TOWRM3 〜ThePlain's Walker〜   作:赤辻康太郎

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お正月番外編です。かなり短いですがよろしければご覧ください。


異世界の新年

異世界での新年

 

 

 ルミナシアに新しい年が訪れてほんの間もない、まだ夜も明けていない時刻。

 

「……ふう。流石にこの高度だと肌寒いな」

 

 アドリビドムの拠点バンエルティア号。その展望台の屋根に座る少年、津浦樹。彼の口からそんな呟くとともに薄らと白い息が零れる。船は今海抜数百メートルの上空を航海しているため、地上よりも気温が低い。一応いつもの軽鎧を着てはいるが、それでも吐く息が薄らとは言え白く成るほどだ。

 

「まあ、地球に居たころと比べれば暖かいな……」

 

 言葉通り、樹はルミナシアの住人ではなく、ひょんなことからルミナシアに来た地球人、もっと言えば日本人である。日本では新年は冬真っ盛り。それに比べて、今いる地域は比較的温暖なため過ごしやすかった。

 

「まさか凍えずに新年を迎えるなんてな」

 

 その上、地球に居た頃の樹は孤児院で暮らし。施設の立てつけはそれ程酷くはないのだが、暖房設備はあまり充実しておらず、樹は幼い弟分・妹分達と身を寄せ合って年を越していた。

 

「……今頃どうしてるんだろうな」

 

 樹が文字通り遠い世界に居る家族の事を慮っていると、

 

「あ、やっぱりここに射た!」

「ん?」

 

 下の方から声が聞こえる。そちらを向くと、そこには樹が良く見知った顔が。

 

「カノンノか。どうした?」

「ううん。特に用事ってわけじゃないの」

「そうか。まあ、そこでじっとしてるのも何だからこっち来いよ」

「分かった。あ、レインも一緒だけど良い?」

「ダメな理由もねえし。別に構わねえよ」

「ありがと」

 

 カノンノが居たのは展望室の屋根へと続く梯子。流石にそこでお喋りするわけにも行かないので、カノンノは下で待機していたレインと共に樹の居る屋根へと登る。

 

「って二人ともその格好は?」

「どう? 可愛いでしょ?」

「でしょ?」

 

 二人の姿を見た樹は驚いた。それもその筈。二人の格好は、ルミナシアでは珍しい『振袖』だったのだ。驚いた樹の顔を見たカノンノはお道化るようし首を傾げ、レインもその真似をしてチョコンと首を傾けた。

 

「っ! あ、ああ。よく似あってるよ」

 

 慌てて顔を背け、ぶっきら棒に答える樹。そんな樹の態度に、レインは不思議そうに首を傾け、カノンノはニヤリと笑う。

 

「おやおや~? どうしたのかなあ? 樹君?」

「な、何でもねえよ!」

「?」

 

 樹の顔を覗き込むように畳み掛けるカノンノ。樹は自分の顔を見られまいと必死でカノンノから顔を背ける。

 

「ふふふ。いつも樹には揶われてるから、これくらいはお返ししとかないと」

「……いつも俺を景品に賭けしてる奴が言う台詞かよ」

「「う……」」

 

 いつもの意趣返しで揶ってみたものの、樹の手痛い逆襲に遭ってしまうカノンノ。レインも心当たりが盛大にあるのでカノンノと同じリアクションである。

 

「まあそんな事より。で、その格好はどうしたんだ?」

「ウッドロウが用意してくれたの」

 

 樹の両サイドに座りながら二人が答える。事の始まりという程でもないが、切欠は一月ほど前、ウッドロウの旅先の話を二人が聞いていた時の事だ。ふと新年の話になり、ウッドロウが訪れたとある東方の列島では、年明け後の三日間、情勢は『振袖』という服で着飾って新年を祝うと言う。その話を聞いたカノンノとレインもその話を聞き自分達も着てみたいと言ったところ、ウッドロウがその時に出会った職人に手紙を出し用意してくれたらしい。

 

「へえそうだったのか」

「ウッドロウは全員分用意したかったみたいだけど」

「直ぐに用意できるのが2着しかなかったんだって」

 

 振袖は制作に時間がかかる為、直ぐに用意できる数に限りがあった。それでウッドロウはカノンノとレインに優先して渡したらしい。

 

「ふ~ん。まあ別にいいけどな」

「樹はどうしてこんな所に?」

「朝日を見にな」

 

 ルミナシアには古くから伝わる言い伝えと言うか、ジンクスがある。それは――

 

「『新年に世界樹から昇る朝日を見るとその年一年を幸せに過ごせる』ってやつ?」

「ああ。ま、願掛けだな」

 

 普段の言動からは想像できないが、樹は言い伝えやジンクスと言うものを気にする方である。依頼に行くときなどは出かける前に自分で決めた願掛けやルーティーンをよくやっている。

 

「お前らは何で俺を探していたんだ?」

「私達? 私達は……」

 

 レインが答えようとした時、不意に空が白みだした。夜明けの時刻である。

 

「……綺麗」

「……ああ」

「……うん」

 

 三人の位置からは、丁度世界樹が真正面から見え、そこから昇る太陽は、まるで世界樹の根元から浮かび上がる、巨大なマナの宝玉の様にも見える。徐々に昇っていく朝日とそれに照らされる世界樹。ご来光の後光を浴び幻想的に佇むその姿は、美しさと神々しさを感じる。三人とも太陽が昇り切っても、暫く無言で時を過ごした。

 

「「樹……」」

「うん?」

 

 不意にレインとカノンノが立ち上がり、樹の前に立ってその名を呼ぶ。樹が二人に向けて顔を上げると――

 

「「今年もよろしくね!!」」

 

 輝かしい日差しを浴びてほほ笑む二人の少女の姿が。樹も満面の笑みで返す。

 

「おお。よろしくな!」

 

 新しい幕が、また上がる。

 

 




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