この素晴らしいキャンセルに祝福を!   作:三十面相

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今回も駄文ですが、温かい目で見ていただければ、幸いです。


捜索すべき対象

 翌日。

 

 俺達は、冒険者ギルドへ向かってきた。ちなみにウィズは連絡係として残ってもらっている。俺は欠伸をしながら、

 

「ほれにしても……犯人の特定って、どうすりゃいいんだよ? 怪しいヤツを見つけても、毒混ぜてる最中とかじゃないと捕まえられないぞ」

「それについては、大丈夫よ! 私はいろんな温泉宿の人にアンケートを一件一件取って貰ってたの!」

 

 おぉ、そりゃ、また頑張るねぇ……。

 なんつーか、他の時でももっと頑張って欲しい所だ。朝に弱い俺は、再び欠伸をしながら、目を擦りつつ、アクアの話を聞いてる。

 

「それで、アンケートの結果が出たわ!」

 

『髪と瞳が水色の、淡い紫色の羽衣を纏った女の人』

 

 …………。つまり?

 

「犯人はお前だったのか」

 カズマがそう言う。そういう事になるよな。

 

「違うわよ! ちょっと待ちなさいよ、確かに私もマメに入ってたけど、最後よ、やっぱり最後の人が一番怪しいはずよ!!」

 

『髪と瞳が水色の女の人が、温泉をお湯に変えるイタズラ……』

 

「やっぱ、お前じゃねぇか」

「なんでよー!! こんなの一切役立たずじゃない!!」

 

 何言ってんだか、俺はアンケートを強引に奪い取り。

 

「『浅黒い肌で、短髪の茶色い髪の男の人』。これが二番目に目撃情報が多い。コイツが十中八九犯人だ」

 

 というか、知ってるんだけどね。一応、最終確認って事で。

 

「やっぱりソイツが犯人か」

「だろうな」

 

 俺とカズマが頷いていると、アクアがニヤニヤしながら。

 

「何、何? 二人とも、口では嫌々言ってたけど、陰ながら、探しててくれたの? 何? 二人ともツンデレ?」

「んにゃ、温泉に入った時に、『この忌々しい教団もこれで終わりだ……』みたいな事を言ってるヤツが居てな、ソイツが多分、犯人なんだろうなぁーって」

 

 と言った瞬間、アクアが俺につかみかかってくる。

 

「なんだよ!?」

「あんた! そんな事を知ってたなら早く言いなさいよ!! わざわざ私がこんな苦労しなくても済んだじゃない!!」

「知るか! あの時は無視しようとしてたしな! というか、毎度毎度、厄介事に関わってられるか! 俺は戦闘狂じゃねぇんだよ!!」

 

「言い切りましたよ!! 冒険者の癖に、そんなのどう考えても、魔王軍の企みじゃないですか!!」

「アクア! このクズ男を押さえつけてやる! ちょっと痛い目に遭わせてやれ!!」

「おぉ!? やるかこの野郎!? チート持ちを嘗めんなよ!?」

 

 そんな訳で全員の髪を脱色させて、白髪にしてやった。

 

「ぎゃあああああ! 水の女神である私が白髪にいいいいい!!」

「な、なんですか、これは!?」

「こ、これは……」

「悪く無いだろ? アハハハ!!」

 

 俺は腹を抱えて爆笑しながら、それを見ていた。

 カズマは軽く引いていた。笑い終わり、ちょっとだけ冷静になって、コイツらの顔を見ていたら。

 

「はぁ、戻そ」

 

 三人の髪色を戻して。

 

「うん。やっぱりこっちの方がスッキリするな。全員白髪になったら、キャラ立たない」

「キャラってなんですか」

「……髪色というのは、そこまで大事か……?」

 

 二人とも、なんだか微妙な感じだった。驚いていたが、そこまで気にしてないみたいな。

 まあ実際、そこまでの事をやったつもりはないし。

 冷静にさせるのが、目的だったし。ま、いいや。

 

 その後、カズマと俺の証言から、写真と見違える程の出来の絵を描いて、それを冒険者ギルドへ持っていくが、結局、信用されなかった。

 だから、ダクネスの家の紋章を出し、信用を得た。ちなみにその後、ダクネスにたっぷり絞られた。

 

「ったく、お前って時々、全然役に立たない時があるからよ、こういう役立ち方だってあるだろうが……って事だよ」

「余計なお世話だ! くそう、私をバカにしおって……!」

 

 と剣を振り回すダクネスの攻撃を俺はひょいひょいと避ける。俺は舌を軽く出しながら。

 

「無理だよー? バニル付きだったら、まだしも、今のお前じゃ俺と戦っても、全然勝てねぇっての!」

「ぶっ殺してやる!」

 

 アハハハハ!! と笑いながら、俺は避け続けてた。ちなみにその直後にめぐみんが。

 

「人が見てますってば!!」

 

 と怒ってた。

 

「まったく、私を貴族と知らなかったのと知った後でここまで態度が変わらないヤツなど珍しいぞ」

 

 俺はカズマを見て、指を指す。

 

「ソイツもその珍しいやつだ。どんな人間でも多少は気を遣うものなのだが……」

「ああ? 何言ってんだ。どうなろうとも、ダクネスはダクネスだろ? それ以下でもそれ以上でもない」

「そうですよ、紅魔族は権力や貴族に屈しませんから!」

「リュウト、めぐみん……」

 

 それに続いて、カズマが。

 

「俺が住んでた国では、政治家に文句を言うやつなんてザラだったぞ? それに俺は上下関係とか一切気にしないし、男女差別もしない。だからお前が貧乏貴族でも容赦しないからな?」

 

「カズマ……。ん? 今貧乏貴族って言ったか?」

 

「ほら、アクアも何か――」

 

 そう言って、カズマがアクアの方を見ると、アクアが粘土で何かを一心不乱に作っていた。

 どこから出したのか、なんてのはどうでもいい。

 そして、作り終えて、それを見せびらかしてきた。

 

「ほら! ダクネスの家の紋章! これで私も、ワガママ言い放題!!」

 

 その粘土をグチャグチャにして、ダクネスがどこかへ放り投げた。それはメジャーリーガーも真っ青の良い投球だった。

 

「お帰りなさい! どうでした?」

 

 宿で出迎えてくれたウィズに、とりあえず報告する。

 

 ギルドに手配書を渡して、各所に配って貰った事で、やる事が消えた俺達。もうこれで悪事も働けないだろう。

 こんなにアッサリと行くのなら、別に手伝っても良かった気がする。

 

 

 俺は頬をポリポリ掻きながら、ウィズと混浴に入りたいなぁーなんて劣情を抱いていたら、突如、部屋のドアに慌しく、ノックが響いた。

 

「はいはーい」

 

 俺が出ると、荒い息の職員の人が居た。そして、早口でその人は言った。

 

「大変です! 温泉に次々と汚染されたお湯が!!」

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

「源泉が怪しいと思うの!」

 

 街中の温泉が汚染された、その翌朝。

 昨日一日中、アクアが温泉を浄化して回った結果、その結果に至ったらしい。もっと早く気付くべきだろう。なんて言うのは野暮なんだろうか。

 

「源泉って確か、アクシズ教団の裏手にある、森の中だろ?」

 

 アクシズ教団の本部である左隣に、この街の水源になっている巨大な湖が、そして、教会の裏には、源泉の湧きだす山がある。

 源泉へ行く道へは、騎士団が厳重に警備している。

 

「だから! 私はアクシズ教のアークプリーストなんだって! ほら、見て、これ! あなたも敬虔なアクシズ教徒なら」

 

「「あ、自分ら、エリス教徒なんで」」

「なんでよー! なんで、エリス教徒がこの街に居るのよー! お願い! このままじゃ源泉が……この街を救いたいだけなんです!」

「無理なものは無理なんだ。さぁ、帰った帰った」

「あ、あなたって、そこはかとなくイケメンよね?

「え?」

 

 あ、チョロいぞ、コイツ。

 

「レッドドラゴンに似てて、カッコいいと思うの!」

「そりゃ、俺の顔がトカゲ顔だって言ってんのか!」

 

 あの手この手でなんとか、入ろうとするアクア。これよりももっと早い方法があるんだけどなぁ……。ま、面白いし、もう少し見てるか。

 

「わかったわ! そこまでして通さないなら、アクシズ教会にエリス教徒に酷い事されたって泣きながら、駆け込んでやるから!」

「ああ!? クソッ! これだからアクシズ教徒はタチ悪いんだ! というか、その水色の髪と瞳! アンタ、温泉を浄化して回ってたヤツじゃないのか!?」

 

「ち、違うの! あれは、ただ温泉をお湯に浄化しただけで」

「やっぱりアンタか! だったら尚更だ! さっさと帰ってくれ」

「はぁ、ほら、ダクネス。お前のお金持ちの力を見せてやれ!!」

「何!? や、やめろ押すな!!」

「お前の唯一の取り柄じゃないか。なぜ拒む?」

 

 と俺が言っていると、めぐみんが。

 

「この方をどなたと心得ているのですか! この方はダスティネス・フォード・ララティーナお嬢様ですよ! ここには緊急の用事があってきたのです!」

 

「「え!?」」

 

「そう、これはダスティネス家の命令だ。昨日起こった、街中の汚染騒ぎ、それが温泉に毒を投げ込まれたというよりも、源泉に直接、毒が投げ込まれた可能性が高い。その調査に俺達が来たんですよ」

 

 めぐみんとカズマは本当に察しが良い。そして最後に。

 

「さ、お嬢様! ペンダントを!!」

「や、やめろ!! このような権力の行使は!!」

「うお!? や、やめろ。つ、強い!? くそ! 手伝え! お前ら!」

 

 そうして、無理やり押さえ込み、めぐみんがペンダントを取り上げる。

 

「も、申し訳ございません!」

「とんだご無礼を! さ、どうぞお通りください!!」

 

 慌てて道を開ける二人を見て、めぐみんが。

 

「これ、しばらく借りてもいいですか?」

「ダメに決まってるだろ!!」

 

 そんなこんなで、やっと入る事ができた俺達。

 そして、先に進もうとしたら、二人の騎士団に聞いたところ、どうやら先に管理人が入ってたらしい。

 

 ちなみにカズマが犯人と思しきヤツの特徴を言ったところ、金髪のおじいさんと返ってきたので、おそらく別人と思われる。

 タイミング的に怪しかったのだが、まあいいだろう。この先には、モンスターも出るらしいから、気を付けてとの事だった。

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

「ダクネスさんはご令嬢だったんですね。今まで、大変ご無礼を……」

 

 そういれば、ウィズは知らなかったんだっけ? 

 

「いや、今までどおりの接し方で構わない。というか、そちらの方が助かる……」

「そう仰るなら、わかりました」

 

 とニコリと返すウィズにダクネスは。

 

「ウィズを見ていると、安心する。これが健全なんだ……最近、この連中は私に対して、おざなりすぎるからな……」

 

「面倒臭い女だな、仲間として扱われたいのか、お嬢様として扱われたいのか、ハッキリして欲しい」

 

「面倒臭い言うな! というか、カズマは私よりも年下だろう! それなのにどうしてタメ口なんだ!?」

 

「そりゃ、お前の事をれっきとした、仲間と認めてるからだよ。そう年上の貴族のお嬢様、ララティーナではなく、頼れるクルセイダーとしてな」

 

「そ、そうか……ならいい」

 

 ……。

 

「チョロいな」

「チョロいですね」

「チョロいわね」

「チョロいぞ……」

「み、皆さん!」

 

 だって、事実なんだぜ? ウィズさん。

 その後、突き進んでいくと、そこには異様な光景が広がっていた。黒い毛皮と犬歯があり、その残骸は、強力な酸で溶かされたようになっていた。

 

 おそらく、この黒い毛皮から、初心者殺しというのが、わかる。ただのおじいさんにそんな真似ができるとは思えない。

 

「……確か、初心者殺しは中堅でやっとって相手だよな……?」

 

 俺が言うと、他の連中も察してくれる。

 

「ということは、おじいさんがものすごく強いってことね! さ、早く行って、私達も守ってもらいましょう!!」

 

 一人だけ、察せないおバカが居るが、全然気にしない。だっていつもの事だから。

 

「バカか! 初心者殺しを一人で倒せるじーさんなんて居る訳ないだろ!」

 

 カズマが堪らず、ツッコミを入れる。

 

「な、何よ! アクセルの街に居た肉屋のおじさんは一人でカエル狩ったり、ファイアードレイク狩ったりしてるのよ! 初心者殺しを素手で殺せるおじいさんが居たっていいじゃない!」

 

「そんなキワモノと一緒にするな! というかこの死体から見ても、いろいろ不自然だろうが! 何にしても、ただのじーさんじゃないようだしな、警戒していくぞ」

 

 アクア以外、全員が頷く。アクアは不満そうに。

 

「板前のお爺ちゃんは昔、ブルーアリゲーターを活け作りにしたって言ってたのに……」

 

 どれだけの距離を歩いたのだろうか、幸い、モンスターとは遭遇してない。

 道にも迷う事もなく、ただただ歩いていく、ただ、カズマだけかなり疲れが見えてきている。他の連中は全然大丈夫のようだが……。

 

「おーい、ここで一旦休憩取ろう」

 

 俺がそう切り出す。それに対して、アクアが。

 

「あれー? リュウトってば、体力ありそうに見えて、実は全然無いんじゃないのー?」

 

 俺が無言で近づき、アクアに『フルキャンセル』と呟き、動けなくして、頭を両手でかち割ろうとしながら。

 

「ここまで登る最中に疲れてたら、話にならないだろ、というかカズマがもう限界そうだ」

 

「そうですね。一旦休憩しましょうか、というか、カズマ、どれだけ貧弱なんですか、体力がアークウィザードの私と同じだったら、目も当てられませんよ。ちょっとステータスを見せてください」

 

 ゼェゼェ息を切らしながら、カズマは冒険者カードを見せると。

 

「そうですね。カズマはこの中じゃ一番レベルが低いですから、問題ないですよね……あげればいいんですから」

 

 何、その反応ヤバくない? 

 

「おい、なんだ。それ。まさか俺はめぐみんと同レベルなのか!? まさか、それより低いなんて事はないよな!?」

 

 ちなみにこの中でレベルが高い順にアクア、めぐみん、俺、ダクネス、カズマだ。

 レベルが一番上がりやすいのは、カズマなのだが、アイツは基本的にフォロー役に回るので、あんまり自分のレベルは上がらない。

 逆にアクアやめぐみんは大量に一掃するのが、得意な連中なので、レベルの上がりも早い。

 

 ダクネスは攻撃が当たらない為、レベルは上がりにくいのだが、最近、バニル人形と戦った為、結構上がった。

 

「……レベル上げしよう」

 

 カズマは小さく呟いていた。

 その後、ずっと突き進んでいくと、やっと温泉が見えてきた。そしてその温泉が――真っ黒だった。

 

「毒なんですけど! 思いっきり毒なんですけど!!!」

 

 アクアが叫びながら、近づき、その真っ黒な温泉を必死に浄化していた。俺は何度か、呟いた。

 

「『フルキャンセル』、『フルキャンセル』、『フルキャンセル』!」

 

 俺が何度か、叫ぶ。これにも、一応制限があるからな、大きくすればするほど、回数が増えていくからな、少しだけ回数を重ねないといけない。

 

「……熱いぃぃぃいいい!! 『ヒール』!!」

 

 チッ、毒が強すぎるか。しかも、何度かやってみたが、意味が無かった。多分、まだ毒を流してるやつが居るな。俺は何本かのパイプの源泉を『フルキャンセル』して、進んでいくと、居た。

 

 浅黒い肌に茶髪の男が――。

 

 

 

 

 




ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


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