ToLOVEる~守銭奴が住まう町で~   作:ド・ケチ

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6エンどうしよう。臨海学校は今一ネタにならない、一気に二学期も気が早い。


4エン 弱者の知恵

「くか~~~」

 朝、雛野とララが学校に着いた時、机の上で爆睡している片羽がいた。

「珍しいわね。片羽君が隙を見せるの」

「そうなの?じゃあ起こそうか?」

 怪しいアイテムを取り出すが、

「寝かしときな。どうせ考え過ぎで眠れなかっただけだろうし、授業には起きるでしょ」

 そういう会話をしていたら

「おや?珍しい」

 少し遅れてきた守金も片羽を見る。

「長太おはよ   ‼」

「おはようさん。元気だねぇ」

 と言いつつ抱きついてくるララをかわしながら元気の無い奴を見る。

「くか~~~」

「……そのうち起きるだろ」

 幼なじみと同じ結論にいたった。

「ところで心当たりはない?」

 暗に先週の会話でこんな事になる理由がなかったか雛野は尋ねているのだが、

「無いな。まあ本当に重要なら昼休みにでも言うだろ」

  (くか~~~)………静かだと思ったらこっちも寝てるんですね、千夜さん。

 

 

4エン  弱者の知恵(wisdom of the weak )

 

「くか~~~」

 隣の片羽を見ながら珍しく守金の方がドン引きしてた。4限目、体育の授業で男子は本日持続走だったのだが、

「くか~~~」

 この男は走りながら寝るという器用な事をやってのけている。それでも後続の一般生徒を大きく引き離している辺り、この2人の基礎体力は高い。ただ、金が絡んだ時の守金が非常識な程に凄いだけで。現に陸上部のランナーや体育系クラブのエース等の体力自慢は2人を抜き去っている。まあ彼等の矜持として眠りながら走っている人間に負けたくないだけの可能性もあるが。

 奨学金とは関係ない(とはいうものの剰りにも酷いと影響はあるだろうが)守金はトップ集団を争わずに片羽の介護、必要無いだろうが、そちらにまわっている。

 なもので比較的のんびりしている守金は女子の方を見る。

 ソフトボールをやっていて、ピッチャーはララ、キャッチャーは雛野がしている。コントロールの悪い豪速球を捕りながら雛野が叫んでいるが、まあもっと弱く投げてコントロールしろとかそんなところだろうと守金は判断した。実際のところ、力を抜き過ぎてコントロールが上下に狂っている面もあるのでスピードを上げた方が安定する可能性はあるのだが、100%後逸するのは目に見えている。

 (くか~~~)……静かなのはいいけど、いい加減に起きましょうよ千夜さん。 (くか~~~)

 

 

「くか~~~」

 寝ながら更衣室で着替えて、寝ながら教室にかえって、寝ながら弁当を食べるという、本当に寝ているかどうか怪しい片羽。

 (寝てるよ~) (くか~~~)  嘘だ!  (本当本当。)  (くか~~~)

「あれ?雛野はどうした?」

 守金が姿の見えない幼なじみをきにした。

「昂音なら先生に言われて片付けをしてたよ」

「それにしては遅すぎないか?」

 ララの返答になおも疑問は払拭されない。

『一番危険なのは雛野』

 そんな片羽の言葉が2人に蘇る。

「片羽!起きて‼」

 ララはそう言いながらガクガク揺らすが

「くか~~~」

 起きる気配はない。

「だめだめ、そんな起こし方じゃ」

 そう言ってララを止めると守金は耳元で唱え出す。

「猫が寝ころんだ、

 布団がふっ飛んだ、

 隣の家に垣根ができた、へぇ、カッコいい」

 周囲の気温が3℃ほど下がった。

「つまらん駄洒落を連発すんなッ!寒いわッ!」

「あ、起きた」

 良いのかそんな起き方で?クラスメイトから白い目で見られている。ララに対して守金もどや顔をしているが、ここは頭を抱えるべきではなかろうか?

「で、起こしたのはどういう……成る程、雛野が行方不明で危険かもしれないと」

 起きたばかりなのに瞬時に状況を判断した。 (考えれば) (わかるだろ?)……無茶言わないで下さい。

「守金、千円あげるから雛野の匂いで場所をみつけれないか? (金は後で雛野から) (回収するが)

 地味にケチな(責任の所在を)片羽だった。(明らかにしてる)

「あっちだ!」

 ビシっと指を指し示す守金。言っていてなんだが、片羽は頬を痙攣させてた。 (まさか本当にできる) (とは思わなかった。)

「長太すごーい‼」

『それで済まして宜しいのでしょうか?』

  (ダメです)

 そんなやりとりはともかく、守金の先導に従って走る。

「ここだー!」

 体育倉庫を開けると中には体育教師と機械の触手に吊るされた雛野がいた。

「は、早過ぎる」

 この段階でバレるとは男には想定外。

「で、ここは誰だと聞くべきか宇宙人?」

 えっと驚きながら一堂は片羽の方を向く。

「あの先生、女性に対する免疫ないからこんな事をする訳ないだろうが。そして地球人ならこんな上手い変装ができるか。あと機械の触手なんてどっから入手するんだよ。

 大方ララの婚約者候補、人質をとって優位に交渉しようとしている、それだけだろ」

「ああそうだ。良くわかってるじゃないか」

 メキメキと音を発して変身しながら招待を表す。

「え?ギ・ブリー⁉」

「じゃあ3人でボコろうぜ」

 手をボキボキならしながら進んでいく片羽。

「動くな!」

 ナイフを突きつけて警告するが、

「残念だけど、テロリストと交渉はできない。それに事前に忠告したのに捕まる雛野が悪い」

「ダメ!」

「それはないぞ!」

仲間から忠告が入るが、

「さて、選べ。無傷で投降するか、少しでも雛野を傷つけて殺されるか」

 ボキボキと拳を鳴らす臨戦態勢で邪悪(挑発的)笑みを浮かべる片羽という、どっちが悪人かわからない (人質とる方が悪い)セリフを邪悪な笑みと共に吐き出した。

「こ、これが本当の姿だ!」

 メキメキと巨大化するギ・ブリー。

「地球人なんかの百倍以上力があるんだぜ」

 主導権を持っていこうとするものの、

「なあ、それ本気でそれ言ってるのか?」

 冷たい一言が場の雰囲気を逃さない。

「本当に強いなら何を怯える必要があるんだ?」

 穏やかに語るものの、その片羽は睨み付けながら断言する。寝不足でできた隈のせいで何時もより怖い。

「な、何を言っている?」

「動揺してるから弱いのは確定、そしてまず変身するタイミングがおかしい。何処に変身する理由があった?こちらが強くなった訳でもそっちが不利になった訳でもない。

 脅しが効かなかったからより強そうな格好で脅そう。そんな理由か?だとすると近所のガキより愚図なのだぞ?」

 ギ・ブリーの思考も守金の度量も完全に読みきっている。だけならず、

「さて、言い訳を聞こうか?バルケ星人」

 何故知っている?ララさえ知らないはずの何処の星の住人か何故知っている?疑問は顔に書かれており、片羽でなくともそれが真実だとわかった。

「ど、どうして………」

 最後には男の顔に絶望が浮かんでいた。

『バルケ星人といえば、優れた擬態能力を持つ代わりに肉体的には極めてひ弱な種族ですぞ』

 その理由をペケが言い、そして皆に理解が広まった。ネタが上がればギ・ブリーには何もできない。

「他の婚約者候補にどんな奴がいてどんな対策をとらないといけないか、ザスティンさんから資料を貰ってな。対策とか考えてたらこの3日完徹し続けて眠いんだよ!つうか名前言った瞬間に雑魚確定してたのに資料知らなくても雑魚確定じゃないか!」

 能力からどの婚約者候補かを判断し、無言の質問を事も無げに答える。

「少しはブラフくらい貼って頭脳戦に持ち込んでみろや。ポーカーフェイスかましてくるガキの方が手強いぞ」

 そしてため息をつく。

気配を消せ。力を抜け。重心移動で加速しろ。日常を壊す宇宙人を赦すな

すーっと近づき、ぶん殴る。そして罵声と共に殴り続ける。

「お前頑張れよ!弱者でも!変身能力が!あるなら!もっと!考えろよ!

 貰った!婚約者!候補の!資料を!見て!トップ!クラスの!厄介さで!詰んだ!状態から!どうやって!頭脳戦で!勝機を!手繰り!寄せよう!か!考えて!考えて!徹夜して!たのに!何!なんだ!よ!この!お粗末な!手段は⁉

 弱いなら!知恵巡らせ!て勝ちを!目指すから!下手したら!詰んだと!思いきや!何にも!考えて!無いだろ!アホかっ‼バカかっ‼巫山戯(ふざけ)んなッ‼」

 怒りに任せて拳を振りながら叫ぶ片羽という相当レアなシーンを(酷いキャラ崩壊を)目撃して2人は呆然としていた。……自分で言いやがりますか、千夜さん。既に気絶していて本来の姿に戻ったギ・ブリーに、なおも容赦なく殴り続けるくらいに、片羽は機嫌が悪かった。 (寝不足のせい。)

「そういえば」

 守金は片羽の小学生の時のアダ名を思いだした。

狂戦士(バーサーカー)と言われてたな」

 中学の時、どうしてそんなアダ名があるのか理解する機会は訪れなかったが、具体的なきっかけはともかく、そのアダ名になるだけの理由はここに判明した。 (小4の時、担任教師を) (顔がわからないまで) (ボコり続けたからな。)………なにやってるんですかね? (彼女が悪いのだよ。)

 

 

 

 

オマケ

 

『質問なのですが、貴方がケバル星人の立場ならどのように行動したのでしょうか?』

 後日ペケは聞いてみた。

「俺たちの誰かに化けて、例えば守金に化けたとする。後はアリバイがなさそうな時間に監視カメラのあるところでバレるように万引きをして逃げる。下手するとこれだけで詰む」

『すみません、もう少し説明をお願いします』

「途中で別の何かに化ければ逃げ切れるし、後日守金を警察に連行させて行動させない事ができる。それを繰り返せば、ララの周囲に誰もいなくなる。まあ、地球人は宇宙人の事を知らないからできるんだがな。最終的には雛野あたりに化けて堂々と連れ出せばいい」

『なんていうか、セコイですね』

「セコイけど労力は少ないし効果は抜群なんだよ。しかも対策が取れない。故に策としては最上のものだ。

 他のは、リスクや事前調査が長期間必要だから、ただ勝つだけを求めるならこの手で十分なんだよ」

 とは言いつつも、最悪な敵を想定しているだけで片羽は確実にやらない。剰りにも姑息過ぎる手段は王から叱責の対象となる可能性があるからだ。故にもっと複雑で事前準備が必要な手段を採らざるをえない。それら全て対処する考えを徹夜して巡らせたのに、やってきた相手はああだった。それがぶちギレする程の肩透かし。  (俺は悪くない。)十分悪い。

 

 

 

 

 

   次回予告   

 

 

 

片羽「本当に手伝う事はないのか」

??「流石に時間が足りねぇ」

守金「何時連絡した?」

片羽「そういえばいたな」

ペケ『ありがとうございます』

ララ「ペケ      ⁉⁉」

片羽「ここが資料室」

ペケ『雛野様のお兄様の提案です』

守金「毎度ありー!」

??「うわ~~~~っ もうダメだァ‼」

片羽「何その呪いの絵」

ララ「私も何か手伝おっか‼」

雛野「手伝わないでください」

片羽「コーヒー入りました」

 

  次回

5エン 物語の紡ぎ手

 

 

 




 片羽は電波を受信しているようですダークネスに入ったら回収できるくらいの伏線予定なんだが、行けるかな?
 ギャグとかコメディー世界の住人にあるまじき外道(でも味方)だから仕方がないね。現実的に考えるなら相手の行動を予測してカウンターかませるから、そういった思考ができる事は喜ぶことなんだが、創作物だと大概味方から避難を浴びるんだよなー。しかし策を巡らすよりキレた片羽が殴った方が早い。深緑の智将グリニデ閣下と一緒やで。
 一方でギ・ブリーさん、人質とるくらいに下衆いなら別に濡れ衣を着させてもいい気がするんだよな。

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