TOWRM3 〜ThePlain's Walker〜   作:赤辻康太郎

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第十八話です。ミブナの里探索の後日談、ドクメント説明回です。


第十八話

第十八話

 

 

「おーい、クラトス!持ってきたよ!」

 

ブラウニー坑道でしいなに出会ってから数日後、しいなが約束通り文献を持ってバンエルティア号にやってきた。しいなは赤い服を着た鳶色の瞳と髪をした二刀流の少年と、金のロングヘアに青い瞳で白い服を着た少女、橙色の忍び装束に身を包んだ少女を連れてきていた。

 

「おっす。しいな。ありがとな。ところで、後ろの連中は?お前の仲間か?」

 

たまたまロビーに出ていた樹が応対し文献を受け取った。

 

「そうさ。紹介するよ。ロイドにコレット、それとすずだよ」

「よう!俺は『ロイド・アーヴィング』!よろしくな!」

「私は『コレット・ブルーネル』です。よろしくね!」

「『藤林すず』と申します。以後お見知り置きを」

 

ロイドとコレットは元気よく、すずは淡々と自己紹介をした。

 

「俺は津浦樹。よろしくな。藤林ってことは、しいなの親戚かなんかか?」

 

ロイドと握手してから、樹が聞いた。

 

「いいえ。そういう訳ではありません」

「ミブナの里の忍は本名を他人に知られちゃいけないのさ。だから普段は偽名を使ってるんだ。あたしとすずの名字が同じなのはたまたまだよ」

「ふーん。真名ってやつか。じゃあロイド達も?」

「いや。俺達は里の近くにある村から来たんだ」

「私達はしいなに誘われたんだ。それで、もっと外の世界を見てみたくて」

 

ロイド達は『世界を見る』という目的もあってアドリビドムに合流したようだ。そう話している時のコレットは、期待に胸が膨らんでいた。

 

「世界を見る、ねえ……それが辛い現実でもか?」

 

樹が声のトーンを落とし、眼つきを鋭くしてコレットに聞いた。

 

「……それでも、私は知りたいの。ううん。知らなきゃいけないと思う。皆同じ世界に生きているのに、私だけ知らないのは嫌なの」

 

コレットは俯き、悲しそうな声で、だがしっかりとした口調でそう言った。そこには、強い意志が宿っていた。

 

「……ロイドは?」

「俺もコレットと同じだ。それに……俺の剣で護れるものがあるなら、俺はソイツを護りたい」

 

ロイドも意志の籠った、強い声で言った。

 

「すずは……まあ指令ってとこか」

「はい。里長からしいなさんを手伝うように言われました。けど、私も世界の現状を見過ごすわけにはいきません」

 

すずも、そのクールな表情からは想像できない程の強い意志を持って言った。

 

「そこまでにしたらどうだ?」

 

とその時、クラトスがロビーに現れた。

 

「お前も、ソイツ等の意思がそんなヤワではないことは分かっていただろう?」

「まあな」

 

樹はロイド達の意思が生半可じゃないことは最初から気づいていた。

 

「そうなのか?」

「ああ。しいなに誘われたってことは、アドリビドムに来る理由や世界の現状もある程度は聞かされているってことだろ?それに里の近くに住んでいたってことは星晶についても知っている筈だ。そんな奴等が、『世界が見たい』って理由だけでここに来るとは思えねえからな」

「……私達を試したのですか?」

 

すずが鋭い眼つきをして問いた。忍として生きる彼女にとって、自分の力量を疑われるのが心外だったのだろう。

 

「んにゃ。ただの確認だよ。まあロイドとコレットは見るからに能天気そうだったからな」

「えへへ。そうかな?」

「コレット。褒められてねえよ」

 

嬉しそうに笑うコレットに、ロイドは肩を落としてツッコミを入れた。

 

「まあ樹が口の悪いのは今に始まったことではないがな」

「そゆこと。まあ気にスンナよ」

「アンタがそれを言うかい?」

 

と皆が雑談をしていると、

 

「来たのね」

 

とリタが研究室からホールに出てきた。

 

「リタか。どうした?」

「クラトスの言ってた、しいな、だっけ?彼女に話があるの」

「私に?何だい?」

 

リタはしいなに用があるらしい。

 

「単刀直入に言うわ。光気丹術について教えてほしいの」

「……アレは門外不出の秘術なんだ。悪いが、外部の者には教えられないよ」

 

リタの頼みに、しいなは難色を示した。流石に忍だけあって秘匿情報に対する口の固さである。

 

「それは分かってる。けど、こっちも興味本位で言ってるわけじゃないの」

 

それでもリタは食い下がった。リタ曰く、生物変化解明の手掛かりが光気丹術にあるのだそうだ。リタは今起きている生物変化の現状と悲惨さを説明して改めて頼み込んだ。

 

「俺からも頼む。生物変化を眼の前で見た者としては、少しでも解明するための糸口が欲しいんだ」

「私からも頼む」

 

樹とクラトスの二人にも頭を下げられ、しいなは深く悩みこんだが、

 

「はあ。分かったよ。アンタ達にそこまでされたんじゃしょうがないね」

 

と最後には折れた。

 

「スマンな」

「悪い。恩に着る」

「いいってば。ほら、これが光気丹術の古文書だよ」

 

しいなはリタに一本の巻物を渡した。

 

「あたしには正直サッパリだったんだけど、どうだい?」

「……」

 

暫くの間、リタは古文書に一通り目を通し――

 

「……やっぱり」

 

と呟いた。

 

「やっぱり?何がやっぱり何だい?」

「結論から言うと、光気丹術は『ソウルアルケミー』の一種ね」

「ソウルアルケミーって、お前が研究していた?」

 

樹の問いに、リタは「そうよ」と言って頷いた。ソウルアルケミーとは、リタが研究していた『魔術の曙』とも称される学問である。しかし、詳しい学術書や魔術所が存在しないため、『幻の魔術』とも言われ、その存在自体を疑う学者や魔術研究者もいる位である。

 

「この古文書には、『ドクメント』について書かれているわ」

「ドクメント?」

 

聞きなれない単語に、樹は首を傾げた。

 

「ええ。まあドクメントについては一度実物を見てもらった方が早いわね」

 

リタは、「ついてきて」と言うと樹達を研究室に連れて行った。

 

「あら?来てたの」

「わいーる!お客さんがいっぱいだよ!」

「しいな。久しぶり」

 

研究室に入ると、中でハロルドとメルディ、レインが談笑していた。

 

「丁度よかったわ。メルディ、少し手伝って」

「はいな!何するよ?」

「取り敢えず、そこに立ってくれるだけでいいわ」

 

メルディは頷くとリタの指示した場所に立った。

 

「じゃあ、今からメルディのドクメントを展開するわね」

 

と言ってリタがメルディに向け手を伸ばした。すると――

 

――ヴンッ――

 

と言う奇妙な音と共に、メルディの周りに、白色の、複雑な文様の刻まれた輪が無数に出現した。

 

「これがドクメント。この中には持ち主の様々な情報が書き込まれているの。つまり今見えているのはメルディの情報、設計図とも言えるわね。生物、無生物問わず、この世に存在するモノは皆この設計図を持って生まれてくる。この世の営みは、ドクメントありきで循環しているの」

「なるほど。DNAみたいなもんか」

「DNAが何なのかは分からないけど、多分それであってるわよ」

 

ハロルドが樹の考えを肯定した。確かに、ドクメントは地球で言うところのDNAに等しいようであった。「さらに」とリタが手に力を込めると、

 

「増えた」

 

レインの言った通り、元あったドクメントの輪のさらに外側にもう一回り大きな輪が出現した。

 

「ここには設計図のもっと細かい部分が書かれているの。例えば将来どんな病気に罹る可能性がるかとか。どんな潜在能力を持っているか、とかね。ドクメントと物質は互いにフィードバックしている。実は、治癒術はこのドクメントに干渉して怪我を治しているの」

「『呪い』もドクメントに干渉して対象にダメージを与えてるってわけよ」

 

リタの説明にハロルドが補足した。

 

「ドクメントに干渉。それってつまり……」

「そう。どうやってるかは分からないけど、あの赤い煙はドクメントに干渉して生物変化を起こしているとみて間違いないわね」

 

リタはそう結論付けると、展開していたメルディのドクメントを閉じた。

 

「ううー。なんかクラクラするよー」

 

メルディはまるで船酔いしたかの様にふらついた。

 

「ああ、ゴメン。無理をさせちゃったわね。本来不可視のものを無理矢理可視状態にしたから被験者にかなり負荷がかかっちゃうの」

「細かいドクメントの展開も危険ね。ホントはもっと細かいとこまで見てみたいんだけど」

 

ハロルドは残念そうに言うが、実行しないあたり本人も危険性は十分に認識しているようだ。

 

「んじゃあ人工精霊はどうなんだ?」

「人工精霊はドクメントを人工的に創りだす所から始まるわ。ドクメントは精妙な精神エネルギーの塊。術者の念、自然の気、マナなんかを掛け合わせてドクメントを創る。んで、できたドクメントエネルギーの周波数を、物質が存在できるくらいにまで濃密な状態に落とすと実体化するの。あ、ほら。聖職者が何もない空間から食べ物や衣服を出して人々に与えたとかって話あるじゃない?アレもこの術を使ったからと言われているわ」

「……つまりあれか?空気中の水蒸気を圧縮して水滴を作る、みたいなもんか?」

「ちょっと、いえ大分違うけどイメージはそれでいいわ。マナ、自然の気、術者の精神エネルギーでドクメントを構成して、そのドクメントの振動数を落とすと物質ができるの」

 

ハロルドは、樹の意見を訂正しながらも一応は肯定した。

 

「けど、実際にそんなことできるの?」

「んー……できないこともないわね。術者の力量とか精神状態によって区々だけど。まあそこまでできる精神を持った術者なんて滅多に現れないけどね。この術はそうそう簡単に扱えるようなものじゃないわ」

「だってさしいな。そう落ち込むなよ」

「アンタの一言で落ち込んだよ……」

 

何はともあれ、これで生物変化の仕組みは掴んだ。あとは、どう対処するかであるが――

 

「けど、仕組みは分かったけど、結局どうやって対処するの?」

 

今回判明したのはあくまで『原因と仕組み』であって、根本的な解決法はまだ不明であった。

 

「それについては、これから調べていくわ」

「久しぶりに腕が鳴るわあ♪」

「あたしにも手伝える事があったら言っとくれ。これでも人工精霊の術者だからね」

 

今後の対処法の検討はリタ達研究者に任せることにして、『樹以外』は研究室の外に出た。

 

「……で、アンタはまだ何か用があるの?」

「何々?やっと実験体になってくれるってわけ?」

 

リタは面倒臭そうに、ハロルドは楽しそうに樹に聞いた。

 

「まあ実験体と言えば実験体か……俺のドクメントを展開してくれ」

 

樹の申し出に、リタは目を丸くした。

 

「はあ!?アンタ、話聞いてたの?対象者にかなりの負荷がかかるのよ?」

「それは分かってるよ。何も深くまで調べなくていい。ただ展開してくれればそれでいい」

 

尚も食い下がる樹にリタは渋るが、

 

「いいんじゃない?」

 

ハロルドが軽く了承した。

 

「どうせ樹が知りたいのはドクメントの影響でしょ?」

「流石ハロルド。話が早い」

 

ハロルドの確認に、樹は頷いた。

 

「樹の居た地球ってとこだとドクメントの代わりにDNAが存在している。そのDNAがルミナシアでドクメントに変化した時どんな影響があるか。アンタが知りたいのはそれでしょ?」

「ああ。あとこっちに来た状況が状況だからな。そっちの影響も知りたいしな」

 

樹は地割れに落ちてルミナシアに来ていたので、それがドクメントに影響を与えているかどうかも気になっていた。

 

「だそうよ?ま、私は地球人のドクメントが知りたいってのもあるからどっちでもいいけどね」

「……分かったわよ。けど、気分が悪くなったりしたら直ぐに言いなさいよ」

「分かってるよ。じゃあ、頼む」

 

リタは渋々ながらも了承し、樹のドクメントを展開した。

 

「ん?」

「ふーん」

「何だ?」

 

リタとハロルドは展開された樹のドクメントをマジマジと観察した。

 

「影……かしら?」

「影ね。靄かもしれないけど」

「影?靄?」

 

樹のドクメントは基本的には先に見たメルディのドクメントと同じ白い輪だった。だが、樹のドクメントは、所々に靄の様な薄黒い影が掛っていた。

 

「……もう閉じるわよ」

 

そう言うとリタは樹のドクメントを閉じた。

 

「……で、結局何なんだ?」

「今は何とも言えないわね。アレが樹がルミナシアに来た時にできたのか、地球人に特有のものなのか、アンタ自身の特徴なのかもね」

「今はまだ範囲も広くないし色も濃くはないから、そんなに影響はないとは思うけど、もう少し調べてみた方がいいかもね。もしかしたらもっと深い所で影響してるかもしれないし」

 

結果として、樹は定期的にリタとハロルドのドクメント検診を受けることになった。それ以上は何も結論が出なかったので樹も研究室を出た。

 

「けど……あんなドクメントの症状なんて聞いたことないわ」

「まあヒトのドクメントを展開して直接調べた研究例なんて殆どないからね。私達が何とかするしかないんじゃない?ぐふふふ。これからが楽しみだわ」

 

結局二人の負担(ハロルドにとっては楽しみ)が増えただけであった。

 

「うーん。何だかスッキリしねえなあ」

 

研究室から出た途端、樹はそう呟いた。ドクメント展開の影響、ではなく、樹は自分の知りたかったことが中途半端にしか分からなかったので、消化不良で悶々としていた。

 

「こんな時は依頼でも受けて気分を変えるか」

「なら、いいのがあるわよ」

 

ロビーの受付からアンジュが話を持ち掛けた。

 

「お。どんな?」

「山賊退治の依頼よ。ルバーブ連山を拠点にしているらしいの。街の行商さんからの依頼よ」

「山賊退治か。憂さ晴らしにはもってこいだな」

 

樹は指をポキポキと鳴らし、獰猛な笑みを浮かべた。

 

「程々にしておいてね。あと、序でにこれも頼めるかしら」

 

と、アンジュは樹にメモを渡した。

 

「これは?」

「セネル君からの依頼なの。何でも知り合いの人が約束の時間になっても来てないらしくて。それでルバーブ連山まで迎えに行って欲しいそうなの。そのメモはその人の特徴が書いてあるそうよ」

 

赤い煙や生物変化に加え、最近は通常の依頼も増えてきたので、アドリビドムは人手不足になっていた。その為、セネルは知り合いに応援を依頼していたのだった。

 

「何で俺?てかセネルは?」

「セネル君は別の心当たりを当たるそうよ。貴方を選んだのは、何となくね」

「まあ、序でだからいいか。んじゃ、行ってくるよ」

「いってらっしゃい」

 

樹は二つの依頼を受け、ルバーブ連山い赴いた。

 

 

――ルバーブ連山・山道――

 

 

樹が山賊のアジトを探してルバーブ連山を歩いていると、一人の少女が眼の前を歩いていた。青い帽子とマントを身に着けた黒髪の少女は、樹同様何かを探しているようだ。

 

「アンタ、何してんだ?」

 

樹は少女に追いつくと、声を掛けた。

 

「ん?何だお前?」

 

振り向いた少女が樹に鋭い視線を送った。

 

「俺?俺は探し物さ」

 

「流石に『山賊を退治しに来ました』とは言えねえな」と樹は心の中で呟いた。

 

「そうか。だがここは山賊が出るらしい。武器を持っているとはいえ油断は禁物だ。早々に立ち去るがいい」

 

少々上から目線の言葉遣いに、先程の悶々したのも多少影響し、樹は少しイラッとした。

 

「そう言うアンタはどうなんだよ?アンタも武器を持っているようだが、女の一人歩きは危険じゃないのか?」

 

と少し挑発的に言った。

 

「バカにしてもらっては困る。こう見えても私は騎士だ。だから騎士として、私は山賊を退治しに来たのだ」

 

少女は腰に携えた剣の柄を握ってそう言った。

 

「ふーん。騎士ねえ……ん?騎士?」

 

樹はセネルのメモを見た。そこには、黒髪、青い帽子とマントの騎士、とセネルが呼んだ知り合いの特徴が記されていた。その特徴は、眼の前の少女と合致していた。

 

「なあおい。アンタもしかして――」

「じゃあ、直ぐに下山しろ。いいな」

 

樹の台詞を遮り、騎士の少女は駆け足で山を登って行った。

 

「人の話を聞けよ!おい!」

 

樹も慌てて後を追った。

 

「ふう。やっと追いついた」

 

暫くして、樹は山の中腹あたりにある古い小さな砦の前で少女に追いついた。眼の前の砦は、嘗ての戦争時にどこかの国が出城として使っていたのだろう。今は、その砦の前に見るからに山賊という出で立ちの男達が転がっていた。

 

「これ、お前がやったのか?」

 

状況から見たら明らかだが、樹は一応聞いてみた。

 

「ん?何だ、お前まだいたのか?」

「それはいい。で、これはお前がやったのか?もしそうなら――」

 

即戦力だな。樹はそう続けようとしたのだが、

 

「もしそうなら?……貴様、まさかコイツ等の仲間か!?」

「……はい?」

 

少女はとんでもない思い違いをしていた。

 

「なるほど。中々下山しないと思ったらそういう事か。だが残念だったな。貴様の仲間は全員私が退治したぞ!さあ、どうする?」

「どうするって……っ!」

 

その時、樹の中で算盤が凄い勢いで弾かれた。

 

「……お前、クロエ・ヴァレンスだな?」

 

樹はできる限り低い声でそう聞いた。

 

「な、何故私の名を知っている!?」

 

樹がセネルからのメモを持っていると知らない少女、『クロエ・ヴァレンス』は大いに驚いた。

 

「ん?セネルって奴から聞いたんだよ」

「クーリッジ?貴様クーリッジに何をした!」

 

セネルが樹に囚われていると勘違いしたクロエは激昂した。

 

「別に、何も。ただ、妹共々よく働いてもらってるよ」

 

樹は下品な笑みを浮かべて言った。

 

「貴様あ!クーリッジだけでなくシャーリーまでも!もう許さん!そこに直れ!成敗してやる!」

 

樹の嘘で、クロエの怒りは増々烈しくなった。そして、抜刀し、樹に斬りかかった。

 

「んな雑魚共倒した位でいい気になってんじゃなえぞ!」

 

樹も刀を抜き応戦した。

 

「「魔神剣!」」

 

二人同時に地を這う衝撃波を放つ。二つの魔神剣は丁度中間の距離でぶつかり、相殺された。この間に二人は一気に距離を詰め、

 

「空裂斬!」

「空蓮牙!」

 

剣を軸にした連続蹴りの後に剣での追撃、名前こそ違うが、同じ技であった。

 

「「秋沙雨!」」

 

またしても同じ技。違いは止めがアッパーカットか斬りつけかの差だけである。

 

「驟雨虎牙破斬!」

「驟雨双破斬!」

 

連続突きの後に剣を投げ空中でキャッチしてそのまま連続斬りを繰り出すクロエと、同じく連続突きの後ジャンプ斬りから空中回し蹴り、踵落としへと繋げる樹。両者の技の欧州は、傍から見ればまるで間違い探しをしているかのようだ。攻撃が終了した後、二人はお互いに距離を取り、呼吸を整えた。

 

「何だあ?騎士様はモノマネがお好きなようだなあ?」

「黙れ!真似をしているのは貴様の方だろうが!」

 

樹の挑発に乗り増々怒るクロエ。クロエの反応を、樹は内心楽しんでいた。

 

「んじゃ、こっからが本番だぜ!」

 

樹は縮地を使い、一瞬で間合いを詰めた。

 

「なっ!速い!」

 

クロエは突然眼の前に現れた樹に、直ぐに対応できなかった。

 

「双砕牙!」

 

樹は身体を大きく捻り、右腕を振った。

 

「くっ!」

 

クロエは辛うじて剣でガードしようとするが、

 

――ガシッ――

 

その剣を、樹の右手がしっかりと握りしめた。

 

「何!?」

「そらよ!」

 

驚くクロエを、樹は剣を捻り、地面に叩き付けた。

 

「ぐあっ!」

「勝負あったな」

 

樹は仰向けに倒れるクロエの首筋に刀を当てた。これで決着はついた。

 

「くっ……私の負けだ。好きにするがいい……」

「そうか。なら、俺達の拠点に来てもらおうか」

「拠点?ここがアジトじゃないのか?」

 

この砦が樹のアジトだと思っていたクロエは、予想外の言葉に軽く混乱していた。

 

「こんな所が俺達のアジトなわけないだろ。いいから来い。セネルとシャーリーにも会わせてやるよ」

「……」

 

剣を奪われ、抵抗は無駄だと感じたクロエは、大人しく樹に連行された。

 

 

――バンエルティア号――

 

「あら。お帰りなさい」

「お前が行ってくれてたのか。ありがとう」

 

バンエルティア号に戻った樹と、連れてこられたクロエを、アンジュとセネルが出迎えた。

 

「クーリッジ!無事だったのか!」

 

クロエはセネルが無事だったことに安堵した。

 

「無事?何のことだ?」

 

対して、事情の知らないセネルはクロエの言っていることが理解できなかった。

 

「何のことだと?私はお前とシャーリーがコイツに捕まったと聞いて……」

 

と樹を指さしてクロエが事情を説明した。

 

「樹……貴方、またやったわね?」

「また?またとはどういう事だ?」

 

クロエは自分とセネル達の反応の違いに混乱した。そして当の本人は、笑いを堪えるのに必死だった。

 

「ごめんなさい。貴女は彼に、樹に騙されたの」

「騙された?」

「ええ。彼には山賊の退治を依頼していたの」

「それとお前の迎えもな」

 

アンジュとセネルが順を追って説明した。

 

「じゃ、じゃあ。私は迎えに来たコイツを山賊と勘違いして襲ったというのか?」

「そうなるな」

「だ、だが!コイツはそんな事一言も言わなかったぞ!」

「お前が聞かなかっただけだろ」

「しかし、コイツは確かにクーリッジとシャーリーを預かっていると……」

「俺は『よく働いてもらってる』って言っただけだぞ?」

 

しれっとした表情で言う樹。その場に気まずい沈黙が流れた。

 

「……またお前の勘違いだな」

「し、仕方ないじゃないか!あんな状況だったら誰でも……」

「そうね。そういう風に捉えられる言い方をした樹も悪いわね」

「まあ何も言う前に勘違いされたのは事実だけどな」

 

クロエは自分の早とちりで樹を襲ってしまった事を恥じると同時に、自分を騙した樹に怒りを感じた。

 

「まあ、こっちはいいストレス解消をさせてもらったからいいけどな」

「この借りは必ず返すからな!覚えていろ!」

 

そんなこんなで、アドリビドムにまた仲間が増えた。

 

 

 




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