チキンレース。
それは、硬いモノに激突する寸前に避けるという走り鷹鳶の度胸だめし。それに選ばれていたのが――。
「あぁ! もうダメだ! ぶつかってしまう!!」
ダクネスがそう叫ぶが、『ブレッシング』により、一時的に運を上昇して貰っているダクネスがそうそう当たる事はなく、それにアクアが胸を張っている。
俺が後で、変わってやるから、少し待ってろ、と言ったら、よしっと拳を握っていたが、今はどうでもいい。
それよりも、だ。
「魔法だ! 魔法を使うんだ!」
護衛の人達が本格的に動き始める。その言葉をはじめに、次々と。
「『ライトニング』!」
「『ブレード・オブ・ウインド』!」
「『ファイアーボール』!」
魔法が乱雑に放たれている。俺も隙あらば、『フルキャンセル』を使い、動きを封じてから、切り裂いたりしている。
最近、動きばかり止めてばかりだ、もっと有効活用できると思うのだが――。
まあ、基本の使い方はこれでいいや。
走り鷹鳶はかなりのスピードだ。
滅茶苦茶早い為、普通に激突されるだけでも、大ダメージは免れない。つまり、このままでは危ないという事だ。
俺はカズマの名案を待ち続けつつ、『フルキャンセル』を使い続ける。
「『フルキャンセル』!」
ピタッと目の前でとまった瞬間を見計らい。
「『瞬斬』!」
ズバッ! と勢い良く、切り裂く。単調な作業だ。
だが、いつまでもこれが続く訳ではない、このままではキリが無いのだ。そして、俺はカズマの声を聞いた。
「おい、おっちゃん! この辺りに崖とか無いか!?」
崖? あぁ、つまり落とすって訳か、だがそう上手くいくか?
「いや、この辺りには、崖はないな。あるとしたら、突然の大雨で休憩する洞窟ぐらいのもので」
「チッ……ん? 洞窟?」
洞窟……いや、使える。俺はとっさに縛られているダクネスを解こうとしたが、どうやらこれには結び目が無いようだ。
面倒だからそのまま持ち上げようとしたら――。
「うぐっ!? け、結構重たい……」
「なっ! やめろ! 重たいなどと言うな! ちゃんと鎧が重いと言い直せ!」
「うるせぇぇぇぇえええ!!!」
気力で持ち上げて、俺はそのまま走りながら、馬車に飛び乗る。息を切らしながら、それを眺める。
馬車で一気に移動させてもらう。
「おい! アクア! めぐみん! お前らも早く乗れ!! あとめぐみんはいつでも魔法を放てるようにしておいてくれ!!」
「はい、わかりました!」
急ぐ。急がないと、すぐに追いつかれてしまう。
俺は刀で一本一本、縄を切っていく。かなり面倒な作業だ。
走り出した馬車目掛けて襲い来る走り鷹鳶。距離が距離だけに、届きそうで届かない。俺が少し困っていると。
「『ボトムレス・スワンプ』!」
突如、声がしたと思ったら、馬車と走り鷹鳶の間に巨大な沼が現れる。おそらくこれは魔法で、足止めをしたのだろう。
声の主はウィズだ。やはりこういう場面だったら、魔法使いというのは役立つのだろう。めぐみん? 知らん。
あの走り鷹鳶の狙いはウチのクルセイダーだ。
ちなみに刀で一本一本取ってる内に、またコイツ勝手に走り出さないか、心配になってきて、ちょっとだけ手の動きが止まってしまう。
「おっちゃん! 洞窟まではまだなのか!?」
カズマが叫び、聞く。
「あと少しで見えてきますよ!!」
そうして、間もなく、見えてきた。そこそこ大きな洞窟だ。
「カズマ! いつでも魔法を撃てますよ!」
「よし! おっちゃん! 洞窟まで着いたら、そのわきに止めてくれ! アクア! 俺の支援魔法を!」
そう言ってカズマが支援魔法で筋力を強化しつつ、狙撃で狙っていく。俺のできる限り、前に出て、フルキャンセルで止めていく。
「フルキャンセル! フルキャンセル!! フルキャンセル!!! フルキャンセル!!!!」
「ピィーヒョロロロロロ――ッ!!」
走りながら、翼を広げ威嚇。ここが鳶の遺伝子ね。うん。
次第に洞窟が近づいてくる。そして、洞窟のわきに止めると。
「ここは雨でも降らない限り、誰も近寄ってきません! 遠慮なくやっちゃってください!!」
「リュウト!! ダクネスを投げろぉ!!!」
「ええぇ!!? わ、わかったぁ!!」
驚いている暇など無いのだが、さすがに驚く。そんな事させるのかよッ!? みたいな、まあ仕方ない。
俺はダクネスを縛ってる縄を持って、ハンマー投げの要領で、投げた。
「うおおお!! いいぞ!! いいぞ!! この仕打ち!!」
「…………」
罪悪感が皆無という……。
走り鷹鳶がダクネスを目掛けて、ピョン! ピョン! ピョン!! とダクネスを飛び越えていく。背面跳び、ベリーロールとかいろいろだ。
全部の走り鷹鳶が入って行ったのを、確認すると、カズマが――。
「やれ!! めぐみん!!!」
ダクネスを引きずり、少しだけ離した後、めぐみんの爆裂魔法が放たれる。
「『エクスプロージョン』!!!」
そうして、爆音と爆焔で全てが飲まれた――。
―――――
すっかり日も暮れて、商隊の人達と共に、キャンプファイアーみたいな焚き火をいくつも作り、その焚き火を中心に円形を囲む形で、商隊の馬車がバリケードのように止められている。
これは風除けとモンスターに対してのバリケードらしい。その代わり、馬車を走らせる事はできないが、この暗闇だ、不可能だろう。
「さぁ、どうぞ、どうぞ! いい部分が焼けたので!」
と歓待を受けている俺達。今回の出来事は実は、ウチのクルセイダーの所為なので、本当はこんな歓待は受けたくないのだが――。
「しかし、お見事でした! まさか、爆裂魔法を扱いになる大魔法使いに、あれだけの怪我人をすぐに治してしまうアークプリースト様に、相手の攻撃を一身に受けて、足止めをしたクルセイダー様とソードマスター様! そしてとっさの判断で、上級魔法で巨大な沼を作り出し、的確な判断で洞窟にまで、おびき出した、あなた様のその機転! いやぁ、本当にお見事でした!!」
やめて、本当にやめて、やめろぉ!!
「そんな事ありませんよ。あと、何度も言ってますが、護衛の報酬は結構ですので……」
そう言って、遠慮する俺、当たり前だ、
さすがにこれは貰えない。これじゃ、あれだ。詐欺とかに近い。
「な、なんという方々だ! わ、私は感動しました! あなた方のような、まさに本物の冒険者が居たとは!!」
うん。ダメだ、こりゃ。
よし、そろそろ離れよう。アクアは宴会芸を披露して、拍手喝采を受けていたり、カズマはボロボロになった鎧を『鍛冶スキル』で直していた。 へぇ、凄いな。ふむ、俺はどうしようか。とりあえず、座ってるか。
「リュ、リュウトさん……」
「ん? ウィズ? どうした」
「いえ、その……」
「あぁ、アクアに構われて、疲れたのか? まあいいや。とりあえず座れよ」
隣を進める、それに従って、ウィズは座る。
「いやぁ、やっぱり、悪評が広まってない場所だと、あんな扱いを受けるんだなぁ……」
「あ、悪評ですか……」
なんとも言えないような感じだ。まあ仕方ない。
「いや、でも……やっぱり仲間ってのは良いよ、本当にこういうのは、楽しく感じるよ……」
ちょっとだけ顔を綻ばせる。ウィズがちょっと驚いた顔をしている。
なんだよ、こういう顔をする俺は珍しいってか? いや、確かにこういう笑顔になるのは、珍しいんだけどさ……。
「そうですね……」
「…………」
「……? リュウトさん? あの……眠っちゃいました? ……疲れてしまったんでしょうか……? フフ、寝顔は子どもみたいですね」
そう言い、膝枕をするウィズだった。
―――――
「リュウトさん、リュウトさん……」
「んぅ……?」
俺が目を覚ますと、焦った様子のカズマが目に映る。
なんだ? まさか、何か来たのか……。俺は目を擦りながら、辺りをキョロキョロしていると、ゾンビの姿が俺の目に映った。
はぁぁぁ……ため息を吐いてしまう。これはあれだ、状況的に考えて、青髪の女神様の所為なのだろう。
カズマが俺が何かするよりも先に動く。どうやら、わかったようだ。
そのまま、俺は特に何かする必要もないだろう。
そうして、アクアは浄化しようとする。ちなみにアクアの魔法については、威力が絶大だからリッチーであるウィズでも効く。
「……おい、ウィズ! 下がってろ! 危ないぞ!!」
「あ、はい!!」
ウィズを下がらせ、俺はその状況をただ眺めていた。
それで、結局すぐに解決する。まあ、女神だし、強いアークプリーストだし。
「な、なんて、神々しいんだ!!」
「アンデットが襲ってくるなんて、珍しい事があるものだが、ここにプリースト様がいてくれて良かった!」
うん。そのプリーストがいなければ、おそらく襲われる事は無かったんだろうけどね。
結局、最後の最後まで、なんだがなぁ、って感じで終わらせた俺達だった。
その後、水と温泉の都アルカンレティアに着き、あのおじさんは意地でも報酬を受け取らない俺達にその代わりにと、アルカンレティアで経営してる大きな宿屋の人数分の宿泊券を貰った。
めぐみんがレッドドラゴンに『じゃりっぱ』なんて変な名前をつけていた。
しかも、ドラゴンは一度つけた名前じゃないと二度と返事をしないらしい。つまり飼い主は一生、ドラゴンを『じゃりっぱ』と呼ばないとダメという事だ……。
可哀想だな。
―――――
「ついに着いたか……!! 水と温泉の都アルカンレティア……!!!」
やっとだ! やっとなのだっ!! いろんな出来事があったが、ついに着いたのだ!!
よっしっ! いやぁ、楽しみだなぁ、温泉街という訳だからさ、すっげぇ、良い場所なんだろうなぁ……なんて思っていたら。
「ようこそ!! 水と温泉の都アルカンレティアへ!! 観光ですか!? 入信ですか!? 冒険ですか!? 今、入信したら、さまざまな特典がありますよ!? どうですか!?」
「いえ、結構です」
そうここは温泉街と同時に……アクシズ教の総本山でもある。はぁぁぁ……。凄い、アレな人が多い、まあ仕方ないそういう場所なんだからな……。
「じゃあ、私はちょっと教会に遊びに行ってくるわ!」
「お前、自分が女神とか絶対に言うんじゃねぇぞ。あと名前もな」
「わかってるわよ! 私を誰だと思ってるの!?」
「……めぐみん、アイツについてやってくれないか? 一人にしておくと、怖い」
「わかりました。では、すみませんが、荷物、お願いします」
「おう」
と荷物を預かり、俺、カズマ、ダクネス、ウィズが先に宿屋の宿泊券をありがたく使わせて貰う。
そして、いろいろと終わらせ、さっそく俺達も観光をしようと思い、街を歩こうと思っていた、ちなみにウィズは先に休ませておいた。
なんか長旅なのか、アクアと一緒に居た所為なのか、薄くなってたから……リッチーって不便だなぁ、なんて思ったりする。そうして歩いて、店を覗きこんでいると。
「お客様、そんな下品なお店で物を買うと、お客様の品位が疑われますよ? 高貴なお客様には相応しい、天然素材オンリーで作られたエルフ族特製のアルカンレティア饅頭です。どうかこちらを見て言ってくださいませ」
エルフ、エルフだ。耳が長い、うわっ! 本物!? すっげぇ! あの耳、触ってみてぇ……。
そう、話しかけてきたのは、緑の髪色をした、肌が白く、美形の男性だった。
「おうコラ! お高くとまりやがって、この野郎! 物ってのはなぁ、高けりゃいいってもんじゃねぇんだよ!! お客さん、こっちにしておきな! 肉汁たっぷり、日持ちするって言うお得な物だぜ!」
ドワーフだ! 頑固っぽい感じの俺のお腹ぐらいの背丈で凄い!!
うわぁ、凄いな……。もっさりと髭があって、典型的だ!! 本当に典型的だ!! そんな感じで、喧嘩を続けていたので、カズマはどちらも買うと言うと、二人して笑顔で。
「「まいどありー!!」」
ふむ、なんというかパフォーマンスっぽいなぁ?
気の所為か、どこか演技臭い……。ま、いいか。なんというか、この世界には幾度となく裏切られてきた。
今回も何かありそう、いや、さすがに疑心暗鬼になりすぎか。
そうして、ダクネスは使用人や親父さんの為にいくつか買っていた。
「それにしても、本当だったんだな!! 絵本で見た通りだった!!」
「……んー」
少し腑に落ちない感じだったが、まあいいや。そんなこんなで、ちょっとだけ歩いた後にカズマが話してる最中にオススメな場所とか聞いておけば良かった、と言い。
ダクネスはここで待機してもらい、戻ると、そこには誰もいなかったようで、どうやら、休憩場に居るようだ。
カズマが二人の声が聞こえてきたので。
「おい、また喧嘩してるの――」
「あっ! ちょっと困りますよ。ここ休憩場なんで……」
そこには丸っこい耳をしたエルフと髭が一切無いドワーフが居た。
うん。なんというか…………わからない事も無い。きっとこんなオチがあるのだろう、なんて思ってたし、この世界だし。
「えっと、一応言っときますけど、私はエルフっスからね? 一応、混血っスけど……いるんスよ、イメージと違うって騒ぐから、こうやってイメージ保つ為に」
「そうなんですね、私も方もそんな感じで、先程の喧嘩もパフォーマンスなんですよ、ほら、なぜか仲が悪いって言う噂が流れてますから、だから、それに乗っかっておこうかと」
ま、仕方ないよね。よくあるよくある、ねぇよな……。はぁぁぁ……なんというか、もっと異世界感を出せよ、この世界、頑張ってくれよ、もっとぉ!!
そんなこんなで、観光名所を聞くと、しばらく前には混浴がある温泉が良かったらしいのだが、最近はなぜか、質が悪くなって、入れなくなってしまったらしい。
しかも原因がわからずじまいという、ふざけた事だ。
そうして、俺達はダクネスの元へと戻る。
「良い場所は聞けたか?」
「……とりあえず、そこら辺ブラブラしようぜ」
「……?」
ちょっと元気が無いカズマに対して、小首を傾げて、カズマの方を見ていた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
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