この素晴らしいキャンセルに祝福を!   作:三十面相

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今回も駄文ですが、温かい目で見ていただければ、幸いです。


今までもっとも強いかもしれない敵 『安楽少女』

 ウィズの魔法を受けて、目を開いて、広がっている景色は、水と温泉の都アルカンレティア。

 正直、あまり良い思い出がない為、すぐさま、逃げ出したいというのが本音である。アクアは目を輝かせ、辺りを見回し、カズマの裾を引っ張り。

 

「ねぇ、ねぇ!」

「言っとくが、ここはすぐに出るぞ」

「なんでよー!」

 

 まるで、子供のような反応をするアクアに対して、面倒臭そうにしながら、カズマは先に進む。

 おそらくゆんゆんよりも早くにここまで着いた俺達は、すぐさま、この街を後にする。

 

 ちなみにここからは商隊で行く事ができないぐらい、危険な場所らしい。

 

「どうやらこの街から、二日程で里まで着くらしいから、ここからのモンスターは俺の『敵感知』とお前が頼りだからな?」

 

「おう、カズマを先頭に先に進むか」

 

 テキパキと事が運んでいく事に若干の不安を覚えながら、俺達は先に進んでいく、今回もしかしたら、また魔王軍幹部と戦うなんて、ふざけた事になる危険性がある。

 

 正直、あまり相手にしたく無い相手ではあるが、今まで戦ってきた相手で、俺が死ぬ目に遭ったのは……冬将軍のみだ。

 それを考えてみると、魔王軍幹部よりも、もしかしたら、そこら辺に居る敵のが強いのかもしれない。

 

「そういえば、リュウトってレベルどれぐらい上がったんだ? 俺は14でさ、最近新しいスキルの『逃走』を手に入れたんだよ」

 

「んー? あぁ、そういえば、あんまり興味なくて、見てなかったな。えっと……29だな」

 

 結構、上がってんだな。

 

「フフン、まだまだですね。私は33ですよ!」

 

 ま、アイツは広範囲の魔法があるからな、一気に倒す事だって可能だ。俺はそっち系は無いからなぁ……刀一本だし、ちょっと射程があるのだって、風斬りぐらいだしなぁ。

 そんな会話をしながら、歩いていると、俺がピクッと何かに反応した瞬間、ダクネスが。

 

「おい、そこに誰か居るぞ?」

 

 その言葉に俺達の視線が一箇所に集まる。そこには、林の入り口に出っ張った岩に腰を掛けたボロボロの緑髪の少女が居た。

 こちらに気付いたのか、小さく手を振っている。俺は別にロリコンじゃないが、手を振り返す……笑顔で。

 

 その少女はチラチラと自分の包帯の巻いた足を見ては、痛そうに顔をしかめる。

 俺はその顔にちょっとだけ、不憫と感じて、近づき『フルキャンセル』を掛けてやろうとしたら、それよりも早く、アクア、めぐみん、ダクネスが近づく。

 

「ちょっと怪我してるじゃない。あなた、大丈夫?」 

 

 そう言いながら、彼女の元へ急ぐが、その前にカズマがガッと肩を掴む。それで。

 

「おい、敵感知に反応する。アイツ、擬態したモンスターだ」

 

 ギョッとした顔をする三人。うん、知ってた。知ってるけどさ……もしかしたら、良いモンスターだって居るかもだし。俺は彼女を助けたいって気持ちが湧くんだけど。

 カズマは遠巻きに警戒を強めながら、離れようとする。それに対して、悲しそうな表情をする少女、これが全て演技か? えぇ、演技……かなぁ? 俺はちょっとだけ、カズマの肩を叩きながら。

 

「なぁ、大丈夫じゃないか? ちょっと可哀想じゃねぇか?」

 

「お前、いつもはもっと警戒心高めだろうが! 何、ちょっとああいうのが弱点な訳?」

 

「んー……かもしれない。少女とか少年というか、子供の為に命を掛けた事がある」

 

「……あれは、少女でも少年でもない。モンスターだ!」

 

 えぇ……。カズマが俺の表情を見て、露骨にため息を吐き、アルカンレティアから紅魔の里までのモンスター情報で、この少女に該当するのを探しているのだろう。

 どうやら見つけたようだ。俺に見せてくる。俺は音読する。

 

「『安楽少女』。その植物型モンスターは物理的な危険は無い、だが通りかかる旅人に対して、強烈な『庇護欲』を抱かせる行動を取り、それは抗いがたい、一度情が移ると、死ぬまで囚われる。一説では、かなり頭の良いモンスターではないか、と言われてる。冒険者は辛いだろうがどうか、駆除して欲しい」

 

 できるかぁ!!? ってこれが、あのモンスターの掌の中って事なのか……。

 お、恐ろしいが、俺にはどうやら無理のようだ。あ、決してロリコンではありませんので、あしからず。

 

「な、なぁ、カズマ。あの凄く泣きそうな顔をしてるが、本当にモンスターなのか?」

 

 ダクネスが珍しくも、オロオロとしながら、カズマに言う。うむ、女性陣は特にこういうのに弱そうだもんな。

 

「旅人がモンスターの傍に居ると、酷く安心した表情をするので、とにかく離れがたく、『善良な旅人』程、このモンスターに囚われるので、注意していただきたい」

 

「あの、カズマ、あの子。泣きそうな顔を必死に堪えた笑顔でこちらにバイバイと手を振っているのですが、ちょっと抱きしめてはダメでしょうか」

 

 カズマがアクアから手を離して、次にめぐみんの襟を掴む。俺はそのまま続きを読む。

 

「一度、囚われると、そのままそっと寄り添ってくるため、跳ね除けるのは困難。本来ならば、腹が減れば、旅人が離れると思うが、ここがこのモンスターの危険なところで、自らに生えている実をもぎ、旅人に分け与える。それは大変美味で、腹も膨れる。が、その実はまったく栄養が無く、どれだけ食べてもやせ細る。自らの実を千切ってる姿に、『良心の呵責』から食事を取る事すら無くなり、最終的には栄養不足で死に至る」

 

「くっ、たとえモンスターでも傷ついてる者を放っておくなど……!」

 

 そうして、先に進んでいく、ダクネス。俺はどうやら物理的に攻撃してこないようなので、とりあえず無視して、続きを。

 

「安楽少女の実は身体に異常をきたす成分が入ってあるのか、空腹や眠気、痛みなどが遮断され、寄りそう少女と共に夢見心地で、衰弱して死んでいく。年老いた冒険者はそれを求め、生息地へ向かう事から、『安楽少女』と呼ばれる由縁になっている。その後、その旅人の上に根を張り、それを養分とし――」

 

 それ以上は言っても無駄のようだ。彼女達がもう既に近くに行ってしまっている。

 だが、安易に触れようとしないのは、これも意味があったと言えるだろう。俺はこれだけ読むと、なんというか……なんとも言えない感情に支配される。

 

「とりあえず、近くによってもそこまで危険じゃない、みたいだな」

 

 俺がそう言うと、なぜか安心したようにしながら、三人は近づいてく。俺はそれに続いて、近づいていく。

 それをニコニコしながら見る安楽少女。しっかりと見てみると、包帯や怪我もすべて擬態のようで、この岩も擬態の一部みたいだ。

 

 どうやら、すべては庇護欲をそそる為に用意されているようだ。

 ここまで見てしまうと胡散臭くて、俺の中で庇護欲が徐々に薄れていく、どうやら俺は純真が好きみたいだ。

 

「おい、どうする。殺すか? 見たくないなら、みんな先に行ってていいけど?」

 

 俺の言葉に驚いた顔をする三人。

 

「な、何言ってるのよ!? まさか、この子を経験値の足しにするつもりなの!?」

 

 とアクアが庇うよう抱きしめながら、俺を批判する。だがなぁ……。

 

「それは命を奪うモンスターなんだぞ? 殺さなきゃ、ダメだろ?」

 

「で、でも、安楽少女と言う名前は知っていましたが、こんな少女を殺したりしませんよね? 二人とも、なんだかんだ優しいところがあるんですから、そんなそんな事……しません……よね?」

 

 手を握りながら、めぐみんがそう訴えかけてくる。まるで捨てられてる犬を拾うように縋る子供のように、二人して、ここまで言われてしまうと、さすがに、俺も決心が鈍る。

 

「いや、そのモンスターをここに残しておけば、もしかしたら誰かが犠牲になるかもしれない、辛いが、ここで討伐する方が……」

 

 そうダクネスが言うと、舌足らずな感じで、安楽少女が。

 

「コロス……ノ?」

 

 とめぐみんの手を縋るのように両手で掴んで、涙目でダクネスを見るのだ、俺はちょっとだけイラッとした。

 どうやら、ここまであからさまだと俺は苛立ちを覚えてしまうようだ、本気で殺してやろうか……。

 そう思っていると、ダクネスが安楽少女とまったく同じ表情で俺とカズマを見てくる。魅せられてんじゃねぇ! アクアもこっちに向かって、シャドーボクシングをはじめてる始末だ。

 

 なんだ? 俺か? むしろ、俺が悪いんじゃないのか? 俺、俺が悪いのか……俺が……。

 少しずつ、自分の事が疑心暗鬼になり始める。恐る恐るという感じで、俺の方を見ながら、安楽少女は。

 

「コロス……ノ……?」

 

 刀を収めながら、俺は……ガクッと膝を突く。俺はもうこれ以上戦えないようだ。どうやらいくらチートを持っていようが、こんな相手に矛先を向けるなんて、俺には無理みたいだ。

 

「カ、カズマ……もう去ろう……そろそろ限界に近い……」

 

 まるで決壊したように、俺の身体から罪悪感が滲み出てくる。

 今まで、この子を殺そうとしていた、罪悪感が俺を苛ませる。俺は今日以上に自分が悪者だと思った事は無い……。それはカズマも同様だ。

 

「良い? 二人とも……迷っている時に出した決断はね? どっちに進んでも、きっと後悔するものよ、だったら今、楽チンな方を選びなさい」

 

 う、うわぁ。ダメ人間製造機だな、この女神……。アクシズ教がああなる理由を垣間見た気がする。そうだな、こういう考え方したヤツがご神体だったら、それを崇めるヤツもああなって当然だわ。あぶねぇ……。

 

「カ、カズマ……お前、確か、レベルがこの中で一番低かったよな? だったらお前が倒すべきなんじゃねぇか? いや、お前が嫌だったら良いんだけどさ、もし、お前がここでこのモンスターを退治したら、きっと結構な経験値が貰えると思うんだよ……それでめぐみんの里を救える為に少しでも助力できれば良いんじゃねぇか」

 

「お、おま!? き、汚ねぇぞ!? 俺にそんな役をやらすつもりかよ! つか、俺が思ってた事をサラリと……!」

 

「そうだよ、これはモンスターだ! モンスター! モンスターなんだよ。モンスターなんだ! だからこそ、倒すべき対象なんだ。人の形をしたモンスター! はい、繰り返して!」

 

「人の形をしたモンスター! そうだよ! モンスター! これは少女の形をしたモンスターなんだ!!」

 

 よしっ! これならできるはずだ! と俺が歓喜した瞬間だった。

 

「クルシソウ……ゴメンネ、ワタシガ、イキテル、カラダネ……」

 

 儚げに微笑むその表情を見た瞬間、俺は凄まじいボディーブローを喰らったような感覚に陥った。今にも倒れこみそうだ。コ、コイツは本当に危険すぎる。ほ、本当に危険だ……!!

 

 

「ワタシハモンスター、ダカラ……イキテルト、ミンナニ……メイワク、カカル……カラ。ダカラ、コウシテ、サイゴニ、ニンゲントハナシガデキテヨカッタ……サイショデ、サイゴニ、アナタニデアエテヨカッタ。ツギハ……モンスタージャナイト、イイナァ……」

 

 

 ………………無理だろ、これは。

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

 俺達は街道へと戻った。もう無理だ。アクアとめぐみんだって、離れるのに大分時間が掛かった。きっとあれはああやって人々に同情を誘うのだろう。生きる為に。

 あれを倒す事ができるヤツなんて、それこそ、人の心が無いヤツぐらいだ。もしくは、あれは実はどうしようもないくらいに、腹黒な反面があるとか、そういう何か裏を知ってるやつだろう。あればの話だが。もしかしたら、あれだって生きる為に、どうしようもなくて、やってるのかもしれないし。

 

「それにしても良かったわ、カズマとか、経験値の足しとかで、ティンダーで燃やしたりしないかと、冷や冷やしてたし」

 

「お前とは、俺の事をどう思ってるか、ちょっと話が必要だな。俺だってさすがにそんな事しない。お前らは俺がそんな事しないってわかってたよな?」

 

 めぐみんとダクネスは二人して、そっぽ向く。カズマはなんか、呆れた感じで前を向き……ふと、思い出したように、いきなり顔を青ざめて走り出した。

 

「ちょ、ちょっとどこに行くのー!?」

 

 アクアが驚きながら、言うが、カズマはそれを無視して、走り出した。俺は少し考えて、カズマのしたい事がわかった。

 おそらくゆんゆんの事だ。彼女の事だ、あんなの見せ付けられたら、絶対に終わる! 俺はカズマの方へと走り出す。

 

 そうして、カズマが突然、姿を消す。俺は一瞬、驚いたが、おそらく潜伏スキルを使って、気配を消したのだろう。俺は微かな気配を辿って、カズマに触れる。

 

「うおっ」

 

 驚いた声をあげるカズマ。

 

「シッ、静かにしろ、あの木こり……殺すつもりかもな……」

「あ、あぁ……」

 

 カズマに触れて、俺も潜伏スキルの恩恵を受ける。

 そして、しばらく葛藤してる木こりを見ていると、あの安楽少女が先程、俺達に最後言った言葉とまったく同じ言葉を言っていた。そしてそれを受けて、木こりはすまんっ!! と言いながら、走って逃げていった。

 はぁ……とため息を吐き、カズマは潜伏スキルを解いて、俺達が安楽少女に近づこうとしたら――。

 

「あーあ、また失敗か、あの木こり、結構肉付き良くて、良い栄養になりそうだったのに、くああ……っ。仕方ない。ちょっと曇ってるけど、光合成でもするかぁ――」

 

 背を反らして、潜伏スキルを使っていない俺達と目が合った。安楽少女は――。

 

 

「……イマノ、ナカッタコトニデキマセンカ?」

 

 

 …………無理だろ、これは。その後、カズマと俺はニコニコしながら、みんなの元へ戻る。

 

 

「あら、遅かったわね? 何してたの?」

 

「いや、なんか、スッキリしたぜ」

 

「見ろ見ろ、アイツを倒したら、レベルが三つ上がってさ、これでめぐみんの里行っても、役立つよな!」

 

 アクアとめぐみんの顔が青ざめる。そして、カズマに食って掛かる。

 

「なんて事してんのよー!! せっかく、見逃したのにー!!」

 

「わ、私の所為です、私がレベルの自慢なんてしたから……!!」

 

 それとは違い、ダクネスは。

 

「辛い役目を押し付けてしまって、すまない。辛かったろう……」

 

 

 

 この誤解を解くのに時間が掛かったのは、言うまでも無いだろう――。

 

 




ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


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