「ただいま……」
「おかえりなさい。……どうかしたの?」
昼とは違う雰囲気に気づいた楓子が俺に様子を伺ってきた。
でも俺はさっきの出来事を言っていいのかがわからなかった。
「いや、なんでもない」
「嘘、何かあったんでしょ。ちゃんと言って」
「………はあ。やっぱり楓子には敵わないな。わかったよ、ちゃんと言うよ」
楓子に嘘は通用しないんだったな。
もう本当のことを言おう。
「実は、サッチが突っ込んできた車に轢かれたんだ」
「え……サッちゃんが?」
「ああ」
「サッちゃんが………そんな……」
楓子はサッチが轢かれたことを聞くと、涙を流しながら跪いた。
「明日、朝一に杉並の病院に行って来る。きっと大丈夫だ」
「……うん」
翌日……
「じゃあ行って来るよ」
「気をつけてね」
「ああ」
玄関の扉を開け、バイクに乗って杉並に向かった。
アクセル全開だが安全運転で病院まで走った。
数十分後、杉並の病院に着いた。
俺はバイクを駐車場に停めてヘルメットをバイクにかけ、ロビーに向かった。
「ん?」
あれは有田君か?
もしかしてずっと待っていたのか。
なんか悪いことをさせてしまったな。さっさと行くか。
「あ!奨真さん!」
「有田君。ずっと待っててくれたんだな。ごめん」
「いえ……僕がここにいたいからずっといたんです。きっと先輩も一人より誰かが近くにいる方がいいと思うから」
自分にかけていた毛布を畳みながら俺にそう言ってきた。
前までは少し怯えていたように見えていたが、今は少し違うな。
しっかりしてるというかサッチのことを大切に思ってるというか……まあそんな感じかな。
今度は有田君は誰かに気づいたのか俺の後ろの方を見て手を振っていた。
「おーい!タクー!」
俺もつられて後ろを見たがあいつからは何か嫌な予感がした。
有田君とあいつは知り合いみたいだが、サッチはあいつを知ってるのか?
いや、知らないはずだ。
なら何であいつはここに?
「フッ」
「「!?」」
嫌な予感が当たってしまったようだ。あいつの口元を見ると『バーストリンク』言おうとしていた。
「「「バーストリンク!」」」
俺はすぐにあいつに対戦を挑もうとしたが、そもそも名前がわからなかった。
でもそんなことはすぐに解決したようだ。
俺が対戦を挑もうとしなくても彼が挑んでくれた。
なら俺は観戦でもしようか。
煉獄ステージみたいだな。見晴らしのいいところはどこだ?
「こちらが空いてますよ」
「ありがとう」
俺は近くにいたバーストリンカーに席を教えてもらい、建物の屋上の端に腰をかけた。
親切なバーストリンカーだな。
確かにここならよく見える、ええっと『シルバークロウvsシアンパイル』か……。
あれがあいつのデュエルアバター。
近接の青か。
そういえば席を教えてくれたバーストリンカーは一体……。
「ってお前かよ、コスモス」
「どうも」
「サッチが意識不明ってことも知ってるのか。まあ知ってなかったらこの近くにいないか…」
「正解ですよ」
「折角だし、リアルでも会ってこいよ」
「ううん」
「まだ会えないってか。ま、そんなことは後にして対戦を見るか。喋ってるうちに結構進んでるみたいだしな」
『スパイラルグラビティドライバー!』
シルバークロウはシアンパイルの必殺技をまともにくらい、建物の底に落ちていった。
「勝負ありましたね」
「いや、まだ決めつけるのは早い。何が起こるかわからない。もしかしたらパワーアップして戻ってくるかもしれないだろ。戦いで進化するのがバーストリンカーだ」
「でも流石にあれをまともにくらえばおしまいだと思いますが……」
確かに俺から見てもそう思う。
だが同時にまだ何かあるかもしれないとも思う。
どっちが一番ありえると聞かれると、俺は何かあるかもしれない方に賭ける。
シルバークロウが落ちていった穴を見ていると、突然何かが光の速さで飛び出してきた。
「!?まさか……本当に!!」
「戦いで進化するのがバーストリンカーだって言ったろ」
光の速さで飛び出してきたものを見ると、銀翼の翼を生やしたシルバークロウがいた。
ってあれは飛行アビリティ!?
「飛行アビリティだと……レイカー以外のやつで飛べるやつなんて初めて見たな」
「わ、私もです」
シルバークロウはシアンパイルに急降下していった。
同時にシアンパイルも必殺技で対抗しようとしていた。
だが必殺技は避けられ、シルバークロウの攻撃を受け、宙に浮いた。
どうやら決着が着いたみたいだな。
「す、すごいですね。まさか勝っちゃうなんて」
親友同士の本気のぶつかり合いか……。
昔の俺と楓子みたいだな。
「お前もあいつらを見習ってサッチと本気でぶつかれよ」
「え!でもレベル9同士だとサドンデスに……」
「加速でじゃない。現実でだ」
「……そうね。いつまでも逃げてちゃダメだもんね。私も今度サッちゃんに会うわ」
「ま、頑張れよ。ん?」
下がなんか騒がしいな。すると今度はシルバークロウが黒く尖ったデュエルアバターを抱えて空高く飛んできた。
よく見るとお姫様抱っこだな…。
「聞け、六王の、レギオンに連なるバーストリンカーたちよ!!我が名はブラックロータス!!」
ロータス。
意識が戻ったんだな。
このことを楓子にも伝えてやらないとな。
「我と、我がレギオン『ネガ・ネビュラス』、今こそ雌伏の網より出でて偽りの平穏を、破らん!!剣を取れ!!炎を掲げよ!!戦いの時来たれり!!」
ネガネビュラスの復活か。
また加速世界が騒がしくなりそうだな。
これも全部あのシルバークロウのおかげか。
「ネガ・ネビュラス……」
「どうした?まさかいつかネガネビュラスvsオシラトリ・ユニヴァースでもやりたいとでも思ってるのか」
「ううん。そんなことは思わないよ。サッちゃんがネガネビュラスを復活させてよかったって思っただけ」
「そうか。そろそろバーストアウトしようか」
「ええ」
「「バーストアウト!」」