TOWRM3 〜ThePlain's Walker〜 作:赤辻康太郎
RM3 16話
「テメエ等なんぞと……ジョアンさんを一緒にするんじゃねえ!!」
怒号一喝。樹が雄叫びを上げると同時、樹をオーラが包み込む。
「オーバーリミッツ!」
「その……ようですね」
樹のオーバーリミッツに、アンジュが驚きの声を上げる。しかし横にいるジェイドの反応は、肯定しつつも歯切れが悪い。まるでそれがオーバーリミッツと認めたくないような、またはオーバーリミッツだと信じられないようなリアクションだ。それもそのはず。何故なら--
「オーラが『黒』くなければ」
樹のオーラが、『青黒い』のだ。更に言えば、樹のオーラはまるで『黒い影』の様に樹の周りに纏わり付いていた。
「まるで『憎しみ』を纏っているよう……」
「そう、ですね」
放心したように呟くアンジュ。ジェイドは本来非科学的なモノは信じない質だが、思わず同意してしまった。それ程、樹の威圧感が凄まじいのだ。
「……『アレ』は、『誰』?」
レインの呟きは、樹のオーラに圧倒させられている二人に届くことはなかった。
「……」
オーバーリミッツを発動した樹。その表情は、発動直前とは真逆に冷淡なものだった。
「ふ、ふん!それが……どうした!」
「おい、馬鹿!止せ!」
だがその事に気づいていない信者Bは、信者Aの制止も聞かず樹に躍りかかった。
「どおおらあああっ!」
「……」
樹に殴り掛かる信者B。樹はその拳をじっと見つめ--
--ドゴオ--
殴られた。樹の身体はそのまま物理的法則に乗っ取り、壁に激突した。激突した際に土埃が盛大に舞い、全員の視界を奪う。
「ははは! 何だ、大したことはないではないか! はははははは!」
樹に一撃を与え、信者Bは有頂天になり大口を開いて笑う。
「はははははばあっ!」
――ドガア――
信者Bの笑いが突然止んだかと思った瞬間、信者Bの身体は壁に叩き付けられていた。
「な、何だ!何が起きた!?」
信者Aが動揺する。土埃のせいで何が起きたか理解できていない。できたのは、相方がいきなり吹き飛んだという事実だけ。
「くくく。『くは、クハハハはは!』」
「ひ、ひい!」
土埃の中から突如聞こえてきた嗤い声。信者Aはその得体の知れない響きに戦慄した。それは、仲間であるはずのアンジュ達でさえ、同じ。
「『いいネエ!イイねえ!サいッコウにいいねえ!』」
声の主は酷く高揚しているようだ。
「『ナあ?モットくれヨ?コノ【イタミ】ヲよう!』」
遺跡の中なのに風が逆巻き、土埃が晴れる。そこに、『ソレ』は立っていた。
「た、つき……?」
「『あアン?』」
アンジュに呼ばれ、樹が振り返る。
「ひっ!」
「これは……!」
「っ!」
樹の顔に、アンジュは悲鳴を上げ、ジェイドは驚き、レインは息を飲んだ。壁に激突した時に頭に傷を負ったのか、樹は頭から血を流してい顔や首に数条の赤い線を引いている。それも心配だが、アンジュ達が驚いたのは別の理由だった。樹の顔が、右半分が影の様なモノに侵され、右眼が紅くなっていた。
「『【ソれ】ハ俺のナかあ?』」
「え!?」
アンジュは樹の言った事が一瞬理解出来きず、思わず声が出た。
「『まあ、イイ。其れよりモ続きダ!これでオワリじゃナイだロウ?』」
「上等だあ!」
「あ、おい!」
樹の挑発に、今まで壁にめり込んでいた信者Bが猛スピードで急接近し、樹を殴りつけた。
「『ガハっ!』」
またもや樹はそれをまともに受け、
「『はッハあ!』」
殴り返した。樹の拳は信者Bの鳩尾にヒットし、信者Bの身体が少し宙に浮く。
「ぐっ……ごお!」
「『がッ!……ダア!』」
殴り、殴られ。殴り、殴られ。もはや喧嘩とも言えない殴り合いが、何度も、何十発も繰り返される。
「ぐう……!」
「『ハハは!どうしタ?もうオ仕マイか?』」
先に膝を着いたのは、何と信者Bだった。見るからにダメージは樹の方が受けているのに、樹は膝を着くどころか、嗤う余裕さえあった。
「ば……化け物か?貴様……」
苦しそうに呻く信者B。そんな信者Bを、樹はニヤリと嗤う。
「『オレが化ケ物?嗤わセるナヨ?【ソノテイド】なワケないだろう』」
「「「なっ!」」」
信者の二人のアンジュ。敵同士の三者の驚愕が奇しくも入り混じる。
「『見せテ……イや、教えてヤルヨ。ホントうの【暴力を】』」
樹の姿が消えた。
「『テメエらの【カラダ】になア!』」
「ぎゃあ!」
「ぐわっ!」
樹が一瞬で信者Aの後ろに回り込み、信者Aを蹴り飛ばした。信者Aはそのまま吹き飛び、信者Bの上に落ちる。
「『オラあ!』」
「「ぎゃあああ!!」」
樹が信者Bを蹴り上げ、信者達が宙を舞う。
「『さあサアさアサあ!イツまで耐えらレルかナあ?』」
信者達が落下する前に、樹は二人を殴り飛ばす。
「『そおラ!』」
また落下前に殴り飛ばす。
「『ハハはははハははハハハハはハハはは!』」
殴る蹴る殴る蹴る殴る蹴る殴る蹴る殴る蹴る殴る蹴る殴る蹴る殴る蹴る殴る蹴る殴る蹴る殴る蹴る殴る蹴る殴る蹴る殴る蹴る殴る蹴る殴る蹴る殴る蹴る殴る蹴る殴る蹴る殴る。
壁を、天井を、床を縦横無尽に走り、飛び、跳ね、樹は信者達を攻撃し続ける。
「「がっはっ!」」
「『ヒャっはあ!喰らいな!【殺劇舞荒拳】!』」
終に信者達が地面に落下。樹は大きく飛び上がり、止めの刃を信者達に突き立てようと刀を構える。
――ガキィン――
「『アあん?』」
「き……貴様は……」
それを阻止したのは、レインだった。
「レイン!何時の間に……」
「恐らく、私達が樹の闘いに見入っている時でしょう。まあ私が気づいたのも彼女が彼の刀を受け止める直前ですが」
ジェイド達が話している間も、レインは必至で樹の刀を受け止める。
「く、うぅ……」
「『ハッハア!その細腕でヨク受け止メルナア!』」
樹の力に押され、苦しげに唸るレイン。逆に樹は楽しそうに刀に力を籠める。
「っだあ!」
「『おお!』」
レインは刀を一端少し引き、樹の態勢を倒すと樹を蹴り飛ばした。レインの意外な攻撃に、樹は為す術なく後退した。
「『はハッ!いいね、イイネエ!最高だな、オマエ!』」
「……あなた……誰?」
「『アあ?』」
今まで以上に興奮した様子の樹。だがレインの投げかけた問いに、一気に興が殺がれたようだ。怒ったように声を荒げた。
「『んなコタァ今ハどうでもイイダロうが!』」
「私にとってはどうでもよくない。あなたは誰?樹はどこ?」
レインも引かない。同じ質問を繰り返す。
「(……せ……!)」
「『ダカらっ!グウぅ……!』」
突如樹が呻き声を上げる。頭に手を当て、とても苦しそうにもがく。
「(かえ……せ!)」
「『クソったれガ……セっカク……表……ニ……』」
樹の膝が崩れかける。
「(返せ!)」
「『グオおおオオ』おおおおお!」
絶叫。樹はその喉から本当に出ているのかと思うほどの絶叫を上げ、崩れかけた態勢を踏ん張った。
「っはあ!……はあ……はあ……はあ……」
「樹!」
踏ん張ったものの、結局は背中からその場に倒れ込む。レインは素早く樹に駆け寄ると、樹の上半身を抱き起した。
「れ、レイン……」
「樹……大丈夫?」
「あ、ああ」
レインの問いに頷く樹。だがそれが嘘だということはレインにも分かった。
「今回復させるわ。レインはそのまま樹を支えておいて」
アンジュも樹に駆け寄り、回復魔術の詠唱を開始。レインはアンジュの指示通り、水筒の水を樹に飲ませながら支える。
「少し、休憩して行きますか。彼らも気絶しているようですし」
ジェイドが信者達の方に視線を向けると、そこには気絶した信者の二人が横たわっていた。
「……悪い」
小さな声で何とか謝る樹。ジェイドは「お気になさらずに」と前置きし、
「どの道彼らが起きなければ聞きたい事も聞けませんし、あなたももっと言いたいことがあるのでしょう?丁度いいじゃないですか」
「そうね。それと樹。今は聞かないけど、船に戻ったらしっかりと話してもらいますからね」
「俺で話せることがあればな……」
樹も今回ばかりは素直にアンジュの言う事を聞くしかなかった。
「ところでレイン」
「何?」
「何時までこの態勢なのでしょうか?」
樹がレインの顔を『下』から見上げながら聞く。今現在樹は、絶賛『膝枕』中なのだ。勿論、レインの膝の。
「ずっと」
「ずっとって……俺は自分の腕枕で――」
「ダメ」
「あの――」
「ダメ」
「……はい」
樹はレインの剣幕と気迫に圧され、膝枕を受け入れた。
「いや~。青春っていいですねえ」
「うふふ。そうですね」
その光景をニヤニヤしながら見つめる影が二つ。
「テメエ等ニヤニヤすんな!」
「樹、大人しくして!」
「……はい」
――数時間後――
樹の体力ももある程度回復し、信者達も目覚めたので、アンジュ達はもう一度二人と話し合う事にした。
「くそっ!我らの力が及ばぬとは……!」
「ディセンダー様……申し訳ありません!」
眼に涙まで浮かべ悔しそうに唸る信者達。樹はそんな信者達に心底呆れていた。
「お前ら、敗因がその力だってことに気づいてないのか?」
「「何!」」
樹の言葉に、信者の二人は心の底から驚いた。心の底から信頼していた力、ディセンダーの力が原因で負けたと言われたのだ。信者が驚くのも無理はない。
「馬鹿な!ディセンダー様から授かったこの力が――」
「力を『使う』だけならガキにでも、それこそ赤ん坊にだってできる」
「何を言うか!赤ん坊にこの力が使えるなど……」
「使えない。とは言い切れませんねえ」
樹達の会話に、ジェイドが口を挟んできた。
「何?」
「どういうことだ?」
「まあまあ。折角ですし、ここからは樹の口から説明してもらいもしょうか」
自分から言っときながら、ジェイドはアッサリと樹に話を振った。
「……まあいい。お前ら、銃の撃ち方は知ってるか?」
「銃弾を込めて引き金を引くのだろう?」
「そうだ。じゃあ、これを赤ん坊ができると思うか?」
「できるわけないだろう」
確かに、歩き方さえ分からない赤ん坊に銃弾の込められない。
「そう。できない。じゃあ、銃弾が既に込められていて、もっと言えば、後は引き金を引くだけの状態だったら?その銃を赤ん坊に与えて、銃弾が発射されない保証は?」
「そ、それは……」
「ないだろう?俺が言いたいのはそういう事さ。そして、今のお前らはそういう状態だ」
銃を『扱う』と言うことは、銃に弾丸を込め、撃鉄を起こし、引き金を引く。この一連のアクションを言う。そして銃を『撃つ』は、これらの一連の動作の他に、単に『銃弾を発射する』と言う意味もある。秀隆が言いたかったのは、この『差』である。
「さっきも言ったが、力を使うだけなら誰にでもできるんだよ。けどな、力を『扱う』、『使いこなす』には時間がかかるんだ」
「どんな熟練者の剣士も、剣を握り始めた時はまだ只の『剣を持った人』です。けど、修行して剣の扱い方を知って、初めて『剣士』になるんです」
「あなた方はいきなりその強大な力を得てしまった。本来なら、もっと時間を掛けて扱い方を知るべき力を。それ故、あなた方はその力の本来の力を引き出すことができなかった。恐らく、これが敗因でしょうね」
樹の説明を、アンジュとジェイドが引き継ぎ足していく。もし二人が自身の力の扱い方を熟知、或いは限界をしっていたり相手を侮ったりしなければ、今回の様な結果にはならなかっただろう。だが二人は、己に齎された力の強大さを過信し、相手を侮ったのだ。その慢心が、今回の一番の敗因だっただろう。アレさえなければ。
「それを揃いも揃って……何様のつもりだお前ら?」
「わ、我々は……ただディセンダー様のお力になりたいと」
「そのディセンダー様が一度でも『国を滅ぼせ』とか言ったか?
「そ、それは……」
「言ってないよな。何せまだ生まれて間もないんだから。それを寄って集って。お前らは立ち方も分からない赤ん坊を『兵器』にしてっるて本当に分かってんのか!?」
樹の怒りが爆発した。
「そんなつもりは……」
「『つもりは』じゃねえんだよ!結果的に一緒じゃねえか!それと、国に復讐して、星晶はどうするんだ?まさか『自分達で管理する』ってんじゃねえだろうな?」
「その通りだが……」
「馬鹿かテメエ等!それじゃあお前らが憎んでいる国と同じじゃねえか!そんなんじゃ、ただ星晶を奪う相手が国からテメエ等に代わるだけ。今と何も変わらねえ。それじゃ憎しみの連鎖は止まらねえんだよ!」
他者から奪う者はその他者から恨みを買い。例え復讐したとしても、また別の他者から恨みを買う。奪い、奪われる。憎しみは新たな憎しみを生み、やがて負の連鎖は世界に広がり、戦争となる。信者達はその事に、そんな初歩的な事に、たった今気づかされた。自分よりも一回り近く年下の少年にだ。
「そ、そんな……」
「私は……私達は……」
樹達の話を聞き項垂れる信者の二人。その時――
「う、うわあ!」
「ひっ!な、何だこれは!?」
「赤い煙!」
赤い煙が、二人を包み込んだ。
「か、身体が……身体がああああ!!!」
赤い煙が晴れた時、そこに居たのは、暁の従者ではなく、その衣を纏った魔物だった。
「まさか!生物変化!」
「これは……本当にこのような事が……」
眼の前で起きた出来事に、アンジュも、ジェイドさえ驚きを隠せなかった。
「あぁぁ……何故だ……何故こんな姿に。ディセンダー様!『ラザリス』様!」
「お、お助け下さい!ラザリス様!『教祖』様ー!」
生物変化を起こした二人は『ラザリス』と『教祖』の名を叫びながら奥へと走り去った。
「行こう!」
「行くって、樹あなた」
「俺は大丈夫だ。それよりアイツ等を追いかけよう。嫌な予感がする」
「ディセンダーとやらはこの先にいるようです。ここは我々も進むべきでしょう」
「樹は私が護るから」
アンジュは先に進むことを渋ったが、ジェイドとレインも進む気満々だ。
「……分かったわ。けど、罠があるかもしれないから慎重に進みましょう」
「分かった」
樹達も二人を追いかけ、ディセンダーに会うために奥へと足を踏み入れた。
第二十二話でした。
今回はいつも以上にgdgdしてしまったかも。もっと精進せねば!
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