ToLOVEる~守銭奴が住まう町で~ 作:ド・ケチ
トントン
何処のクラスも放課後に残ったり早出したり、授業以外の時間を有効に使って文化祭の準備をしていく面々。なお、その中に1人手持ち無沙汰な人がいた。
別にサボりたくてサボっているわけでもなく、彼は無自覚なほどに壊す事に特化しており、何かを作る事に向いていないからである。釘を打てば大した力を入れてないはずなのに釘か土台のどちらかが割れるという人間だ。よって物を運ぶとか抑えるとかいった雑用をしていた。
「なあ、本当に手伝う事はないのか?」
「片羽君、お願いだから大人しくしてて」
「「「ギャ ⁉⁉⁉⁉」」」
その叫びを最後に1年
「暇そうね、片羽君」
廊下でポケーっと現実逃避していた片羽は不意の問いかけに現実へ戻る。因みに、教室の中では彼が描いた阿鼻叫喚地獄絵図により魂が破壊された面々が気絶していた。
「何故かみな仕事をさせてくれないんですよ」
敬語を使うのは先輩だからだけではなく、この学校では有名人で敬意を払うに値するからだ。
「そういう
「暇ね」
あっさりと答える。とは言うものの彼女はサボりではない。
「ムカつく事に親友が言うとおりで、風紀委員が暇なのは良いことなのよ」
右腕には風紀の腕章、左手には竹刀、
あと体型に関しては事実だけど言わないであげて下さい。本気で怒るんで。
「それの何処がムカつくんですか?」
「アイツは続いて『暇過ぎて太った?』て訊いてきたのよ」
ムカつき過ぎて顔がお見せできないくらいになっています。
なお、その後余計な一言を付け加えて『けど胸はガリガリのままなんだよなー』と致命的な一言を放り投げた模様。
「あー、思い出しただけでムカついてきた。貴方、アイツの代わりにぼこぼこにされない?」
「全力でお断りします」
何が嬉しくて八つ当たりされないといけないのか?近衛なら喜びそうだが、大概の人にそんな趣味はない。
「ところで、何故俺の名前を知っているんでしょうか?記憶が正しければ初めて顔を合わせたはずなのですが」
「私も記憶する限り初めてよ。けど、貴方が私の名前を知ってたのと同じような理由じゃないかしら?」
問題児と風紀委員、互いに目の敵にするには十分だ。
「因みにうちのクラスで他に知っている人は?」
「近衛君と守金君。別の意味で阿部君」
阿部が風紀委員に目をつけられる理由がわからないが、片羽の顔に出ていたらしく彼女は理由を言う。
「知り合いに漢字は違うけど同じ読みの人がいるのよ。彼も全てにおいて平均値だったわ」
「凄い偶然ですね」
そう言うしかなかった。
「けど他にも知っている人はいるんじゃないか、と考えてるわね」
急に彼女の目つきが鋭くなった。
「当然よね。敵が渡した情報が本当な訳がない。きっと誘導したいから嘘を混ぜるか、わざと言わないか。貴方達はまずそう考える」
片羽はポーカーフェイスを繕おうとするが、微妙に綻びた。
「風紀委員として注目するのは先の面々だけね。阿部君は生徒会書記の弟君だし、とりあえず気を配っておこう程度ね。これでいいかしら、宇宙人のお友達君」
ララの事は知っていると遠回しに言っている。
「何者ですか先輩は?」
「敵か味方かという区分でなら今のところは中立。古くから宇宙人
「つまりこの会話は……」
釘を刺した。そう思ってたのだが、
「そういう訳で貴方、風紀委員に入らない?」
毒を持って毒を制す。そういった考えなら妥当なのだが、獅子身中の虫になりかねない事をよく決断できたものだ。
「今までの会話からメリットデメリットをある程度計算できるでわよね?流石にバルケ星人のような突発的な対応は難しいけど」
「つまり宇宙人のトラブルに対してある程度協力してくれる訳ですね」
確かにそれは魅力的な提案である。そして入らないまでもある程度の協力関係を築けるなら今までの負荷が軽減される。
「最大のメリットは脅迫ネタを集めるチャンスでもあるわよ」
「是非協力させて下さい」
「ところで、紀刻先輩はなんで風紀委員なんかしているんですか?」
「不良を合法的にぶっ飛ばせるからよ」
竹刀を振りながら惚れ惚れする笑顔で言い切った。お前ら同類だろ。
「あ、この事はお友達や宇宙人には秘密ね」
『暇なので風紀委員に入りました。探さないで下さい。
守金等が意識を取り戻した時、そんな手紙が傍らに置いてあった。
「雛野、これどういう意味だと思う?」
「趣味と実益が4割強ずつ、残りは仕事がなかった事への怒りかな?」
「やっぱりそう思うか」
「ララさんについてはどうするのかな?」
「途中で投げ出すの嫌いだろ、あいつ」
なので守金は心配していない。それよりも心配するべきなのは
「むしろあいつが風紀委員に入ったら
最悪だー。言葉にしないが雛野の顔は絶望していた。一方で、
『文化祭準備の為の放課後居残りは19時迄しか認められません。私のストレス発散に突き合いたい殿方は居残りして下さい。
近衛が守金等に遅れて意識を取り戻した時、傍らにそんな手紙が置いてあった。
「これはラブレター⁉」
何処をどうすればそんな結論になるのだろうか?
「どっちかと言うと
雛野が近衛にツッコミを入れた。因みにroughの意味には乱暴、手荒い、危険な、等といった意味がある。
「紀刻先輩の突きって、当然竹刀でだよな」
「ふっ!俺様の竹刀が火を吹くぜ!」
雛野が持っていたトンカチが変態に炸裂した。
「へー、竹刀って火を吹くんだ」
「ララさんララさん、竹刀は火を吹かないよ」
「嘘を教えた近衛の罪はでかいな」
白い眼で近衛は睨まれていた。自業自得だが。
「けどこれは片羽君と紀刻先輩が手を組んだって事よね?」
「言い方は悪いが、単体戦闘能力最強の女傑とそれに釣り合える悪巧みの知将のコンビって、最悪ではなかろうか?」
「そういえば突きでコンクリートを破壊してたわよねぇ。1メートル以上離れていたのに」
「面で身長よりでかい岩を割った事もあるぞ。何故か竹刀で」
守金と雛野が語る女傑の武勇伝。これで真剣を持たせたらザスティンと良い勝負をするかもしれない。
「紀刻先輩なら空気摩擦で竹刀から火を吹きそうだけどね」
「どうしよう。今度は否定できない」
先のボケを正当化するようなコジツケを披露する近衛に守金は何も言えなかった。
「兄さんから聞いた話では、斬られた服が燃えたらしいよ」
ようやく復帰した阿部が事実だと述べた。マジかよという顔を一同はしていた。そして守金に訊ねる。
「守金君、幾ら積まれたら紀刻先輩と戦えるの?」
「億でも逃げたい」
それなのに、
「近衛君、冗談でも突き合うってよく言えたよね」
「今度逢ったら近衛君が突き合いたがってたと言いましょ」
「口は災いの元だな」
そんな事を言いながら、リミットタイムが近づいてきたのでバラバラに撤収していく。
「じゃあお疲れ様」
「お疲れ」
最後まで残ったのはクラス委員の阿部と、何故か守金だった。
「少しいいかな?」
そんな2人を呼び止めたのはやや小柄な男。阿部より若干小さく、一見細身なのだが筋肉の付き方が鍛えた者のそれであり、威圧感が明らかに常人のそれをはるかに上回っていた。
「
クラスの代表として阿部が訊ねるが、
「いやいや、用があるのは礼治君ではなく守金君の方だよ」
どうしようかと阿部は守金の方を向く。
「先に帰ればいいさ。もう戸締まりは終わってるんだし、鍵はもう返して大丈夫だとだろ」
「それじゃあまた明日ね」
そう言って阿部は帰っていった。
「疑問は1つだ。君らしくないよね?」
「俺らしく、ですか?」
初めて会った人間に自分らしくないと言われるとは守金も思っていなかった。
「そうだね。君の行動原理なら真っ先に帰ってアルバイトに励みそうだけど」
「……そんな事をして許可を取り消されたら本末転倒じゃないですか」
「ほれ」
守金のまともな理由に生徒会長は紙を見せる。
「学校側に交渉した結果だよ」
内容は文化祭期間中のアルバイトを認め、これによって咎める事はないというものだった。
「毎年何人かバイトの都合で参加できない者がいるから、こういった裏技があったりする。学業優秀者であり、普段からバイトに励んでいる者に対して学校は無下にはできないし、生徒会の実績としても有効なんだよ」
これで守金はバイトに専念できる。それも生徒会や学校のお墨付きで。
「それに、やっぱりらしくないよ。仮にバイトを禁止にされたら片羽君は君のために動くだろうしね」
だからお前は何故バイトをしていない。要約するとそういった話である。
「自分が言うのもなんですが、個人に肩入れし過ぎではないでしょうか?」
「優秀な生徒に肩入れして何か問題があるのかな?」
胡散臭げに感じるが、正論で返されてはそれ以上言い返せない。
「と、まあ世間一般の評価でなら君にこれを渡しておしまい」
「は?」
言い終わった直後の生徒会長の行動に守金は開いた口が閉まらなかった。
「だって、君には必要ないでしょ?」
許可書をビリビリに破いて理由を答えた。
「だから世間一般の評価と君の価値観は違うんだよ。お金で人は変わるけど、本質……魂までは変わらない。そのあたりを自覚すれば【大欲界 守銭道】は変化して使いこなし易くなるよ」
「貴方まで
「じゃあなんて言って欲しいのさ?」
特に代案はなかった。
「代案があってマトモな意見なら考慮するけど、代案がないで反対するのは子供と一緒だよ。まあ僕も違う名前にしようと提案した事はあるんだけど、生徒会のみんなからは反対されちゃったしね」
「因みに会長はどのような名前にしたかったんですか?」
「スーパー御布施パワー」
酷いネーミングセンスだった。守金が守銭道の方でいいやと諦めるくらいに。
そうして文化祭の日は来る。
モブ「「ギャー⁉」」
守金「態と下手に描いてるでしょ?」
片羽「紀刻先輩ですね」
ララ「どんな人だっけ?」
栽培「牽引する立場だろ?」
守金「盛り上がり過ぎて退いてるんですが」
片羽「俺も歌には自信がある」
守金「200万くらい」
片羽「暇ですね」
守金「締め切り地獄になる前に」
大居「アホな道へ布教するわけだ」
阿部「兄ちゃんから聞いた」
次回 番外編1-転
さらりと存在が示唆されている彩南の校長、ネタにしやすい良いキャラクターである。
片羽の脅しに屈しないのである意味天敵と思いきや、エロ本で誘導して学校を支配しそう。治安維持を名目に紀刻からボコられるもすぐに回復する。近衛はエロ本やグラビア談話に華を咲かせている。雛野(
ぶっちゃけ校長と御門先生がいない事がストーリー上のネックです。片羽がアイシールドの蛭魔同様なキャラクターになったのは校長がいないのにララを転入させるための苦肉の策だし。
風紀委員はなあー。恐怖でぶちギレた人があれだけの身体能力があるので、制御して鍛えたらこれくらいできるだろうと強くして、アドリブでお突き合いからの火炎切りを入れたら強く成りすぎた。