ToLOVEる~守銭奴が住まう町で~ 作:ド・ケチ
「おは……よう?」
教室に入ってきた片羽千夜が言い淀んだのはクラスメイトの雛野昂音が机の上で
「お早う」
そして守金長太も入ってきた。
「長太 ♥」
ララ・サタリン・デビルークが守金に向かって抱きつこうと飛び掛かる。
スタン!
何時もなら余裕で避けるのだが、今回は避けれなかった。
一部のクラスメイトは気がついた。守金のスラックスが万年筆で床と縫い付けられていることに。そしてその万年筆は雛野の手から発射された事に。
「可愛こちゃんお早う!昂音ちゃんもオレ様の胸にwelcome!」
女好きの近衛一輝が教室に入ってくる。
ビュン!カカカカッ!
一瞬で投げられた4本の万年筆が近衛の制服だけを穿ち、後ろの壁に突き刺さった。
「雛野さん雛野さん?あなたにいったい何があったのですか?」
いきなりパワーアップしている雛野に何故か片羽は敬語で質問した。
「実は生徒会でね……」
そして説明する。
「万年筆でダーツをすることになったの」
「なあ片羽よう、俺は全く理解できなかったんだが」
「そうだな。俺の読解力でも流石に理解できない」
仲のいい2人にわからないなら他のクラスメイトでさえ解るものはいない。
そもそも何で普通のダーツ矢を使わないのかから始まって、たかが万年筆でどうしてこんなに攻撃力があがるのか?加えるなら、何故こんなに疲れているのか?片羽の質問に何一つ答えていない。
「生徒会でね。次の体育祭、誰が主担当、要するに実行委員長になるかで1年で勝負をしてたのよ。で、その勝負の内容が万年筆でダーツだった訳」
「ごめん、それでも万年筆な理由がわからない。そしてこんなに凄い理由もわからない」
「護身とか遠距離攻撃の嗜みとして覚えとく様に言われて」
せんでいいせんでいい。
なんやかんやしている間にチャイムが鳴り、先生が入ってきた。
「じゃあ転校生の紹介をする」
「「「またかよ!」」」
ゴールデンウィーク明けてララ・サタリン・デビルークが、2学期に入ってレン・エルシ・ジュエリアが、そしてまだ10月に入ったばかりなのに何故こんなにもこのクラスにだけ集中しているのか?生徒達のツッコミは至極当然のものであった。
『片羽!』
お前何か知らないかとクラス中の視線が突き刺さる。
『俺が何でも知ってると思うな!』
睨み付けて返答する。
「じゃあ入ってこい」
「はい!」
「ちょっと待てや会長!」
入ってきた転校生を見て片羽は叫んだ。そして皆が思う。ああ、これは本当に知らなかったんだなと。
「片羽の、というか生徒会長の知り合いか。それはともかく村雨、自己紹介を続けろ」
「はい。
村雨 静と申します!
お静って読んでくださいっ」
「来ると思ってたよ」
「出迎える程に予測してたなら一言教えてください!」
ホームルーム終了後、片羽は物凄い形相で全力で走って2年
「というよりも一回で教えたいから、教えて良さそうな人間を何人か昼休憩に生徒会室へ連れてこいよ。無論、副会長もな」
「会長も会長で何人か呼ぶんですね。
「まあこの件に関しては先代も絡んで欲しいからな。あのメンバーに知らせるのは筋だろ」
と、そんな訳で昼休み。
生徒会室に集まったメンバーは以下の通り。
前生徒会長、大居天汰
現生徒会長、阿部誠司
生徒会副会長、雛野昂音
生徒会書記、葉桐往道
生徒会会計、長野友久
生徒会庶務、燕子花越也
風紀委員長、紀刻唯真
風紀委員、片羽千夜
1年生、守金長太
1年生、ララ・サタリン・デビルーク
1年生、村雨静
以上の面々であった。
「じゃあまず彼女の説明をさせてもらおうか」
阿部生徒会長は前置きだけし、何故かハリセンを取りだして
スパーン!
「痛ったーい!酷いじゃないですか!」
「いやぁ、ごめんごめん。けど、これが1番早くてね」
ぷりぷり怒る村雨と笑いながら謝る会長。しかし問題はそこではない。
村雨はハリセンの一撃で地面に倒れたまま、しかし会長の横で普通に話している。
「「「ゆ、幽霊⁉」」」
片羽とララを除く1年は驚いて叫んだ。
「というわけで、改めて自己紹介を宜しく」
「は、はい。400年前に彩南の地で死んだお静と申します」
「いやいやいやいや!ダメでしょ死んだ人がフラフラしてたら!」
そういう問題かと一部の人間は発言者の雛野を見るが、
「人間の命は一つ、だからこそ今この瞬間を必死に生きて、後を濁さず去るべきだという会長のスタンスから外れていませんか?」
「基本的なスタンスはそうだよ。まあオレの意見は最後に添えるとして、彼女を学校に行かせた側の目的から話そうか」
現生徒会1年の総意を燕子花が発言したが、会長はそれを後回しにして本題を進める。
「精神エネルギー体、端的に言えば幽霊の研究なんだが、その一環で人形に憑依させて学校生活をさせてみるというものだ。この学校にきたのは知り合いがいるからでフォローが容易だということがあげられる。因みに彼女を知っていたのは先代の会長と現役の風紀委員長と片羽、それにオレの四人だな」
「だったら何故1年なんですかね?彼方と1番交流深いのは会長でしょ?」
片羽が睨む様に質問した。
「幾つか理由があるが、お前のクラスだと1番面白そうだった」
「そんな理由で……」
「そういえば珍しく叫んでいたよな」
「確かに面白いものを見たわ」
ガックリ項垂れる片羽にここぞとばかりに友人2人はウンウン頷いていた。
「よし、先ずはドッキリ成功。見れなかったのが残念だが、あの形相を見れたから満足しよう」
満面の笑みを浮かべる会長、そして未だに項垂れている片羽を見て話し合う2人。
「片羽君で遊んでるのね」
「普段人で遊ぶ側だから会長に遊ばれてバランスはとれている、のか?」
そんな事を言っているが、
「もっと大きい理由は昂音がいるからなんだがな」
「え?」
「任せられる女子がお前だけだったんだよ。流石に男子だとフォローできない場所もあるからね」
例えば更衣室とか。
「紀刻先輩ではダメなんですか?」
雛野は頼りになりそうな巫女さんをやっている先輩を見たが、
「紀刻に任せるとなぁ。除霊しそう」
「しないわよ!」
阿部会長は本気で言っているのか冗談なのか微妙なところだが
「と、まあこの辺りまでが
そしてここからが阿部生徒会長、あくまでも個人的な本音である。
「彩西色に染めるにはあと1年半じゃ難しいだろ」
「「「そこ⁉」」」
紀刻、守金、片羽の3人が叫びをあげた。
「それをやったら染まる前に成仏しませんか?」
「別にしてもいいんじゃない?成仏するって事は当人が満足したってことでしょ?」
「けど中途半端に成仏したら人形だけのこるだろ。すみません、学校ではしないで下さい」
「それだと人形が九十九神になる可能性もあるんじゃないかしら」
「あ~、幽霊がいるなら九十九神がいてもいいかも」
「じゃあ会長の狙いはどっちだ?」
「そこはどっちでもいい、どちらでも今よりマシと思うんじゃないかな?」
会長を除く現生徒会メンバーは4人で話し合っている。それを聞きながら片羽は思う。ああ、こいつら完璧に会長の色に染まっているなと。そして会長はこれを良い傾向だと思っている。
「ねぇねぇ、ツクモガミって何?」
「意思を持った道具っていうのが1番近いと思うが。 紀刻先輩、専門家の意見としてはどうなんですか?」
ララからされた質問を守金は専門家に丸投げした。
「一言で説明するなら、物に魂の欠片が少しずつ貯まっていって、何時しか一つの独立した魂を持ったものね。だから村雨さんが人形にとり憑き続けたら人形が付喪神になる可能性は上がるわね」
専門家の意見を皆が注視する。
「けど、それは村雨さんの子供とでもいうべき存在で記憶とか性格とかは一致しないわ。誰しも魂を持っているのだから、学校生活の交流で他の人の魂も少しずつ交ざっていくから。そして、村雨さんが成仏するなり除霊されるなりする前に付喪神になる可能性もあるんだけど」
「村雨さんの見た目で村雨さんじゃない人がいると同時に、村雨さんとは違う見た目の村雨さんが存在する訳か。なるほど、『人に為りたかった人形は自らの足で歩きだす』だねぇ」
「だったら
ちょっとした問題提起を旧新生徒会長は簡単にまとめて解決方法を考えた。そこで新たな問題点が浮かぶのはある意味お約束なのだろう。
「そして増え続けて、村雨さん百人できました」
そして何故かボケた燕子花に生徒会の面々は吹き出した。
「ナイスボケ。越也、1ポイント」
「よし!」
「何のポイントですか会長?それと雛野さん、なんでそんなに悔しそうなんですかね?」
「俺の幼なじみがどんどん侵食されている」
生徒会、というよりは会長と関わって変わってしまった知人とどう接すれば良いのだろう。二人は少しだけ考えた。
村雨Aが現れた
村雨Bが現れた
村雨Cが現れた
村雨Dが現れた
村雨Eが現れた
村雨Fが現れた
村雨Gが現れた
村雨Hが現れた
?!! 村雨たちが………
クイーン村雨に なってしまった!」
とそんな大喜利だったが、
「しかし九十九神って合体する事はあんの?」
いきなり会長は素に戻って専門家に訊いた。
「全く別物の九十九神同士が合体する事はないはずだけど、もともとがほとんど同じ村雨さんの魂だからできない事もなさそうとしか言えないわね。まあ考えても詮無きことね」
そんなこんなで昼休みは終わってしまった。
そして放課後。
「お?来たか」
「来たかじゃないですよ」
屋上で阿部生徒会長と彼に呼び出された片羽が密会をしている。
「アイコンタクトが伝わってない可能性を考慮したし、伝わってスルーする可能性もあるからなぁ」
「後半はありませんよ。こっちも聞きたい事があるんで」
そういう意味ではこの機会は片羽にとってもうってつけだった。
「貴方か何を狙っているのかは知りませんが……」
「雛野の疲れは誰が体育祭実行委員長をやるか決めているだけだ」
生徒会長は相手の言いたい事を把握して先回りして答えた。
「もう一言加えるなら、全員が立候補をしたんで万年筆ダーツで勝敗を決める事を提案した。つまり、練習疲れだな」
とりあえず、個人の練習であんなに強くなれるかと叫びたかったが、突っ込んだのは別のところだ。
「何故そこで万年筆ダーツになるんですかね?」
「気休め程度だが、護身用だ」
何故そんな必要があるのか?聞いたら頭が痛くなりそうな返答を予想して聞けなかった。
ツクモガミの表記、専門家は付喪神と言い、一般的な表記として九十九神を使っています。音しか知らない人はツクモガミと表記しています。
因みに九十九神が合体してもクイーンにならずレギオンになるという設定があったりする。登場機会はない。
オリジナルのキャラクターは個々にテーマがあったりする。基本的に番外編の生徒会メンバーだったら覇道、1年D組は魂等。