時刻は夕暮れ、めぐみんは先に休むと部屋へと戻ってしまった。最初はそれも悪いかな? なんて思っていたようだが、長旅で疲れたのだろうか、すぐに眠ったようだ。
そして、今、目の前で繰り広げられている何か茶番劇のようなモノに視線を移す。
「お肉! お肉!!」
「いやぁ、母さんにはいつまでも若々しくいて欲しいからな! ほら! 白菜は美容に良いと聞くぞ!!」
「あら、あなたこそ、最近薄毛が気になりますよ? 添え物の海藻サラダの方が良いと思うわ!!」
がっつくなぁ。
久々に帰ってきた娘が寝ているが、それを一切気にせず、先程、俺たちが買ってきた食材を取り合っている。
献立は鍋。
俺はそれを軽くつつきながら、と言っても、目をギラギラさせながら、食べている二人を邪魔などできないから、あまり人気のない食材にばかり手をつけているが――。
なぜお金を払っているのに、ここまで遠慮をしなくてはいけないのだろう……なんて事を考えるが、紅魔族だし、関係ないか。というか結構貧乏みたいだし、前に見たしな、めぐみんの学生時代のヤツ……おそらく俺の想像を遥かに超えるぐらい金欠なのだろう。
そんな騒がしいが穏やかな食事を終え、風呂に上がった時だった。
人の気配がする。カズマに風呂を先に譲り、そのあとすぐに入った俺だった。後ろから迫る何かに気付き、とっさに身構えると、そこにはめぐみん母がいた。
「あら?」
「あ、すみません。なにか嫌な気配がしたので……どうやら気のせいだった――」
「『スリープ』」
「え?」
とっさに魔法を掛けられる。それに驚きを覚えながらも、猛烈な眠気に襲われ、バタリと倒れこんでしまった。こ、れは……? 一体何を考えているんだ……? 疑問に思いながら、どうする事もできないこの眠気に負けた――。
―――――
「……」
朝。
目を覚まし、昨日の事を思い出す。あれは一体何の真似だったのか、聞こうと思ったが、特にその必要はなくなった。
その後、仕事に行く親御さん。特に何をするでもない手持ち無沙汰になってしまった為――。
「めぐみんめぐみん。せっかくだし、この里を観光して欲しいんですけど」
アクアがそんな事をめぐみんに対して言う。
確かに、ここで何もせずにいるよりはそちらの方が良いだろう。というか断然良い。だが――タイミングというものがあるだろう。ここは仮にも魔王軍が攻め込んできている状況。そのためにわざわざ遠路はるばる来たのだ。
「おい、魔王軍と交戦中なんだぞ? なんだ、観光って……」
呆れ気味に言うカズマに対して俺は――。
「いいんじゃねぇか? 魔王軍と交戦中だけど、今の紅魔族の状況からして、特に困ってる事もなさそうだし」
そういう答えを出した。確かに、こちらに来たのはそれが理由だが、あれを見て、さすがに自分たちを必要と思うほど、思い上がってない。それはどうやらカズマも同意見のようだ。ならば、わざわざここに長居しなくてもいいかもしれないが、わざわざ来たのだし、観光ぐらいはしてみたいものだ。
「私も特に構いませんよ。里も特に問題がなさそうなので、テレポートでもうアクセルへ帰っても良いと思いますが、二人がそう言うのでしたら、今日一日のんびりして、明日、帰りましょう」
めぐみんの許可も貰った。
「へぇ、テレポート使いがいるのか、だったら帰りは楽でいいな」
素直な感想だろう。そうカズマが言う。
だがそれに対してのアクアの反応はこうだ――。
「『クズマ』さん。随分と嬉しそうね。それで私はめぐみんに案内してもらうけど、みんなはどうするの?」
「そうだな。俺も特にやる事ないし――おい、お前、今、なんて呼んだ?」
そう言うと、アクアはキョトンと首を傾げる。
「私、何かおかしな事言った?」
どうやらシラを切るつもりのようだ。
「え? いや……俺の気のせい……か? まあいいや。ダクネスお前はどうするんだ?」
鎧を手入れしているダクネスに向かって言うカズマ。それに対して――。
「私はちょっと行きたい所がある。この里には腕の良い鍛冶屋がいるのだ。鎧愛好家としては、ぜひ顔を出しておきたい。『カスマ』たちは遠慮なく、観光に行ってきてくれ」
「そっか、わかっ――おい、今なんつった?」
カズマが間髪いれずに言う。
「では、アクアとゲスマとリュウトの四人という事ですね? ここはいろんな観光名所があるので、退屈は――」
「ちょっと待てやこらぁぁぁあああああああああ!!」
さすがにもう我慢ならないとカズマが叫ぶ。いや、まあ……。声を張り上げるカズマに対して、キョトンとした顔でアクアが。
「どうした? 寝ているめぐみんにイタズラしようとした『クズマ』さん?」
「すみませんでしたっ……!!」
こういう訳だ。
おそらくというか間違いなく差し金はめぐみん母である。
だが、考えてもみて欲しい、思春期男子が、女の子と一緒の布団に寝ている……これだけ考えれば、そりゃ少しはそういう気分になるさ、仕方ない、と言っても、女性陣からしたら、それが大問題なのだろう。
「なんというか、まあカズマ、俺は味方だぜ? たとえ寝てる間にめぐみんに対してイタズラをしようとしたって、特に気にする事ねぇって、ほら、アレだ。不可抗力に近いさ! だからその……うん」
途中で目をそらしてしまった。
「おい、頼むから、味方するなら、最後までしてくれよッ!!」
そうは言うが……。さすがになぁ。
「またオークに襲われればいいんです」
……頼むからそういう恐怖を煽るような事言わないでくれよ。あれは無理。
―――――
その後、やっとめぐみんがカズマと口を聞いてくれるようになった。
そして今、いる場所は神社っぽい場所だ。そこにご神体があるらしく、それを見て、俺とカズマが同時に――。
「「なんだ、このスク水猫耳美少女フィギュアは……」」
なんでもこれは旅人が命よりも大事と言って、用意してくれたものらしい、そしてこの神社というのも、その旅人から教わったらしい。
絶対に日本人だ。間違いない。
「これが、私と同じ神様扱いされてるのが、腹立たしいんだけど?」
「お前が送ったやつの仕業だよ……」
そんな事を言いながら、次の観光場所は――。
剣が刺さっている場所だった。
なんでも、これを引き抜くと、強大な力を手に入れる事のできる聖剣らしい。
凄いな聖剣か……。これは素直に感動だ。その後、これを引き抜こう思っていたのだが、めぐみんに――。
「あぁ、挑戦するなら、結構経った後の方がいいですよ。あれは丁度1万人目が引き抜ける魔法を掛けてますから、まだ挑戦者は百人ぐらいのはずですよ。まだ四年ぐらいしか経ってないはずですし」
「随分と浅いじゃねぇか。歴史……」
そうツッコまざる得なかった。
「ねぇ、あの魔法、解除できそうだから、私やってきてもいいかしら?」
「ダ、ダメですよ! あれも立派な観光名所ですから!!」
必死に止めるめぐみん。本当にろくでもない事しか考えない女神である。
――続いての観光地は『願いの泉』と呼ばれるもので。
斧やコインを供物としてささげると、金銀を司る女神様を召喚できるらしく、今でも時折、ささげる人がいるらしい。
俺はその聞いた事のあるような話を流しながら聞いてる。どうやら定期的に鍛冶屋のおっさんが拾い、武器や防具としてリサイクルしているらしい。おそらくこの噂を流したのはその鍛冶屋だろう。
そんな事を考えていると、アクアがその泉に飛び込んでいた。
「ねえめぐみん! ここ観光シーズンになったら、私を泉の女神として雇ってもいいわよ!!」
「そうか、だったら今から何か投げるから、それを金にしろよ?」
カズマがそう言いながら、何、投げる物を探している。
「おい、いい加減、次に行くぞ」
このまましていたら、またろくでもない事をしでかす。さっさと次に行くとしよう。
次の場所は地下への入り口だった。
「おい、ここ何なんだ?」
俺がめぐみんに対して言うと、めぐみんは平然と。
「謎施設です」
「……なんだよ。謎施設って。ふざけてるのか?」
「『世界を滅ぼしかねない』物が眠っているらしいです。ですが、その何もかもが謎なので、謎施設です」
そんなのをずっと残してるのか……やっぱり琴線に触れてるのか……本当に意味のわからない事ばかりだな、紅魔族の里……。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
感想、批判。大歓迎です。