ToLOVEる~守銭奴が住まう町で~ 作:ド・ケチ
「ただいまー」
昂音とララは人の気配のない雛野家に帰ってきた。
「昂音のパパとママは?」
「父さんなら母さんを探してるよ……」
遠い目をして煙にまく。
『夫婦喧嘩で家出をなさったのですか?』
「だったらまだ良かったんだけど」
居場所がわかるという点で。実際には超絶方向音痴な母親を探している父親で、二人とも殆んど家にいない。それを素直に言っていいものかどうか昂音は迷った。
「という訳で今は1人なのよ」
居間に入りながらの説明に横槍が入る。
「誰か忘れてないかな?」
影のようにひっそりした男。気配もなく2人の前にいきなり現れた。目も前にいるのに注意して見ていないと見失いそうなほどに気配がなく、声量こそあるものの耳をそばだてないと聞きそびれそうなほどに残らない。
それでも危険だと思えなかったのは、彼が優しそうに笑っていて穏やかな雰囲気が周囲を包んでいたから。
「誰?」
「ごめんなさい、忘れてた」
「それ酷くない?お兄ちゃん悲しいよ」
とは言うものの、存在感の希薄さのせいか、記憶からも忘れられ易いのが彼の特徴である。それも家族から忘れられる程に。
「ふ~ん。成る程ね」
お茶を飲みながら一連の話を聞いて、昂音の兄の勇悟は相槌を打って何か考えている。
「そういう事は先に伝えなさい。無論、父さん母さんにもね、メールでいいから」
「はーい」
やんわり諭して妹が反省したところで、ララの方に向かって言う。
「ララさんもご両親には伝えておいてね。あと、もしもの時の連絡手段と、掛かり付けの医者辺りは教えてほしいかな?」
『掛かり付けの医者ですか?』
「どういう意味?」
「どこでも良くないかな?」
発言者を除くみな、必要性を感じてないようだが、
「地球人の病院で大丈夫という保証はないよ。薬が毒に成りかねないからね。病気にならないまでも、ケガをする可能性もあるし、知っておいた方がいいかな。医者はいなくても、最低でも救急箱くらいは必要だね」
『うかつでした。ララ様は今まで風邪をひいたことがなかったもので』
それはバカだからか、いや、宇宙人と地球人(もっと言えば日本人)と常識が違うから関係ないのかもしれないが、彼は益体もなくそんな事を考えた。
「あと当然だけど、ララさんの持ってきた薬を地球人に使わないようにね。生死をさ迷う状況ならともかく、地球人にとって猛毒の可能性もあるんだから。人だけでなく動物にもダメだよ」
彼等は知らない。この一言によって、幾つかの騒動のフラグが潰された事を。
「はい!」
なお、この件に関しては頭脳担当の片羽が真っ先に気がつかなければならない事だ。しかし、
「千夜君はこういうところは抜けているから仕方がないかもね」
「?」『⁉』「あー」
どういう事だろうとララ、信じられないペケ、察した昂音、それぞれの反応を示した。
彼が抜けているところを加えるなら、食事の中に宇宙人には毒な食べ物の可能性を失念していた事もあげられる。例えは悪いが、犬にとっての玉葱や猫にとってのマタタビに相当するものがあったかもしれないのだ。人間に無毒だからといって
こんな抜けている片羽だが、だからといって勇悟の方が知恵が回るという訳ではない。これは得意分野の話で、片羽の知恵の巡りは『攻撃』といった分野に特化されているため、『成長』『回復』『維持』といった分野は苦手だったりする。『防御』も得意そうにみえるが、基本的にカウンター準備の為の『防御』なため、やはり攻撃に極振りということには変わりない。
逆にこういった分野はお金が絡んでいない守金の方が上だったりする。もっとも、普段の彼の場合は万能と器用貧乏の中間くらいの評価だが。
「ある程度一緒に過ごしていると、なんとなくわかるよ」
「むしろ知らない方が幸せの部類じゃないかな?」
「?」『?』
よくわからないララとペケだった。
抜けてる片羽のスペックは極端な話、知略100(最高値)で内政30(圧倒的下位)といった感じだから。
何故か料理はできるけど、家事はあまり得意ではない。
そしてこの母親、西連寺でない春菜さんにしか見えない。