目眩もなくなり、意識も元に戻ってきた僕は奨真さんのところに駆け寄った。
「奨真さん!どうしてここに?」
「ん?サッチに言われてきたのもあるが、途中であいつを見つけてな」
奨真さんの目線にはフードを被った灰色のデュエルアバターがいた。
僕はあいつを見た瞬間目眩がして……。
「あいつは人を操る力を持っている。気をつけろ」
「は、はい」
「全く……次から次へといろんな人が来ますね」
「クロウ。お前にこれをやる」
奨真さんは靴型の強化外装をストレージから取り出し、僕に渡してきた。
「これは?」
「ジェットレッグだ。ゲイルスラスターと一緒に使えばさらに早く飛べるはずだ」
「ありがとうございます!」
僕はジェットレッグを受け取り、空に飛んでいる能見のところに向かうために装着した。
「着装!!ゲイルスラスター!!ジェットレッグ!!」
「決着をつけましょう!!この世界に飛行能力者は二人もいらない!!」
僕は腕を前に出し、銀色の腕から光を放った。
「レーザーランス!!」
「くぅ!!」
まだだ!!もっとだ!!
イメージだイメージ!!
「イメージ!!!」
あと少しで届くところでゲイルスラスターの出力が下がり、速度が下がってしまった。
ゲージがチチチッと下がっていき、エネルギーゲージを輝かせていた最後の1ピクセルが、消えた。
能見はチャンスと思い、笑みを浮かべて右腕を振りかざそうとした。
もうダメだと思ったけど、師匠と先輩、奨真さんの声が聞こえた。
『………さあ、鴉さん。もう少し』
『………ほら、頑張れ。もう少しだけ』
『………お前の力はこんなもんじゃねえだろ』
三人に右腕を引かれ、背中と肩を押された感じがしてゲイルスラスターのゲージがチチチッとまた増えていった。
そして残る力の全てを右手に集中させた。
「なにっ!?」
「いっけえええ!!!」
僕は相打ちになっても構わない。
タクが勝って僕のポイントを渡して、僕の全てを託されるなら僕の戦いは無駄にはならない。
だが、あともう少しというところで最悪なことが起きてしまった。
「シトロン・コール!!!」
チユがベルから放った光を能見に浴びせて、HPを回復させた。
ひび割れ、焼け焦げた装甲を癒して、やがて全てが元どおりになってしまった。
「……なんで………なんでなんだよ!!チユ!!」
「………く、くは、ははは」
「っ!?」
「見ろ、全く健気な忠誠じゃないか!?どうだ……これが、力!これが、支配するということだッ!!友情!?絆!?そんなもの要るか!略奪による支配!!それこそが、唯一、絶対的な力なんだ!!ははは………ははははははははは!!」
もうだめだ。
僕のHPはもう少ない。
満タンの能見に勝てるわけない。
「さあ………、決着の時だあああ!!!」
僕は目を瞑り、体が分散される覚悟をした。
その瞬間……。奇跡が起きた。
目を瞑っててもわかるくらいの光が能見から放たれていた。
僕は目を開け、能見を見ると翼が光、そして消えていった。
「な…………」
能見は両眼を見開き、喘いだ。
「な………ぜ……なぜ、僕の翼が、消えて……」
能見は翼を無くしたことにより、地面へと落下していった。
すると今度は僕の背中に何かが生えた。
この感覚は………。
「お……おかえり、ありがとう」
僕の背中から銀翼の翼が生えた。
そして落下している能見に突進した。
僕はゲイルスラスターとジェットレッグ、そして翼を使い、猛スピードで急降下した。
翼は無くなったけどHPは満タンだ。もうこれで決めるしかない!!
「レーザーランス!!!」
右手から放った光線が能見を貫いた。
そのまま落下した能見は地面に激突し、クレーターをつくった。
僕はスピードを落とし、地面にゆっくりと着地した。
僕とタク、チユは砂埃ができているところに向かった。
そこを見ると頭と胸郭、左手から再生しかけた短い触手だけの能見だった。
「…………なぜ。なぜ……僕の翼は消えるんだ」
「それは、あたしの力が『回復』じゃないからよ」
「ど、どういう………ことだ」
「あたし、バーストリンカーになった時からずっと不思議に感じてた。何であたしに『回復』なんて力を与えられたんだろう、って。でもね、この間ハルとタッくんがあんたと戦った時に、あんたをヒールした時気付いたの。あの時、回復したのはアバターと傷だけじゃなかった。右手の武器まで復元した。そんなのヒールじゃなくて修理だ。それでわかったんだ」
チユは息を吸い、能見にはっきりと告げた。
「あたしの力は『回復』じゃない。時間を巻き戻す力なの。技をかけたアバターの時間をさかのぼらせる。だからこの力を使えば、きっとハルの翼を取り戻せる。ダスクテイカーがシルバークロウのアビリティを奪う前まで時間を巻き戻して、全部なかったことにできる、って」
「そう…だったのか」
「……何だと……。裏切ったのか。この僕を裏切ったのか!!」
「裏切ってなんかない。最初は動画のことで脅されたから仲間になったけど、それ以降のことは動画と関係ない。自分の意思で従い、必殺技をレベルアップして巻き戻せる時間を延ばすため……そして今日のこのワンチャンスを狙うためよ。だからあたしは、あれからあんたの仲間になってなんかいない!!」
「全く……どいつも、こいつも、馬鹿ばかりか。お前らにはもううんざりだ。僕は帰るよ。全員のリアルをばら撒いて、始末は誰かに任せるさ。僕は転校して、また僕の王国を創る。さあバイス!僕を連れて離脱しろ!」
「それは無理な話だよ。この状況でできると思う?」
「なら……マインド!!僕を連れて」
「無理だな。無限の剣製に隙を作ることがどれだけ難しいか」
「……なら努力しろ!主力の僕がいなくなれば『研究会』だって困るだろう」
「それは違うな。お前は主力じゃない。主力はこの俺だ」
「じゃあそろそろ帰ろうかマインド君」
「ああ」
黒いアバターは地面の影に潜り、マインドは透明になって消えていった。
残された能見は自力でそこから逃げようとしていた。
「くそ、くそくそくそ!!認めない!!絶対に認めない!!」
「………哀れだな」
「誰か……誰でもいい。僕を助けろ!そうだ、ポイントをやるぞ。なんならレギオンにも入ってやる。だから」
「ハル……終わらせよう」
「………ああ」
僕はゆっくりと能見に近づき、右手に光を纏った。
「っ!?嫌だ!!失いたくない!僕の加速だ!!僕の力だ!!」
僕は右手を振りかざし、能見を真っ二つにした。
能見のアバターは消えて、空を舞って散った。
長いようで短かった戦いは幕を降ろした。