この素晴らしいキャンセルに祝福を!   作:三十面相

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今回も駄文ですが、温かい目で見ていただけると、幸いです。




紅魔の里

 

「めぐみんは学校生活時代は、魔法学でも魔力量、常に一番で……みんなも天才天才と言っていたのに、こんな爆裂魔法しか撃てない欠陥魔法使いに成り下がったと知られると……」

 

 欠陥魔法使い……何その名称。超面白い。笑えないけど、面白い。

 

「おい、欠陥魔法よばわりはやめてもらおうか。一応、威力だけなら、紅魔族随一のはずです。だから、その爆裂魔法の悪口はやめてもらおう!」

 

「その魔法を撃ったら、倒れるって時点で、欠陥って事にいい加減気付きんしゃい……」

 

「なんですとぉ!?」

 

 めぐみんが俺に掴み掛かってくる。

 

「お、お前!? お前が、他の魔法を使えたら、もっと楽になるのだって、わかってるだろうが!? 拘るのは悪くないが、拘って死ぬのは、馬鹿のする事だぞ!!?」

 

「い、いつかきっと、私は爆裂魔法を撃っても倒れなくなりますよ!」

 

「それは何百年後でしょうかー?」

 

「いい加減やめておけ、二人とも」

 

「言っとくが、お前だって欠陥クルセイダーだからな?」

 

「欠陥クルセイダー……んぅ!!」

 

 おっと、ドMクルセイダーには無意味だったか……。

 

 ゆんゆんはその後も、爆裂魔法の欠陥な点を言っていたら、ついにめぐみんも本気でキレだし、一触即発――という時に。

 

「おい、やっぱりこっちから人間の声が聞こえてくるぞ!!?」

 

 敵か? 俺は臨戦態勢に入り、とっさに刀を抜く。そうして、声のする方に向かって、一直線で走り出す。敵が多ければ、『フルキャンセル』でどうにかする事ができる。どうとでもなるな。

 

 そうしたら、一匹出てきた。そいつは耳が尖り、赤黒い肌のスリムな鬼だった。鎧もつけてるし。

 

「……おい、こっちに冒険者風の男が居るぞ!!」

 

 他に誰か居るのか?

 

「……! そっちに居るのは……! 紅魔族の娘二人も居るぞ!!」

 

「んー? 悪魔にすらなれない、悪魔モドキがなんか言ってるんですけどー? プークスクス。アンタ程になると、破魔の魔法が効かないのよね。見逃してあげるから、さっさと立ち去りなさい。悪魔崩れ?」

 

 ちょっと待て? 破魔の魔法が効かないって事は、お前、攻撃手段がねぇんじゃねぇのか?

 

「……っ!」

 

 ギリッと歯軋りをする鬼。ダクネスも大剣を構え、臨戦態勢だ。そうしていたら、後ろから同じような格好をしたヤツがちらほら……おお、結構な数だな……。

 

「見逃してやろうとか聞こえたんだが……こっちだって煮え湯を飲まされてんだ! 今更見逃すはずねぇだろうが!! 紅魔族の小娘も居るんだ! ぜってぇ八つ裂きしてやる」

 

「はぁ……」

 

 ため息混じりで俺は、相手にフルキャンセルと小さく呟き、動きを止める。止まった鬼はそれに驚き、戸惑いながらも必死にもがいている。その後ろに居た連中も、いきなり何してんだコイツ? みたいな顔をしている。

 俺は一歩、一歩とゆっくり近づいてく、それに動けない鬼の後ろいた連中は警戒を始める。

 

「動けないだろ?」

 

「て、てめぇ! 何をしやがった!?」

 

「まぁまぁ、落ち着けよ。もしもここで俺達を見逃してくれたら、俺もお前らを見逃すからさ。これでわかったろ? 実力の差がさ。本気を出せば、お前らを一瞬で消す事だって可能なんだぜ?」

 

「なっ!?」

 

「言っておくが、ハッタリじゃねぇ。俺だって別に博愛主義者じゃねぇんだ。殺すって言ってる以上、殺す事だって厭わねぇぞ……ん?」

 

 掌を鬼の胸に当てる、そして殺気が混じってる声をソイツの芯まで響かせる。鬼は一瞬、躊躇ったような顔をしたが、観念したのか。

 

「こ、ここはやめとこう……」

 

「なっ!? 何言ってやがる!」

 

「そうだぞ。折角のチャンスを!?」

 

「無理だ……俺達じゃ絶対に勝てない」

 

 そこそこ利口みたいだな。

 ま、俺はどっちでも良いけど、あの量はちと面倒だからな。こう言って納得してもらうのも一つの手だろう。幸い、向こうは話が通じるみてぇだしな。

 そうしてソイツの言葉を聞いて、とりあえず今回は逃げる事を選択したようで、鬼たちは逃げ出す。俺はそれを一瞥した後、後ろに居た連中の所に行くと。

 

「お前、結構脅しが得意なんだな」

 

「脅しが得意……ッ!?」

 

「だって、お前。さっきの俺でもちょっと怖かったんだけど、ウィズの時を思い出したぜ?」

 

「……ウィズかぁ。あれは怖かったなぁ、ってそんなにッ!?」

 

 それを知らないゆんゆん以外がコクコクと頷いてる。俺は正直少しショックを受けた。

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

 ようやく紅魔の里に着く。俺達が着いたのと少しの差があいて四人の集団も帰ってきたようだ。その集団は武器を持っていたり持ってなかったり、黒いローブを身に付けてたり、ライダースーツみたいな格好をしていたりと、全員の格好が同じではない。

 この中、共通してる部分と言えば、全員が紅魔族という事ぐらいなのだろうか。

 

「あれ? 靴屋のせがれ、ぶっころりーじゃないですか」

 

「ん? 冒険者風の人たちが居ると思ったら、めぐみんとゆんゆんだったのか!」

 

「はい。里のピンチと聞き、来ましたよ」

 

 ピンチ? と怪訝な顔をするぶっころりー。だが、俺達の方を見て、ちょっと嬉しそうにした後、真剣な顔になり……。

 

「我が名はぶっころりー。紅魔族随一の靴屋のせがれ。アークウィザードにして、上級魔法を操る者……!」

 

 唐突にそんな紹介をしてくる靴屋のせがれぶっころりー。

 本来、これを聞いた人は唖然とすると思うが、耐性がついてる人にとっては、こんな返しだってできる。

 

「我が名は峰沢龍斗。ソードマスターにして、いずれ最強となる者……!!」

 

 いずれ最強になれるとは思えないが、こんなのはその場のノリだ。

 カッコつけて左手で目を押さえる。ここなら、別にこれぐらいならできる。カズマも俺に続き。

 

「我が名は佐藤和真と申します。アクセルの街で数多のスキルを習得し、魔王の幹部と渡り合った者です。どうぞよろしく」

 

「「「「おおおおおぉ」」」」

 

 どうやら俺達の返しに驚きの声をあげる。

 

「素晴らしいよ。普通の人は微妙な反応を示すんだけど。外の人にそんな返しをするなんて……!」

 

 普通の人じゃないって自覚はあるんだな……。

 そんな事を思ってたら――。

 

「二人とも、随分とぶっころりーと仲が良いじゃないですか。私の時はそんな返しをしなかったのに」

 

 めぐみんが妙な事を口走る。どうやら、紅魔族の感性的にイラッとする部分があったのだろう。だって妬いてるにしてはおかしいしね。

 そんないまいちラブコメに発展するのか、しないのかが本当に微妙だなぁ。なんて思ってると。

 

「我が名はアクア! 崇められし存在にして、やがて魔王を滅ぼす者! そしてその正体は水の女神!」

 

「「「「そうなんだ。凄いですね!」」」」

 

 まったく信用してもらえない。というか俺だって、目の前の人が私は神ですとかイカれたとしか思えない。むしろ病院は勧める。

 

「待ってよー! なんで? どうしていつもそんな反応なのー!」

 

 当たり前である。

 

 そして、この場でたった一人、まだ紅魔式の挨拶をしてない人が居る。……ダクネスだ。彼女はたじろぎながら……。

 

「わ、我が名はダスティネス・フォード・ララティ……ナ……ア、ア、アクセルの街で……ううぅぅ」

 

 いつもと同じだ。だが気付いて欲しい。普段してる事の方がよっぽど赤面ものであると。

 

「紅魔の里へようこそ!! 外の人たち、めぐみんとゆんゆんもよく帰ってきたね!」

 

 俺達は紅魔の里で歓迎された。

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 その後、彼らは姿を消す。俺達はあの四人の強さはわからないが、全員がアークウィザードで上級魔法ばかり使うとか、向こうからしてみれば、ふざけんな。と言いたくなるだろうな。

 

 同情を禁じえない。

 

 ちなみに戦場へ戻る為に、テレポートを使ったのかと思っていたのだが、気配があるので、おそらく姿を消す魔法を使ってるだけだと思う。

 

「テレポートを使ったのか!! なんかカッコいいな! 戦闘のエキスパートって感じで!」

 

 カズマがそんな子供のようなキラキラした目をしていた。…………また夢を一つ崩されるのか。またしてもって感じだ。

 

「そうですか。きっと喜んでると思いますよ。そこら辺で」

 

「そこら辺? 何言ってるんだ? テレポートで飛んで行っちゃったじゃないか?」

 

「光を屈折させる魔法で姿を消しただけですよ。テレポートは魔力を大量に消費しますから、そんなに何度もポンポン使える訳ではないので、おそらくそこら……あいた!?」

 

 小石が飛んできた。ほーら。また一つカズマの夢は崩れ去る。

 

「ちなみに、人や物を指定して、数メートル内に結界を張り、姿を消します。ですから近くに寄れば見えますよ」

 

 それを聞いたアクアが無言で近づく。それに反応して、足音が聞こえた。そういう訳。

 

 何時の間にか、追いかけっこが始まっていた。

 

 ちなみに聞いた話によると、彼らはニート集団らしい。先ほどカッコイイ事を言ってばかりいたが、蓋を開けてみると、そんなモノだと俺達に教えてくれるらしい。

 それにしても高スペックのニートとかあまりにも才能の無駄遣いすぎる。きっとコイツらがもっと頑張るようになれば、魔王との戦いもすぐに終わりそうだと思うんだけど。

 

「紅魔族は大人になれば、上級魔法を覚えられるようになりますから……なのに」

 

 とゆんゆんはチラリとめぐみんを見る。まあめぐみんはそんなのを受け流してるが、ま、どう言おうと、めぐみんと爆裂魔法は一心同体レベルだからな。どう言っても、めぐみんが爆裂魔法以外のを覚える気が無いのだろう。

 俺は辺りをキョロキョロする。ここは小さな農村と言った大きさの集落で、春の陽気で呑気な連中ばかりが目につく。

 

 一応、今日来た理由はピンチの紅魔族を助けに来たという名目だったはずなのだが……どう見ても、魔王軍と交戦中には見えない。

 それはもう、拍子抜けもいいところだ。もしかしたら、あの手紙の内容は少し誇張したのかもしれない。そうした方がカッコいいからとかそんなふざけた理由で、いや、あり得ない話ではない。

 紅魔族は変わった感性を持っている。普通の人ならば恥ずかしいと思うような事を平気な顔でやるような人たちなのだ。それぐらいしても不思議ではない。

 

 そんな風に考えながら、歩いていると、ダクネスが。

 

「おお、これは随分と立派なグリフォンの石像だな。名うての彫刻家が彫った物なのか?」

 

 めぐみんは平気な顔で。

 

「いいえ、それはグリフォンを石化魔法したモノですよ」

 

 

 ……やはり紅魔族は高スペック変人集団だ。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


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