「えっと、落ち着け。ゆんゆん。一旦深呼吸。スーハー」
「スーハー……えっと、子供が欲しいです! カズマさん!!」
ダメかー。
なんだ。何なんだ? 一体どう言う意味なんだ? もしかして、狂っちゃったのか? 俺達がアルカンレティアに行ってる間に、何か凄い惨状になっちまってるのかァァァァァ!?
そうこう気にしていたら、カズマが。
「よし、俺は最初は女の子が良いんだが」
「いいえ! 絶対に男の子じゃないとダメです!!」
おっと? 話が進みましたね? というかゆんゆん、いっつもオドオドしてるけど、こういう時はキチンと言えるんだな。感心した。って違う違う、そんな事を言っている場合じゃない。
何を考えているんだ。あ、でもこれって二人の問題じゃね? だったら、俺は関係無くね? ウィズの所に行こうかなー? それとも、適当にクエストでも受けに行こうかな……?
なんて事を考えている最中だった。
「お、落ち着いてください! というか、どうしてそこまで話が進んでいるのですか!? ゆんゆん! あなたはたまに突っ走って前が見えてない時があります! 順を追って説明してください!!」
「そうだぞ! 落ち着くんだ。言ってはなんだが、この男がどういう男かわかっているのか!?」
二人が妙に突っかかるな。カズマの事好きなのかな? いいなぁ、ハーレムじゃん。俺も作りたい。あ、でもコイツらは……いや、まあ多少の事なら、目を瞑れば……アリ?
「でもでも、カズマさんとの間に子供を作らないと世界が、魔王が!!」
「なるほど、俺達の間に子供ができれば、なんやかんやで魔王が倒れ、世界が救われる訳か、俺が断る訳ないだろ? 世界の為だ」
「おお、お前は! クエストを受けるのに、あんなに嫌がり抵抗した癖に!!」
「ちょちょ、ちょっと待ってください! なんで、こんな時だけ物分りが良いんですか!!?」
「うるせー!! さっきからなんだ!! 俺達の関係の話だろうが! 関係ないヤツが横から突っかかってくるな! せっかくのモテ期到来なんだ! 邪魔するな!!」
「こ、この男、逆ギレしましたよ!! というか、友人が変な男に引っかかろうとしてるんですよ!? 止めるに決まってるじゃないですか!!」
はぁ、そろそろ事態に収拾がつかなくなる。しょうがねぇ。
「『フルキャンセル』『フルキャンセル』『フルキャンセル』」
一触即発だった。三人の動きを止める。何気に戦いより、こういうのに役立ってる気がしないでもない。
「それで、ゆんゆん。一体どういう事なのか、説明して貰いてぇんだけど?」
「え、えっと、とりあえず、この手紙を読んでください」
と手紙を差し出してきた。内容はこうだ。俺は音読する。
「『この手紙が届く頃には、私はもうこの世にはいないだろう。我々の力を恐れた魔王軍が、とうとう本格的な侵攻に乗り出したようだ。軍事基地の破壊もままならない現在、我らに採れる手段は限られている。この身を捨てても、魔王と刺し違える事。愛する娘よ。お前さえ残っていれば、紅魔族の血は絶えない。族長の座はお前に任せた。この世で最後の紅魔族として、その血を絶やさぬように』」
粗方の内容はこうだ。これだけではない。もう一枚ある。俺はそれも読んでみようとしたら、めぐみんが。
「ちょっと待ってください! 私は? 私はどうしたんですか!!?」
……知らん。俺はめぐみんを無視して、もう一枚の手紙を読む。
「『星の占い師が、魔王軍による襲撃で、里壊滅という、絶望の未来を視たと同時に、希望の光も視る事になる。紅魔族唯一の生き残り、ゆんゆんは……』」
「ちょっと待ってください! だからどうして、ゆんゆんが唯一の生き残りなんですか!? 私は!? 私の身に一体何が……!?」
この俺に対して文句を言うめぐみんが揺さぶる。そんな事を俺に言っても意味はねぇだろうが。まあいい。続けよう。
「『いつの日か、魔王を討つため、修行に励む彼女は、ある日一人の男と出会う。その男は頼りなく、それでいて何の力も無い、その男こそが、彼女の伴侶となる相手だった……』」
「ちょっと待て、なんで俺をジッと見る。というか、ゆんゆんはこれだけの情報で俺の所に来たのか!?」
カズマがそう言い、ゆんゆんを見ると、ゆんゆんはサッと目を逸らす。俺は笑いを堪えつつ、続ける。
「『……やがて月日は流れ、紅魔族の生き残りと、その男との間にできた子供はもう、少年と呼べる歳まで成長していた。彼は知らない。その少年こそが、男の跡を継ぎ、旅へ出る事になる。だが、少年は知らない。彼こそが、一族の敵である魔王を倒す者であると……』」
俺の言葉に全員が息を呑む。俺はその最後に書いてある文に着目した。そこにはこう書かれていた。
『紅魔族英雄伝 第一章 著者あるえ』と。
おそらく、一枚目は本物で二枚目が創作という訳だろう。
ゆんゆんは焦っていた所為で、それに気付かず、持ってきたという訳だ。俺がこうして、考えてる間に、みんなが大騒ぎしていたので、俺が、いてつく波動でも出してやろうと、一言。
「これ、二枚目は創作だわ」
この一言で確かに俺は聞いた。ピシッという音が。それで最もダメージを受けているのは、カズマかもしれない。
だって、カズマはちょっと期待していたのだ。ゆんゆんとそういう行為をできるという事に、期待していたのだ。
十四歳という、普通だったら条例に引っかかりそうなお年頃の子と、そういうのを関係無く、できるという事に。
俺は静かに、肩に手を置いて、笑顔で、呟くように囁いた。
「ドンマイ」
―――――
「それで、どうしたらいいんだ?」
カズマが言う。落胆と言えばいいのか。確かに、あそこまで言われて、一切意味がなかったというのは、災難と言えば、災難だが、仕方ないだろう。
ちなみに二枚目の手紙はゆんゆんがくしゃっと丸めて、投げ捨てていた。俺はクシャクシャにした紙を拾って、中身を読んで見ると、やはりどことなく、小説チックになっているように感じる。というか、これは小説だ。著者とか書いてあるしな。
ちなみになぜ同封されていたかと言うと、お金が結構掛かるかららしい。
「なあ、ゆんゆん。このあるえ? って子誰なんだ?」
「え? あ、そのあるえって言うのは、小説家を目指してるちょっと変わった子で……」
「へぇ、その子も女の子なのか?」
「え? ま、まあそうです」
ふーん。あ、そこは良いって顔してるね、皆さん。でもね男にとっては結構大事な事でしてね。
だって、男の大半は性欲でできてるからね? いやいや、別にそういうやましい目で見ている訳ではありませんよ!
でも、まあゆんゆんとか結構良いしね……でもウィズも捨て難い……それに俺が初めて、クエストを受けに行った、受付嬢のお姉さんも良かったなぁ、確か、名前はルナさんだっけ?
いやぁ、異世界に来て、良い事って言ったら、可愛い子が多い事だよなぁ。まあ性格うんぬんは置いておこう。
まあ性格も素敵な子もちゃんと居るし。大丈夫だ。ゆんゆんとかウィズとか。あれ? ただ押せばイケるかも? って子なだけじゃね? あ、やめとこう。
「それで、俺はどうしたらいいんだ!? 部屋で脱げばいいのか? この場で脱げばいいのか!?」
「現実を見ろ。あれは嘘だ」
「うわあああああああああ! 俺の甘酸っぱい気持ちを返せぇぇぇ!!!」
叫んでいるカズマを無視して、先に話を進めていくと、どうやら紅魔の里。めぐみんとゆんゆんの生まれ故郷がピンチに陥ってるらしいが、それは結構前からわかりきっていた事なので、そこまで慌ててないめぐみんと相反するように慌てるゆんゆんはめぐみんのこういうテンションに対して怒りを露にして、そのまま出て行ってしまった。
「えっと、結局、どうするんだ? お前の故郷がヤバいんだろ? だったら行ってやらなくていいのか? ゆんゆんが一人で行くつもりらしいぞ?」
「知りませんよ」
結局、特に行動は移さず、夜になってしまった。俺が自室でゴロゴロしてると、隣から、ガチャッと言う音と共に、めぐみんの声が聞こえてきた。俺はとっさに耳を壁に傾けると。
『あの、カズマ。ちょっと話があるのですが』
『どうした? ゆんゆんに触発されて、俺に夜這いにでも来たのか?』
『カ、カズマは、私が十四歳になってから、セクハラにブレーキがなくなりましたね!?』
まったくだな……。それにしても、だったらこんな時間に本当に何の用なんだ? 俺が耳を傾けながら、静かに息を潜めて待っていると。
『あの、ゆんゆんは全然関係ないのですが、実は歳の離れた妹がいまして……』
おぉ? これは?
『ですから、その妹の為に――な、なんですか、ニヤニヤして!!』
ビクッと一瞬、俺に言われたのかと思ったが、俺はここに居るので、見えるはずがなかったのを思い出して、カズマも同じ表情をしていたのか、と納得する。
これはアレだ。いわゆるツンデレというヤツだ。
俺は良いモノが聞けたと満足して、そのままベッドで寝たのだ。
―――――
翌日。
俺達は再び、別の場所へ行く。そこは紅魔の里。正直に言えば、昨日の時点で行っていれば良かったと思ったのだが、連中が行こうとしなかったのだ。特に素直じゃない子が居るからな。
「なんですか? 何か文句でもあるのですか?」
めぐみんがこちらに問い詰めてくるが、俺はチラッとめぐみんを見て、ニヤリと表情を歪めて。
「いいえ、ありませんとも、ツンデレっ娘って訳ですね。わかります!」
「なんですか、それは? わかりませんが凄くイライラします」
「ハーッハッハ! あ、そういえば、紅魔の里ってさ、強いモンスターがウロウロしてんだろ? 俺、正直火力が全然ないこのパーティで、そんな場所行って役立つか?」
「遠くから、里の様子を窺って、手紙の通り危なそうだったら、即座に帰る。道中で見かけても即座に帰る。モンスターとのバトルも極力避ける方向だ!」
「さすがカズマ! 凄く後ろ向きな作戦ね。まあ旅行から帰ってきたばかりだけど、私の力で救済してあげるわ!」
「紅魔の里は今、魔王軍と交戦中だ。数が、数だ。私は取り押さえられ、あられもない姿に……! 皆! 私が捕まった際は私に構わず、逃げるのだぞ!」
「いや、別にそんな事しなくても、俺なら余裕で全員を助けれるから、心配すんな」
「わ、私の望みどおりにいかないのか……」
落胆してんじゃねぇよ。
俺達がそんな会話をしていて、アルカンレティアに行った時の荷物のまま、出かける。そして、向う場所はウィズの魔道具店だ。
「むっ、私はエリス様に仕える身としては、あまり来たくないのだが……何せ、ここには」
「へいらっしゃい! 上がり易い職業のくせにちっともレベルが上がらない男に、最近、家の威光以外で、あんまり役立ててない娘! うっとうしい光溢れるチンピラプリーストにネタ魔法しか使えないネタ種族! それに最近、微妙に力をつけて、ちょっと調子に乗っている男よ! 丁度良いところに来たな!」
「び、微妙だと……!?」
「コイツが居るから……っ!」
「ネ、ネタ種族……っ!」
店先でせっせと箒を掃いている仮面を被った怪しい男に挨拶をされたバニル。
公爵クラスの悪魔らしく、強さで言えば、かなり高いが、一度俺に倒されてるヤツだ。フンッ! 一度倒せたもんは何度も倒せんだよ! 調子に乗ってるんじゃねぇ!
「つか、店先でお前みたいな不審者居たら、普通、怖がるもんだけど、子供に人気みてぇだな?」
「フハハハ! そんな事はどうでも良かろう! それよりも気にならんか? 丁度良いところというのが!」
「まぁ……」
そうして、店の中に入っていくと、そこでオススメされたのは、アンデット除けの魔道具だそうだ。
蓋を開けておくと、半日程、効果がありアンデットを寄せ付けない神気が出てくるようだ。ちなみにこの効果の所為でウィズが出られずに、中で泣いてるらしい。
「大概にしとけよ?」
俺がそう言い、窓を開け、効果を薄めていく、それでもそれなりに時間が掛かるだろう。それからバニルがカズマに耳打ちをしながら。
「そこに居る、アンデットに好かれる妙なのが居るだろ?」
「ちょっと、妙なのって私の事じゃないでしょうね?」
「それで、デメリットは? ここの商品のデメリットは俺も一度、大変な目に遭わされてるからな……」
「そんなものは無いぞ! 強いていうなれば、値段が高い上に使い捨ての商品って事ぐらいか?」
ふむ、それなら確かに、でも値段にもよるか?
「ちなみに値段は?」
「百万エリス」
呆然とする俺とカズマ。
「たけぇよ!!? そんなんだったら、アンデットと戦う方がマシじゃねぇか!?」
「いいじゃないですか、お客様! なんせお客様はこれから大金持ちになるのですから、三億エリスですよ? 三億エリス。その内の百万エリスなんて安いものでしょう?」
三億エリスかぁ。ま、正直に言えば、俺は冒険職が強さ的に合ってるから、結構予算もあるんだよな、今、手持ちでも、五百万エリスぐらいは持ってるし、総額で多分……二億? はいってると思うし。
やっぱ、俺に冒険職を与えたら、これぐらいはいくんだな。チート万々歳ってなぁ!!
「ね、ねぇ、カズマさんカズマさん。私、屋敷にプールが欲しいの」
「私も、魔力の回復効果が上がると言われている、魔力清浄機が欲しいです」
コイツら……。
「おっと、金の臭いを嗅ぎ付けた金の亡者共! そんな高いのは今は無理だから、今の内に旅に必要そうなものは取り揃えてこい!」
ニコニコと笑顔のまま、旅の品を選んでいるアクアとめぐみん。
こういうのに反応しないダクネスはやはりお嬢様だからなのだろう。
俺も適当に旅に必要そうなモノを見繕いながら、品物に触れようと思ったが、寸でのところでやめる。
なぜなら、触って碌な事にならないモノがありそうだからだ。
爆発したら洒落にならない。どうしてそんな科学実験のベタな失敗みたいな心配をしなくてはならないのか、不思議でしょうがないのだが。
ちなみにアンデット除けの魔道具は三億から引いて貰ったようだ。
「えっと……? それで気になったんだけど、カズマ、今日はどうしてここに来たんだ? 向かう先は紅魔の里なんじゃねぇのか?」
「あぁ、そこはウィズに任せたかったんだよ」
ウィズはそれに怪訝な反応を見せながら、カズマが説明すると、ウィズはどうやらテレポートでアルカンレティアを登録させていたらしく、そこに飛ばそうという訳らしい。
その間、ダクネスが振りかけられると、嫌われるポーションとか、一時的に魔力を上げる事ができるが、その残っているのが、
『呪縛魔法』と『泥沼魔法』で、範囲を広める為、術者も掛かってしまうという、ふざけた効果がある。
「そういえば、前に紅魔の里で高名な魔道具職人のひょいさぶろーさんを訪ねたのですが、あいにくいらっしゃらず」
「え? 今、ひょいさぶろーと言いましたか? ちなみにウィズが紅魔の里に来たのってどれぐらい前ですか?」
めぐみんが反応して、聞いていた。
俺は怪訝な顔をしながら、自分もポーションやら何やらを見ている。欲しいのは一切無い。
正直、ウィズはセンスが無い。魔道具店が向いてないと思う。人間、向き不向きがあるが、ウィズにこれは不向きなのだと思う。
「二年ぐらい前ですね」
「うぅ……わ、私の所為で、商談が……」
よくわからんが、めぐみんが呻いていた。なんだか後悔でもしたのだろうか?
とりあえず、こんな会話をしながら、アクアとバニルが喧嘩したりと、あの二人は女神と悪魔で、水と油って言葉がお似合いだな、この場合、バニルが油か……。
「おい、小僧! 高い買い物をしてくれた礼だ。見通す悪魔が忠告しておいてやろう……貴様はこの旅の目的地にて、仲間が迷いを打ち明けられる時が来る。その時の選択次第で、その者の未来が大きく変わる。汝、よく考え、後悔の無いようにな」
何やら意味深な事を言っていたが、カズマにだけ言ってるのだ。俺には関係ないだろう……という訳にもいかないか。
仲間って事は俺達の中に誰か、迷いねぇ……この中で迷いなんてあるヤツが本当に居るのか? むしろ、突っ走りすぎて、たまには悩んで欲しい連中ばかりなんだけどさ……。ま、いいか。
そうして、俺達五人が一箇所に集まり、ウィズにテレポートをして貰った。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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