「ぶわっくしょん!!」
寒い……。それにしても、さっぱりした部屋になったもんだ。俺は今、屋敷に居る。そしてその屋敷のほぼすべてを持ってかれちまった。
残念で仕方ないが、まあ潔白を証明すれば、なんとかなるだろ……はぁ……寒い。
はぁ、それに……心も寒い。ダクネスは、もう一日帰ってこなかったし、なんか、アレだ……うあああああああああああッッ!!!
あの悪徳領主をぶっ殺すぅぅぅぅ!!!!
ぜってぇ、粉々にして、二度とそういう事ができねぇ体にしてやるぅぅぅ!!!! もう嫌だ、このまま黙ってると、嫌な気分に押しつぶされそうだ!!
「うわあああああああああああッ!!!」
「わっ! どうした、カズマ」
「どうしたのよ!」
と二人で反応すると。
「お前ら! いいか、ダクネスが一日帰ってこなかったんだぞ!! つまり……!」
「「……うわああああああああああああああああああっっ!!!」」
やめろぉぉぉぉ!!! 俺はそれを考えないようにしてたのにぃぃぃぃぃぃ!!!! アクアも叫んでいる。でも知らない!!! もう嫌だぁぁぁぁ! 心が壊れそうだぁぁぁ!! 外に出る!
気分転換に俺が外に出ようとしたら、めぐみんが猫を持って、来た。猫、猫、猫……。黒猫だ。かわいい。
「なんだ、めぐみん。それ」
「あの、絶対に迷惑は掛けないと思うのです……」
「なーお」
「つまり飼いたいって事か? カズマどうする?」
「ん、別に構わないが……名前はなんて言うんだ?」
「ちょむすけです」
「……えっと、今なんて――」
「ちょむすけです」
食い気味にそう言っていた。
俺はかわいいこの生物を撫でる。アクアも撫でようとしたら、爪で引っ掻かれた。うむ、猫に嫌われるとは、可哀想なヤツだ。本気で同情するぞ、アクア。
俺は猫を撫でながら、癒されていた。
「それにしても、何を騒いでいたのですか?」
「いいか、めぐみん。ダクネスが一日帰ってこなかったんだぞ?」
「確かに、あの領主の悪い噂は耳にしますが、そんな簡単に――」
「あぁぁぁ、もう! まだお前はアイツの事をわかってない! アイツは、どうせ、ロクでもない事言ってるぞ、きっと!!」
「あ、あぁぁ、ダ、ダクネスが酷い目に!!」
めぐみんもやっと、事の重大さに気付く。うん。だから。
「ダクネスが帰ってきたら、優しくしてやろうな」
はぁ、なんというか、クエストを受けに行こう。お金をできるだけ、お金を増やそう。もう借金生活は嫌だ。いい加減、この生活から抜けたい。なんというか、始まりの街で借金をこんだけ、増やすって芸当。
なかなかできねぇぞ。レベルは上がらないのに、なんで借金は増えるんだよ……。
クエストは『ジャイアント・トードの討伐』。超ひっさびさにジャイアント・トードだ。ちなみに武器も取られている俺は、今回、ガチで使えない。
筋力がいくら高くても、肉弾戦ではジャイアント・トードには勝てない。打撃は効きづらいからな。
「ガンバレー。『フルキャンセル』ぐらいはしてやるぞー」
「ぎゃああああああああああ!!!」
必死の形相で逃げているアクア。俺の方には一切来ない。なんというか、笑いそうになるわ。ちなみに先程エクスプロージョンを発動させていためぐみんはもう既に使い物にならない。
しかも使い物にならない時に食われてしまっているのだ。俺は一応、助けようと、引っ張りだして、代わりに食われそうになったが、なんとかなった。
そしてその粘液でベタベタのめぐみんを背負っていて、凄く、気持ちが悪い……。しかも、めぐみんの爆裂魔法でさらにモンスターが増えた。今の火力は完全にカズマだけなので、非常にマズイ。合計でおそらく、五匹近く居る。
「『フルキャンセル』!!」
アクアを追いかけているジャイアントトードの動きは止まる。俺のフルキャンセルで止めたのだ。さすがにあのままだと、粘液まみれが二人になる。それは嫌だ。
「カズマー。やってやれ」
「狙撃!!」
そう、カズマは新たなスキル。狙撃を手に入れたのだ。凄いカッコいい。俺も欲しいぐらいだ。そして、狙撃をジャイアント・トードに喰らわせた。……効かない。
「……」
俺は呆れつつ、見える全てのジャイアント・トードを止める。うっしゃ。でもどうしよう!! そんな事を思っていると。
「ライト・オブ・セイバー!!」
光の刃がカエル達すべてを斬って、殺した。うっははー。すっげぇ事しやがんなぁ。
誰だ? 俺がその魔法を放った子の方を見てみると、そこには真っ黒い髪に真っ赤な瞳のめぐみんとよく似た子が居た。
というか、おそらく紅魔族だよな……。というか、今の超強そうな魔法だったんだけど、ヤバい。あれはヤバい。
その後、カズマがめぐみんに『ドレインタッチ』で魔力を少し分け与えて、動けるようにして、とりあえずベタベタの体の俺は屋敷に戻って、風呂に入りたいな、なんて思ってる。
「誰だか、知らんが助かった」
「べ、別に助けた訳じゃないから! ライバルがこんなカエル程度に倒されると困るだけだから!」
「ふむ、ライバルってのは、めぐみんの事か」
めぐみんの方に視線を移すと、めぐみんは立ち上がり、女の子の方を見る。女の子はそちらを見て。
「今こそ、永きに渡る、決着をつける時よ! めぐみん!」
それに対して、めぐみんは。
「誰ですか、あなたは?」
「えぇ!?」
「大体、名前も名乗らないなんて、おかしいじゃないですか」
ん? そういえば、この女の子も紅魔族なんだよな? だったら何も言わずに普通に名乗りそうだけどな、すっげぇ自信満々とした感じで、変なのに。
「これはきっと、以前、カズマが言ってた。オレオレなんとかってヤツなんじゃないでしょうか」
カズマは何を教えてるんだよ。
「わ、わかったわよ! し、知らない人の前で恥ずかしいけど……」
と決心したように。え? というか恥ずかしいの? え、もしかして紅魔族ってめぐみんみたいなヤツの方がおかしかったのか? いや逆にこの子みたいなのが、珍しいのか、うーん……わからん。
「我が名はゆんゆん。アークウィザードにして、上級魔法を操る者!! やがては紅魔族の長となる者!」
とキメポーズもしっかりと取りながらゆんゆんはそう名乗った……。めぐみんはため息を吐きつつ。
「と彼女はゆんゆん。紅魔族の長の娘で、私の自称ライバルです」
「ちゃんと覚えてるじゃない!」
「なるほど。俺はリュウト、んでそっちのが、カズマ。よろしくな。ゆんゆん」
「あ、あれ? 私の名前を聞いても笑わないんですか?」
「何? 笑って欲しかったら、笑うけど、多分笑われたくないんだろ。君、めぐみんと違って普通の感性してるみてぇだしな」
「おい、私に文句があるなら聞こうじゃないか」
そんなこんなで、勝負を始めようとする二人。何やら体術で勝負を決めようとしてる。めぐみんから言ったのだ。体格的にはめぐみんの方が小さい…………どっちも小さい。
なんていうか、神様って残酷だよな、同い年なのに、ここまでの差を生んでしまうんだから。
「おい、私を見て思った事を言って貰おうか」
やめろー俺はそんな残酷な事をしたくないー。
とにもかくにも、とりあえず勝負を始めて、二人とも構えを取る。
「……ッ!? あ、あのめぐみん……その、あなたの体、テラテラしたままなんだけど……」
「えぇ、これは全て、カエルの分泌液……」
ダッ! と駆けだすめぐみんに必死に逃げるゆんゆん。なんというか、ご愁傷様。
「いやぁぁぁぁ!! 降参ー!! 降参――ッ!!」
だが、結局追いつかれ、寝技に持ち込まれていたゆんゆん。なんというか、本当に可哀想です。
―――――
アクアは先にカエルをギルドへ、俺達三人は風呂場へと向かっている。先程、カズマが余計な一言を言った所為で抱きつかれてしまったのだ。
これだけを言えば、ケッ、なんだよ。リア充爆発しろよ、なんて思うかもしれないが、めぐみんはヌルヌルのテラテラ、そのすべてがカエルの分泌液だ。
正直、そんなの美少女でも抱きつかれたくない。少なくとも俺は抱きつかれたくない。
それで、今は順番を決めている。何をって? それは決まっている。
「誰が一番最初に風呂に入るかだぁぁ!!」
二人が攻めあっている。どちらが先かで喧嘩をしているのだ。ちなみに俺はその喧嘩をしてる間に、ちゃちゃっと入ろうとしたら、止められそうになるが、その前に『フルキャンセル』を使って、二人の動きを止める。
「俺が洗うまで、そうしてろ」
「汚ねぇぞ!! リュウトォォォおお!!」
「そうですよ!! ここはレディーファーストではありませんかー!!」
「汚ねぇ……? レディーファースト……? フッ」
「おい! それはどういう意味だぁ!!」
「今、どこ見て笑いましたか!? どこを見て笑いましたか――ッ!」
そんな話を無視して俺は風呂に入って、体を綺麗に洗った。ちなみに三十分以上、洗った。念入りに念入りに洗った。ポカポカした俺は、二人に睨みつけられた。俺はその二人に対して。
「解いて欲しくなかったら、そう言ってくれよ。じゃあな」
「「待ってください!!!」」
俺は解いてやり、文句を言いたそうな顔をしていたが、とりあえず、二人でまた喧嘩をしている。
それで、そのままなんか知らないけど、二人で入る事になっていた。アホなの? 俺は何も思わないけど、とりあえず、一つだけ言おう。
「ロリコンは大概にな?」
「ち、ち、ち、ちげぇぇ!!!」
―――――
翌日。
借金返済という目的がある俺達はウィズの店に魔道具を売りに来ようとしていた。やはりクエスト報酬だけでは、足りないのだ。そうだ、圧倒的に足りないのだ。あと、俺も武器を返して欲しい。
「ウィズ、これ買い取って欲しいんだが」
とカズマが水晶玉を持って言う。ちなみにこれはそこそこ高い――と思う。
「あ……」
めぐみんがそう漏らすと、そこにはゆんゆんが居た。そしてゆんゆんは身を乗り出しながら。
「な、なんという偶然! なんという運命の悪戯! やはり私とめぐみんは永遠のライバル!」
「あ、この方。カズマさん達が良く来ると聞いて、ここに朝からずっと待ってらしたんですよ?」
「なななな、何を言ってるんですか! 店主さん!! 私はマジックアイテムを買いに来ただけで!! あ、これください!!」
なんというか、面倒臭い子だな……。
「何もそんな回りくどい事をせずに、俺達の屋敷に訪ねにくれば良かったのに」
まったくもってその通りだな。俺もそれに頷きつつ、同意してると。
「え、でもいきなり家を訪ねるなんて……」
んー……やっぱり面倒な子だ。
「煮え切らないですねー。これだからぼっちは」
え? 今、嫌な言葉が……。
「し、失礼ね、友達ぐらい居るわよ! ふにふらさんやどどんこさんが私が友達よね? って言ったら、友達だよって言って、私の奢りで一緒にご飯を食べてくれたり!」
「や、やめろ! それ以上は聞きたくねぇ!!」
それは友達って言わない。カモって言うんだ。
「で、爆裂魔法しか使えない私としては、できるだけ魔法勝負は避けたいのですが」
「ま、まだ魔法を覚えて無かったの? スキルポイントも溜まったはずでしょ?」
「えぇ、漏れなくすべてを爆裂魔法に費やしました」
「バカ! どうしてそんなに爆裂魔法にこだわるの!」
確かに言えてる。
「それで、ゆんゆんっつったけ? 君はなんでそんなにめぐみんにこだわるんだ? めぐみんってそんなに優秀なのか?」
「えっと……その……」
ふむ、これは典型的なコミュ症だな。まあいい、気長に待とう。
「ええ、私はいつも一番で、ゆんゆんはいつも二番でした」
え、永遠の二番手ってか……。なるほど、だからライバルね。
「勝負、勝負って同級生なのに殺伐としてるわね。あ、これなんて良いんじゃない? 仲良くなる水晶」
と水晶玉を出してきた。おぉ、すっげぇな。
「あぁ、これは熟練した魔法使いじゃないと上手く使えないんですよ」
「う、上手く使えたら、仲良しになれるんですか!!?」
「仲良くなる必要が微塵も感じられないのですが……」
「怖気づいたの? めぐみん」
「あ?」
おぉ、煽り耐性ゼロだな。めぐみん。
そんなこんなで、勝負が始まった。やはり紅魔族は伊達じゃないようで、成功している。そして、そこに映っていたのは――。
まずはめぐみんだ。めぐみんは生活がとても苦しかったのだろう。なんというか、残ったパンの耳をごっそり盗っていってる。ちなみにゆんゆんの方は一人で誕生日会を開いていた。その、正直見るに堪えなかった……。
それからしばらく、まさに黒歴史とも言えるモノが映し出されていた。そして、堪えかねためぐみんがその水晶玉をガシャーンと割りやがった。
これって……ただ、黒歴史を見る為だけの魔道具じゃね? 悪魔の道具だな……。
ウィズ曰く、これでお互いの事を良く知り仲良くなれるらしいが、それは仲良くというよりは同情に近い気がする。
なんなの、もう……。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
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