「ちょっとどういう事よ!! だからアレを壊したのは私じゃなくて!!!」
そんな風にギルドの受付と言い争いをしているアクア。どうやらミカガミが曲げたオリの修理代として、二十万エリスを引かれているようだ。なんつーか、さすがにアクアが可哀想だな、あんな目に遭って、しかも自分がやった訳でもないのに、二十万エリスも差し引かれるとは……アイツはなんつー手土産を……。あ、俺のキャンセルでどうにかなるじゃね? そうしよう。
「アクア、任せろ」
「何よぉ……」
「あの、オリをちょっと貸して貰えます?」
「え? いいですけど……」
「『フルキャンセル』」
曲がっていたオリが徐々に直っていく。
「……ッ!! さすが、リュウトさん!!! ありがとう、本当にありがとう!!!」
「ま、さすがに、今回はな……」
俺がそう言って、再び、席に戻る。
「なんつか、お前がアクアの為に何かしてやると思わなかったわ」
「そうか? まあ、今回はさすがにアクアが可哀想だと思ったからな……まあ、別にアクアから貰った特典だ。たまにはアクアの為に使ってやっても、バチは当たらないだろ」
「そうか……」
そんな会話をしていたら、カランッ! とギルドの入り口から誰かが入ってくる、そして入ってきていきなり――。
「おい!! 佐藤和真! 峰沢龍斗!!!」
またかよ……。せっかく良い感じに終わりそうだったのに。
「聞いたよ! 佐藤和真! 君、ぱんつ脱がせ魔なんだってね!! それに峰沢龍斗の方は粘液まみれにするのが趣味だとか!!」
「「おい、ちょっと待て!! 誰が言ってたか、詳しく!!」」
おいおい、なんだってそんな変な噂が……あれか!!! あれなのか!!!? ジャイアント・トードの時のあれかァ!!? ふざけんなッ!! あれは俺の所為じゃねぇだろうがァ!!! くっそぉ!! 手伝えば良かったァァ!!!!
「そ、その……佐藤和真……虫が良い事を言ってるのは、わかってる……だが、その魔剣をかえしてくれないか? その代わり、街で一番の剣を買ってあげるから!!」
あれ? 俺から全部奪われたのに、まだ持ってるの? お金? そういえば、装備もどうやら新調したみたいで、変わってる。へぇ、さすがは、チート持ちって訳か、あれ? 俺なら絶対にできる気がしないのですが……。
「つかさ、お前がもし勝ってたら、カズマが何を言おうと、何をあげようと、アクアをコイツに返してたか? それなのに、お前が奪われた途端にこれか……? なんだよ、それ」
「ぐっ……そ、それは……」
「はぁ……まぁ、いいや、それ以前に返せないしな」
「は?」
と言って、ミカガミが顔を真っ青にしながら――。
「さ、佐藤和真……ぼ、ぼ、僕の魔剣は……ぁ……?」
そして、金の入った袋を見せて、カズマは無情にも。
「売った」
「ちっくしょ――――ッッッ!!!!!」
哀れなり、ミカガミ。というか、ミカガミであってたか? まあどうでも良いな。
―――――
「そういえば、前から気になっていたのだが、女神とは一体どういう事なのだ?」
「そうですね、一体何なんですか?」
ダクネスが聞いてくる。そういえば、この二人にはまだ言ってなかったな。俺がジェスチャーをカズマに送ると、カズマも頷き。
「そうね、二人には言っておいてもいいわ。実はね……私は女神アクアなの!!」
そう言って、決めポーズまでとった。そして二人はハモりながら。
「「という夢を見たの(ですね)だな」」
「ちょっとー!! どうして信じてくれないのー!!?」
日頃の行いだな。
そうして、今日も今日とて、ギルドでクエストを――、あれ? ぜ、全然良いのがない? どうして、こんな高難易度のクエストしかないんだ? んー……ちょっと情報収集でもするか。
「なぁ、どうしてこんなに高難易度のクエストしかないんだ?」
俺がギルドの酒場で良く飲んでるヤツと会話をした、コイツとは結構、飲みに来る時に話とかしてるしな、結構話しやすいヤツだ。
「あぁ? ああ、確か近くの古城に魔王軍幹部が住んでるから、モンスターが居なくなったらしいぜ」
「へぇ、魔王軍幹部ねぇ」
魔王軍幹部、字面だけ見ると、随分と怖いな。近々、相手をする事になりそうな予感もする……。い、いや、さすがにそれは……無いよな? クソ、完全に否定できないのが辛い!! まぁいい。最悪、チートを持ってるんだ、なんとかしてやる。
「それより、今日は酒盛りしねぇのか?」
「ん? あぁ、そうだな……今日はする事ねぇし、久々に飲もうぜ」
俺がクリムゾンビアを頼み、仲良く飲む事にした。
そしてその頃、クエストが無いという事で、ダクネスは鍛える為に一旦、自分の家へ、カズマとめぐみんは何やら爆裂魔法を打ちに行くようだ。え? なんでそんな危険な事をしてるのですか? カズマさん? めぐみんさん?
一方、俺は本当にやる事が無いので、高難易度がどうにかなるのか、確かめに一つだけ受けてみた。
内容は一撃熊討伐だ。名前通り、一撃で殺されるらしいから一撃熊と呼ばれているらしい。へぇ、結構強そうだ。俺が一人でそれを受けて、戦いに行く。
そんなこんなで、そこそこの遠出だ。俺は一人で行くのだが、特に問題は無いだろう。それにたまには一人旅も悪くない。
そうして、しばらく歩いていると、そこの森の木に血痕があった。え? 一瞬、俺の血の気が引いた。だが、すぐにそれがモンスターの血だとわかり、俺は深呼吸して、とりあえず、なんとか持ち堪えた。そろそろ一撃熊が出てくる場所まで来たのだ。
「さてと、そろそろくるかな?」
俺が一言そう言った瞬間だった。凄まじい速度で、その熊は来た。俺はとっさにショートソードを構えて、防御体勢に入る、だがそれでも凄まじい力で押された。
「ぐっ!!? な、なんつー……力だっ!!」
やだ! なんか久々に冒険してる感じがする!! 俺が軽くそんな変な事を思ったら、向こうはグルグルと唸り、そしてゴオオオオッと咆哮する。おそらく威嚇だ。だがそんなので、俺が恐れるとでも? ……俺の膝が笑っていた。
(こ、怖い!! コイツ!! 怖い!!!)
やっぱりダメだ!! 本当にアイツらと来た時にこれをしなくて良かった。やっぱり強力なモンスター相手に、スキルだけじゃキツいんだよ! クソ!! もしかしたら死ぬかもしれん……まぁ、死んだら死んだで、次はこっちじゃないどこかへと飛ばされればいいし、うん。きっと俺が居なくなっても誰も困らないもんね! あれ、そう思ったらちょっと泣けてきたぞ。
「クソがぁぁぁぁ!!!! 相手になってやるぜ、ゴラァァ!!!」
「グオオオオッ!!!!」
「ギャァアアアアアアアア!!! フルキャンセル!!!」
俺は必死に叫びながら、一撃熊の行動を不能にした。
「はぁ……これで、安心安全」
「グオオオオオオオっっ!!!」
「ギャァアアアア!!! フルキャンセル!!」
俺は声をキャンセルした。これでもう雄たけびをあげる事さえ、できない。そして、俺は一撃熊をショートソードで斬ろうとしたら、バギンッ!! と剣が折れた。
「……」
俺の心もバキンッと折れた。
「……フルキャンセル」
俺はコイツの硬さをフルキャンセルし、再び、折れた剣を使って、バッサリ、次こそ斬りつけた。
「……俺にはまだ早かったんだ。レベル13程度の俺が手を出して良い相手ではなかった……」
もし、2体居たら? ブルルッ寒気が……俺は死闘をするようなタイプじゃねぇよ……。ちなみに一撃熊は強く、レベルも上がったようだ。さて、そろそろスキルを開放する時が来た……! 何にしようか……。
「『抜刀術』? これにするか……。あとは……『閃光斬り』、これは強そうだな……。他には……『瞬斬』。あ、これもいいね」
そんなこんなで三つのスキルを身に付けた。初のスキルだが……選びはあっているのだろうか? まぁいいか。
―――――
それからしばらく経ち、いい加減、魔王軍幹部もなんとかしてくれねぇかなぁ? そんな風に俺が、文句をぶつくさ心の中で言っていたのだ。ちなみに武器は新調した、一撃熊の報酬が良かったので、もう少し良い剣を買ったのだ。そんこんなで、ちょっとだけ喜びに浸っていると、突如。
『緊急、緊急! 至急、冒険者の皆様は大至急、武装を整え、正門に集まってください!!! 緊急、緊急! 至急、冒険者の皆様は大至急、武装を整え、正門に集まってください!!』
んだぁ? なんだいきなり……? 俺はとりあえず、緊急の呼び出しに対して、正門へと集まった。そして、そこには真っ黒な鎧を身にまとった、首の無い騎士が居た。
(……デュラハンか?)
俺はそんな事を胸中で呟いた。デュラハン……なんつーか、超強そうなんだけど、なんでそんなヤツがこんな始まりの街に!!? 俺がちょっとばかり、逃げようかと画策していると、デュラハンが口を開く。
「誰だぁぁぁ!!! 毎日毎日、ポンポンポンポンッ!!! 私の城に爆裂魔法を打ってくる、頭のおかしいヤツはァァァァ!!!!!!」
……ん? 爆裂、魔法……だと? ま、さか……まさかぁ? 俺がギギギと油をさしてない機械のように、ゆっくりと仲間であるアークウィザード、爆裂魔法しか放てない。ネタ魔法だとバカにされているが、それしか扱えない。唯一と言っても良い存在の顔を見る。
そう、めぐみんだ。
「……」
どこ吹く風、という感じのめぐみんが口笛を吹きながら、そこに居た。俺は頭から持ち上げた。
「ぐぎゃあああ!! 痛い、痛いです!!!」
「めぐみんさぁん? 何をしていらっしゃったのでしょう……? えぇ? 何したゴラァァ!!!」
「わ、私じゃありませーん!!!」
「……チッ、まぁいい。別に悪気があったとも思えないしな……」
俺はとりあえず、めぐみんを放した。頭を擦るめぐみんに、少しだけ申し訳なさを感じたので、とりあえずフルキャンセルで痛みを消しておく。めぐみんはそれに驚いたが、俺は知らんぷり。そして、めぐみんの腕を掴みながら、デュラハンの前まで引っ張り出す。とりあえず、誠意をこめて謝るのだ!! そうすれば、きっと大丈夫! 誠意が伝われば、きっと許してくれるはず!!!
そうして、俺に続いて、他のパーティも来た。ちなみに共犯者はおそらくカズマだろう。ずっと爆裂魔法に付き合ってたらしいしな、あとコイツも悪気があった訳ではないだろうし。
「きさまかぁ!!? 毎日爆裂魔法を撃った、頭のおかしいヤツは!! 俺が魔王軍幹部だと知って、戦う気があるなら、堂々と城に入ってくるが良い!! その気がないなら、街で震えてるが良い!! ねぇ、どうしてこんな陰湿な嫌がらせするのぉ!? 始まりの街だからと思って見逃していたのに!!!!」
「……我が名はめぐみん!! アークウィザードにして、爆裂魔法を操る者!!」
そう口上して、俺は次に続く言葉を止められなかった。
「我は紅魔族にして、この街随一のアークウィザード。我が爆裂魔法を放ち続けていたのは、魔王軍幹部をこちらにおびき寄せる為の作戦。そして、まんまとこの街に来たのが、運の尽き!!!」
「……はあああああああああッッッ!!!!!?」
俺は頭を再び、掴んでしまった。そして、軽く力を入れる。
「ぎゃああああああ!!! 痛いです、凄く痛いです!! 泣きますよ!!? 本気で泣きますからね!!!」
「……すまん、つい熱くなった、だが、次はその痛みを継続させる」
そう言って、俺はデュラハンの所まで行き。
「すみまっせーん!!!! 次からは絶対に爆裂魔法を撃たせに行かせませんので! 今回ばかりはどうか!! ご慈悲をっ!!!!」
「……まあいい。俺はある調査をしに、あの城に住んでいるだけだ、だからその間、あそこに爆裂魔法は撃つなよ!!」
「それは私に死ねと言ってるのですか? 紅魔族は日に一度、爆裂魔法を撃たないと死ぬんですよ」
「嘘を吐くな!!! 貴様!!! 聞いた事ないぞ、そんな事ぉ!!!!」
くっそォ!! コイツは何がなんでも撃つつもりかァァァ!!!?
「ゼェゼェ、き、キサマがやめるつもりが無いなら、私にも考えがあるぞ……?」
そう言って、少しばかり、剣呑な雰囲気をまとわせる、そしてそれにビクッと反応し、めぐみんはすかさず、後ろのアクアに。
「先生!! どうか、お願いします!!」
丸投げだ。……おい。
「仕方ないわね、ここはアークプリーストである先生がなんとかして差し上げましょう! というかそいつの所為でクエストもまともなのが無い訳だしね!」
やる気は十分のようだ。なんというか……おい!!
「ほう、プリーストではなく、アークプリーストか……これは少々面倒になりそうだ。ならば……」
ビシッ! とデュラハンがめぐみんに指を指した。
何をするつもりだ? なんだか……超絶、嫌な予感しかしねぇんだけど……。
「お前! 一週間後に死ぬ!!」
とっさだった。俺はめぐみんの前に立ちはだかり、その呪いを――あれ? 俺の前にダクネスが居るんですが……。俺はそれに気付き、持ち前の瞬発力でダクネスを弾き飛ばして、呪いを受けた。
「…………てめぇ、ダクネス!! なんのつもりだぁ!!?」
「ぐっ……助けよとしたのに、この仕打ち……んぅ!」
ダメだコイツ……。
「まあいい……なんか、逆に悪かった」
俺がダクネスを起こす。そして、自分の体をあちこち触るが、なんともない……どういう事だ?
「なんともねぇんだが?」
「まさか、貴様が受けるとは、まあいい……自分がやられるより、仲間がやられる方が辛いだろうからな……」
「……っ」
めぐみんが苦渋の表情だ。え? 一応心配してもらってる? 良かったぁ、これで無反応だったら、泣いてた。
「貴様はこれから一週間後に死ぬ!!」
「……やっぱりそうなのか」
「……? 随分と冷静だな」
「いいや、仲間がやられる方が百倍怖いからな、まだマシさ」
めぐみんが俺の方を驚いたように見ている。フンッ、これは格好つけだ。正直に言ったら、超怖い!!! でも体が勝手に反応したからしょうが無いじゃん!!! 誰も俺を責めないでください!!!! どうにかならねぇのかァァァおォォォいィィィ!!!!! そんな風に内心、怯えている、俺。
「ソイツをなんとかして欲しかったら、俺の城に来い」
そう言って、デュラハンは去っていった。
そして、めぐみんが当然、歩き出す。
「おい……どうするつもりだ?」
「いえ、ちょっとあのデュラハンに爆裂魔法を撃って、その呪いを解除させます」
「……はぁ、おい! カズマァ!! お前も一緒にやってたんだから、一緒に来い! 全員でアイツをぶっ飛ばしてやろうぜ!!!!」
「あ、あぁ!! そうだな!!!」
そうして、全員がやる気を出して、いろいろと作戦を立てていた。俺はそれに満足していながら、そして気付いた。アクアが何か魔法を唱えて、俺の呪いを解いている事に。
「……あ、盛り上がってる所悪いけど、もう解除しちゃったわよ、呪い」
「「「……」」」
三人はなんとも言えない顔をしていた。
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