ToLOVEる~守銭奴が住まう町で~   作:ド・ケチ

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もう1つの準決勝を書く予定だったのだが、この話が長いのと世界観の重要な部分に触れるのと、なんかキャラとか必要性とかが阿部絡みで世界観どうでもいい話にしかならないんでカットされました。準決勝に進出できていた近衛 (誰それ?)は泣いていい。


番外編 2-急 球技大会 決勝戦

 【下克上】対【生徒会】の決勝戦、先ずは【下克上】のボールからスタートする。

 生徒会長は距離をとって副会長と対峙する。決して抜かさないという体勢だが、

「甘い」

 阿部がとった手段は単純なものだった。大居生徒会長は知っていても選択肢から外してため全く対応できない。つまりこれは真っ正面からの奇襲だった。

『SLR砲だー!』

 実況の叫び、ギャラリーの歓声が響くもプレーヤー達は冷静だった。

「まさかできたとは思わなかったよ。流石誠司だね」

「まさかもなにも。オレも人、彼も人、故に対等。何処かの誰か(片羽)にできたなら他の人(オレ)にできない理由はないだろ」

 理屈ではそうだ。しかし片羽の無茶苦茶ぶりを知っている守金はそんな訳あるかとツッコミたい。少なくとも、その理論なら自分達でもできる事になるのだから。 (まあ守金の気持ちは) (わかるんだが、) (決定的にずれている。)

「それが君の渇望かな?」

「渇望って言う程のものか?普通に生きてる人にそんなものは無いだろ」

  (この人の場合、) (渇いてないからな。) (むしろ満ち溢れている。)それって【流出】じゃあ?

「【完全コピー】を能力とする【求道】かな?だとすると色々おかしいし、前提条件としての(燃料)が不足してるけど」

 そんな雑談をしながら守備に進む阿部と攻撃に戻る大居。 (そうなんだけど、) (変な日本語だわな。)

『片羽さんはこの試合をどう見ますか?』

 一方、放送席からはこんな会話があった。

『高度な連携の【下克上】という攻撃よりのチーム対して個人技と総合力が上の【生徒会】という、全体的にはそんなイメージなのだが』

『では【生徒会】がどうやって守り抜くかが焦点ですか?』

『逆。【下克上】がどうやって守るか』

 そしてその守りだが、

『ハーフコートのボックスワンですか?』

 四人でゾーンを守り、1人がマンツーマンでつくというわりとスタンダードなパターンの1つだ。普通のバスケットならばだ。

『スタンダードだがこの場合は奇策に分類されるだろうな。阿部先輩がかわされてSLR砲を射たれても仕方がない、そんな守備陣形でフォローができない。それにこれだと……』

 阿部だけが突出して前線に残り、他ゴール前に陣取っている。

「随分と思いきった事をするね。これだとスクリーンに対応できないでしょ?」

 他の選手が阿部の動きを妨害して大居をフリーにする作戦に対して無力である。これが片羽が言い淀んだ理由だ。

「けど最初の一発目は一対一で実力を測るんだろ?じゃあここは考えるだけ無駄だな」

 アンクルブレイクで倒した後にスリーポイント。それが大居の狙いで、それを阿部はわかっている。むしろ大居には阿部の作戦がわかっているのに、この段階では性格的に乗らずにはいられないことまで把握されている。

「それじゃあ、ついてこれるかな?」

 鋭い切り込み。

『抜いたー!』

 相手が何をするかがわかっていても、阿部に大居は止められない。純粋な実力差だ。なので、

『いや、抜かせただけだ!』

 倒れずに、しかし遅れはするものの僅かに後ろを追いかける。

 片羽と大居のSLR砲の違いは滞空時間ともう1つ、地上でのフォームがある。バスケのフォームなんて糞喰らえな片羽のフォームに対して、大居のそれは綺麗なフォームだ。つまり止まらないと射てない。

 もっとも、それがブラフ()である可能性もあり、それをどのタイミングでばらすかは1つの駆け引きである。会長がしかけるなら2回目からだと付き合いの長い副会長は半ば確信している。

『ギャンブルみたいな手で俺にはとれない。そういう意味では相手を熟知し過ぎだ。この副会長会長の事が好きすぎるだろ』

 千夜さん千夜さん、それ放送で流すコメントじゃないです。普段の小文字の内容ですよ。

 センターラインを超えた大居の前に蘇原が立ち塞がる。更に1年2人が両サイドから仕留めにくる。当然のようにパスが回る。が、

「甘い!」

 ノールックのパスを阿部は止めた。そこからやはりノールックのままゴール前に放り投げ、

 ドゴン!

 全速力で走った蘇原のダンクで追加点をとる。

「読んでたのかな?」

「田中へのパスをか?それは九十九と守金以外のどちらかで田中と青野の2択で偶々当たっただけだが?」

 読みが当たったというものではない。外のない九十九や届かない位置にいた守金を外すとその2人に絞る事しかできず、パスが届きそうな方へ山を張っただけだったりする。

 もっとも、外から見ていたら気になるのはそこではない。

『今の蘇原選手の動き、()すぎませんか?』

『明らかにカットするとわかっていないとあんなに早くからダッシュはできない。阿部選手なら止めれるとか、阿部選手以外の誰かが止めるとか、そんな確信がないと走り込めない。加えて阿部選手も蘇原選手なら追い付くという信頼でパスを出している』

 と、過大評価をしていた。

 

 

 その後前半戦は【下克上】は1年をローテさせながらベンチで休ませつつ、しかし徐々に点差を詰められて、

『逆転だー!38-36!遠山選手のスリーポイントで遂に試合はひっくり返った!』

 後半終了5秒前だった。

 直ぐ様阿部はボールを貰い、大居がマークにつく。

 残り時間4、3、2……あり得ない速さで横向きに阿部が動く。少し遅れて大居がついてくが

『SLR砲だー!』

 適当にぶん投げるフォームで放ったそれは、そのままゴールに入って、38ー39。そこで前半は終了した。

「その動き、普通じゃないね。それが君の切り札かな」

「切り札っちゃ切り札だな」

「ふむ。【求道】(条理から外れる)程ではない。となると、解説で言っていた意図的な極限集中(ゾーン)、オーバークロックとも言うべきものによる脳内加速と、火事場のクソ力による筋肉のリミッター解除の併用かな?」

「だいたい同じとだけ言っとこう」

 と言うもののズバリその通りだったりする。素直に正解と言うのも癪だし、否定したところで意味はない。(1番恐ろしいのは)(看破される事を前提に)(切り札を切った事。)

 

 

『片羽さん、前半終了しまして38-39、どのような感想を持ちましたか?』

『もっと一方的に【生徒会】が蹂躙すると思ってたんですが、予想以上に他の選手が頑張りましたね。少なくとも、前評判では【下克上】が上位に来ることさえ予想は困難でしたから』

『確かに1、2年だけのチームでバスケ部は無名の1年1人だけ。阿部選手と蘇原選手以外はクラスメイトでなければ知らないような人ばかりでしょうからね』

『阿部選手の人を見る目もあるんでしょうが、大会までの短期間で相当にチームの底上げをしたんでしょうね。加えて試合でも育成してましたから』

『というのは?』

『1回戦から2回戦にかけて増えた戦術はドリブルです。1回戦はパス回しだけで自陣から敵陣までボールを運び、ゴール下からシュートを射ってました。3回戦からはスリーポイントを加えて中外両方から攻めてます。加えてこの決勝にくるまで能力の高い2人、阿部選手と蘇原選手は同時に試合にでていません』

『はー。よく見てますねぇ』

『1回戦の段階で決勝戦にくると思えるくらいにはヤバかったですからね。底も見えなかったし』

『ではこの試合は……』

『間違いなく全力を出すでしょうね』

 

 

「さて、九十九。相手はどう出るかな?」

「一見ギャンブルプレー。しかしその実態はあんたの暴走を利用した作戦です」

 普段は温厚を絵にかいたような見た目の九十九じと目で答える。

「それは僕のせいで負けてるといいたいのかな?」

 あまりにもあんまりな物言いにチームの空気が一瞬悪くなる。

「いなければ大差がついて負けているという意味ではno、真面目に勝利だけを目指すんならyesですよ。そしてこのチームは貴方のチームというなら好きにすればいいです」

 暗に『勝つ気あんの?』か『何を目指して戦ってるの?』と聞いている。

「そうだね。九十九や郷田はともかく、バスケ部の2人や守金君の最大の目的は先の試合だろうし、この試合のモチベーションはそこまで高くないだろうね。

 ただ、僕個人として誠司にだけは負けたくはないかな」

「だったら真面目に戦って下さいよ」

「それはこの学校の方針的にはどうなんだろうね?」

 誰もが頭に『?』を浮かべる。

 

 

一方【下克上】

 

「前半は上場、後半の仕込みもオーケー。後は予定通り、誘いに乗らなくなる終盤が勝負だな」

 会長を良くしる副会長は現在の状況を告げる。

「いきなり『切り札』を切ってくるはずだから、その後は頼むぞ、1年トリオ」

「上等!」

「まあなるようになりますわ」

「任せて下さい」

 1年3人、セリフはともかく気合いは十分、眼はギラギラ燃えていただ。

「弦矢、調子はどうだ?」

「悪くはない」

「なら良し。後半の攻めの中心は間違いなく弦矢だからな」

 こくりと頷いて同意した。

(むつみ)、でずっぱりでキツいだろうが、なんとか持ちこたえてくれ」

 

 

 

後半開始

 

『おや、【下克上】はメンバーを変えてきましたね』

『2年の真知(さねとも)睦選手がベンチですね。1回戦からフルスタメンなので、休ませる必要があるんでしょう』

『それを言ったら【生徒会】のバスケ部2名もフルスタメンですけど』

『流石に基礎体力からして違いますよ』

 そしてボールは投げられる。

 生徒会長はボールを受けると正面の阿部副会長をあり得ないスピードで置き去りにし、

『これはSLR砲だ!しかも出鱈目フォーム!』

『前半終了間際の阿部選手の真似をしてきましたね』

「君も人だから、(誠司)にできる事なら当然他の人()にもできるよ」

「……そういう事にしとこう」

  (ぶっちゃけ会長も) (ずれてるし、) (聞いていた全員が) (ずれてたんだよな。)

 だって誰もそういう意味だと思わないじゃん。

「とは言うものの、脳も身体も負担が大き過ぎるから持続も連発も無理だし、使えば使う程弱体化するなんて最後の切り札にしか使えないだろうに」

「そうでもなぞ。現にさっき休んで少し回復したからな。それに……」

 ここでメンバーチェンジ。阿部はベンチへ下がった。そして出てくるのは2年の真知。

  (敵を弱くするためだけに) (エースが切り札切って) (交代するとは) (お釈迦様でも思うまい。)

 前半終了前のあのやり取りで、下手に否定して真似をされなかったら困るというのもあった。そして大居なら後半開始早々に真似してくるだろうと性格を把握していた。

「お宅らのチーム、それでいいんですか?」

 真知をマークしながら守金は訊ねる。

 【生徒会】チームの守りはオールコートのマンツーマン(一対一)。1番強いのを会長が、2番目が守金が防ぐ事になっている。なので、今2番目に強いのが真知選手である。その真知選手にボールが渡る。

 綺麗なフォームだった。

「なっ⁉」

 慌ててブロックしようとするが間に合わない。

『これはSLR砲⁉』

『いや、これは』

 ダン!

『アリウープ!』

『それもSLR砲に見せかけたね。おかげで一瞬守金選手の動きが止まった。そして大居選手の運動能力は高いとはいえ、身長やジャンプ力を含んだ空中戦なら蘇原選手が上だ』

「お宅こそ、うちのチームを理解してないのでは?」

 これは本気で勝つための采配なのだ。故に、奇策は続く。

『ト、トリプルチームだ!』

『1年3人で大居選手をマーク。ゴール下付近は蘇原選手と真知選手。最初から想定してたんでしょうね』

 1年3人をローテーションで休ませつつ、ベンチから会長の動きを見させ、また前半終了間際に自爆技で後半開始早々コピーしてきた相手に自爆させて能力低下、そしてトリプルチーム。

 ただそれでも奇策である。一瞬の優位こそ得れるものの、追い付かれ追い抜かれそして徐々に点差は離れていき、

『守金選手のダンク!これで62ー52、十点差!

 ここで【下克上】タイムをとります』

『そろそろ阿部選手が出てこないと間に合わない点差になりそうですが』

 

 

 

「郷田、交代だ」

 会長はベンチで見守っていた仲間に告げた。

「よし!誰とだ⁉」

 会長は自分を指す。

「怪我でもしたんですか?」

「どちらかというと疲労だね。後半開始のアレのダメージが予想以上に大きかったんだ」

 九十九の疑問に素直に答える。

「このまま出ることも可能だろうけど、多分誠司は止められないよ。まあ彼方の回復具合にもよるんだろうけど」

 つまり守金が阿部をマークすることになる。誰が誰をマークするか確認し、タイムが終了する。

 

 

 一方

 

「そろそろだと思うんだけどな」

「何がですか?」

「いや、会長がベンチに引っ込むの」

 マネージャーの疑問に阿部は端的に答える。

「じゃあ小細工は」

「もうないな。後は会長が出てくるまえに逆転して逃げ切るくらい。消極的でやりたくないが、勝ち目がありそうな策はない。他に良い案はないか?」

 その一言で雛野は考える。

「阿部さん、ダメージは抜けましたか?」

「もうちょっとかな」

「じゃあ……」

 提案された内容は実に生徒会の会長副会長共に好みな内容だった。しかしネックとなるのは

「あーじゃあ同点までは踏ん張ってみるわ」

 1番疲労している真知が言った。本来ならここで交代なはずで既にフラフラだが。

「そこは燃え尽きるくらいやれ」

「最初から燃えてたらバテるから」

「もうバテバテだろうに」

「うんそうだね。けどそれがどうした?」

「そりゃそうだ。心臓動いてるなら止まる理由はねぇよ」

「オレは心臓止まるまで休めないのか?」

 2年同士のやり取りに残りの2年阿部と1年はクスりと笑う。

「じゃあ頼むぞ、5人とも」

 

 

『えっ!?』

『両チームとも思いきった事をしてきましたね』

 エース不在の攻防、それはこの試合に関してのみもう1つの事実ができる。

『お互いに遠距離攻撃がなくなって近距離の攻防になりますかね?まあ普通のスリーポイントを近距離というのも疑問ですが』

『どうでしょうか?少なくとも、下克上は大居選手が出てくる前に最低でも同点にしないと勝負が決まりかねない。なのでオールコートで守る可能性も高いです』

 さて、そんな2チームの戦力バランスだが、互いにリーダー不在のバランスなら【生徒会】の方が勝っていた(・・)

「どういう事ですか?」

 目の前のバテバテの相手に九十九は聞いた。

「仲間に頑張れと言われた。追い付いてくれと頼まれた。

 これで追い付けないならあいつの仲間の資格はないよ」

 言い返しながらボールを貰い、シュートを放つ。今まではチャンスですら射ってなかったスリーポイント、故にこの不意討ちに対して九十九は対応できない。

「あと7点」

 攻守切り替え、下克上はオールコートのマンツーマンで守る。

 真知はクラスメイトでありバスケ部副部長の田中とマッチアップする。気迫、眼力、そんなもので一瞬相手の動きを止め、

「戻れ!」

 その一瞬を燕子花がカット、すかさずゴール前に走り込もうとする新渡戸にパス。そのままレイアップにいこうとして飛び上がったが守金がブロックしにきたので不安定な体勢からパス、真知へパス、スリーを放つ。

 今度は外れ、しかしそれでも

  ダガン!

 蘇原がダンクで押し込んだ。

「残り5点」

 その後も【下克上】の反撃は続く。もう既に疲れはたし、フラフラな男がボールをカットし、走ってシュートを射つ。

 【生徒会】に最早油断も慢心もない。それでも止まらない、止められない。

 徐々開いた10点差は一気に縮んていく。そして、

『逆転逆転!試合残り3分で【下克上】追い抜いた!そしてここでタイムがとられます!』

『こうしてみると随分長い前座だったみたいですね』

『それはどういう意味ですか?』

『ここまでのゲーム展開、追い抜かれるタイミング含めて、阿部選手の理想通りだったみたいですよ』

『え?』

 

 

「タイムをかける必要は有ったんですか?」

 九十九が代表して訊いてみた。

「在ると言えば在る、無いと言えば無い。

 要は今までのはお互いに前座だ。最も、下手な手を打とうものなら直後にぶっちぎるつもりだったんだけどね。流石は誠司だ、よく理解している」

 だからこそ乗ってやれる。仕切り直しには丁度よい。

「ここから彼らは全力を越えてくるよ。だからこそ、僕らも全力を越えてでぶつからないとね」

 

 

「よく追い付いた。有り難う。睦もナイスファイト」

 ベンチで倒れた真知を阿部は労う。

「おうよ。だからお前らも倒せよ」

 仰向けに、ぜぇぜぇ息を荒げながら、それでも強い声で激励する。それに阿部は応じる。

「当たり前だ。お前が此処まで頑張ったなら、それに答えられないなら仲間とは言わない。だろ?」

 阿部の呼び掛けに皆が頷く。

「小細工はもう必要ない。ここからが本番だ。勝つぞ!」

「「「おう!」」」

 

 

 

 両チームのキャプテンがマッチアップしながら話をする。

「さて、誠司が勝つとなると片羽君が見せたあの(わざ)を使うくらいしかないと思うんだけど」

「片羽も人で守金も人だから同じ人のオレが使えない理由はない」

 だから使えれば勝てる可能性は大きい。しかし、

「脚下だ」

 阿部は言いきる。

「人間にあの(わざ)は必要ない」

「まあ、そこ(求道は不要)には僕も同意なんだけどね」

「それに片羽のアレ(求道)は人外への切り札だろ?」

「おや?」

「郷田先輩と会長はアレ以降ボールに触れていない。撹乱のために動いてはいたが。多分、彼はそういった(人を守る)存在なんだろ?

 正しくは、そういった渇望の持ち主か?」

 大居生徒会長は無意味と思われる行動はとれど、基本的に無駄な言葉を使わない。故に上手く組み合わせば知らない世界の(ことわり)もギリギリで理解できる。

「言葉尻でそこまで読むものかね?」

 それでも彼はこの世界の根源に近づいた。しかし、

「まあ彼が何かはどうでもいいし、会長が何かはもっとどうでもいいが、人間をなめるなよ」

 そんな事は些細な事だ、今この勝負が大切なのだ。そして本番の勝負が始まる。

 ここからの攻防は互角だった。前半とほぼ変わらないメンバーで、それでも前半より圧倒的に強力なチームの【下克上】と、全を出した生徒会長が率いるチーム【生徒会】、その攻防は五分五分、互いに2点差を越えて離される事はなかった。

『人間は此処まで動けるのか此処まで精密なのか此処まで通じ合えるのか!私達は今人間の限界を見ている!』

 高ぶり過ぎた実況に解説は引いていた。引きながらも【下克上】の異質さに気づいていた。試合中に才能が開いて急激に上手くなることは在っても、何でこいつらは身体能力まで上がっているんだと。【下克上】だけじゃない。【生徒会】のバスケ部2人に守金も、どんどん凄くなっていく。

 そしてその中心にいるのは両チームのキャプテン。圧倒的な力量を見せて越えてみろと聳え立つ大居に、成長しながら越えてやるとくらいつく阿部。

 そして時間はラスト6秒。

 82-80、【生徒会】2点リードで【下克上】ボール。

 おそらく次のシュートが試合終了(ブザービーター)かそれに近いものになる。阿部に大居が、蘇原に守金がつく。

 ボールをもらった1年、燕子花越也(えつや)は冷静だった。

 勉強もできないスポーツも苦手、得意なものもないただそれだけの人間。1年のチームメイトの他2名が部活をやってたり、そこそこ頭がよかったりして何で自分がこのチームにいるのかわからない。

 いや、いる理由ははっきりしている。文化祭で思いを叫んだからだ。

 叫んだのに理由は無かった。ただ憧れて、ああ変わりたいと思ったからだ。それが阿部先輩の目に止まった。

 スカウトされて最初は辞退しようとした。こんな取り柄もない自分がいて良いのかと。けど

「文化祭の時に叫んだのは変わりたかったからじゃないのか?ならいい機会だぞ」

 その時は何に変わりたいかわからなかったが、それを知るためにも【下克上】に入った。

 そして今ならどのようなものに変わりたいか言える。

 (阿部先輩)みたいになりたい、(阿部先輩)みたいに格上の先輩に挑んで後輩(自分)達から憧れて越えたいと思わせるような。

 だから一緒に練習した技を使う。

『抜いた⁉これは火事場のくそ力とオーバークロックの重ね技か⁉』

 郷田を抜き去ったが直ぐ様田中がフォローに入る。そして十分に引き付けたタイミングでパスを出す。出しながら倒れる。限界を越えた動きで筋肉に、骨にダメージを受けすぎた。けど、これでいい、彼はそう考える。後は仲間が上手くやる。

 

 燕子花の作戦を唯一読みきったのは大居でも守金でもなく、彼のクラスメイトである遠山だった。しかし彼は止められた。

 スクリーンプレイという身体を張って動きを封じる戦略の1つだ。

 張ったのは同じく1年長野(ちょうの) 友久(ともひさ)。勉強はできるが要領の悪い、そして運動の苦手な彼もやはり変わりたかった。いや、彼の場合は既に変わっている。開き直ったといっていい。

 勝つとか作戦とか応用とか、そんなのは要領の良い燕子花のような奴に任せて、地道にやれる事をやってればいい。

 彼から受けたアイコンタクトはSLR砲を射たす。だから自分は妨害してくる人を妨害し返せばいい。できることはそれだけで、だからこそ全力でやる。燕子花と同様に、身体の限界を越えた無茶で意図的な火事場のくそ力で遠山の動きを止める。

 そしてラストパスがフリーで通った。

「自分で言っただろ」

 受け取った彼はSLR砲を放つ。そして試合終了のブザーが鳴る。落とせば【生徒会】が、決めれば【下克上】が優勝を決める。

 やられたと大居は思った。

「オレにできる事は他の誰か(葉桐)にもできるってな」

 阿部誠司はチームメイト葉桐往道(ゆきみち)のシュートを見ながら、確信しながら言った。

「だからと言って、君ならまだしも彼が見ただけで真似ができる訳ないよね?」

「そりゃそうだ。オレも葉桐もこの日に備えてSLR砲を練習してた。まあ葉桐の成功率は低かったけどな。

 それでも他の誰かにできて自分にできないなら、純粋に努力が足りない。見ただけで真似できる様な超能力を普通の人間は使えないし、使える必要もないだろ。葉桐とそう言いながら地道にしかし必死に練習してきたんだ。アイツの努力をナメるな」

「ああ、今全てが繋がった。君のそれは【求道】と対をなす【覇道】だよ。俺にできたのだからお前にもできるだろという押し付けか。

 それでも幾つか不可解なところもあるけどね。(燃料)とか」

 2人してボールがゴールへ吸い込まれるのを見ながら話し合う。

 【下克上】は阿部が集めたチームだが阿部頼みのチームではない。彼は能力の高い重要なプレーヤーではあるが、いなければいないなりになんとかできるチームでもある。それが後半戦序盤ベンチに居れた事に繋がっている。

「しかし面白い事をしてくれたね。頼むよ、後輩(・・)

「任されましたよ、先輩(・・)

 ニヤリと悪い笑みを浮かべながら言った。

 

 

 

 

 

 10月の生徒会選挙で、生徒会会長に阿部誠司が、副会長に雛野昂音が、書記会計庶務にこの時の【下克上】のメンバーがそれぞれ就任することとなる。

 

 




 とりあえず、決勝戦なげーよ!原作キャラクター全く出てないし主人公も空気だし!全ては阿部誠司新生徒会長が悪い!

 こいつの場合は、勇者を輝かせるために戦いたいという人であるが、試練を与えて敵として戦うアマッカスと違って、共に試練を受けて肩を並べて戦いたい人という違いがある。身も蓋もない言い方をすれば、常に主人公とタメを張れる親友ポジにいたい人。
「オレはこれだけ輝いているんだ、肩を並べるお前も輝けるだろ」
からの
「お前がそれほどに輝いているなら、お前と肩を並べるオレはもっと輝かなければ」
という人。うん、アマッカスと仲良くできそう。というか、アマッカスを仲間ポジにおくと期待に応えなければとパワーアップして、お前もできるだろとアマッカスのパワーアップフラグが立つというか1人でも強化されるのにそれを加速させ、そして強化したアマッカスに追い付こうと対抗意識でエンドレスパワーアップしていく。
 求道か覇道かと問われたら間違いなく覇道。お前ならできるだろという意味で。
 流出したら人類揃って劣化アマッカスになるという恐ろしいお人でもある。劣化とはいえ敵味方にアマッカスがいると、際限なくインフレする。しかも集団戦、一万対一万とかやったら凄い楽しい事になりそう。アマッカス一万人対アマッカス一万人、巻き込まれる世界はたまったものじゃない。
 因みに宇宙人とかを判断できる理由はこの人も人間讃歌な人なので人間以外を敏感に感じられるというものだったりする。
因みにこの小説の設定では八天からオリジナルで設定して現在第十天。早く新作でろ。

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