ToLOVEる~守銭奴が住まう町で~ 作:ド・ケチ
彩西高校球技大会。それは一般的な学校の球技大会と違うところが幾つかある。特に違うもののうち1つは学年の垣根を取り払った混合チームであるということだ。
今回の球技大会男子の内容はバスケット。編成のルールは交代要員含めて1チーム6名、ただし1学年につき最大3名、バスケットボール部の参加は1学年につき1人、同一クラスの参加はチームで2人までとなっている。
ガチで勝ちにくるチームの編成例として、
3年A組バスケ部、3年A組、3年B組、2年A組バスケ部、2年B組、2年C組バスケ部
3年A組バスケ部、3年A組、3年B組、2年A組バスケ部、2年B組、1年C組バスケ部
試合のルールも球技大会に合わせて若干の変更
それらを踏まえたうえで、
「なんで俺を誘うんすかね?バスケ部前部長さん」
片羽は白い目で大男を見る。彩西高校男子バスケ部前主将、
「オレはどうしても生徒会長に勝ちたいんだ!」
バスケ部3人だけでは生徒会長には勝てないらしい。
「因み他のメンバー候補は?」
「2年の新部長と1年のエース」
ガチで勝ちにきた編成だった。
「それでも勝てないとな?」
「会長がいたら全国制覇できたと思うぞ」
なお、彩西高校バスケ部はインターハイ予選の決勝リーグで敗退しているし、過去に全国ベスト4になってたりと、実はそこそこ強かったりする。
「会長ってどんだけ凄いんだ?」
冷や汗滴ながら守金が聞いたので前部長が答える。
「片羽君の上位互換だ。何処からでもスリーを打てるし、パス回し上手いし、アンクルブレイク仕掛けるし、スタミナあるし」
雛野はそんな実力があってなんで部活をしていないのか疑問に思ったが、守金や片羽が部活に参加してないからそんな事もあるんよねと無理やり納得する事にした。まあ守金はともかく、今の片羽が部活に出れば全国優勝も夢じゃないだろう。
「では、此方は守金君を引き抜こうかな」
話題の人、生徒会長大居
「守金君も片羽君に勝ちたいよね」
微妙に刺激を与える言い方である。
「参加します」
あっさ会長の誘いに乗った守金だった。
「じゃあ俺も参加するか」
片羽も元バスケ部部長の話に乗った。
「そこまでして勝ちたいんですか、先輩がた」
そして3人目の先輩が入ってきた。
「副会長、君もスカウトかな?」
「スカウトですよ」
何かを企んでいるような笑みを向け合う会長と副会長。それに横槍を入れるのは
「ちょっと待て会長!2人は別のチームなのか⁉」
「そうだよ」
「どんなメンバーだよ⁉」
「同じクラスの九十九と庶務の
生徒会長チームは基本的にバスケ部元部長チームに対抗したい人材が集まったチームである。この段階でもはや優勝はどちらかに決まったようなものだ。唯一対抗できそうな大穴はというと、
「でだ、副会長はどういうチームだ?」
「文化祭で覇気を見せたやつ」
基準そこ⁉雛野だけは内心で驚いていたが、大概の者は意味がわからず、意味がわかった会長は笑っていた。
「という訳で雛野さん、うちのチームのマネージャーやらない?」
なお、ルールには1チームに1名、マネージャーをつけられるルールがあったりする。
「それに……」
付け加えられた言葉は雛野を刺激するものだった。どうしてもマネージャーをやりたくなる、そんな言い回し。
「わかりました。参加します」
「それと大庭先輩、1年の
「別に構わんが、そいつバスケ部の1年最弱だぞ」
「あいつには覇気があるんで」
ニヤリとガッツポーズで副会長は答えた。それ絶対に大丈夫じゃないと雛野は頭を抱えた。
そして訓練の日々が流れ、球技大会当日の日がやってきた。
準決勝第一試合
かくし球のつもりか、片羽や生徒会長は試合に参加しなかった。それでも相手チームと十倍程度の点差になるのでハンデにもなってないが。
「注目するのはこの試合だな」
生徒会副会長率いる1年と2年だけのチーム【下剋上】、対するは各学年のスポーツ自慢が集まったチーム【パワー】。
「俺は副会長の実力を知らないんだが、どんな人なんだ?」
守金が片羽に聞いてみる。
「夏休みでちょこっと絡みがあったけど、切れ者だったな。前線で撹乱しながらゲームメイクをするんじゃないかな?」
とは片羽の予想。
「片羽君、君はそれでも阿部誠司という男を過小評価している」
割り込むのは生徒会長、大居天太。
「人がいなければ自分が動くけど、人を使う事に関しては自分が動くより得意な人間だよ。そして最大の長所は人を育てる上手さだ」
怪我防止でジャンプボールがないため【下剋上】のボールからスタートする。
「なんだあのプレー?」
「巧いとかそういう次元の凄さとは違いますよあれ」
「流石に僕もあそこまでやるとは思わなかったけどね」
それは単なるパス回しの連続だった。ただしパスを受け取らず弾くようにして次々と回していき、ラストは片羽お得意のシュートを確実に決めさせるパスという高速のチームプレー。あっさりとレイアップで2点を先制する。片羽や生徒会長ならアシストから確実に決めさせるパスを出せるが、誰かを経由したらそんなパスは出せない。阿部のパスは6つ前、だからラストパスを出した人がすごいかといえば、
「1年の
「そうなのか?変わった名前だなというくらいしか知らなかったぞ」
それが1年同士の会話だった。片羽がノーマークなら他の生徒がまず知ることは無いだろうし、当然生徒会長が知るはずもない。そして実は彼と同じ中学だった生徒の方がプレーの凄さに驚いてたりする。
「ならこの1週間でそこまで育てたんだろうね。ぶっちゃけ、誠司の天職は教師とかコーチとかだよ」
紀刻との会話を2人は思い出していた。
「防御もカバーが早いというかなんというか……」
「わざと抜かせて仲間に仕留めさせてるんじゃないか?」
「確実にそうだよね」
しかもこれらのプレーはキーマンとなる選手がわからない。副会長のチームだが彼から指示を出している様には見えない。だからといい別の誰かが出しているようにも見えない。
ダンクやスリーポイントのような派手なプレーはないものの、ミスのないプレーでじわりじわりと点差を引き離していく。
「最終パターンは5×4、本当に誰が何処から切り崩すかわからないチームプレー特化のチームか。なんて厄介な」
片羽は半分呆れながら呟いた。
「当たるとしたら決勝か。まあ3位決定戦の可能性もあるが、先ずは準決勝を勝つことかな?」
生徒会長は片羽を見ながら笑って言った。
そして後半戦
チーム【下剋上】は副会長がベンチに下がり、別の2年が出てきた。2メートルを越す筋骨粒々の大男だ。
「
片羽が知っている、そのくらいの知名度。そして詳しい説明をする。
「女子の紀刻先輩と並ぶ2年のバランスブレーカー。人間性を一言で表すなら、怖いけど優しい熊かな」
優しい?あれで?守金は厳つい顔を見ながら嘘だと思った。
「紀刻先輩は存在が抑止力、蘇原先輩は見た目も抑止力の人だから」
「一応、生徒会からは1番最初に副会長としてスカウトしたが断られたんだよなぁ。よくもまあ誠司は口説けたよ、本当に」
どうやら気難しい人らしい。そんな事は守金にとってどうでもいいと思いながらプレーを見ることにする。
「いきなりスティールからのダンクってド派手な……」
しかも
それよりも気になる事があった。
「そのわりには点差が離れるペースが落ちてる。チームとしては弱体化してないか?」
「してるよ。チームプレーが苦手な人みたいだしな。というか、他の4人が異常なだけで普通に上手いパス回せるから他のどんなチームでもそんな事を言われないだろうけど」
守金の気付きに片羽が肯定した。
「あのチームの弱点は圧倒的な個人プレーだろうからね。片羽君クラスが1人なら誠司が抑えるだろうけど、2人以上いたら虐殺されかねない。そういう意味では彼にチームプレーを無視させてでもマンツーマンで守ってもらうしかない。となると、あたった時のフォーメーションはトライアングルツーか」
ボソボソと会長は予想される作戦を述べた。
「アレ、止めれるかな?」
お金が絡んでないと無理だ。
「止めて貰わないと困るんだけどね。誠司は僕が抑えないと駄目だし」
「そんなに強いんですか?副会長」
「ダンクは無理だけど、スリーは射てるしアンクルブレイクは体育の授業でやってらしいよ」
会長の説明にゲっと顔をしかめた。前半戦、どちらも使っていない。
「会長もですけど、なんで部活をやってないんですか?」
「僕は部活に興味なかったし、誠司は特定の部活に入るつもりはなかったらしい、というより、高校入学時はそこまでだったらしいし」
おやっと聞いていた1年は思った。
「才能はあったんだろうけどね。誰かがやって
劣化奇跡の黄色かと守金は思った。
「しかしよくそんな人材を生徒会に引き抜けましたね」
「うん。僕も蘇原君から推薦されるまで知らなかったし」
会長が認めた蘇原の認める阿部誠司。
「副会長に必要とされる能力と運動能力は関係ない気がするんですけど」
もっともな守金の疑問だが、
「去年は知らないけど、今年の1学期期末、五教科なら学年1位だぞ」
テスト後に張り出される順位表で知っていた片羽が答えた。それに生徒会長が付け加える。
「副教科が少し弱いから9科目では落ちたらしいよ」
「ということは、総合は副会長ですか?」
「残念ながら、2年生は1年や3年に比べると魑魅魍魎だらけの魔窟なんだ。五教科の上位十名以上は平均95以上。平均90強の副会長はギリで二百人中30位だ。副教科の点数は公表されてないからわからないが、そこまでごぼう抜きはできないと思うぞ」
聞いて頬を痙攣させるしかない守金。
「全国模試の結果に僕はドン引きした。偶々職員室での会話を聞いたんだけど、全国百位以内の1割がうちの生徒だったそうな。だから、2年生の問題が簡単すぎるという話ではないよ。むしろ、点数の対比でみると2年の方が問題は難しかった可能性まである」
青い顔をしながら生徒会長が話した。それを聞いた2人も青くなる。
「勉強以外でも、2年は個人種目でなら何人も全国に行っているんだよ。だから、その中で文武両道で総合ナンバーワンを引き抜きたかったんだけどね」
確かに、文武という2点でならそうだろう。しかし、コミュ能力や芸能等、数値で評価されないものを含めた場合は話が変わる。
極端な話、ノーベル賞をとる科学者とオリンピックの金メダリストを比べてどちらが凄いか語っても意味はないが、それは文武両道だけで考えた場合である。そこからミシュラン3つ星シェフや国家主席等が加わって、さて誰が1番かと決めるような話だ。
更に混沌とさせる要素として、ミシュラン2つ星シェフ兼オリンピック選手やノーベル賞の候補になるような大臣が加わっていることである。十年、二十年先に、そんな人間になりうる卵が大量にいるのが今の2年だ。
その後特に面白みもなく試合もトーナメントも進み、準決勝の火蓋がおとされる。
決勝を書くのが目的で、そのために真面目に準決勝を書かなければいけないという