TOWRM3 〜ThePlain's Walker〜   作:赤辻康太郎

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かなりお待たせしてしまいましたが、第二十六話です。遅くなって申し訳ありませんでした! orz


第二十六話

第二十六話

 

 

 黒き影の集団に、黒い風が走る。勿論、風は樹だ。縮地で誰よりも速く、影の魔物(以下影○○)の元へ。

 

「潜身脚!」

 

 アスベルから教わった(正確には盗み見た)技で影オタオタの脚(?) を払い、浮いた所で回転の勢いをつけた後ろ足の蹴りで更に空中に飛ばす。

 

「……」

 

 いつもならここで『翔空裂斬』や『尖牙』などで追撃するのだが、樹は納刀したまま、腰だめに構える。所謂抜刀術の構えだ。

そんなあからさまに無防備な樹を、影の魔物達が見過ごす筈もなく、周りにいた数体が襲い掛かる。

 

「朧月閃!」

 

 抜刀すると同時にその勢いのまま一回転しながら弧を描き、刀を振る。脚、肩から指の先、そして刀の切っ先にまで気を纏わせるイメージで振られた刀は、その軌跡上にいる敵を全て薙ぎ払う。当然、重力に従い落下してきた影オタオタも含めて。

 

「クアア!」

「ゲエエ!」

 

 一閃を免れた影ガルーダと影ゲコゲコが樹を強襲するが、

 

「伏せて!」

「っ!!」

「輪舞旋風!」

 

 続けざまに走る碧の閃きに薙がれ、動きが止まる。

 

「牙獣崩陣!」

「臥狼咆虎!」

 

 動きの止まった二体の魔物に、樹とジュードの奥義が刺さる。獣を象った気を纏った拳撃から続く斬撃と、サマーソルトキックからの地を突く拳と衝撃波をモロに受け、魔物の身体が崩れ落ちる。

 

「やるな」

「そっちこそ」

 

 互いに背を向け、顔が見えない状態で讃えあう二人。つい数日前に出会ったばかりだと言うのに、既に長年連れ添った相棒の様な雰囲気が漂っているように思える。

しかし二人が如何に良い連携で攻め立てようが、数的不利は変わりない。その証拠に、残りの魔物達は二人を囲み、じりじりと距離を詰めている。この場に二人だけなら絶望的な状況であろう。そう、二人だけなら

 

「ストリームアロー!」

「フラッシュティア!」

「メイルシュトローム!」

「ヴァニッシュボルト!」

 

 樹とジュードにばかり眼がいっていた魔物の群れを、風・光・水・雷の魔術が襲う。

 

『『『ーーーーーーーー!!!』』』

 

 影魔物達は突然降りかかった魔術の雨に為す術なく、その身を穿たれ、呑まれ、焦がされ、最後に溶ける様に消滅した。

 

「樹、大丈夫!?」

 

 魔術の発動を終えたカノンノとレインが真っ先に樹の元に駆ける。その数歩後ろからミラとウッドロウも続く。

 

「ああ。何とかな」

「無事でよかった」

「ミラ達も大丈夫だった?」

「ああ。どうやらジュード達に集中していたようだ」

「こちらには見向きもしなかったよ」

 

 樹とジュードの陽動が功を奏したのか、ミラ達に被害は及ばなかった。

 

「んで、影魔物ってのはこんなにあっさり片付くものなのか?」

「いや。普段の奴等なら、この程度では消滅してはくれない筈だ」

「うん。あの規模ならもっと手こずっていると思う」

 

 普段は村の闘える者全員で相手して先程の規模の影魔物達をやっと退治できる程らしい。しかし、今回はあっさりと斃されている。

 

「どういう事?」

「考えられるのは、余所者である俺達の実力を測ること」

「じゃあ……」

「ああ。恐らく――っ!」

「これはっ!」

 

 樹が続きを言う前に、またしても影が湧き立つ。先程の影魔物が出現した際には、腰の高さほどの黒い靄の様なモノが湧き出て、それが凝集し、魔物の姿を象っていたが、今回は間欠泉の様に一本の黒い柱が濛々と出ている。高さも、人の背を遥かに凌駕する。

 

「だろうとは思ってたが」

「ここまでとは、な」

「な、何アレ!?」

 

 カノンノの叫びに呼応するかのように、柱から枝が伸び、そこに肉付けされていく。

 

「コイツは、どえらいモンが出たな」

 

 樹の呟く間にも枝は太くなり、身体ができ、足ができ、腕ができ、そして頭ができる。

 

『ゴギャアアアアアアアアアアア!!!!』

 

 号砲一発。獣のような、それでいてどこか機械的な雄叫びは空気を震わせ、大地を揺らし、木々を薙いだ。姿形はゴーレム系統の魔物の様だが、様相が全く違う。まずその巨体はストーンゴーレムのゆうに倍はあるだろう。しかも上半身が異様に発達していて、特にその両腕は幅だけでも成人男性2人分はある。対して下半身は上半身の発達具合と反してか細く感じる。それでも人よりかなり大きい事に変わりはないが。おまけと言わんばかりに、背部にはブースターの様な突起物が4本。

 

「あ、アレも精霊が創りだした魔物なの?」

「だろうなあ」

 

 思わず眼を背けたくなるような異形の巨体。だが時折蒼く明滅する、眼(と思わしき部分)と身体に刻まれた紋様、人間で言うところの拳に相当するであろう腕の断面が、これは現実だと無言の主張をしている。

 

「ふむ。アレは『ゴライアース』と言う魔物に似ているね」

「ゴライアース?」

「大昔の遺跡を守護していた人造魔物だよ。以前城の文献で読んだ特徴と姿が酷似している」

「遺跡ね。大方精霊信仰関係のもんか?」

「たしかその様な記述があったね」

「けど人造魔物って」

「恐らく、ソウルアルケミーの一種だろうな」

「お喋りしている暇はないぞ!」

 

 ミラの檄の声に、樹達はその場から素早く飛び退く。一瞬の間の後、樹達が経っていた場所に黒い柱が刺さる。言うまでもなく、影ゴライアースがその巨腕を叩きつけたのだ。濛々と立ち込める砂埃、そこから薄らと見えるソコは、まるでクレーターの様に陥没していた。

 

「予想通りの破壊力だな」

「あんなの貰ったら一溜りもないよ!」

 

 恐怖に顔を引き攣らせ、青ざめるカノンノに、樹はニカっと笑いかける。

 

「大丈夫だ。ああいう手合いには常套手段があるんだよ」

「なんだろう……すっごく不安なんだけど?」

「……私も」

 

 樹の笑顔を見て、カノンノもレインも安心よりも不安の方が増したようだ」

 

「まあ見てなって」

 

 そんな二人を尻目に、樹は再び納刀すると、脚に力と気を篭める。

 

「……ふっ!」

 

 短く鋭く息を吐き、縮地を発動、次に樹が姿を現せたのは、

 

「デカブツは足元がお留守ってな!」

「「やっぱりだったー!!」」

 

 二人の不安的中。樹は尤も危険なゾーンの一つである影ゴライアースの足元に単身踊り出る。

 

「空破掌!」

 

 人間で言うところの膝の裏に当たる箇所に掌底を叩き付けるが、

 

「……」

「あらら」

 

 影ゴライアースは倒れるどころかピクリとも動かず、寧ろ攻撃されたことにも気付いていないようだった。

 

「ゴオオオオッ!」

 

 逆に気がついた影ゴライアースの標的にされ、拳(?)が向かってくる始末。

 

「やっべ!?」

 

 樹はすぐさま縮地でその場を退避。元居た場所へと辛うじて帰還した。

 

「ふぅ。危な痛っ!」

 

 突然の頭頂部への衝撃。樹がその痛みに目の端に涙を浮かべ、後ろを振り返ってみると、

 

「「……」」

 

 目に涙を溜め、頬を膨らませて樹を睨みつけるカノンノと、無言で眉を吊り上げ、同じく樹を睨みつけるレインの姿が。

 

「今のは、樹が悪いな」

「そうだね」

「うむ」

 

 そしてその光景を然も当然とばかりに静観しているミラ達。樹も理由は分かっているのでカノンノ達に文句を言うことなく、眼前の敵を仰ぎ見る。

 

「けどよ。実際どうするよ?」

「まあ、手がないわけじゃないけど……」

 

 顎に手を当て、手はあると言うジュード。しかし、どこか歯切れが悪い。

 

「あるのか?」

「うん。けど、また樹が危ない目に遭うかも」

 

 ジュードが口ごもる理由はそこだった。自分達の島の為に樹達をこれ以上の危険に晒しても良いものか? だがその疑問に返ってきた答えは、

 

「うっし、んじゃそれで行くか」

 

 ジュードの心情とは真逆の、至極アッサリトした、予定調和の様なモノだった。

 

「え? ちょ、樹!?」

「んだよ? 手はあるんだろ? ならそれに乗るのは当然だろ」

「けどさっきカノンノ達に」

「ありゃ俺が勝手に突っ走ったからだよ。ちゃんと理由と説明があれば二人も納得するさ」

 

 な? と樹が二人に顔を向けると、二人とも渋々ではあったがコクンと頷いた。

 

「……はあ。なんだか僕の心配って無意味みたいだね」

「ま、アドリビドムの面子に無理無茶禁止はたいして効果ないってことだな」

「特に樹はね」

 

 自然と笑い合いながら(ジュードは苦笑だが)拳を合わせる二人、本当にこの短期間では考えられない程の息の合い様だ。

 

「それじゃ、俺の役目は隙を作るってのでいいのか?」

「うん。出来れば、相手の体勢を崩してほしいんだけど」

「ん~……ま、カノンノ達の支援があればいけるか」

「任せて!」

「頑張る」

「此方も出来るだけ善処しよう」

 

 ウッドロウもカノンノ達と後方支援に回ることに。

 

「で、その手ってのは」

「今から『見せる』よ。ミラ、準備はいい?」

「いつも言っているだろう? 『心の』準備はいつでも出来ている」

 

 一歩。ジュードとミラは前に出る。そして呼吸を整え、合わせ――

 

「「共鳴発動(リンク・オン)!!」」

 

 力ある言霊が重なり、響き、共鳴する。ジュードとミラ、二人の胸の中心から互いを結ぶように淡い緑色の閃が奔る。

 

「共鳴(リンク)!?」

 

 ブラウニー坑道の一件以来、樹が度々試みてその都度失敗してきた共鳴の自己発動を、ジュードとミラはあっさりとやってのけた。しかもミラが『いつでも』と言っていたので、これが最初ではないようだ。

 

「「はあああっ!!」」

 

 ジュードとミラは一気に間合いを詰め、影ゴライアースに躍り掛かる。共鳴の恩恵だけではない、常に共に戦ってきた間柄だから為せる見事な連携。だが、それをもってしても、  影ゴライアースをひるませるまでには至らない。

 

「エアスラスト!」

「バーンストライク!」

 

 ウッドロウとカノンノ、後衛二人の術が炸裂するも、

 

 

「「樹!」」

「おうよ!」

 

 二人の呼び掛けに応え、樹が影ゴライアースの足元に現れる。既にその手には、気を溜めて出来た光が煌めいている。

 

「裂破掌!」

 

 影ゴライアースの膝裏に、小規模な爆発が炸裂する。が、やはり隙を作るまでには至らない。

 

「双撞衝裂破っ!!」

 

 渾身の二発目。両の掌を腰の位置で向い合せる様に構え作った空間に気を溜め、そのまま纏わせて前へ突き出すと同時に破裂させる奥義『双撞衝裂破』が、再び影ゴライアースの膝裏を襲う。前の一撃とは比べ物にならない程の威力、更には同じ箇所への攻撃という事もあって、初めて影ゴライアースの状態が傾く。

 

「レイン!」

「サンダーブレード!」

 

 他のメンバーが攻撃する中、只管魔力を練り上げていたレインが、ついにその術を解放した。通常もの何倍もの大きさの、通常よりも遥かに多くの雷を纏った剣が、轟音を上げ影ゴライアースに突き刺さる。

 

「ゴオオオオオオオッ!!!」

 

 悲鳴を上げながら片膝を着く影ゴライアース。しかし、その眼は光を未だ失っていない。

 

「あとは任せたよ! 二人とも!!」

 

 レインの声に気がついたのか、影ゴライアースが顔を下に向けると、既に次の攻撃体勢を構えていた二人の姿がそこに。

 

「連牙弾!」

「アサルトダンス!」

 

 通常ならダメージはほぼ与えられない筈の攻撃。しかし、樹達の強烈な術技により、その強固な身体に罅が入っている。

 

「決めるぞ、ジュード!」

「分かったよ、ミラ!」

「「滅爪乱牙!!」」

「ゴオオオアアアアアアアッ!!!!」

 

 ジュードとミラの渾身の連続連携攻撃。これが止めとなり、ついに影ゴライアースの身体が地面に沈む。その身体からはブスブスと黒煙の様なモノが立ち始め、消滅を物語っていた。

 

「ゴアアアアッ!!!」

 

 だが、そうは問屋が卸さなかった。影ゴライアースは消滅する瞬間まで反撃しようと、共鳴術技の反動で動けないジュードとミラにその拳を振り下ろす。

 

「くっ!」

「まだ動けるのか!?」

 

 避ける間もない二人がダメージ覚悟で防御体勢を取る中、

 

「カノンノー!」

 

 声が響く。

 

「氷雪に佇む名もなき女王、汝が抱擁にて彼の者に永久の眠りを! インブレイスエンド!!」

 

 声の主、樹の呼び掛けと同時に、詠唱を終え解放したカノンノの魔術により、影ゴライアースの足元が凍り付き、更にその頭上から巨大な氷塊が降り注ぐ。

 

「はあああああっ! 双撞衝裂破ぁっ!」

 

 それだけに留まらず、いつの間に近づいたのか、樹がゴライアースの顔面に向けて奥義を放つ。

 

「凍って!」

「砕けろ!」

「「絶破裂氷撃っ!!」」

 

 樹とレインの共鳴術技が炸裂し、影ゴライアースの身体が凍り付く。そしてそのまま繰り出された樹の拳とカノンノの大剣により、完全に砕け散った。

 




次回も遅れるかもしれませんが生暖かい眼でお待ちください(白目

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