TOWRM3 〜ThePlain's Walker〜 作:赤辻康太郎
第三話
「では、始め!」
クレスの合図と同時に樹は飛び出した。
(……ほう、思ったより速いな)
クラトスは思いの外樹の飛び出しとスピードが速かったのに内心驚いていたが特別慌てるようなことはなかった。
「はあああっ!!」
樹は一息でクラトスの懐に入ると直ぐさま左下から斬り上げた。が、クラトスはバックステップで軽くかわした。
「まだまだあっ!」
クラトスの回避行動を見た樹は瞬時に追撃にかかり連続斬りを繰り出すが今度は楯で阻まれてしまった。
「ちっ。ヤッパ楯は厄介だな」
「どうした?隙が出来たぞ」
「うおっ!」
クラトスは樹の攻撃が止まった瞬間を見計らって楯の陰から突きを見舞った。樹は体を捻る様にサイドステップして紙一重でかわし、着地と同時に数回バックステップして距離をとった。
「ふう」
「安心している暇があるのか?」
今度はクラトスの方から攻撃してきた。
「んなこたぁ分かってるっての!」
今度はクラトスが攻め、樹が受ける形となった。
「ぐっ!おっもっ!」
「どうした?もうギブアップか?」
「……んなわけあるかっ!」
その後も一進一退の攻防が続いた。
「あの子結構頑張ってるね」
「そうだな。けどクレスと違ってなんかの流派を習ってたって訳でもなさそうだな」
二人の戦いを見ていた緑色の髪でオレンジを基調とした農家風の服を来た少女、『ファラ・エルステッド』が隣にいる赤髪で薄い紫色の上下を着た少年『リッド・ハーシェル』に尋ね、彼もそれを肯定した。
「いや、たぶん基本的な動作はどこかで習ってると思う」
ファラ達の会話が聞こえていたのか、二人の近くにいた、白髪で顔に独特な入れ墨をし、腕にボルトの様な装備を付けた少年『セネル・クーリッジ』がリッドの考えを否定した。
「そうなのか?」
「ああ。何となく打ち込みの時やかわす時なんかにパターンが見えるからな。けどそれ以外は我流みたいだな」
リッド達の会話の間も当然戦いは続いていた。何度めかの斬り合いの後両者共に距離を取った。まだまだ余裕そうなクラトスに対して樹は少し肩で息をしていた。
「……成るほど。動き自体は悪くはないな。ただまだ荒く隙も多いがな」
「当たり前だ。昨日まで闘いって言ったら喧嘩ぐらいしかしたことがなかったって言ったろ」
クラトスはそうだな、と軽く苦笑いしたが直ぐに顔を引き締めた。
「ではそろそろ本気で行くとしよう……魔神剣!」
「どぅわっ!」
クラトスが放った地を這う衝撃波『魔神剣』を樹は驚きながらも辛うじてかわした。
「ととっ。本気出すには少し早くないか?」
「喋っている暇があるのか?……瞬迅剣!」
「ぐあっ!」
間髪入れずクラトスは鋭い突き『瞬迅剣』を繰り出した。樹は辛うじて受け止めたが体勢が完全に崩れてしまった。当然その隙を、クラトスは見逃すはずはなかった。
「しまっ!?」
「剛・魔神剣!閃光墜刃牙!」
「ぐあああっ!!」
クラトスの連撃をまともに受け、樹はついに片膝をついてしまった。
「あちゃー。これはもう決まっちゃったか」
「そうだね。クラトスさんの攻撃をまともに受けちゃったし」
赤いショートケーキにガンマン風の服装の少女『イリア・アニーミ』と灰色の髪に上品そうな青い服を身につけ見た目にそぐわない大剣を背負った少年『ルカ・ミルダ』は樹の様子に決着がついたと感じていた。いや二人だけでなく見ていた全員がそう思った。
「……どうした?もう終わりなのか?」
ただ、クラトスだけはそうは思っていなかった。後日その理由を聞くと、分からないがそう感じた、と言っていた。
「……」
「確かにこれは模擬戦だ。しかし、これくらいの戦いで根をあげる様なら、この先まともに勤まらんぞ」
構えを直し、樹を少し睨むようにして静かに告げた。樹は少し顔をあげ、その鋭い眼光を目の当たりにした。
−−ツゥ−−
樹は自分の首筋から冷や汗が流れるのを確かに感じ、俯いた。
「……ぅ」
「む?」
樹の雰囲気が変わった。
「上等っ!」
顔を上げると同時に、樹はクラトスに突っ込みながら体を、相手に背中が見えるほど、大きく左に捻った。クラトスは樹の顔をみて戦慄していた。彼の顔が戦いの狂喜に満ちている様に感じたからだ。だが直ぐに気持ちを切り替え迎撃しようと剣を掲げた。
「おおおっ!!!」
−−ガキィッ−−
「!!」
「なっ!」
甲板に金属音が響いた。クラトスの木刀が受け止めたのは樹の木刀ではなく、右の裏拳だったからだ。二人の戦いを最も間近で見ていたクレスは思わず声を上げてしまった。そして周りで見ていた他のメンバーは勿論、クラトスですら顔が驚愕で染まっていた。
「はあああっ!」
「ぐっ!」
樹は間髪入れず左手で握りしめた木刀で斬りつけた。クラトスは何とか楯で防いだが体勢が崩れてしまった。
「っ!?」
一度体勢を整えようとしたクラトスだが樹がいつの間にかクラトスの木刀を掴んでいたので距離を置く事ができなかった。
「おらおらおらぁ!」
クラトスを逃げられなくした樹はさらなる攻撃を繰り出した。今度は木刀だけでなく蹴りや木刀を握った拳での攻撃をおりまぜた怒涛の攻撃であった。
「何かすごいね」
「うん。まるで人が変わったみたいだ」
樹の突然の変異に、戦いを見ていた腰まである黒の長髪に白の胴着の様な服を着た少女『コハク・ハーツ』と黒を基調としたライダースーツの様な服を着た茶髪の少年『シング・メテオライト』は唖然としていた。いや彼女達だけでなく見ていた全員が彼の変容に驚きを隠せなかった。
「何だかカイウスとエミルみたいな戦い方ね」
「おいルビア。それはどういう意味だ?」
「そうよ!エミルの方が断然カッコイイんだからね!」
「マ、マルタ。ルビアが言いたいのはたぶんそう言うんじゃないと思うよ……」
樹の戦い方に思うところがあったのか、赤い色の髪で薄いピンクのチューリップ型の服を着た少女『ルビア・ナトイック』が隣の白いメッシュの掛かった茶髪で赤い服を着、白いマフラーをした少年『カイウス・クォーツ』に話かけた。たがカイウスはそれが気に障ったのかルビアに問い質す様に突っ掛かった。それに同意するように、白い花の髪飾りを付けた茶色のツインテールの少女『マルタ・ルアルディ』が声を上げたが、青に黒いラインの入った服と同じ色合いのズボンを身につけた金髪の少年『エミル・キャスタニエ』が言うように論点がズレていた。
「……何だか少し怖い戦い方ですね」
「そうかな?俺は凄いと思うけどなあ」
「あんたは鈍感だからそんな事が言えんのよ」
少し怯えたように呟いた、緑色の髪を日本の三つ編みのお下げにして眼鏡をかけた少女『フィリア・フィリス』に、金髪で白の鎧を身につけた青年『スタン・エルロン』は疑問を投げ掛けるが黒髪で赤いブレストプレートを装備した『ルーティ・カトレット』にバッサリと切り捨てられた。
「…………」
「クレア、大丈夫か?」
「……うん」
「無理に見る必要はない」
「ありがとうヴェイグ。けど見届けてみたいの」
「ならいい。けど、無理はしないでくれ」
「分かってる」
クレアも怖かったのか、隣にいる水色の長髪を後ろで三つ編みにまとめ青い胴鎧、背中に大剣を携えた青年『ヴェイク・リュンベルグ』の腕を必死に掴んで見ていた。
「シャーリーも。辛くなったら中に入っていいんだぞ?」
「ありがとう、お兄ちゃん。けど私だってアドリビドムの一員だから、ちゃんと見ていたいの」
「……分かった。けど−−」
「ふふっ。大丈夫だよ」
セネルの隣にいた、花の意匠をあしらったカチューシャをつけた少女『シャーリー・フェンネス』も、恐怖を抱きながらも気丈にも二人の戦いを見つづけていた。
「だあああっ!」
「ぐおっ!」
樹の放った蹴りがクラトスの腹部にまともに決まり、クラトスは手から剣を放した。だが膝をつくことなく、樹との距離を測ると直ぐさま詠唱の体勢に入った。樹はそれを阻止しようと再び突進するが
「ライトニング!」
間に合わず、クラトスが唱えた雷属性の初級魔術『ライトニング』の雷が樹の頭上から落ちた。
「がっ!」
初級魔術の小さな雷とはいえ、直撃を受けた樹は動きを止めた。
「……」
樹は暫く停止したあと、右手に握っていた木刀をクラトスに向かって放り投げた。
「……どういうつもりだ?」
「いやぁ。さっきの雷で何か頭ん中がスッキリしてな。その礼ってことで」
先程の戦闘時とは打って変わって爽やかとも言える表情を見せる樹。クラトスを含め、見ていた者全員が二度目の樹の変わりように驚いていた。
「では先程まではそうでなかったと?」
「ああ。何つうか、アレだ。目の前に今まで闘ったことのない強敵がいることとか、これから何度もこんな戦いがあるのかと思うと、こう、嬉しくなってさ。ついタカが外れちまった。今はもう大丈夫さ」
さあ続けよう、と樹は再び木刀を構えた。
「そうか。ではこれからがお前の本当の戦いというわけだな」
クラトスも構えながら樹に確認をとり、樹も、ああ、と答えた。
「だああっ!」
暫くお互いに睨み合ったままの常態が続いたが、最初に仕掛けたのは樹だった。樹は再び体を捻りながらクラトスに突っ込んだ。
「そう何度も同じ手が−−」
「通用するなんて思ってねぇよ!」
樹はクラトスが迎撃のために自分の方に向かって来るのをみると、突っ込んだ勢いのまま木刀を甲板に突き刺した。
「む!その技は!」
「だあありゃあああ!」
クラトスは樹が繰り出そうとする技に見覚えがあるのか一瞬止まってしまった。その隙を見逃さず、樹は木刀を軸に3連続蹴りをお見舞いした。
「ぐっ!」
「おまけだっ!」
着地と同時に、樹は木刀を甲板から引き抜き、両手でシッカリと握ってクラトスの頭目掛けて振り落とした。
「甘いっ!」
「っ!」
だがクラトスは樹の攻撃を楯で弾き返した。これにより、樹の胴は完全に無防備な常態になった。
「空破衝っ!」
「があああああっ!!!」
瞬迅剣よりもさらに強力な突き『空破衝』が決まり、樹は後方にぶっ飛び壁にぶつかって崩れ落ちた。
「だ、大丈夫かい!?」
審判役のクレスが樹に駆け寄って無事を確かめると、樹は手を振って無事を表明したが直ぐに両手で×印を作り戦意喪失を表した。
「それまで!勝者クラトス」
クラトスの勝利宣言のあと、誰からとなく拍手を始め、甲板に溢れた。
「お疲れ様。樹!」
「見事な戦いでしたよ!」
カノンノとロックスが樹に近寄って労いの言葉をかけた。樹はクレスに肩を借り何とか立ち上がって、ありがと、と簡潔に感謝した。
「本当にお疲れ様」
「あ、アンジュ」
次に声をかけてきたのはアンジュだった。クラトスも傍らについていた。
「中々の戦いっぷりだったわよ」
「ん。サンキュ。けど、やっぱし勝てなかったな」
「当たり前だ。素人に負けるほど私は腑抜けてはいない」
「でも後半結構ピンチでしたよね?」
カノンノの少々辛辣なものいいにクラトスは思わず顔をしかめた。
「ははは。けどあれは俺としても不本意だからノーカンだな。けどいつかはマジで一本とる」
「ふっ。楽しみにしているぞ」
「今度は僕も手合わせをお願いしたいな」
樹は笑いながら後半の攻撃は無効だとつげた。クラトスは次は取るという樹の言葉に柔らかく笑いかけ、クレスは自分も戦いたいと試合を申し入れた。
「ねぇ樹?」
「ん?」
カノンノが少し遠慮がちに樹に聞いてきた。
「さっきの技なんだけど」
「技?」
「ほら、裏拳とか最後のアレ」
どうやらカノンノは樹が使っていた技が気になったようだ。
「ああ。アレね。アレは地球(むこう)にいた時に思いついて使ってたんだ」
「えっ!?自分で考えたの?」
「そ。最初は中々決まらなくて苦労したよ。っあれ?」
樹が技は自分で編み出したと言うとカノンノだけでなくアンジュ達も唖然としていた。
「な、何か変か?」
「いや、変っていうか……」
「むしろ感心している」
「うん。とても素人が思いついたとは思えなかったよ」
「はい」
クラトス達は樹があれだけの技を素人が思いつきしかも実行しているのに驚いていたようだ。対して樹は、そうかなぁ、と頭を掻いていた。
「ま、何はともあれ。これで一次試験は合格ね」
「は?アレって試験だったの」
樹は試験だとは思っていなかったようだ。
「当然です。いくら喧嘩なれしているからってまともに戦えないようならこの仕事は勤まりませんから」
にこやかに告げるアンジュに、樹は肩の力が一気に抜けるような気がした。
「はは。マジかよ」
「ふふ。今日のところはもういいわ。シッカリと休んでまた明日から頑張ってね」
「……アイサー」
樹はこの時アンジュには勝てないかもと痛烈に感じた。その後はカノンノの案内で自分に宛がわれた部屋に入り、ベッドに倒れ込むように眠った。
−−数日後−−
「あ、いた。ガルーダだ。あれを倒せば最終試験合格だよ」
「んじゃ。いっちょ行きますか」
クラトスの一戦の後、他のメンバーへの挨拶やら依頼やらをこなし、樹は入隊試験最後の関門『ガルーダ退治』に赴いていた。試験官兼パートナーのカノンノも一緒だ。二人がガルーダを見つけたのと同時にガルーダも二人に気づいたようで威嚇してきた。
「先手必勝ってな。虎牙破斬っ!」
樹はガルーダに向かって斬り上げ、空中回し蹴り、踵落しの連続攻撃を繰り出した。ガルーダは最初の斬り上げは防御したがあとはしきれずに地面に落下した。
「まだまだぁ!空破掌!」
着地と同時に次は気を込めた左ストレートを叩きこんだ。ガルーダは後方に飛ばされたが体勢を立て直し上空に飛び立った。
「……ヤッパ飛ばれるのは厄介だな。カノンノ、援護頼む」
「分かった」
樹の要請に応えるとカノンノは術の詠唱に入った。ガルーダはそれを阻止しようとカノンノを攻撃するが
「させるかよ。双砕牙ぁ!」
樹はクラトス戦でみせた裏拳からの斬り払い『双砕牙』(ロックス命名)でそれを阻んだ。死角からの攻撃だったので防御が間に合わず、ガルーダは再び地面に落ちた。
「ライトニングッ!」
さらにカノンノの術『ライトニング』がガルーダを襲った。
「これで止めだ!空蓮牙っ!」
最後に樹の技、剣を軸にした3連続蹴りと締めに唐竹割りを繰り出す『空蓮牙』が決まり、ガルーダは奇声を上げて絶命した。
「はい。見届けました。合格です!」
「ふぃ〜。やっと終わったか」
「お疲れ様」
樹の疲れをカノンノは労った。
「サンキュ。これでやっと正式に入隊か」
「そうだね。」
「それじゃ……」
樹は徐にカノンノに手を差し延べて
「改めて、これからよろしくな。カノンノ」
と少しはにかんだ笑顔で握手を求めた。
「うん。こちらこそよろしく!」
カノンノも満面の笑みで樹の手を握りかえした。その顔はほんのり赤見を帯びていた。
ご意見・ご指摘・ご感想お待ちしております。