「金が欲しい……大量に……」
そんな切実な願いをギルドの中でいきなり言うカズマ。うむ、確かに欲しいが……でもどうした、いきなり。
「なんだっていきなり」
「そりゃ、お前……チート持ちのお前にはわからんだろうが、俺はチートなんてモノは一切無くてな! 毎日馬小屋暮らし! いい加減に安定した生活を送りたいんだよ!」
「ちょっと、カズマ!! 私はチートよ!!」
「うるせぇ!! 駄女神! お前が役立ってる所なんて、今の所、一つも見つかってないんだよぉ!!! カエルに食われるわ、何やらで足しか引っ張ってねぇじゃねぇか!!! それに借金もこさえてくるしよ!!! キャベツの報酬だって、もう底をつきかけてるんだぞ!?」
ちなみに、俺はそのキャベツの報酬でやっと、まともな装備品で整えている。鉄の籠手にに鉄の胸当て、マントもつけている。異世界らしさを演出する為だ。特に意味は無い。ついでに剣も新調したのだ。それはカズマも同じのようだ。
「なんですってぇー!! 私だって、回復で役立ってるじゃない!!!」
「まあまあ、その辺にしておけ、二人とも」
「そうですよ、それに、大量にお金が欲しいんでしたら、高難易度のクエストを受ければいいだけの話じゃないですか、幸い、ここには爆裂魔法を操る、この我が居るですから、まさにうってつけですよ!」
と決めポーズを取るめぐみん。ふむ、だが、安心、安全でクエストを受けたいという気持ちがある俺にとっては、そんな高難易度のクエストなどそもそも受けないし、最近は正直に言って、あまりチートも使ってない、というか使う場面がどうして、なかなか見つからない。最近使ったのだって、落書き消したぐらいだし、何それって感じだな。だから、正直言うと、多分、普通のチート持ちより、そこまで楽しんで異世界に来てないかもしれない、カズマは言わずもがな、だな……いや、多少は楽しんでるかもしれないが――そこら辺は俺は知らないしな。
「まあ、いいや。だったらさ、これを受けようぜ、ゾンビメーカー討伐、難易度もそこまで高くないし、高難易度なんて受けたら、死ぬぞ多分」
「ほお、ゾンビメーカー討伐か……確かに簡単そうではあるな」
「ふ、ふふ、ゾンビにあられもない姿に……はぁ、はあ、はぁ」
「ふっ、この私の爆裂魔法とどちらが強いか……!」
「ゾンビ? アンデット系なら、私の十八番じゃない! ぶっ殺してやるわ、さ、行くわよ! カズマ!! リュウト!!」
―――――
街はずれの丘の上。
ここには、お金の無い人や身寄りのない人がまとめて、埋葬される共同墓地が存在する。ここの世界の埋葬方法は土葬なので、ここに湧くアンデットモンスター討伐が今回のクエストだ。
そして、俺達は今何をしているかと言うと――。
「ちょっと、カズマ、お肉ばかり取ってないで、野菜を取りなさいよ、ほら! そこにある良い感じに焼けてるヤツ!」
「ふざけんな! お前、これ完全に焦げてるじゃねぇか!」
「カズマ、コーヒー入れてくれ」
俺はマグカップにコーヒーの粉を入れたのを、カズマの前にだし。
「おう、『クリエイトウォーター』」
水を入れて貰い、そして。
「『ティンダー』」
火で炙る。これで完成だ。
「便利だよな、その魔法。俺も覚えたいな」
ズズー、とコーヒーを飲みながら、俺はそんな事を口にする。めぐみんはそんなカズマの事を。
「おかしいですよ、何ちゃっかり、魔法使いよりも魔法を上手く扱ってるんですか、そもそも、初級魔法なんてスキルポイントの無駄とまで言われているのに、何ちゃっかり上手く扱ってるんですか」
「そんな事言われてもな、そもそもこうやって使うんじゃないのか?」
「こんな使い方聞いた事ありませんよ」
「へぇ、まあ、カズマって何気に機転が効くからな、キャベツの時とかも、割といろんなスキルを活用してたし」
「そうですね。カズマはずる賢いです」
「そうだな、カズマはこんなにいろんな扱いが上手いんだ。さぞ、私の扱いも上手いんだろうな、んんっ」
「おい、ダクネス。お前は少し、自制という言葉を学んでこいよ」
「んっ! リュウト、お前もなかなか……はぁ、はぁ」
あ、ダメだった。このドMクルセイダーに何を言っても、無駄だった。さてと、もう肉も野菜も一通り食ったし、いいか。
「あ、そうそう、一つ気になってる魔法があってな、この『クリエイト・アース』! これなんだけど、これってどう使えばいいんだ?」
そんな事を言って、手のひらからさらさらの砂を生成する。それを見て、めぐみんが。
「えっと、魔法で作った砂は良い作物が取れるんですよ…………それだけです」
「なになに? ちょっとカズマさん、畑作るんですか? 農家に転職ですか? クリエイトウォーターも使えるし、天職じゃないですか! やだー、プークスクス」
「『ウインドブレスト』」
「ぎゃあああああああああああ!!! 目がぁぁぁぁぁ!!!」
クリエイト・アースをウインドブレストで飛ばしたのか、考えたな……。つか、普通に敵に回したら厄介なヤツじゃねぇか。
「なるほど、こうやって使うのか」
「絶対に違いますよ!」
そんないつも通りの日常を満喫していた。俺達だった。
―――――
「ねえ、カズマ、リュウト、受けたクエストって確か、ゾンビメーカー討伐よね。そんな小物よりも、もっと凄いヤツが来るような気がしてならないのよね」
「やめろ」
「そんなフラグっぽい事言ってんじゃねぇ! 今日は何もイレギュラー無く、終わらせるつもりなんだからよ」
二人して、反論する。というか、わざわざ低レベルのクエスト受けたのに、そんなの居たら、マジ洒落にならねぇぞ。もはや詐欺だ。ったくよ……。
さてと、確か、カズマ『敵感知』持ってたよな? だったらここは任せるか。俺はそうして、カズマ頼りにしていたら、カズマが少しだけ不審そうな顔をした。
「敵感知に引っかかったぞ。一匹、二匹、三匹、四匹…………?」
あれ? 思ってたより多いな? ゾンビメーカーの取り巻きは二、三匹じゃねぇのか? まぁ、誤差の範囲か。
そんな事を考えながら、先に進んでいくと、墓場の中央が青白く光りだした。なんだ? 俺達は先に進んでいくと、そこの中心には大きな魔法陣、そしてそこには黒いローブの人影があった。
「……あれ、ゾンビメーカーなの、か? 違う気がしてならねぇんだけど」
「突っ込んでいいのではないか? 仮にゾンビメーカーでないとしても、アクアが居るんだ。なんとかなるだろう」
「ま、まあそうかもしれませんが……」
二人して、言っている。ダクネスなんてちょっとソワソワしてるし。はぁ……さてと、そろそろ決心して行くか。
と思った時だった。アクアが信じられない行動に移る。
「あ――――ッ!!!」
突然叫んだアクア。何を思ったのか、そのままローブの人影に走り出しやがった。
「やめろ!! 何する――ッ!」
俺の制止なんてモノともせず、走り出した、アクアがその人影に指を指し――。
「出たわね、リッチー! 私が成敗してくれるわ!!!」
…………ほわい? リッチー? リッチーってあの、リッチーか? なんかこう最強なイメージが滅茶苦茶強い。あの? え、待て、こ、ここはチートを使う場面なのか? そうなのか!? く、くそ、やってやるよ……な、なめんなよ! コラァ! つか、何アクアのやつ、突っ走ってやがる! やめろ、刺激するな! ここは後ろからソローリと動けなくすれば、完了だろうが! 俺は一応、お前からチートを貰った男なんだぞ!
そんな感じで、心の中で発狂している俺。そんなこんなで、ラスボスクラスの敵と相対する事になるかと思いきや。
「や、やめやめ、やめてくださーい!! 誰なの? どうしていきなり私の魔法陣を壊そうとするの!?」
「うっさい黙りなさいリッチー! どうせこの魔法陣でろくでもない事をしようとしてたんでしょう!? 何よ、こんな物! こんな物!」
ぐりぐりと魔法陣を踏みにじるアクア。それを泣いてしがみ付きながら止めるリッチー……? 取り巻きっぽいアンデットも止めようともせず、ボーッとしているし……何なんだ? なんか想像と違う。あ、そっか、ここって異世界だった。
しかも結構アレな感じの、そこまでああいうのを求めてる訳じゃなかった。うん。そうだよ、何をシリアスになってたんだ、俺。どうせこの世界の事だ。すべてがこんな感じになるに決まってんだろ。
「やめてー!! 本当にやめてください! ここにはいまだ、彷徨える魂を天に還してあげる為にしてる物です! ほら、魂達がどんどん還って言ってるでしょう!?」
あ、ホントだ。へぇ、でもやってる事は結構凄いけど、なんか虐められっ子みたいだな。
「そんな善行は私達アークプリーストがやるわよ!! 見てなさい!!」
そう言ってアクアは魔法を唱えた。
「『ターンアンデット』!」
そういって取り巻きのゾンビや魂を浄化させるアクア。だが――。
「あああぁぁぁ!! わ、私の体が消えちゃう! 成仏しちゃうっ!!!」
「あはははははは!!! アンタごと、成仏させてやるわ!! 愚かなるリッチーよ!! 浄化されなさい!!!」
「「やめろ」」
二人して、カズマは小剣を俺はチョップをして、止める。
「いったいわね! 二人とも! 何するのよ!!」
そんな事を言ってるアクアを無視し、とりあえずリッチーと話をする。
「えっと、大丈夫か? リッチー……で良いんだよな?」
「は、はい、大丈夫です。えっとありがとうございましたっ! おっしゃる通り、私はリッチーのウィズと申します」
そう言って、目深に被っていたフードを外すと、月明かりに照らされ、その顔が露わになった。そこには二十歳ぐらいにしか見えない茶髪美少女の顔が映っていた。
え? リッチーってもっとこう、骸骨的なモノをイメージしてたけど、案外普通なんだな。
「それで、アンタはここで何してたんだ? アクアの言うとおり、確かにリッチーがする事じゃない気がすんだけどよ?」
「ちょっとリュウト! こんな腐ったみかんみたいなのと喋ってたら、アンタにもアンデットが移るわよ!」
「カズマ、ちょっとコイツ黙らせてくれないか?」
「わかった、おい、アクア。お前ちょっと黙ってろ」
「カズマまで……もういいわよ!」
なんか、ちょっと可哀想になったから、あとでなんかしてやるか、あ、でもつけあがるのか……面倒臭いな。
「それで?」
俺が聞くと。
「あぁ、えっと……私は見ての通り、リッチー、ノーライフキングなんてやってます。それで、アンデッドの王なんて呼ばれるぐらいですから……私は迷える魂達の話が聞けるんです。ここの共同墓地の魂の多くはお金がない為、ロクに葬式すらしてもらえず、天に還る事なくここを彷徨っていましたから、私が定期的にここに訪れて、天に還りたがってる子達を送ってるんです」
「……良い話やなぁ……」
なんだこれ、普通に良い話だ。あれ? ここの世界のリッチーでこんなのばかりなの? わからないけど……なんつーか、悪いヤツじゃないよなぁ……。どうやらそれはカズマも同意らしい。なんつーか、ここに来て、初めてのまともな人なんじゃないか? そうだよな、こういうのってあれだよな……良いよな。
俺がそんな風にシミジミ思っていると、カズマが。
「確かに立派だとは思うが、それこそ街のプリーストに任せておけば良いんじゃないか?」
「え、えと、その……なんと言いますか。この街のプリーストさん達は拝金主義……と言いますか。いえ、そのお金が無い人は後回し……と言いますか……その……」
なんだか、言いづらそうだな。まあ根は良い人だからな、仕方ないか。
「つまり、アレだろ? この街のプリーストはお金優先で、こんな墓地には寄り付きもしねぇって事だろ?」
俺が言うと、ウィズが言いづらそうに。
「えと、その……そうです」
その場に居た、全員の視線がアクアに、アクアはすかさず目を逸らす。
「そうか……だったら、せめてここのゾンビ達を呼び起こすのはどうにかならないか? 俺達はそのゾンビメーカーを倒してくれってクエストを受けたんだからよ?」
「あ、そうでしたか……その呼び起こしてる訳じゃなく、私がここに来ると、私の魔力に勝手に反応して目覚めちゃうので……ここに私が来る必要がなくなれば、良いのですが……」
「ん? だったらよ?」
俺が名案を思いついた。
―――――
墓場の帰り道。
「納得いかないわ!!」
アクアがいまだに文句を言っている。そう名案とはアクアに任せる事だ。コイツは毎日暇してるし、問題ないと思った。あのウィズ自体は危険はなさそうなので、見逃す事にし、とりあえずは解決って感じだ。それにウィズの住んでいる住所を教えてもらったりした。ウィズはアクセルの街に普通に住んでいて、生活しているらしい。ちなみにマジックアイテムを売って、生計を経ててるとかなんとか。
それにしても、ダンジョン内とかには住んで無いんだな? なんてカズマが聞いていたら、そんな不便な場所に住むはずないですよね、なんて言われてたな、確かにその通りなんだがねぇ……なんだか、異世界感ってのがどんどん薄れていく感じがなんとも言えねぇ。
「それにしても、良かったですね、穏便にすんで、もしも、戦いになってたら、危険でしたからね」
「やっぱりそうなのか」
俺が何気なく言うと。
「当たり前ですよ。そもそもアクアの魔法がどうして効いたのかが不思議で仕方ありません」
おぅ……やっぱり怖いな。この世界。見てくれで判断するなって感じか。そういえば、リッチーのスキル教えて貰うってカズマが言ってたな、俺も付いていく事にしよう。だ、大丈夫……だよな?
そんな危険がいっぱいなクエストは――あれ? そういえば。
「そういえば、ゾンビメーカーの討伐はどうなったのだ?」
ダクネスがそう言い、俺以外の三人が――。
「「「あっ」」」
俺達は駆け出しですら、簡単に完了できるクエストをこんなにいっぱいの上級者パーティが居るのに、失敗したという事で、しばらく笑い話になってしまった。
―――――
「ここがウィズの魔法具店か?」
俺が言う。どうやら間違いは無いようだ。そんなこんなで、俺達全員で来たのだ。店の扉を開ける。カランという音が響き、ウィズが来た。
「あ、いらっしゃいませ! あ、カズマさん達、来てくださったんですか!」
と言って、歓迎してくれた。しかし……人が一人も居ない。ここあんまり繁盛してないのか? いやいや、毎日来てる人なんて居ないよな、そりゃ。うん。
「あら、ここはお茶も出ないのかしら?」
「あ、す、すみません! すぐに用意します!」
待て待て。待て! おかしいだろ! どこの世界にお茶を用意する店があるんだよ! あ、ここか!!? 異世界なら普通なのか……? ジェネレーションギャップって言うのか? 違うな。
「……さてと、そろそろいいか?」
カズマがそう切り出した。そう、今回の目的はスキルを増やす事だ。カズマがリッチーのスキルを与えられる。リッチーのスキルなんだぞ? カズマの手札はどんどん増えていくな、それに引き換え、俺は……。ま、まぁ『フルキャンセル』って言うチートスキル持ってるから問題ねぇよな。うん、問題なし!
だんだん、俺の存在意義が試されている気がする。そろそろ活躍しないと……最近一切役立ってない気がする。い、いや、そんな事無いよな? 俺ってちゃんとやってるよな? チートの癖にそこまで役立ってないって言われたら、自殺する勇気があるぞ、いやそれって勇気って言わないか。
「あ、それで、何か良いスキルないか?」
カズマが切り出した。それにアクアがすかさず反応を示した。
「ちょっと!! カズマ!! こんな、ジメジメした所が好きな、ナメクジみたいなヤツのスキルを覚えるつもりなの!? やめなさいよ!」
「ナ、ナメクジ……!」
ちょっとショックを受けているウィズ。確かにナメクジ呼ばわりされちゃぁな……。さてと、今回は俺が引き受けるか。
「おい、アクア、ちょっとお前は黙ってろ」
ずいずいと引きずる、アクアがまだ何か言ってるが、これでカズマもウィズと安心して話ができるだろう。なんだろう、なんで俺がこんな事してるだろう……本当にわからない。
イスに座りながら、俺達は二人の会話を聞いていると、どうやらウィズのスキルは誰かに使用するスキルばかりらしく、少しだけ申し訳なさそうに俺の方を見てくる。仕方ない。
「どれ、俺が喰らってやるよ」
「す、すみません!」
「気にするな。これもウィズの為……俺にはこの程度しかできねぇからさ」
ちょっと格好つけたが、あんまり似合わないな……まあいいや、後ろの視線にも別に気にしないし。
「さてと、どうしたら良いんだ?」
「えっと……とりあえず、手を貸してください」
「わかった」
そう言って、ウィズの手を握る。瞬間、俺の体から何かが吸われる。ん? 少しだけ力が抜けた。
「えっと、これが『ドレインタッチ』です……」
「へぇ、ドレインタッチねぇ……小手先と機転が効くカズマにはピッタリだな」
「おい」
カズマが文句を言いたそうにしてる。いやいや、文句なんて言えないだろうが、その証拠におい、とは言ったが、それに続く言葉がねぇだろうが。
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
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