「なんだと……?」
カズマが何やら因縁をつけられていた。相手は酔っ払いなのか、かなり無茶苦茶な事を言っていた。
「だからよぉ、お前さんが足を引っ張ってんだろォ? あぁ、良いねぇ、あんなかわいくて、しかも強いヤツらと組めるなんてよ」
ギルド内で爆笑が巻き起こった。コイツら……。俺が少し前に出ようとしたら、カズマが止める。カズマが止めるなら、まあ……、と俺は引く。
「おいおい、どうしたんだよ? 二人して、ビビってんのかぁ? なんだよ、男共はそろって全然役立ってねぇみてぇだなぁ? 本当に変わってもらいてぇよ、さぞかしいい思いをしてるんだろぉ?」
まだ、我慢すんのかよ、カズマ。
「カズマ、相手にしてはいけません」
「そうだぞ、カズマ酔っ払いの言うことなど、捨ておけ」
「あの男、あんたら二人に妬いてるのよ、男の嫉妬は見苦しいわねぇ」
そうやって、なんとかこの三人がフォローしてくれるおかげで、何も思わないカズマなのだろう。ちなみに俺も何も思わない、世の中には知らない方が良いって言葉もあるのだろう。
「けっ! お前と良いソードマスターの兄ちゃんと良い! 他の子におんぶで抱っこかぁ!? 羨ましい限りだよ! 苦労知らずで、幸せなもんだよなぁ!!」
ブチッという音が聞こえた気がした。
「だったらぁぁぁぁ!!! 変わってやらぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああ!!!!!」
まぁ、そうだよな……。
男はハッ? とちょっとだけ意味がわからないという顔をしている。それに追撃するカズマ。
「変わってやるっつってんだよ!!!! というかお前!! さっきなんつったぁ!!?」
「え、いや……苦労知らずで幸せっつったが……」
「そのもっと前だよ! 一番初めの方だ言ったヤツだぁぁぁ!!!!!」
「え……? あ、あんなかわいくて、強いやつらと組めるなていいな……」
「そこだぁぁぁぁ!!!! かわいい!!!? 強い!!!? どこがだぁぁぁぁ!? お前の目にはそう映ってるのか!!? だったら交換してくれよ、この俺の目とよぉぉぉ!!!!!」
え? と三人が揃って言う。
「変わってやるよ!! せっかくだからなぁぁ!!!!」
「え? いいのか? い、いやぁ隣の芝生は青いって言うだろ? そ、そのお前らを羨ましがる連中は少なくないんだよ。そ、その一日変わってくれるなら、い、いいのか?」
「あぁ、問題ねぇよ。お前のパーティには俺とリュウトが入るから」
「俺もか、まあいいぜ」
その提案に俺も乗ると、アクアが。
「あの、私達の意思は通らないの?」
「通らん!」
そう言って、ズカズカとコイツのパーティに入っていく。
「よろしくな、今日一日」
「よろしく」
俺達二人は、別のパーティメンバーに入っていくのだった。
―――――
「俺はテイラー。クラスはソードマン。このパーティのリーダーみたいなもんだ、今回は俺の命令に従ってもらうぞ?」
「あぁ、そっちの方が助かる。命令だすのって結構しんどいし」
「え? お前がリーダーやってたのか?」
「あぁ、カズマがリーダーだぜ?」
「そ、そうなのか……」
そして次に女の子が自己紹介をする。
「私はリーン。見た通り、ウィザードよ、魔法は中級まで、まあよろしくね。ゴブリンぐらいだったら、楽勝よ、守ってあげるからね。駆け出し君」
ほう、本物の魔法使いか。やっぱりあっちより、全然使えるんだろうな。だったら心強いってもんだ、結構楽できそうだな、このパーティは。
「俺はキース。アーチャーをやってる。狙撃が得意だ。よろしく頼むぜ」
さてと、じゃあこちらも。
「俺はカズマ。クラスは冒険者だ。えっと得意な事とか言った方がいいか?」
そう言うと、吹き出す三人。なんだ? クラスだけでこんな扱い受けるのか。
「俺はリュウト。ソードマスター。まあ駆け出しだからあんまり期待されても困る」
「俺よりクラスが上か、まあ、経験で言えば、俺達の方が上だからな、えっとカズマには荷物持ち、リュウトはいざって時に回ってくれ」
「まあ、クエスト報酬はちゃんと五等分してやるからさ!」
そう言って、小バカにした感じで言っているキース。そんな事はどうでも良い。それよりカズマだけそんな楽なポジションとか、ふざけんな、それで金まで貰えるだと? ぶっ飛ばされてぇのか!!!
まあいい。リーダーの命令だ。従わなければ。むこうからは何やら声が聞こえてくる。アクア達の声か?
「これだけ揃ってれば、どこでも楽勝だよ。だけど、今回は無難な所で頼む!」
今回は、って……次も頼むのか? 全然問題ないが、むしろアイツらが持つかどうかが、気になるな、カズマほど、頭が回るのか? バカっぽく見えたが……。
「さてと、今回はゴブリン退治だ。今から出れば、深夜には帰れるだろうぜ、それじゃ新入り、早速行こうか」
なんというか、嘗められてるなぁ……俺達。
―――――
ゴブリン、知る人と知るメジャーモンスターだろう。何気に俺もワクワクしてる気持ちがある。だが、今回はいざって時に出ろと言われた。これは実質、お前の出番は無いと言われてるのと同じだろう。
ゴブリン自体はそこまで強くなく、群れで移動し、武器を扱ったりするモンスターだ。普通は森に棲むらしいのだが、今回はなぜか、隣街に続く山道に棲みついたらしい。それの討伐だ。俺達は山への道すがらを楽しんでいた。
「しかし、どうしてあんな所に棲みついたんだろう まあおかげで、美味しい仕事ができた訳だけど」
ゴブリン一匹に二万エリス。強さは知らないが、リーンが美味しい仕事と言ってるという事はそうなのだろう。ちなみに俺はカズマの荷物を分けて持っている。これも筋肉トレーニングだ。そこまでキツい仕事でもないし、いや、こんな事したら、もっとカズマが楽になるのでは? いや、まぁ……いいか。
やがて、何も問題なく、目的地まで辿り着く。山だ。山と言っても、日本のように緑豊かというよりは、茶色い岩肌が占めていた。
所々、茂みがある程度、まあ仕方ないな。しかし、だったらもっと不明だ。なんでこんな所にゴブリンが引っ越したのか。やっぱり何かあるのか……?
そして、道の途中で止まり、いったん地図を広げる。
「ゴブリンが目撃されたのは、この山道を登り、ちょっと下った所だ。山道の脇にでもゴブリンが棲みそうな洞窟があるかもしれない。ここからはちょっと気を引き締めるぞ」
おぉ、なんか冒険者っぽい。ぽいぞぉ!! 敵のど真ん中で、爆裂魔法撃ちたいとか、酒のみたいとか、そんな事言ってる、俺のパーティの方がおかしんだよなッ!
そろそろか、全員が視線を合わせ、コクリと頷く。ぽいね。山道は完全な一本道。険しい岩肌の山。道は五、六人程が並んで歩けるぐらいの広さだ。道の片方には山のような岩肌、逆の方は崖だ。
そして、徐々に進んでいくと、カズマが。
「敵感知に引っかかった。でも一体だけだ」
一体だけ? おかしいな。群れで行動するんじゃないのか?
「カズマ……敵感知スキルなんて持ってるのか? というか、一体だけ? それはゴブリンじゃないぞ? だがこんな所に一体で行動するモンスターなど……いないはずだが。茂みに隠れた所で、すぐに見つかるだろう。向かい打つか?」
そこでカズマが。
「いや、茂みに隠れても、多分見つからない。潜伏スキル持っているからな。確か、このスキルはスキル使用者に触れていると、パーティメンバーにも効果があったはずだ。せっかく都合よく茂みがあるんだ。隠れよう」
その言葉に三人は驚きながら、茂みに隠れる。そこはさすが、場数を踏んだパーティメンバー。こういうのを怠ったりしないようだ。
そして、隠れながら、チラリとそちらを見やると、そこには真っ黒い体毛に覆われた。サーベルタイガーみたいなのが居た。なんだ? アイツ? 今までに見た事ないタイプの魔物だな? 強いのか?
「「「……っ!!」」」
三人がより一層、カズマに力を入れた。
そして、その真っ黒いサーベルタイガーは去っていく。
「ぷはー……ねぇ!! 今の初心者殺しだよ!! 初心者殺し!!!」
「し、心臓止まるかと思ったぜ……なるほど、ゴブリンは追いやられたという訳か、ヤツに……」
「ああ、しかし厄介だな。よりによって、帰り道の方に向かっていった。これじゃ街に逃げれない」
カズマと俺は二人して。
「「えっと、そんなにヤバいのか? さっきのやつ」」
その言葉に三人はどうして知らないの!? という顔で見てくる。なんだよ。しょうがないだろ。知らないんだから
「初心者殺し。あいつはゴブリンやコボルトなどの傍をウロウロして、初心者に美味しい獲物の近くに近寄り、初心者を狩るヤツだ」
「「何それこわい」」
またしても、ハモった。そう言うと、カズマの荷物を持ちだす三人。
「もしも、初心者殺しにあったら、カズマは身軽な方がいいからね」
リーンがそう言う。
「「べ、別に俺達はお前に頼りきってる訳じゃないからな」」
ツンデレかッ!!
初心者殺しが戻ってくる気配もないようで、着実に進んでいく俺達。そろそろゴブリン達が目撃された所だ。テイラーがカズマを見て言う。
「どうだ? 引っかかったか?」
「ありますとも……たくさん。この山道を下ったその先の角を曲がると、一杯いる。初心者殺しの気配は今はもう無いな」
たくさんつってもどれぐらいだ? ビリビリ気配は感じるが、正確な数まではわからん。
「たくさんか、だったらゴブリンだな。ゴブリンは群れるし」
気軽に言うキース。
「いや、ゴブリンと戦った事ないから、知らないけど、本当にこんなになのか……? ちょっと数え切れないぞ」
若干不安を覚えているカズマ。
「カズマもこう言ってるんだし、ちょっと何匹居るか、こっそり様子を伺ってからでも…………」
リーンが言い掛けた途中で。
「大丈夫、大丈夫! カズマにばかり活躍されちゃ、たまらねぇって!!」
そう言って、飛び出すキース、テイラーも続いて飛び出す、すると二人同時に。
「「ちょっ!!? 多い!!」」
叫ぶ二人に続いて、俺達三人も角を曲がる。
そこには、三十はくだらない数のゴブリンの群れが居た。やっべ、ちょっと集まりすぎて気持ち悪い。さすがにこれはマズくないか?
「だから言ったじゃん!!! 私、カズマがこう言ってるんだしって!! 様子伺ってからでもって!!!」
「ゴブリンなんて、多くて十匹だろうが!! ちくしょう!! このまま逃げたって初心者殺し! ええい、やるぞ!!!!」
ゴブリン達が山道に上ってくる。つまり俺達が上に居るという事だ。そんな事を考えていたら、矢が飛んでくる。結構な数だ。だが、意味は無い、単調な動きを避けれない程、俺は落ちぶれちゃいないが……。
「『ウインドブレスト』!!!」
とっさにカズマが魔法を唱える。これでなんとか、リーンが魔法を唱えれる時間を稼げたはずだ。カズマの魔法で飛んできた矢を多少飛ばす事に成功している。そして――。
「『ウインドカーテン』ッ!!」
カズマとテイラーの周りを緩やかな風が吹き出した。ほう、ちゃんとした支援魔法か。すっげぇな、こんなに使えるのか。
「つまり、こんな場所こそ! こういう手が効くのではないだろうか!!! 『クリエイトウォーター』」
そう言って、広範囲に盛大に水を降らせた。なるほど、考えたな。
リーンが叫びながら。
「カズマ一体何をして――ッ!!?」
「『フリーズ』!!!」
氷結魔法。これでゴブリンの足元には氷が一面に覆われた。ゴブリン達は氷に足を滑らせ、盛大に転んでいる。
「でかしたカズマ!!! これなら余裕だぜ!!」
キースがそんな事を叫びながら、カズマとキースとリーンとキースと俺で、ゴブリンを狩っていった。今までに無い位に凄く楽な運びをしていたので、俺も凄く驚いていた。カズマってもしかしたら、結構凄いのではないのかと。
ゴブリンを討伐した、帰り道。
「くっく……なんだよ、あの魔法の使い方。聞いた事ねぇぜ? なんで初級属性魔法が一番活躍してるんだよ!!」
「本当だよー。私、魔法学院で、初級属性魔法なんて、覚える価値なしとまで言われたのよ? それなのに……ふふっ、何あれ!」
「やばいな……ハハハ!! こんなに楽に討伐できるなんてな!」
口々に先程の戦闘の話題を盛り上げる。それにしても、カズマは大活躍だったのに、俺は全然活躍できなかったな、良くて、ゴブリンを退治した程度だぞ……。
「おい、戦闘が終わったんだから、荷物よこせ。最弱クラスの冒険者には荷物持ちが基本なんだろ?」
「ちょ、悪かった! いや本当に!! 謝るよ。カズマ!!」
「ごめんね、カズマ!! というか同じパーティのソードマスターより活躍するってどういう事よ! おかしいよ!」
「ちょっ!!!」
俺がつい口を出してしまう。気にしてたのに……。
「あ、ごめんごめん」
ったく、まあカズマも冗談を言ってたらしく、吹き出す。あぁ、いいな、こういうのが冒険者パーティなんだな……そんな風に本当にみんなが楽しんでいた。そう、楽しんでいたのだ。だからこそ、気付かなかった。あの存在に。
「ッ!! 何かが凄まじい速度で来てる!!」
カズマが気付き、とっさにそちらに来てる影が見えた。『初心者殺し』。これはさすがに小手先のカズマでもどうする事もできない。
「おい、リュウト。お前の出番みたいだぜ?」
「おう、それじゃ、初スキルを出しますか」
俺は片手でショートソードを持つ。それを見て、三人が騒ぐ。
「や、やめろ!! ソイツは狡猾なんだ!! 駆け出しが……いくら強くても、駆け出しが相手していいやつじゃない!!」
「大丈夫ですよ。カズマばかり派手に動いたんだから、俺も少しぐらいは見せ場を増やさないと」
そうして、俺は剣を鞘に納める。そして……。
「『抜刀術』からの『瞬斬』」
一瞬だった。目にも止まらぬ速度で抜刀し、そして斬る。これは完全にスキル任せだ。そしてその一撃を受けて、初心者殺しを真っ二つにした。さすがスキル。ここまでできるのか……。ちょっと怖いわ。
「う、嘘……ほ、ほんとに凄すぎるよ!! 二人して、ふふっ、ふふふっ!!」
「初心者殺しを……? や、やべぇぞ、コイツら!! ハッハッハ!!!」
「お、お、お前ら本当に何者だよ……ひゃっひゃっひゃ!!」
そんなこんなで、俺達はギルドへと戻るのだった。
そして、冒険者ギルドの扉を開いた時だった。
「うっ……ぐすっ! ふぐ……。ガズマぁ……リュウドぉぉ……」
泣きじゃくっているアクアを見て、俺はそっと扉を閉じた。
「おい! その気持ちは心底良くわかるが! 頼むから閉めないでくれ!!!」
ドアを開けて、半泣きで食ってかかってくる今朝にカズマと俺に絡んできた男。名前は……確かダストだっけ? そしてアクア達の新しいパーティリーダーだ。
それにしても……酷いな。ダストは背中にめぐみんを背負い、アクアは白目剥いて気絶していたダクネスを背負ってる。しかも、アクアの頭には大きな歯型があり、よだれか何かは知らないが、なんとなく湿っぽい。
「えっと……何があったかよくわかったが、何があったかは聞きたくない」
「聞いてくれ、聞いてくれよ!!! 俺が悪かった!! 悪かったから聞いてくれ!! いや、街を出て、まず各自、どんなスキルを使えるか聞いたら、爆裂魔法が使えるとか言って、そいつはすげぇって言ったら、ソイツ勝手に爆裂魔法を何も無い草原に意味もなくぶっ放して、そこで現れたのは、初心者殺し! 肝心の魔法使いは倒れている。逃げようとしてもクルセイダーは勝手に突っ込んでいく!! 挙句のはてに……」
「よし、どうやら初心者殺しは報告してくれたらしいし、のんびり飯を食うか。新しいパーティ結成祝いだ!」
「「「おう!!」」」
三人が反応し、俺は。
「なんか、出会ったってだけで、討伐した事は報告してないらしいし、俺はそれを報告してくるよ」
「おう、頼んだ」
「俺の席もちゃんと残しておいてくれよ?」
「勿論だ!」
その言葉にダストはもっと驚く。
「なんだよ!! それ!! た、頼む! 悪かったから、今回は俺が全面的に悪かったから!!! 謝るから許してくださいッ!!!!」
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
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