ToLOVEる~守銭奴が住まう町で~ 作:ド・ケチ
「昂音ちゃ~~ん。俺様の胸にwelcome‼」
雛野が教室のドアを開けたら眼鏡の優男が腕を拡げて待ち構えていた。
「オッフ」
雛野に思いっきり振り回されたカバンが男のこめかみに直撃し、男はバタリとたおれた。
「おい、いくらコレが変態だからって、退院直後に病院送りは流石にやり過ぎだぞ」
「永遠に入院してればいいのよ」
言い方は酷いが、片羽は雛野に対してやり過ぎだと諌めた。当の雛野はなげやりだったが。
「この人誰?」
「美しくお嬢様、わたくしの名前は『ゴン!』グハッ⁉」
急に復活した変態はララの手をとって自己紹介をしようとしたが、雛野はカバンから取り出した英和辞典で変態の頭を強打した。
「そういえばララさんは初めてだったわね」
雛野は机の中から取り出したロープで変態をぐるぐる巻きにしながらぼやかそうとする。流石に可哀想な気がする。
「
この人は他人を紹介するときに、何故余計な事をいちいちを挿入しするのか?。
「バカ?」
ララは素直に近衛に向かって言った。
「ハッハッ、もっと罵ってもっと罵って!強く!強く‼虫けらを見るように !!!」
恍惚とした顔で喜んでいる。
「見ている他人が退くから変態を止めような、バカ」
「男に罵られても嬉しく無いんだよ!」
この数分の会話でこいつのキャラはだいたい理解していただけただろうか?
「面白い人だね‼」
その一言で済ませられるララの器は広かった。
「はは~、有り難き幸せ」
感涙を流す変態だった。とりあえず、喋るとめんどくさそうなので雛野はガムテープを変態の口に貼る。
「ところで、何で今までいなかったの?」
これだけ強烈なキャラクターだ。今まで気がつかなかったはあり得ない。
「今回の入院理由はなんだったかしら?」
なお、この近衛という男、病弱でもないくせにしばしば入院することで有名である。
「二股かけて刺されたんじゃなかったか?」
「それは前々回。殺される程に愛されて幸せって言ってたわ」
「ストーカーから女性を守ったのは?」
「去年よ。女性の盾に成れて本望ですとかほざいてたわ」
だいたいの入院理由はこんな感じだ。何で過去の事例を雛野が覚えているのか疑問だが、片羽と雛野はどうやら思い出せない模様。
「幼女をトラックから庇って牽かれたやつだろ」
「「それだ!」」
つまらなそうに守金が正解を述べた。
「長太 ♥」
抱きついてくるララを守金は半歩動いて避けようとするが、ララはフェイントを入れて起動を変える。それを守金はサイドステップで華麗にかわす。切り替えて再び飛び込んでくるララを守金は避け、いなしながら身を守っている。
「ララさんファイト!」
「そうやって応援するくらいならもっとアシストできる方法があるだろうが」
片羽は財布から1円硬貨を1つ取り出すと守金の足元にそっと転がす。
「お金!」
飛び付く守金と
「捕まえた ♥」
彼に抱きつくララ。
「成る程!」
「次からはお前がやれよ」
その手があったかと雛野、呆れている片羽。とりあえず場が鎮静化したので変態の口からガムテープを剥がす。
「え?お2人はそういう関係?」
クラスではわりと有名な話なのだが、今日きたばかりの近衛は知らなかったようだ。
ドガン!
守金からのパスを空中でキャッチし、近衛はそのままゴールへ叩き込んだ。本日の体育の授業はバスケット。なお、女子は保健で座学である。
守金にしろ近衛にしろ、身体能力はどんな部活でもエースをはれる程に高い。通常なら体育の授業でこんな2人が組んだら反則に近いのだが、残念な事にこのクラスには特化型の出鱈目がいる。
ヒュン ガン! スパ
ロングパスとしか思えないフォームで自陣のゴール下から投げ、ボードに当ててそのままゴールに入れる。
「近衛、油断し過ぎだ」
ゴールを決めた片羽は忠告とともに守備に戻る。スピードもパワーもスタミナも、身体能力的には特筆すべきものはない。しかし器用さという一点において彼のそれは理解不能の領域にある。それがどうしてあんな絵になるんだろうか?
「それをやられたらゲームになんねぇよ!」
「しゃあない。次はセンターラインまで
パスの軌道を読み切り、スティールからドリブルで進む。守金と近衛がダブルチームで行く手を遮るが、
「頭が高い」
アンクルブレイクをしかけて2人を転倒させるとそのままセンターラインまで進み、出鱈目なフォームでスリーポイントをきめる。
「守金、片羽って彼処までどうにもならない奴だったっけ?」
以前は一対一で五分五分だったが
「最近になって訳がわからんくらいに絶好調らしい」
「最近って何時だ?ララちゃんがきた時くらいか?」
「……そのくらいからだな」
偶然なのか明確な理由があるのかは疑問だが。
「狙うならやっぱりガス欠だな。スタミナは普通だし」
「あとは空中戦か。全部スリーポイントで外れたらダンク」
「問題はディフェンスだが……」
「そっちの策はあるよ。かなり消極的だけど」
「四人ががかりで止めにくるなら守金か近衛を残した方が良くないか?パス回したらおしまいだろ」
「何でパス渡された人がシュートを外さないんですかね?」
結局策は嵌まらず点差は開く一方だった。
昼休み、片羽に餌付けされた一堂が屋上に行くと、彼は既に待っていた。
「何でいるのよ」
「美女のいるところに俺様がいない訳がない!」
雛野の嫌そうな顔に拳を握って力説する近衛。
片羽は微かに頭を傾げた。守金や雛野としてはこういう判断は片羽に任せる予定なので、策士の方を見る。
選択は大別して近衛を巻き込むか遠ざけるか。ララの意識を分散するために近衛を巻き込みたい守金、それだと守金を誰かとくっつける事が目的なので遠ざかる雛野、そして特に何も考えていないララだった。
「肉壁1枚ゲット」
ボツりと呟いた片羽の眼が、地球人3人とペケには光って見えたそうな。
「実はこのララ・サタリン・デビルークさんは宇宙人なのだ」
蛇足だが、他のクラスメイトや先生達には留学生として捩じ込んでいる。信じられないとか敬遠されるとか、その辺りの理由から秘密にしている。なお、雛野は家族には宇宙人だと教えている。
「何か思うことは?」
それについてどう思うか近衛に訊いてみたが、
「宇宙人だろうと美女に違いない。即ち、愛すべき、守るべき女性だ!」
ぶれない。まあそうだよなと地球人一堂納得していた。
「王族であらせられるので、狙われる可能性もあるから気をつけろよ」
「お姫様!命をかけて護ろう‼」
「肉壁だわね」
雛野が納得した。
「という訳で」
片羽は携帯ぽい何かを取り出す。
「俺、あれに似た何かを見た気がするんだが」
「奇遇ね。あたしもよ」
「え?片羽のデダイヤルは私が作ったよ」
「便利だぞ」
片羽がデダイヤルを操作すると紙の束がどばどばでてきた。
「ザスティンさんから貰った危険な宇宙人の資料だ。駆除を頼むよ」
「できるか !」
無理だと近衛が叫ぶ。
「そこは守金に金を払って協力してもらうとか」
「できるか !」
守金も叫ぶ。
「できそうな気がするのは私だけなのかしら?」
「近衛の方は『男に金を払えるか』という意味だから個人でできるのだろう。守金も近衛からお金を貰うなんてできるかと答えてる。つまり、できるみたいだな」
「うわー。言葉は通じてるのに解釈が通じない」
「むしろ片羽がやれよ」
近衛があきれ、守金が逃げようとするも、
「スタミナは普通なんでこれ以上働いたら過労死する」
この一言を聞いた彼をよく知る地球人は、働くという単語を悪巧みと認識したらしい。
「あいつ、覚醒しかかってますよ」
放課後、夕日が照らす1人残った屋上で、この世界のどの言語とも異なる言葉を近衛は吐く。
『構わないわ。勇者に覚醒されるよりましよ』
空から降ってくる野太い声は近衛と同様の言語で答える。
「それは爆弾と拳銃を比べてどっちが危険かという話ですよね。どちらでも致命的なんですが」
こめかみを抑えながら吐く。
『
「引き釣られたところで
近衛は眼を閉じて考える。そして結論、
「やっぱりララちゃんが邪魔なんだよなぁ」
片羽「凄く逝ってみたい」
雛野「タイム!」
大勢「却下!!!」
??「何か意見がある人はいませんか?」
大勢「変な事をしそう」
片羽「冗談なんだが」
近衛「全力で展示するんでしょ?」
雛野「貴方には任せないわよ」
??「あ、ごめん。言い忘れてた」
大勢「最初に言え っ!!!」
次回 番外編1-起
日常補強兼非常事態フラグ発生の回
原作でもリトがララ達と出合ってラッキースケベと回避能力が強化されたから、片羽が強化されても問題ない。実際は違う理由があるが。
もうちょっと後でも良かったが、このタイミングでオリ要素を入れた理由、原作準拠でいくと未来で詰むから。具体的にはリトさんがいないダークネスで。
なお、次は番外編という名の本編。原作キャラクターほとんどでない。