「……んー、はぁ……」
あれから、数日が経過した。もう大分、体の方も治ってきた。いやぁ、いいね。本当にいいね。それにしても、やっぱり、俺ってレベルが凄い低いと思うんだよな……。
まぁ、基本的にあんまり戦いに参加しない訳じゃないんだが、積極的に戦おうという気が無い所為なのも重々承知なんけどよ、それでもやっぱり、足を引っ張るのは嫌なので、クエストついでにレベル上げを決行した俺だった。
ちなみにフルキャンセルも使おう、というかフルキャンセルが切れたら、それで終了って事にしよう。そうした方がなんか、キリが良いし。
そんな訳で、俺はクエストを受けに行く。ちなみに道中、カズマ達と遭遇した。
なんとサキュバスが経営しているいやらしい店に誘われた、俺はそれよりレベル上げがしたかったので、断った――今度、絶対に行こう……! 俺は心にそう誓った。
クエストを受け、俺は今、森の中、と言っても、戦うのはコボルトやゴブリンなどの雑魚モンスターばかりだ、ここで一発、一撃熊とでも遭遇すれば、結構良い。
経験値稼ぎになるんだがな。剣を買いなおした、俺にとってはそこら辺のやつに負ける気はしねぇ。
そんな若干フラグ的な事を考えながら、コボルトやらゴブリンと戦っている。寒いこの時期の敵は基本的に強い。やはりこういう境遇で生き抜く為には、強くなくてはならない。ちなみに冬将軍とかには絶対に遭いたくない、一人だったらもっと無理だろ、死ぬだろ。
まあ、敵としては申し分ないのだが、とりあえず、敵を倒しまくろう。
そんなこんなで、クエストも完了し、『フルキャンセル』も使い切った。
「あぁ、あと少しでレベルが上がるのかぁ……いや、でもまあ、今日はもういいか」
そうしてギルドへと戻ると、そこには居た。一撃熊が――ではなく、『初心者殺し』。懐かしい相手だ。そういえば、一回だけパーティを組んだ時に遭遇したっけ? だが、コイツには負けないぜ?
「『瞬斬』」
ズバッ! と剣で切り裂いた。フハハハ!! 俺は強い、強いよぉぉぉ!!! そんな喜びに浸っていると、向こう側から雄叫びが聞こえてきた。
「「「グオオオオオッッ!!!」」」
「え?」
突如、目の前に一撃熊と思しきモンスターが三体も目の前に居る――。
一旦整理をしよう、まず、俺は今、『フルキャンセル』を使えない、そして逃げ道も無い。そして、相手は一撃熊が三体……ふむ、殺される未来が決定している件について、ちょっと話をしようじゃないか。
どうしよう、本当にどうしよう……。
え、マジでどうしよう。こんな状況に陥ってるんですが、どうしてフルキャンセルが使えるときにこねぇんだ、この三下どもがァァ!! と軽く叫びたい気持ちになってくる。
い、いや、待て待て、落ち着け。俺だって、レベルは上がってるし、スキルポイントだって、割り振りして、きちっと高くなっている。だから大丈夫。はい、吸ってぇ、吐いてぇ……。
(ひとまず、逃げながら考えよう)
俺はアクセルの街とは、まったく別の森の奥の方へと逃げる。当然だが、そちら側でないと、一撃熊とすれ違わなきゃいけなくなるので、こちらに逃げているのだ。
さすがに三体を一斉に相手するのは、骨が折れる、というか死ぬので、向こう側へと逃げつつ、三体が別れるのを待つ。
(くっそ! こうなりゃ、二度と一人でなんてこねぇ!! せめて、アクアを連れてく!! いや、よく考えたら、アイツは絶対に俺の誘いには来ないか……いや、待てよ? クリムゾンビアで釣ればいいのか。だがとりあえず今は逃げる!!)
必死に逃げる俺。ちなみに速度は俺の方が上のようで、三体のモンスターは追いつけてない。くっそ! このまま逃げ切れれば、一番良いんだが!! 逃げるな、峰沢龍斗!
お前は何の為にここに来たってんだ! レベル上げだろうが!! くっそ、やってやるぜ、あぁやってやる!! 死に晒せぇ!!!
そう思った瞬間、一撃熊の一匹が良い感じに俺の方へと襲い掛かってくる。俺はそれを避けつつ、『閃光斬り』を喰らわす。わかりきってはいたが、ヤツはかなり堅い。だからこそ『風斬り』ではおそらく、ダメージは当たられないだろう。だが、これなら!!
「グギャァア!!?」
「うっしっ!! 一体撃破!!」
これで、他の連中が少しでも怯めば……! なっ!? 二体で来やがったぁ!? くっそ、一体じゃ勝てないって事でか!!? チッ、この野郎! そこまで頭良さそうに見えない癖にっ! くっそ、どうする。この距離じゃ、間に合わない。終わり……なのか……?
いや……待てよ? あと少しでレベルが上がりそうになってたよな……?
さっき『初心者殺し』を倒したし、『一撃熊』も一体だけなら、倒せた……。よしっ!!
「『フルキャンセル』ッッ!!!」
一撃熊の一体が硬直する。よしっ! 俺はもう一体の方の攻撃を避けて、すれ違いざまに。
「『閃光斬り』」
ズバッ! と胴体が真っ二つになる。そして――。
「動けないなら、もう怖くねぇぞ!!」
俺は剣を鞘に納め……。
「『瞬斬』!!!」
一撃熊三体を見事、討ち取った――。
―――――
「ふ、冬は全体的に厳しい戦いが多い……ひ、久々に死を間近に感じた……」
ちなみに冬将軍は無しだ。あれは死んだ。
そんな風にぼやきつつ、俺はギルドへと行って、報酬を貰い、そして、屋敷へと戻った。
暖房に暖まりながら、ポカポカしている連中を見て、はぁ、日常ってのはこういうのを言うんだろうなぁ、とか思い、俺もポカポカしたいなぁ、とソファーの前をウロウロしたが、結局、譲って貰えなかった。
「おい、アクア、俺に譲ってくれよ」
「嫌よ、寒いもの」
「…………アクア、お前、今日いつまでそこに居た?」
「え? ずっとだけど?」
「……退く気は?」
「無いわ」
「……もういいわ」
俺は自室の毛布に包まった。寒いので――。もう誰か労わって! 俺の苦労を労わって! はっ! そうだ。サキュバス……! 俺も明日行ってやる!!
フフフ……。頭まですっぽりと包まっている俺は静かに笑みを浮かべていた。
そんなこんなで、いつの間にか、眠っていた、俺は目を覚まして、目を擦りながら、みんなの元へと行く。
「……?」
なんか、騒ぎが聞こえてくるな……?
「あ、起きたか、リュウト」
「おぉ……ダクネスか、というか、それなんだ……?」
「ん? これか、これは、家からの仕入れだ。蟹だ。リュウトもほら」
と俺に蟹を差し出してくる。みんなもかなり美味しそうに食べていた。ちなみにこの蟹は結構高級らしい。俺はそれに対して、率直な感想を述べた。
「お前ん家って金持ちなのか?」
「なっ! い、いきなりなんだ!?」
「え、いや。普通に考えて、こんな高級な品を送ってきたんだ。多分、相当な金持ちだろ。お前」
「そ、そ、それは……」
と黙り込むダクネスに対して、俺はそこまで追求せずに。
「まあ、いいや。とりあえず俺も食おっと」
蟹を食い始めた――こ、これは!! あのキャベツ以来の蕩け具合だ!! うめぇ……。
「こいつは……やばいな」
「ですね。これを食べれるなら、『爆裂魔法』を我慢して、これを食べた後に『爆裂魔法』を放ちますよ!!」
ほう、我慢するのか、ん? 今ちょっとおかしくなかったか? まあいいや。そういえば、酒も良いのがあるらしいな、俺も飲もう、高校生に味の良さがわかるか、知らんが、ちょっとだけ飲んでみる程度にしよう。
「……美味いな……全部美味いわ、今日ほど、労ってもらった事はないなぁ!! やっぱりこういうご褒美的なの無いとやってられねぇってな」
美味い……美味い、美味い、美味い!! 今日は随分とご馳走だな。ちょっと幸せすぎて、明日が怖いぜ。明日、変な事起きなきゃいいけど。
そんなこんなで、結構食い進めていった、ちなみにカズマは酒を飲まずに、そのまま寝にいった。なんというか、お酒を飲まないとは珍しい事もあるもんだな。あ、いや……多分だけど、サキュバスに関係があるのか?
まぁいいか……。
そんな訳で、俺はお酒も、蟹も存分に堪能した後、風呂に入って、さっぱりして、再び、自室に行く。ふぅ、酒も入ったから、ちょっと眠いな……というか……ねむ、い……。
―――――
ふと、俺は目が覚める。もうここには悪霊はいない。だが体がなぜか、ブルリと震えた。これは……。
「トイレ、トイレっと」
俺はそのままトイレへと向かう。向かう、途中、風呂から音が聞こえた。こんな時間に誰か入ってるのか……。
なんて思いながら、俺はトイレで用を足し。そのまま自室へと戻ろうとしたら――。何か、変な気配を感じた。
(なんだ? これは……)
俺はそちらの方へと足を進めていくと、際どい格好をした、女の子が魔方陣に引っかかっていた。俺は泣きそうな女の子を見ながら、一つ考えた。
これはおそらく、カズマが頼んだ、あのサキュバスではないのだろうか? そして、この今にも泣きそうな女の子は多分、うちの女神が掛けた魔法陣に掛かったのだろう。
そして、このままではすぐにアクアが駆けつけてしまう、さて、どうしよう。このままこの子を助けてもいいのだが……というか助けるべきなのだろうが……。
その場面をアクア達に見られたら、なんか言われそうだしな、まあ別に構わないか。
「どれ、ちょっと助けてやるよ……」
「あ、す、すみません……」
と俺はその魔方陣を消そうと思ったのだが、その直後、後ろから怒鳴り声が聞こえてきた。
「あぁ!! リュウト、先に来てたのね!! それは……サキュバス!? リュウト、下がりなさい! 危ないわよ!! 生気を吸われるわ!」
と俺に心配をしてくれてるみたいだな、だが、この子は悪いサキュバスじゃないぞ。うん、ただの仕事だ。
「あぁ、えっと……」
「下がってください、リュウト。危ないですよ……!」
めぐみん付きと来たもんだ。
「えぇ、あぁっと……その……」
クソッ! なんつータイミングだ。ええっと、どうしたら良い! あ、そうだ。カズマだ! カズマがここで説明をくれれば……ダメだ、そんな役をアイツにはさせられねぇし、アイツは多分しねぇ。
あ、そうだ。サキュバスってのは魅了みたいな、男を手玉に取る事ぐらいできるんじゃねぇか?
そうだ、そうしよう。操られてる事にしよう。ふむ、という事は普段しないような事を……え? セクハラか? コイツら二人か……。せめてダクネスが良いな。まぁいい。
「フフフ、二人ともォォォおおおお!!」
と俺はまるで、変態のように、二人に襲い掛かる。それに対して、二人はとっさに。
「なっ! まさか、操られたんですか!」
「もう! 何やってんのよ!!」
文句をいっている。ふむ、操られてはいないが、というか操られても、多分、どうにかできる。
だが今回はすまない。二人とも。俺を心配してくれてるのに! でもこの子が可哀想なんだよ! と思っていたら、そのとき、救世主の如く、彼、佐藤和真がやってきたのだ。
俺の所まで来たので、俺は小声で。
(おい、お前、なんだ。その格好! なんでタオル一枚なんだよ)
(いろいろ理由がある。だが今は……)
そんな会話を小声でしていると、カズマがやってきた後にダクネスがやってきた。
「今のカズマはサキュバスに魅了され、操られている! 先ほども設定がどうのとか、ぶっ殺してやるぅ!!」
「フフ、カズマとリュウトとは一度、決着をつけるべきだと思ってたのよね……いくわよ!!」
こっわぁ! あのダクネスこっわぁ! ちょっと口の効き方が悪いですよ。ダクネスさん! それに決着ってなんだ、決着って!! そんなこんなで、カズマと俺がちょっと、時間を稼いでいる間にサキュバスが窓ガラスを割り、逃げたようだ。
(ふぅ、これで一安心……? ではないな)
にじり寄ってくる、彼女達に手をあげるなど、今の俺にはできない訳で……。
ドガバゴガギッ! とボッコボコにされてしまいました。
その後、顔を紅潮させながら、カズマに昨日の事を聞いていたダクネス。昨日のは操られているという事にしていたので、俺達は一切の記憶を失っているという事にしておいた。
だが、実際は覚えてる訳で、俺はカズマに言った。
「避妊はちゃんとしろよ?」
「そ、そ、そ、そういう関係じゃねぇし!!」
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