TOWRM3 〜ThePlain's Walker〜   作:赤辻康太郎

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第十二話です。ガイダフ砂漠魔物運搬の中編(運搬終了)です。


第十二話

第十二話

 

 

−−ガイダス砂漠・オアシス−−

 

 

途中魔物の襲撃を何度か受けながらも、一行はオアシスにたどり着いた。

 

「や、やっと着いたあ〜」

「結構掛かったな」

「そうだね。それじゃあ……あそこに置こうか」

「分かった」

 

クレスが示した場所に檻を置き、鍵を外した。

 

「よし、後は帰って報告するだけだね」

「あ〜疲れた。早く帰ってシャワー浴びるわよ!」

「……」

「ん?どうした、レイン」

 

後は帰るだけだというのに、レインは辺りを警戒するように睨んでいた。

 

「……何か、来る」

「何?」

 

レインがそう呟いた瞬間−−

 

『シャアアアアッ!』

 

突如何処からか四体のサンドファングが出現した。だがサンドファングは

樹達には目もくれず檻へと向かっていった。

 

「あいつら……一体何処から……」

「何処だっていいでしょ!檻に向かってるんだから早く帰りましょうよ!」

「……そうだね」

 

一行がサンドファングを無視して帰ろうとした時−−

 

『ひ、ひいいいっ!揺れてる!』

『うわあああ!く、暗い!何だここは!』

 

と檻の中から悲鳴が聞こえてきた。

 

「なっ!人の悲鳴!」

「ちょっと、どうなってんのよ!」

「早く助けないっ……樹!」

 

クレス達が悲鳴に驚き慌てて助けようとした時、樹はすでに駆け出していた。

 

『ッ!シャアアアア!』

 

樹に気づいたサンドファング二体が襲い掛かってきた。

 

「邪魔だ!瞬連刃!秋沙雨!」

 

樹は最初の一体を高速の連続斬り『瞬連刃』で斬り伏せると続けざまに次の一体に連続突きからアッパーカットを繰り出す『秋沙雨』で撃退した。

 

『フシャアアアアッ!』

 

だが先の二体の影から残りの二体が攻撃を仕掛けてきた。

 

「退けえ!!刹華っ!瞬光ぉ!」

 

樹は三体目を連続斬りで斬り刻み四体目をすり抜けざまに斬り裂いた。

 

「なッ!」

「まさか……こんな一瞬で……」

「樹、すごい……」

 

レイン達はあっという間の出来事に唖然とするしかなかった。だが、樹の次の言葉でさらに驚愕することとなる。

 

「大丈夫ですか!『ジョアンさん』!」

「え?!」

「まさかっ!」

「嘘……」

 

樹の発したジョアンの名前を聞いたクレス達は余りの意外性に驚きを通り越して呆然としていた。

 

「そ、その声は樹君かい!?」

 

樹が檻に近づいた時、檻の中から樹の名前を呼ぶ声がした。

 

「待ってください!今開けます!」

 

樹が檻の扉を開けようとした時、

 

「っ!樹、後ろ!」

「シャアアアアッ!」

 

一体のサンドファングが樹に牙を向け躍りかかってきた。一体討ちそこなっていたのだ。

 

「ちっ!」

「空間翔転移!」

 

樹が迎撃しようとした時、上空からクレスがサンドファングを斬り裂いた。いち早く我に帰ったクレスは即座に、敵の上空に転移し攻撃する奥義『空間翔転移』を使い樹のフォローに回っていた。

 

「悪いクレス。助かった」

「どういたしまして。それよりも早く!」

「ああ。ジョアンさん、今開けます」

 

樹は檻の扉を開けた。すると檻の中から見たことのない魔物が二体出てきた。

 

「うう……眩しい……」

「こ、ここは……」

「ひっ!やっぱり魔物じゃない」

 

出てきた魔物の姿を見てイリアはクレスの背に隠れた。

 

「ジョアン、さん?」

「貴女は確か、そうレインさん、レインだ。」

 

レインの名を呼ぶ魔物。やはり魔物はジョアンのようだった。だがレインもまだ目の前の魔物が以前会ったジョアンだとは到底信じられなかった。

 

「樹、本当にジョアンさんなのかい?」

「ああ。俺とレインを知ってるてのが何よりの証拠だ」

「それはそうだけど−−」

「言いたい事は分かってる。少し待ってくれ」

 

樹はクレスの言葉を遮るとジョアン達の前に片膝をついて座った。

 

「……お久しぶりです。ジョアンさん」

 

樹はジョアンの不安を和らげようと優しく話しかけた。

 

「おお。やっぱり樹君だ。あの時はありがとう」

「いえ。もしかしてお隣の方は」

「はい。以前話した友人のミゲルです」

「ミゲルです。はじめまして」

 

ジョアンと共に檻に入っていたのは、ジョアンが依頼するきっかけにもなったミゲルだった。ミゲルもジョアンと同様に魔物の姿になっていた。

 

「はじめまして。津浦樹です。ジョアンさん、失礼を承知でお聞きします」

「今の私達の姿のことですね?」

「はい。何故その様な姿に?」

 

ジョアンは一呼吸おいて語りだした。樹との会話で大分落ち着きを取り戻したようだ。

 

「正直に言えば私達にも分からないのです。あれ以来病もすかっりよくなり、村で畑仕事をして過ごしていました。ですがある時から違和感を覚えるようになったのです」

「違和感?」

「はい。居心地が悪いといいますか……まるで村が、いえこの世界そのものが自分の居場所ではないのでは、と感じるようになりました。その内に自分自身すら……」

「俺もジョアンと同じです。そして酷い頭痛がして意思を失いました。目が覚めた時には」

「檻の中だった、と」

 

ミゲルの台詞を引き継ぐように樹が言った。

 

「はい。どうやらこの姿になって村で暴れていたようです」

「俺も……もう、村には置いておけないと。まあこんな姿じゃあどうしようもないですけど」

 

ミゲルは自嘲気味に笑った。

 

「ああ。私達はこれからどうすれば……!」

 

落胆し、悔しそうに嘆くジョアンと乾いた笑いをあげるミゲル。自ら招いた結末とはいえ、この現実は余りにも受け入れ難いものだった。

 

「……くっ!」

 

何もできない自分の不甲斐なさに苛立ち、樹は舌打ちした。そして静かに立ち上がると一歩後ろに下がって刀の鯉口に手をかけた。

 

「……」

「……レイン?」

 

樹が刀を抜こうとした時、後ろで黙っていたレインが樹の前に出た。「一体何を?」と樹はじっとレインを見ていた。

 

「…………!!」

「「「「「!?」」」」」

 

レインがジョアンとミゲルの前に手を翳すと、レインの両手が光りだし、辺り一面を包み込んだ。

 

「うわっ!」

「きゃあ!」

「っ!」

 

その余りの眩しさに樹達は思わず目を塞いだ。そして目を開けると−−

 

「おお……!」

「こ、これは……!」

 

そこには元の人間の姿に戻ったジョアンとミゲルがいた。

 

「や、やった……人の……元の人の身体に戻った!」

「ああ、貴方達には本当に助けられてばかりで……なんとお礼を申していいか!」

 

ジョアンとミゲルは病が治った時以上の歓喜に満ち溢れていた。

 

「レイン……お前、どうやって」

「……わから……な、い……」

「うぉっ!」

 

レインはまるで糸の切れた人形のように崩れかけ、慌てて樹が支えた。

 

「レイン。おいレイン!どうした!?」

「……スゥ……スゥ」

 

レインは樹の腕に抱かれるようにして眠っていた。

 

「……ったく。無茶しやがって」

「本当ね。無意識なのか、レインの力なのか……よく分かんないわね」

「ともかく、一旦船に戻ろう。レインを休ませないと。ジョアンさん達も、一緒に来て下さい。ここは危険ですから」

「はい。分かりました」

 

ジョアンとミゲルを加えた一行は船へと帰還することにした。

 

「……うぃっしょ、と」

「樹」

 

レインを背負って進もうとした樹にクレスが話しかけた。

 

「……分かってる。船に帰ってから話すよ」

「分かった。約束だよ」

 

クレスは樹の答えに頷くとイリア達に続くように歩いてき、樹もそれに続いた。

 

「ふうん。あれが貴方のお勧め君?」

 

樹達が去った後、二つの人影がオアシスを望む岩場の陰から現れた。

 

「ああそうだよ。どうだい?気に入ったかい?」

「うーんと、まあ及第点ってとこかな」

「厳しいねえ。取り敢えず見るものは見たから報告に帰ろうか」

「はーい♪」

 

樹達のいた所を一瞥すると、人影は去っていった。

 

 

−−バンエルティア号・ロビー−−

 

 

船戻った樹は直ぐに医務室に行きにレインをベッドに寝かせた。アニーの診察によると、やはり眠っているだけで身体に異常はないとのことだった。その後ロビーで今後の方針の相談も含めアンジュに報告した。

 

「そうねえ。なら私のいた教会に頼んでみましょうか」

「ほ、本当ですか」

「勿論、お二人がご了承して頂けたらですが」

「も、勿論お願いします!」

 

アンジュの申し出を受け入れ、ジョアン達はアンジュのいた教会に保護されることになった。

 

「……さて、樹」

「……分かってる」

 

ジョアンとミゲルを部屋に送り届けたあと、アンジュは樹に向き合った。

 

「思いたったのは研究室でコクヨウタマムシを見たときだ」

「今朝のアレね」

「ああ。アレを見たとき人間にも同じことが起きるかもと思った。それで真っ先に思い浮かんだのが−−」

「ジョアンさん」

 

樹はクレスの言葉に静かに頷いた。

 

「じゃあ今朝の話っていうのは……」

「ああ。モラード村かその近くでの依頼がないかと思って。ジョアンさんの安否が気になったからさ」

「けど、どうして相談してくれなかったんだい?」

 

クレスはどこか悲しげに樹に聞いた。

 

「別にしようと思えばしたさ。けど確信がなかったし、何より……俺自身信じたくなかったんだ」

 

樹は天井を仰ぎ見た。その表情は己の力不足を嘆いているように見えた。

 

「……事情は分かったわ。けど、今度からは私達にも相談してね」

「僕らも力になれるかもしれないしさ」

「分かった。サンキューな」

 

樹はぎこちなく笑うとそのまま自室に戻った。

 

それからというもの、樹はふさぎ込む事が多くなった。いつもはしないミスを犯したり、皆と話している時もどこか上の空で、何より自分から同行をかってでたり誘ったりしなくなった。そんな樹を、カノンノとレインは心底心配していた。

 

「……樹……」

「どうしたらいいんだろう……」

 

何とか樹を元気にする方法はないかと二人が悩んでいた時、

 

「どうしたのよ、お二人さん。暗い顔して」

「何か悩み?」

 

スタンとルーティが二人に話しかけてきた。

 

「あ、スタンにルーティ」

「実は−−」

 

カノンノはスタン達に自分達の悩みを相談した。

 

「樹ねぇ……」

「そう言えばここ最近元気ないなあ」

「ねえ。どうしたらいいと思う?」

「うーん」

 

カノンノに相談されてスタンは腕を組んで考えてみた。

 

「やっぱり一緒にいて励ますのが一番だとは思うけど」

「それができないから悩んでるんでしょうが」

「そうだよなあ」

 

だが妙案は浮かばなかった。

 

「あとは……何か気分転換できることがあればいいんだけど」

「気分転換……」

 

何か気分転換できるものはないか考えていると、

 

「そうだわ!」

 

ルーティが何か思いついたようだ。

 

「何、何かいい考えが浮かんだの!?」

「ええ。とびっきりのがね♪」

 

興奮気味に聞くレインにルーティはウィンクして答えた。

 

「……何か嫌な予感がする」

 

ルーティの笑顔を見て、スタンはポツリと呟いた。




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