に載せたものです。

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 今時分、博物館の特別展示に集まる人などいないであろう。戦争が終わって半年ほどしか経っておらず、ニュースでは連日のように連合との交渉の経緯を伝えている。交渉が決裂すれば再び戦端が開かれるのは明白であり、ボアズとヤキン・ドゥーエを失ったプラントは丸裸である。失われた大西洋宇宙軍に代わり、月の裏側のユーラシア宇宙軍へは、ビクトリア・エクスプレスと呼ばれる大規模な物資輸送が続いている。

 だがそのような状況を正確に把握している人はプラントには少なく、終戦間際にクーデターを起こしたアイリーン・カナーバ政権の正当性の是非の方に、人々の話題は集中していた。テレビに映る彼女の顔は、日に日にやつれていく。

 

「ほら、サボってんじゃない」

「客なんて、来やしませんよ」

 特別展示を担当する学芸員は、テレビを消してそう言った。注意した先輩も同じ表情をしている。ひっそりとしたホールで、ただ一点照明を浴びる展示物が物悲しい。

 

『コーディネーター その過去から未来へ。生命の可能性は、大宇宙へ羽ばたく』

 

 「大宇宙」に「フロンティア」とのルビが振られた特別展。アプリウウス市で展示されているエヴィデンス01の原寸大レプリカが、展示物の目玉であった。大仰なタイトルの割にはごく普通の展示内容であるため、そのレプリカの大きさのみがやけに目立っている。

 再びテレビを付けようとした学芸員が手を止める。足音が聞こえてきたのだ。男女数名のグループが、展示ホールに入ってきた。酔狂な人間もいるものだと、肩をすくめる。機械のスイッチを入れると、録音された解説がスピーカーから流れた。

 

「コズミックイラ15、一人の男の告白からこの世界は始まった・・・」

 コズミックイラは、旧世紀とは分断された新世紀である。この世界はかつての世界の延長線上にあるのではなく、ジョージ・グレンの言葉によって始まった世界なのだ。コーディネーターという人類の可能性と、ナチュラルという人類の限界。世界はこの二つに引き裂かれ、血を流した。

 

「人類はこの宇宙の孤児なのか、古来よりのこの問いに、エヴィデンス01は否と答えた・・・」

 人類の宇宙進出を支えたのは、政治的な要請でも経済的な必然性でもない。それを支えたのは、可能性に向けて足を踏み出す人類のやむにやまれぬ未来への勇気である。宇宙をその生存環境としていた生命の存在は、そのまま人類の新たなる可能性を示唆するものだったのだ。

 

「コーディネーターはどこから来たのか? それは地球でありナチュラルである。では、コーディネーターはどこへ行くのか?」

 解説の音声はそこまでだった。展示スペースの端まで歩いて来たそのグループは、出口に置いてあったパンフレットを手に取る。帰りの順路を指し示した学芸員が、軽く頭を下げる。

 

「うん、まずまずの出来なんじゃない。コーディネーターにしたら」

 帰り際にそんな事を言われたと、学芸員は先輩に話した。ややあって、二人は顔を見合わせる。今のプラントでは、冗談でもありえない言葉の選択。学芸員は、急いで館内電話の受話器を取った。

 

 コズミックイラ72、2月29日の出来事であった。

 

 

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(ちなみにこの文章、本編とは特に何の関係もありません。)

 

 

 

 

 参加して下さった方は15人、キャラクターは全部で23名が集まりました。

 これは予想よりも多く、一話の長さも全体の量も当初考えていたものより長い話になってしまいました。

 

 それほど日を空けずに投稿していく予定です。

 

 もしよろしければ、お付き合い下さい。


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