TOWRM3 〜ThePlain's Walker〜   作:赤辻康太郎

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大変遅くなりましたが第二十四話です。今回からオリジナル編です。活動報告にてアンケート実施中です。


第二十四話

第二十四話

 

 

「「「精霊から?」」」

 

ヨモツ島からの来訪者、ジュードとミラがアドリビドムに持ってきた依頼『精霊退治』。その内容の突拍子のなさに、樹、レイン、カノンノは思わず聞き返してしまうほどだ。

 

「ああ」

「ちょいと待ってくれよ!精霊はマナ循環の担い手で、人に害を及ぼす様な存在じゃないはずだ!」

「僕もしいなに同意する。そもそも、精霊が人を襲う理由が分からない」

 

精霊の存在とその意義を理解しているキールとしいな二人はジュード達の依頼に反論する。

 

「君達の言いたい事は分かる。だが、これは紛れも無い事実なんだ」

「もう少し詳しく教えてくれないかしら?」

「分かりました」

 

アンジュに促され、ジュードが依頼するにあたった経緯を説明し始める。

 

「僕達の住むヨモツ島は大陸からも遠く離れています。だから、星晶採掘も進んでいません」

「ああ。それは地図から予想できている」

 

ここまでは先程の樹達の予想通りだ。

 

「そのため、生物変化も起きていなかった」

「ん?大陸から離れてるのに、よく生物変化を知ってたな?」

「いくら大陸から離れているとはいえ、外との交流が一切ないわけではない。大陸との交流がある他の島々を通じて情報や物質を入手している」

「ですが数ヶ月前から奇妙な魔物が出始めたんです」

「奇妙な魔物?それが生物変化の影響じゃないのか?」

 

キールの言う通り。生物変化を起こした生物は皆全て常識では考えられない様な姿や特徴を持っていた。いくら大陸から離れいるとはいえ星晶採掘、赤い煙の影響が決してないとは言い切れない。今まで起きていなかっただけという可能性も十分にある。

 

「僕達も最初はそう思いました。けど、他の動植物には何も起きていなくて『魔物』だけに変化が起きていたんです」

「魔物だけ?確かにそれは奇妙ね」

 

樹達が目の当たりにしてきた生物変化は魔物よりも寧ろ普通の動植物の方によく見受けられていた。なので、ジュードの言う通り、これまでの生物変化とは毛色が違うようだ。

 

「それに、魔物の姿も変化したものではなくて、まるで『最初から』そんな姿だったかのような様子なんだ」

「どんな姿なの?」

「全体的に影の様に黒くて、眼に当たる部分が赤だったり青かったり……」

「それと同色の線が身体に入っているんだ」

「……こんな感じ?」

 

ジュードとミラの説明を聞いて、カノンノが何処からか取り出したスケッチブックに魔物の姿を描いて二人に見せた。

 

「そうそう。そんな感じ」

「おお。よく描けているな」

「……どっから出した?」

「乙女の秘密♪」

 

まるで実物をスケッチしたかの様な出来栄えに、ジュードとミラは心から感心した。傍でそれを見ていた樹には、カノンノが何処からスケッチブックを取り出したかの方が気になっていたが。

 

「まあお前らがそう判断した理由は分かった」

「そうか。なら――」

「だがそれ『だけ』じゃないんだろう?」

「「っ!!」」

 

『だけ』を強調した樹の言葉に、一瞬ミラとジュードの身体が強張る。

 

「ビンゴか」

 

それを当たりとみて、樹はいつもの厭らしい笑み。周りの皆は「またか……」と呆れ顔になった。ただし、アンジュとキールはその表情の裏に一物があるようだ。

 

「……何故、そう思うの?」

「簡単なことだ。さっきの奇妙は魔物ってのは『精霊の仕業』としては根拠が薄すぎる。今まで表に出てなかっただけで、実は何百年も前から洞窟の奥とか地下深くとかに潜んでいた可能性もある」

「確かに、その可能性もある。だがそれこそ『根拠のない』推論だろう?」

「まあな」

 

『根拠ない』を強調し『それはお前の勘違いだ』と暗に訴えるミラ。だが樹は、あっさりと、それこそ指摘したミラが一瞬驚くほど、樹はミラの指摘を受け入れた。

 

「確かにその魔物は精霊の仕業、未知の魔物、生物変化どの可能性も否定できない。だからお前らの話を否定する要素もない。けどな……」

 

ゆっくりと、まるで教鞭を執る教師の様に説明する樹。その雰囲気に、誰も横槍を入れようとしない。いや、出来ない。

 

「お前らのさっきの反応。それだけで『何かある』と思うには、十分すぎる根拠だと思うがな」

 

反応からして、二人が何かを隠していることはアンジュとキールにも感じ取れていた。しかし二人は敢えて樹に話を聞き出させることにした。理由は『その方がいい』と言う何とも曖昧なモノ。しかし、それはジュードとミラが深く考え込みだした事により成功という形で功を奏した。

 

「……どうやら、君の方が一枚上手なようだな」

「……そう、みたいだね」

 

ミラとジュードが諦めたかのように、または観念したかのよう呟く。

 

「おろ?意外にあっさりと折れたな」

「君にどんな言い繕いをしても、君はあの手この手で私達から真実を引き出そうとするだろう?」

「まあな」

 

樹はミラの質問に悪びれる素振りも見せずに即答した。無論、周りの皆の表情は呆れ顔のままだ。

 

「それならば、いっその事最初から話してしまった方がいいと判断した」

「僕も同じ。それに、多分この事は聞いておいてもらった方がいいかもしれない」

「是非そうして下さい。私達は依頼人の秘密は厳守しますよ」

 

それが犯罪でなければ、と付け足すアンジュにミラは「それは安心してくれ」とだけ答えた。

 

「我々……いや、正確には『私』がその魔物の異様さに気づいたのは、魔物を構成している『マナ』が原因だ」

「マナが?」

 

ゴースト等の一部の魔物はマナによって構成されている。なのでマナを知覚することは経験を積んだ者にとってそう難しいわけではない。それが『ただのマナ』であれば……

 

「ああ。そのマナは『精霊』のマナだった」

「ちょっと待って!精霊のマナってどういう意味?」

 

ここでアンジュが待ったをかけた。それも当然。精霊のマナを感じることが出来る人など今まで会ったこともなければ噂にも聞いたことがなかった。それはキールやカノンノも同様。しかし、しいなと樹だけは納得したように頷いていた。

 

「里でその手の修業は積んだからね。何となく予想はついてたよ」

「まあ、俺もそんな所だと思っていたが、まさか本当だったとわな」

 

しいなは自身の経験から、樹はミラの話から大方の予想は立てていたようだ。樹は予想の範疇を超えてはいなかったが。

 

「そのままの意味だ。マナの循環を司る精霊。その精霊を構成するマナは少々特殊な構成をしている。私の一族はそのマナを感じ取ることが出来る」

「ミラの一族はその能力から代々巫女の一族として島の祭事を担ってきたんだ」

 

 

アンジュの疑問に答える様にミラとジュードは説明する。

 

「人工精霊は自然に存在する微精霊たちから少しずつマナを貰ってドクメントを構成するんだけど、そこに少しでも他のマナが入ると失敗して暴走しちまうんだよ」

「それ結果が『アレ』だったわけか」

「うう……面目ないねえ」

 

しいなの説明から、樹はしいなと初めて会った時の事を思い出した。

 

「話を戻すぞ。その魔物が現れたのは二月程前。森で狩りをしていた者達が遭遇したのが始まりだ。そして逃げ帰った男達はこう言った。『影から魔物が出てきた』と」

「影から?」

「ああ。それを聞きつけた私とジュード、それと戦えるもの数名で駆け付けた」

「駆け付けた時にはもう何人か襲われていたんだ。幸い命に別状はなかったけどね」

 

当時の状況を思い出しながら、ミラとジュードが経緯を語る。

 

「その時だ。その魔物のマナが精霊のモノであると感じたのは」

「僕らも、魔物の異様な雰囲気からミラを信じたんだ」

「魔物自体は退治することは出来た。だが、その魔物は倒れると同時に消えてしまった」

「まるで氷の様に解けてしまったんだ」

「それ以来、その魔物が島の彼方此方で頻繁に見られる様になった。魔物自体の強さはそう強いわけでもないから最初は島民の戦える者で対処してきたが、数が多いし範囲も広い。なので、島長らと協議した結果。ギルドや傭兵に助力を願う事にしたんだ」

「成るほど、それでウチに白羽の矢が立ったわけか」

「うん。助力を頼んだ傭兵の一人が『腕の立つ便利屋ギルドがある』って教えてくれてね」

「まあウチとしては有難い話ではあるわね」

 

と苦笑するアンジュ。この苦笑は『便利屋ギルドの拠点』と称された我が船を嘆く『海賊の船長』を思ってのことだったが。

 

「分かりました。その依頼お受けします」

「ありがとうございます!」

「感謝する」

 

依頼の受託を聞いて、頭を下げるジュードとミラ。それを見たアンジュは二人に頭を上げる様促す。

 

「まあ最初から受ける気ではいましたけどね」

 

苦笑交じりにアンジュはそう言うと、樹を見た。

 

「ん?」

「……約一名がかなりだったみたいだし」

「あ、バレてた?」

「当たり前です」

 

悪戯が見つかった子供の様に樹は舌を出して惚けてみせたが、アンジュには効果はなかった様だ。

 

「「……」」

 

約二名には効果が抜群だった様だが。

 

「それじゃあ、出立の日取りやメンバーを煮詰めていきましょうか」

「よろしく頼む」

「お願いします」

「んじゃ、俺も準備しに行きますか」

 

打合せの為場所を変えるアンジュ達とは別に、樹も「とある準備」の為にその場を離れようとする。

 

「準備?」

「そ。準備。ま、楽しみにしてなって」

 

それだけ言うと、樹は厨房へと向かった。

 

「何をする気だ?」

「さあ?」

 

船の構造など露とも知らぬ二人は、樹の行動に首を傾げるばかりだ。

 

「まあまあ。樹の言う通り、楽しみにしていればいいわ」

 

アンジュは『今晩』の事を考え、自然と笑みが零れていた。

 

――数時間後――

 

「美味い!美味いぞ!」

 

バンエルティア号の食堂に、ミラの歓喜の叫びが響く。彼女の眼の前には数種類の料理の乗った大皿。その脇には料理の『乗っていた』大皿が数枚重なっていた。

 

「樹!これは何と言う料理なんだ?」

「それか?それは『チキンのローストディアボロソースがけ』」

「ディアボロソース?」

「『悪魔のソース』って意味だ。刻んだ大蒜、唐辛子、玉ねぎ、ハーブとかをオリーブオイルとで炒めて作った」

「ほう!で、こっちのは?」

「そっちは『ラム肉のピカタ』。作り方は……」

 

箸を進めながら樹にドンドン料理の解説を聞くミラ。樹も自分の料理にそこまで興味を持ってくれたのが嬉しかったのか、嫌な顔一つせずに一品一品説明していく。

 

「……本当、よく食べるのね」

「……あはははは」

 

隣のテーブルで食事をしていたアンジュが、呟く。ミラの向かいの席についていたジュードは、ただただ申し訳なさそうに苦笑いするほかないようだった。他の席で食事をしていた面々も、『あの細い体の何処に入るのだろうか?』や『何故あんなに食べているのにあんなに細いのか』、『あんなに食べているからその大きさなのか』など様々な視線でミラの食事風景を見ていた。

 

「それにしても、本当に凄いわね、彼女。普段から『ああ』なの?」

「えっと……いつもはもう少し小食なんですけど、多分ここの料理が凄く美味しいからだと思います」

「まあ。それは私としても嬉しいわ。何たって、自慢のコック達ですから」

 

アンジュが厨房に眼を向けると、そこにはいつものロックス、クレア、リリスの他にも、ジーニアスやファラ、ナナリーと料理の得意な者達が額に玉のような汗をかき一心不乱に調理していた。さながら戦場のような光景である。

 

「……さて、そろそろ厨房に戻るかな。んじゃ、ミラ、ジュード。また後でな」

「うん」

「ああ。ジャンジャン運んでくれ!」

「へいへい」

 

樹は頭に巻いていたバンダナ代わりのタオルを締め直すと肩を軽く回しながら『戦場』へと舞い戻って行った。

 

「それにしても、樹は凄いな」

「そうだね。僕とそう変わらないのに、こんなに美味しい料理が作れるんだもの」

「……それだけじゃない」

 

ミラの言葉に、ジュードは「え?」という顔をした。

 

「樹の足元をよく見て見るといい」

「足元?……あ!」

 

配膳している樹の足元を見て、ジュードはそれに気がついた。

 

「どうやら気づいたようだな」

「うん。彼、『爪先立ち』で歩いてる」

「ああ。しかも踵を『少しだけ』浮かせて、だな」

 

爪先立ちと聞くと、バレリーナの様に踵をほぼ垂直にしているようなイメージを浮かべる事が多いが、実は少し浮かせるだけでもトレーニング効果はある。踵を上げると、体重は自然と足の付け根から爪先に行く。それを支えようと膝や腰に力が入る。これにより足腰が鍛えられる。しかも今の樹は配膳中。料理の乗った皿を両手で持っているため、指先まで神経を集中させている。

 

「彼にとって、料理も『トレーニング』なんだろうな」

「うん」

 

ジュードは仲間たちと楽しく談笑している樹を、少し真剣な眼差しで見ていた。

 

――その日の深夜――

 

「ふあ~」

 

大口を開けて欠伸一つ。反射で出てきた涙を手の甲でふき取りながら、暗い廊下を樹は歩いていた。先程まで部屋で寝ていたのだが、中途半端に目が覚めてしまい夜風に当たろうと甲板へと歩いていた。

 

「ん?」

 

甲板に出た所で、樹は一つの人影を見つけた。

 

「……ジュードか?」

「あ、樹」

 

近づいてみると、それはジュードだった。ジュードは甲板のヘリに足を外に投げ出す様に座り月明かりの下で本を読んでいた。

 

「お前も眠れないのか?」

「……うん。何だか目が冴えちゃって。樹も?」

「ああ。何か中途半端に覚めちまったよ」

 

樹が「隣いいか?」と聞くと、ジュードは手で「いいよ」と、隣を差す。

 

「ああ~。眠いのに眠くねえってのは変な気分だな」

「そうだね。僕も時々そうなるよ」

 

顔を真上に逸らしぼやく樹。ジュードも身に覚えがあるのか直ぐに同意した。

 

「何の本読んでたんだ?」

「え?ああ、これ?医学書だよ」

 

ジュードは一年ほど前まで大学で医学を学んでいた。しかし星晶を巡る争いが活発化し、大学が休学になってしまった為、島に戻ったそうだ。

 

「そっか。キール達と同じだな」

「夕食の時に聞いたよ。オルタ・ヴィレッジ。凄く良い案だと思うよ」

「課題は山積みだけどな~」

 

ヤレヤレだ。とぼやく樹。

 

「……けど、やらないよりは、ずっと良いよ」

「ん?」

 

ジュードの声色が、少し変わった。顔にも少し陰りが見える。

 

「……僕は世界がこんなにも大変な事になっているのを知っていたのに、何も出来なかった」

「……」

 

ジュードの独白。それはオルタ・ヴィレッジの話を聞いた時から燻っていたものだった。

 

「それに、君みたいに何でもトレーニングに利用するなんてことしてこなかった」

 

ジュードも幼馴染みとの特訓などで鍛えているつもりでいた。けど、樹の様な事はしてこなかった。同じくらいの年齢なのに、この意識の差。それがジュードに影を作っていた。

 

「……ジュードは回復術とかできるか?」

「一応できるけど……」

「俺は出来ない」

 

樹の突然の質問と告白に、ジュードは反射的に「え?」と聞き返した。

 

「俺に医学の心得はねえ。精々応急処置が手一杯だ」

「それで十分じゃないの?誰だって出来ないことはあるし」

「じゃあ、お前のだってそうだな」

 

樹がジュードの顔を見てニヤッと笑う。

 

「え?」

「誰にだって出来ることと出来ないことはある。お前はお前で出来ることを一生懸命やってきたんだろ?ならそれで良いじゃねえか」

「けど……」

「それに――」

 

何か言おうとしたジュードの言葉を、樹が遮る。

 

「それに、どうにかしたいと思ってたんだろ?だったら今からやれば良いじゃねえか」

「今から?」

「おう。ジュードは大学に行ってた位だから知識は豊富なんだろ?だったら、これからそれを活かせばいい。ほんの些細なことでもいい。出来ることから始めればいいんだよ」

 

「俺も最初は何も出来なかったしな」と樹は締めくくる。

 

「出来ることから……」

 

樹の言葉を、ジュードは噛みしめるように反芻する。

 

「……うん。やってみるよ!」

 

次に顔を上げた時には、ジュードの顔に影はなかった。

 

「おう!先ずは精霊から、だな」

「うん。よろしくね、樹!」

「おうよ!」

 

二人の少年は月華の下、互いの拳を突き合わせた。

 

 




ご意見・ご指摘・ご感想お待ちしております。前書きにも書きましたが、活動報告でアンケートをやってますのでそちらのご回答もお願いします。

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