TOWRM3 〜ThePlain's Walker〜   作:赤辻康太郎

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短いですが第一話です。


第一話

第一話

 

 

「う〜ん……」

 

小さく唸ると、樹は眼を開けた。

 

「……知らない天井だ」

 

某不幸少年の様な台詞を吐く樹。まぁ実際目の前に見知らぬ天井があれば出てくる言葉は限られてくるが。

最初は意識が簿やけていたが段々ハッキリしてきて今のは現状に疑問を抱いた。

 

「此処は、何処だ?確か地震が起きて、頭痛くなって…」

 

意識が回復するにつれ蘇っていく記憶。樹は自分が突然出来た大穴とも言える亀裂に落ちたことに気がついた。

 

「助かったのか?そうだ!家は、孤児院はっ!?」

 

ガバッと起き上がるが上半身を起こした途端に激痛が走った。自分の身体をよく見ると全身に湿布を貼られた上、包帯を巻かれてい。

 

「……誰かが治療してくれたのか。けど、此処は一体……」

 

改めて樹は自分が今居る部屋を見渡してみた。どうやら医務室の様だが学校の保健室とは違う。ちょうど診察室と(見たことはないが)集中治療室を足したような感じだ。

 

「あ、気がつかれましたか?」

 

樹が部屋を見ていると扉が開き誰かが入って来た。声からすると男性のようだ。

 

「あ、どうも……」

 

声の方に振り向いた樹は声を失った。何故なら彼の想像したの(白衣に眼鏡)とは全く違っていたからだ。

 

「体調は如何ですか?」

 

樹が唖然としているのに気付いていないのか、彼、ロックスは樹に尋ねた。手に真新しいタオルを持っているから交換しに来たのだろう。

 

「え、ええ。全身が痛いのを除けば何とも」

「それはよかった。けど痛みはしょうがないですね。何せ空から海に落ちたんですから」

「……はい?」

 

思わず間抜けな返答をしてしまった樹。だが無理もない。今まで亀裂に落ちたと思っていたのだ。転がり落ちてきたと言うならまだしも、空から海へ落ちたとなれば180度状況が異なる。

 

「え、え〜と……」

「どうかなさいましたか?」

「い、いえ。その、状況が上手く判断出来ないっていうか」

「確かにいきなりこの様な事を聞かされて混乱されるのも無理はありませんね。今この船を管理されている方をお連れしますので少々お待ち下さい。」

「ありがとうございます。えっと、」

「あ、そういえば自己紹介がまだでしたね。私はロックスプリングと申します。この船『バンエルティア号』で皆様の身の回りのお世話をさせて頂いている者です」

「俺、いや僕は津浦樹。津浦が姓で樹が名前です」

 

互いに簡単な自己紹介を済ませるとロックスは「では行ってまいりますね」と扉の方へ飛んで行った。扉を潜る直前に、

 

「あ、一つ申し上げるのを忘れていました。樹様がされていたお召し物は私が勝手ながらお洗濯させていただきました。ですから変わりを用意して置きましたのでよろしければそちらをどうぞ」

 

と行って部屋を後にした。

樹は「ふー」と溜息を一つ吐くともう一度部屋の中を見渡した。すると自分が寝ているベッドの側のサイドテーブルに服が畳んで置いてあった。

 

「取り敢えず服着るか」

 

身体の節々がまだ痛むがゆくっり動けば我慢できるほどだったので宛がわれた服を着る事にした。

用意された服は丁度鎧と服の中間の様な、所謂軽鎧というものだった。

 

「眼が覚めたみたいね。体調は大丈夫?」

 

樹が服を着終わると同時に扉からロックスと二人の女の子が入って来た。

 

「あ、はい。何とか大丈夫そうです」

「そう。それはよかった。私はアンジュ。アンジュ・セレーナ。この船を拠点にしてるギルド『アドリビドム』のリーダーよ」

 

二人の内水色の髪の少女アンジュがまず自己紹介をした。彼女はよろしくと言うと右手を差し出した。

 

「よろしく。お……僕は津浦樹。津浦が姓で樹が名前です。助けてくれてありがとう」

「なら樹ね。お礼なら彼女に言って」

 

アンジュはもう一人の少女、ピンク色の髪の少女の方を向いた。

 

「初めてまして!私はカノンノ・グラスバレー。よろしくね!」

「よろしく。助けてくれてありがとう」

「あははは、気にしないで。でもびっくりしたよ。いきなり人が落ちてきたんだもの」

 

予告して落ちてきたらただのスカイダイビングである。

 

「あの、セレーナさん。一人お聞きしたいことが」

「アンジュでいいわよ。それに慣れない敬語も使わなくていいわ」

 

アンジュは穏やかに笑うと敬語はいいと言った。彼女には慣れてないのがバレバレだったようだ。

 

「ん。ならアンジュ、一ついいか?」

「何かしら?」

 

いきなり話し方を変えた樹に対してあっさりと対応できるのはアンジュの器用さ故だろうか。

 

「今日の日付を教えてくれ。あと西暦と曜日も」

「今日の日付?」

「ああ」

「何でそんな事を?」

 

質問を受けたアンジュだけでなくカノンノとロックスも疑問符を浮かべていた。

 

「いや。ちょっとした確認」

「そう?西暦と曜日が何なのか分からないけど今日の日付は……」

 

アンジュが答えた日付は樹の予想通り聞いたことないものだった。

 

「うん。分かった」

「何が?」

「此処が異世界だと言うことが」

「「「!?」」」

「まぁかい摘まんで説明すると……」

 

樹は自分がいた世界『地球』についてと自分が此処に来た経緯について自分が知る限りの事だけを説明した。

 

「−−という訳なんだ」

「信じられない……」

「まぁいきなりは無理だろうな。けど俺が言った事は全部事実だ」

「そうね。それに貴方が嘘をついている様には見えないし」

「うん。地球の話も何か凄く現実味を帯びてたし」

「はい。とても架空の出来事とは思えません」

 

三人は樹の話を信じたようだ。

 

「信じてくれてアリガトな。で、この世界についてなんだが」

「ええ。勿論説明させてもらうわ。この世界『ルミナシア』について」

 

アンジュは樹に自分達の世界『ルミナシア』について説明した。この世界の仕組みや現状、今抱えている問題について。

 

「……成る程。多少の差異はあるが、殆ど地球と同じと言っていいな」

「そうね。ルミナシアで言う星晶が地球では石油や石炭で」

「それを巡って国々が争ったり環境が壊されたり」

「ますます他人事とは思えなくなりましたね」

 

お互いの世界の状況を聞いた結果、四人が思った事は地球とルミナシアは良く似ているという事だった。

 

「まぁ地球の環境問題は石油の枯渇と言うより無闇に使い続けたツケみたいなもんだがな。戦争も宗教的なもんだし」

「それでもあまり変わらないわ。こっちだって無闇に星晶を採取し続けた結果に大地が枯れていってるし」

「最近は新興の宗教団体が大国にテロ行為をしているみたいですし」

「うん。やっぱり同じだよ。地球もルミナシアも」

 

力強く頷くカノンノに樹は苦笑した。いやカノンノだけでなくここにいる皆に対してだろう。

 

「どうしたの?」

「いや。今更ながらよくこんな荒唐無稽な事信じられるなって思ってな」

「あら。それはお互い様でしょう?貴方にとって私達の話はお伽話みたいでしょうし」

「……はっ、違いねえ」

 

話が信じられると思ってなかった樹の話。だがアンジュはそれはお互い様だとアッサリと切って捨てた。樹も理解していたのか笑いながら頷く。

 

「それで、これからどうするの?」

「そうだな。と言っても行くアテもないし」

「だったらここで一緒に働こうよ!」

 

これから先の事を思案する樹にカノンノは共に働こうと提案。アンジュも「それはいい案ね」と笑顔で了承。むしろ樹が驚き、

 

「いいのか?そんな簡単に決めて」

「あら、うちは大歓迎よ?人手は幾らあってもいいし。それに今のところ他に手はないでしょ?」

「そうそう。帰る方法も働きながら探せばいいし」

「……なあ、ここっていつもこうなのか?」

「はい。けどアンジュ様の判断はいつも的確ですよ。私も樹様にはここで仕事をして頂いた方がよいと思います」

 

ロックスも樹が仲間入りするのに肯定的。この調子だと他のメンバーも一緒だと判断した樹は

 

「分かった。暫くここで世話になるよ」

 

どうせ先立つもは必要だし、と右手を差し出した。

 

「では改めて。ギルド『アドリビドム』のリーダー、アンジュ・セレーナよ。よろしく」

「カノンノ・グラスバレーだよ。よろしくね」

「皆様のお世話をさせていただいているコンシェルジュのロックスプリングと申します」

「津浦樹。しがない不良学生さ」

 

四人は固く握手を交わした。

樹のルミナシアでの生活が今始まった。

 

「あ、ギルドの一員にはなって貰ったけど正式なメンバーになるのは入隊試験に合格してからだから♡」

「……マジかよ」

 




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