ToLOVEる~守銭奴が住まう町で~ 作:ド・ケチ
ドンドン パン!
ドンドン パン!
ドンドン パン!
体育館の中、音楽に合わせて強く統一された足踏みと手拍子の音が鳴り続ける。全員が臨戦態勢、戦端が開かれるのを今か今かと待ちわびている。
「なんだこりゃ?」
呟いたのは片羽だが、大概の1年は概ね同様の感想だった。
何お祭りに全力を出してるんですか?こんな質問をされたら大概の上級生はこう答える。
祭りに全力ではっちゃけずに何時はっちゃけるつもりだ?
こんなノリが多いので、文化祭準備から風紀の違反にならない程度にはっちゃける人は多い。特に上級生。言い換えたら、守るべき一線は守るから風紀委員の仕事はないともいう。
外部の参加も可能なので、守金や片羽、雛野等は去年の文化祭に遊びにきていた。感想は活気あるなと思っていたのだが、まさか開会式の前段階でここまで活気が暴走しているとは思ってもいなかった。
そんな微妙に混乱しつつ1年は席につき、
そして全体が適度にトランスした頃に音楽は止まり、同時に手拍子足踏みも止まる。
法螺貝の音が鳴り響く。
鎧兜に身を包んだ生徒会長が壇上に上がる。
「守金、あの侍鎧って幾らくらいだ?」
張りぼてには見えない重厚感あるその姿に片羽は守金にひそひそと質問した。
「2百万くらい。学校の備品とかじゃなくて個人所有の物を持ち出したんだと思うが」
こういう鑑定眼は守金の独壇場である。それを知ってどうこうする訳ではないが、その熱の入れように感心する。
「
敵は退屈、平凡、閉塞!
この日の為に振り絞った知恵を!努力を!その魂を!
魅せてみよ外なる者達に!
行くぞ
第49回
「「「うお 」」」
ぶぉお~お~
ぶぉぶぉぶぉお~お~
ドンドン パン!
ドンドン パン!
ドンドン パン!
ドンドン パン!
号令から始まる鬨の声、法螺貝、足踏み手拍子。
「何このオタ芸?」
余談だが、文化祭のオープニングは毎年変わるので、鬨の声をあげるタイミングなんかが毎回変わる。それでも、上級生はアドリブでタイミングを完璧に合わせてくる。絆がなせる
「暇ですね」
風紀委員の腕章を着けた片羽が隣を歩く先輩風紀委員に声をかけた。
「私達はまだ良いわよ。一番暇なのは」
「間違いなく紀刻先輩ですね」
原則風紀委員は男女2人1組で行動する。同時に3組が巡察に周り、3組がクラスや部活動の出し物への協力となっていてる。とは言うものの、何事も無ければ巡察は暇である。下っぱはそれで良いのだが、首脳陣は本拠地で巡察部隊からの情報をやり取りしたり、増援の派遣を決定したり、動けないポジションにつく。そして特に報告はない。
「何かあったら匂いを嗅ぎ付けて真っ先に飛び出そうな人が本部に残っていて良いんですか?」
「抑止力として最強よ。去年暴れ過ぎて下手なちょっかいをかけるバカはいないでしょ」
あの人いったい何をしでかしたんだ?聞きたいような聞かない方が良いような、結局は言葉を飲み込んで、
「暇ですね」
賑やかな廊下をのんびりと歩き回っていった。なお、完璧な蛇足なのだが、風紀委員の抑止力は彩南の
隣のクラスの演劇は当たりのようで2回目、3回目の公演はドンドン人が入っていく。その影響か、1年
「「ギャー⁉」」
ゴール前に残された片羽画伯必殺の阿鼻叫喚地獄絵図で精神を殺られて間に合わなかった人もいたが。
こうして気絶客を休憩室と名付けたゴール前に休ませながらシフトの交代時間がやって来た。
「長ー太!」
狭い空間、飛び込んできたララを守金は回避できなかった。厳密には、間違って背後のオブジェクトをララが壊してはいけないと思ったからだが。
「はいはい。一緒に回ればいいのね」
「だったら3年A組にいってきなよ。運が良ければ生徒会長にあえるはずだし」
探索が終わった阿部が勧める。
「何をやるか知ってるのか?」
「兄ちゃんから聞いた。似顔絵描いてくれるらしいよ。
ただ描ける人が少ないのが難点で、順番待ちが予想されるけど」
次のシフト、他の出し物等々2秒ほど考えて
「行くか」
「うん‼」
ララはがっちり腕を抱き締めて言った。
「いってらっしゃい」
手を振って雛野は2人を見送った。
1年の部屋がある4階から1つフロアを降りるだけで人の入が違った。2年のフロアから3年のフロアへ降りると、
「なんじゃこりゃ?」
「うわー。人が多いね」
廊下は渋滞だった。
「これ全部順番待ちか」
「凄いねぇ」
3年は多くのクラスで渋滞が至るところで発生している。演劇やっている場所は午前にして渋滞緩和の整理券が『本日
去年見学で来たが、去年以上に盛り上がっている。文化祭限定で向上心が暴走することにより、常に去年より上を目指そうとするお祭り野郎と、お祭り野郎に感染したその他大勢が頑張り過ぎた結果である。
2人は3年A組行きの渋滞に並ぶ。途中パンフレットを眺めながら次どこ行こうか話合ってると、何処かの高校生と付き合っている守金らのクラスメイトと目が合った。
お前、シフトは?
阿部に頼んだ。
よし、代理で取り立てよう。
勘弁してくれ。お奨めのスポット教えるから。
何処だ?
園芸部と2年C組。
つまらなかったら取り立てな。
助けてー。
そんな会話が目だけでくりひろげられた。この間5秒。
「どうしたの?」
「竹中と目が合っただけだよ」 目が合っただけだが会話量が半端ない。
「どんな人だっけ?」
一部のクラスメイトの顔と名前はまだ一致していないララだった。
「運動がやや苦手で勉強は得意。勉強以外に使う頭はもっといい人。お化け屋敷の小道具担当代表だった」
そんな事があって逃げるように竹中が去った後、再び守金は知り合いとあう。
「守金にララちゃんじゃなぇか」
「あっ、こんにちは!」
「おう今日は」
能天気に挨拶するララと、
「何やってるんですかね、結城さん?」
トレードマークの無精髭と大漁ハチマキはしていないが、売れっ子漫画家結城栽培であった。
「文化祭の資料にな」
言ってデジカメを見せる。
「地元で有名だから一度は来たかったんだが、予想以上に盛り上がってるじゃねぇか。リトのところも凄かったが、こっちはそれ以上だな」
「生徒の自分が盛り上がり過ぎて退いてるんですが」
「けど来年は牽く、牽引する立場だろ?」
「まあ撮るべきものをとったら早く帰って下さい。締め切り地獄になる前に」
「そうするわ。そういゃ、お前さんらのクラスは何をしてんだ?」
「お化け屋敷。そして出口直前に片羽の絵が描いてあって叫び声が酷い事になっている」
「依らずに帰るわ」
頬を痙攣させながら去っていった。
その後も守金の知り合いと会話しながら
画伯は3人、キャンバスは6つ。まさかとは思いながら画伯の生徒会長を見る。2つのキャンバス同時に描き始めた。右と左がまるで別々の意思を持つように自由に動き、およそ10分。
「完成」
左右同時に完成した。単体ならそうでもないが、両方同時という話題性で十分商売になると守金は考えた。それが1人ではなく3人が同時にやっている。
「田中~休憩だぞ」
「これ終わったら休むわ」
「日高さん、次ちょっと行きたい場所があるから少し長めに休んでいいかな?」
「え~。私も行きたい場所があるのに」
会話から最低5人は同じような技能の持ち主がいる。それも、会話しながらも手を止めないだけの実力の持ち主が。
「会長、交代の時間ですよ」
「ああ、まだいいよ
「へ~。誰ですか?」
「守金君とデビルークさんだよ」
「ああ、あの」
納得すると九十九と呼ばれた男は守金等のところに寄ってきた。
「初めまして、九十九です。デビルークさんと、守金君でいいかい?」
爽やかな笑顔で話かけてきた。
「そうだよ!」
「順番を早めたら不満が出るので、遅くなって大丈夫ですか?会長が話たいようでして」
守金はまあいいやとララの方を見る。
「いいよ」
とはいったものの、幸いな事に待つことなしに大居生徒会長に描いてもらう事になった。そして
「初めましてだ、デビルークさん。そして久しぶりだね、守金君」
「初めまして!」
「そうですね」
そんな会話をしながら大居生徒会長の手は止まらない。
「会長、
守金は酷い事を言うが
「おや?どうしてそう思ったのかな?」
否定はしなかった。
「1人だけずば抜けていたら、他の人との差が激しすぎて不平不満が起こるから。極端に上手い人が下に降りてバランスをとれば、不満は小さくなりますよね?」
「厳密には速さを上げてバランスをよくしているだけだね。ゆっくり描ければいいけど時間がない。加えるなら、態と下手に描いているのは九十九だね」
「へぇ、さっきの」
「凄いんだね」
「自慢の親友だよ。ああ、何処か君と片羽君との関係に似てるかな?」
笑ながらも手は止まらない。
「生徒会長が凄いってのは片羽から聞いてるよ。けど他に4人以上、よく両方バラバラに絵を描ける人間がいましたね」
「練習したからね」
1月程度でどうにかなるとは思えないのだが、
「新年度開始早々ホームルームで今年は何をするか決めたからねぇ、うちのクラスは」
守金はこのクラス、馬鹿じゃないのかと一瞬思った。
「部活動に全振りならともかく、そうでないならみんな練習して10人はものになったぞ」
うちのクラスは凄いだろ。会長の笑みはそう語っていた。
「それに他のクラスと被る事もないからね」
成る程と守金は思った。
「他にも商店街で段ボールを確保したり、大道具の準備をしたり、開始前にある程度準備をしているクラスは多いね。演劇でオリジナルを作るところはゴールデンウィークには台本が完成してたし、事前に何処が何をやるか決めて被らないように水面下で動いていたからね」
3年ってアホなのか?守金は心配になった。
「何故俺にそんな事を話すんですか?」
「そりゃ、来年以降学校を引っ張るのは君たちだからだよ。1年の頃はアホな先輩だと思ったが2年で皆そのアホな先輩となり、3年のアホな先輩になるとまともな1年をアホな道へ布教するわけだ」
ダメだこりゃ。この学校はアホな菌に汚染されている。守金の目はそう諦めていた。
「アホで結構。バカと呼ばれてもそれがどうしたと鼻で笑え。僕達は全力でアホをやってバカをやってみんな揃って楽しむんだ。2度とこないこの3年間を。この青春を」
守金は感染する気はないが、すぐ隣に感染したものがいる。
「デビルークさんもそう思わないかな?」
「とても素敵だと思う!」
「それは良かった」
生徒会長はにっこり満足して最後に一言付け加える。
「じゃあ来年は僕達3年生はいないけど、僕達が羨ましがる素敵な文化祭にしてね」
「はい!」
そうして似顔絵は2枚出来上がった。1枚は満面の笑顔で、もう1枚は何処か不機嫌なものだった。
「休憩入りまーす」
見回りと待機を終わらせて少ない自由時間を得た片羽は目的の場所へ向かう。
「あ、片羽だ!」
「お疲れさん」
途中、守金にララと合流した。
「変わったものを持ってるな」
「持ち過ぎてどれが変わったものかわからないのだが」
具体的に彼らが持っているものは、文芸部の民芸工作での手作り体験で藁の虫籠に竹トンボと、3年D組でもらった風船アートと、似顔絵である。
「けどララさん、多過ぎじゃないか?」
「俺が大道具担当代表で少し多目に雑用をやってたからな。壊れた部分の補修とか。その間に遊びにいってああなったらしい」
猫耳と花飾り装着に、2年3年の演劇パンフレット色々、手作りキーホルダー等々戦利品は多かった。
「そういやザスティンさんを見なかったか?」
「見てないよ。来てるの?」
「見てないな。栽培先生は見たが何故いると思うんだ?」
「いや、こんな人が多いところで狙う奴はいないだろうけど、文化祭で単独行動の可能性と一般人も入れる事は伝えたんだよ」
あくまでターゲットになるのは守金だけ。せいぜい知恵袋の片羽を狙う宇宙人はいるだろうが、それ以外はデビルーク王から禁止するよう通告が出されている。その辺りのやり取りは言っているのでそこまでは危険視していない。問題はララを直接狙う理由がある宇宙人だが、それだけは片羽に予測のしようがない。そういう訳で護衛にきてるかと思ったのだが。
「スーツ姿の男を見たという話があるからそっちかな。鎧とかなら流石に目立ちすぎるから話題になると思ったんだけどね」
そんな雑談をしながら男2人は進んでいく。
「何処に行くの?」
「体育館」
そして入る。
「あっ!昂音だ!」
「ベースギターって言うんだよ」
守金が雛野のポジションについて説明する。
「家ではやってるの見たことないよ」
「音を消してるんだろうな。多分朝早くやってるはずだ」
流石は幼なじみといったところか。
「この曲で文化祭は終わって閉会式だからそのまま残るか」
「けど良い歌声だよね」
こうして彼らの1年目の文化祭は終わった。
はずだった。
会長「これにて文化祭を」モブ「文化祭ジャックする」
モブ「了解!」
モブ「たりめぇだ!」
モブ「何馬鹿なこと言ってんだ⁉」
モブ「馬鹿にすんな!」
モブ「そんなんで俺らの代表か馬鹿野郎!」
モブ「絶対に負けねよ!」
モブ「俺らだって彩西の一員だ!」
モブ「寝言は寝て言えクソ会長!」
会長「終了する!」
次回 番外編1-結
ここで初めて明かされる学校の名前、彩西。原作が南だから安直に反対側の北を選ばず、再生という音で選んで西になった。
作者の母校の高校の文化祭、開会式前から本作品のようなテンションだった。まだ開会式すら始まってないのに『これで偏差値高めの公立高校?ついていけない』そう思ってました。なお、2年目にはノリノリ。3年目、ノリが足りないと暴走気味。見事に染まった。成績だけはついて行けなかったけど。
だいたいのレギュレーション、金銭とか飲食物とかの禁止等は
なお、彩西高校は私立高校。彩南もそうだが、地名の名を持った私立は違和感がある。が、原作準拠で。