「へいへいへーい!!!まさかテメェから挑んでくるとは思わなかったぜ!!」
(落ち着け。先輩の言う通りにすれば絶対に勝てる)
ハルユキは緊張して体が硬くなっていたが、深呼吸をし黒雪姫が言っていたことを思い出して落ち着かせた。
「そうそう!!今朝テメェに勝ったおかげでレベル2になったんだぜ!!俺様メガクール!!!」
「今朝と同じと思ったら大間違いだぞ!!」
「なら!俺様と踊れえええ!!!!」
「ったくリアルと全然違うなあいつ。相手はシルバークロウか……。初めて聞くバーストリンカーだな」
「エイトも来てたのか」
奨真が後ろを見ると観戦用ダミーアバター姿の黒雪姫がいた。
「まあな。あいつがお前の子か?」
「ああ」
「見た所特徴的なものはなさそうだな」
「それはわからんぞ。戦いで進化するのがバーストリンカーだろ?」
「ま、そうだな。とりあえず観させてもらおうか」
「はあ……はあ……このまま逃げ続ければ大丈夫だろ」
僕は先輩の言う通り先制でダメージを与え、高いビルの屋上へと逃げた。このまま逃げ続けてタイムアップで勝つという作戦だ。
「流石に登ってこないだろう」
そう信じて下を覗いて観た。するととんでもない光景が見えた。
「このキャラス野郎!!!!」
「えええええ!!!!!」
アッシュローラーがバイクに乗って壁面走行して登って来ていた。
そして屋上に来てしまった。
「レベルアップボーナスで何にするか悩んだが、必殺技も走行速度アップも蹴って壁面走行にしたんだよね、俺様大〜〜正〜〜解!!」
まずいまずいまずい!!!
「オラオラオラオラオラ!!!!もっともっと踊れえええ!!!!」
「うわああああああ!!!!」
に、逃げるだけでも精一杯なのにダメージなんか絶対に与えられない!!!どうすれば!!!
そうだ。これはゲームだ。なら何処かに必ず弱点があるはずだ。
よく見て観察するんだ。あのバイクの弱点を!!
「っ!?あれだ!!」
頼む!一度でいい。動いてくれシルバークロウ!!あいつより速く!!
僕はアッシュローラーの突進をギリギリで避け、両手を伸ばし、ダメージを覚悟してバイクの後輪を覆う黒いフェンダーの緑を掴んだ。
「オラオラオラ!!!テメェの貧弱な体で俺様のハイパーマシーンを止めれると思うなああ!!!」
「ぐわああああ!!!」
足が痛い。摩擦して足の裏が焼けそうだ。でもまだ離すわけにはいかない。
まだだ。まだだ。
「ヒャッハー!!!さっさと離したほうがいいんじゃねえか!!」
「は、離すわけにはいかない!!!」
「ならそのままHPが無くなるのを待っておくんだな!!」
まだだ。まだだ。
僕はチャンスをずっと待ち続けた。
待ち続けるとようやくチャンスがきたようだ。
「そこだあああ!!!!」
アッシュローラーがアクセルをし直すために手を放した瞬間、僕は後輪を思い切り上にあげた。
「ぬおっ!?」
後輪をあげたおかげでバイクは止まった。
「な!!何いいいい!!!!!離しやがれこのキャラス野郎!!!」
「嫌だね!悔しかったら前輪回してみろよ!」
後輪を持ち続けてようやくタイムアップになった。
対戦が終わってバーストアウトした。
「まさかアッシュがニュービーに負けるなんて……」
「私が教えた必勝法だ。なかなかやるだろ」
「ま、次はアッシュが勝つがな」
「それはどうかな?次もクロウが勝つさ」
「ふん。次が楽しみだ」
「じゃあそろそろバーストアウトするよ。それじゃあ」
「ああ」
サッチがバーストアウトして、しばらくすると後ろから一人のバーストリンカーが姿を現した。
まあ薄々感づいていたがな。
後ろを見ると真っ白のアバターがいた。
その人物は七大レギオンの白の王『ホワイトコスモス』だった。
「何で一緒に見なかった?」
「その……私がサッちゃんと一緒にいる資格は」
「ないって言いたいのか。まあ確かにないかもしれないが、それを本人に聞いたのか?」
「……………」
姉妹揃って頑固というか。面倒な姉妹だな。
「ま、あいつとどう接したいかはお前が決めることだ。俺は助言を言うだけだ」
「……ありがとう」
「俺もそろそろバーストアウトするよ。サッチと話し合うんだったらまずはレッドライダーのことを謝るんだな」
「うん」
「じゃあな」
俯いたコスモスから視線を外し、俺はバーストアウトした。
「どうだった?綸は勝ったの?」
「残念ながら負けちゃったよ。俺もそろそろ稽古をつけてやるかなー」
いつも修行は楓子に任せっきりだったし、そろそろ俺も稽古つけてやらないとな。アッシュもきっと今回の敗北がきっかけでもっと強くなりたがると思うし、綸も今頃悔しがってるだろうな。
「ふふっ。綸もきっと喜ぶんじゃない。奨真君のこと大好きだし」
「そうなのか?嬉しいけど、俺には楓子がいるからな。楓子以外の子とは付き合ったりはしないよ」
「ありがとう。私も奨真君以外の子とは付き合ったりしないよ」
俺たちはソファに座ったまま抱き合ってキスをした。
軽く触れるだけのキスだ。
「さ、そろそろお父さんとお母さんが帰ってくるわ」
「そうだな。あ、晩御飯の準備手伝うよ。父さんと母さんも疲れて帰ってくると思うからごちそうを作ってやろうか」
「ええ。頑張りましょう!」
俺と楓子はごちそうを作るために台所へ向かった。
晩御飯を作りながら俺は綸の特訓メニューも考えた。