第六戦隊と!   作:SEALs

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大変お待たせしました。
予告通り、対空戦と言う形になります。
今回は如何なるやら、と言う形にもなりますが。
いつも通り楽しめて頂ければ幸いです!
それでは、どうぞ!


第78話:殺戮の天使たち 後編

 

《対空戦闘準備せよ。戦闘機部隊は1機たりとも、艦隊に近づけるな!》

 

ロブグリエの命令に応じて、艦が回頭するにつれ、大海原に、飛行甲板をして彩る蒸気の帯が流れを変え、やがて中心線を示す白線のカタパルトが風を掴んだ。刹那、フランスを筆頭に、イギリス、スペイン海軍の空母や揚陸艦からは各艦載機が、ターボファンエンジンが轟然と唸りを上げ、空気を押し潰し、堂々とする鋼鉄の猛禽類たちは陽光を浴びて、風を切って蒼空へ舞い上がった。猛然と滑走を開始した仏英西の艦載機が次々と、爆音を残して飛び立っていく。

海の蒼みをそのまま映したような碧空を背景に、編隊を組んで飛ぶ様は逞しさを思わせ、銀の翼は輝かせて上昇していく。

すると、先頭に立つ隊長機が、突然翼を振った。同時に無線機から、声が流れ出る。敵機発見。全機戦闘態勢。各機油断するな、と危機感の漲る指揮官の叫びが、上空を警戒する新鋭機編隊に響き渡った。

瞬間、新たな脅威が、妖鳥を思わせる主翼を持った無人機の群れが、姿を現した。艦隊防空を担う者たちは、思わず目を擦りそうだった。

 

《まるで蝗の群れだ、これは……》

 

と、誰かが無線機越しで言うとおり、まさに鋼鉄の群れでも言える。

恐怖を抑えるあまりに祈る者さえもいた。無理もない、十の災いとも云うべきものは、旧約聖書の第8の災いとして挙げられる蝗の災い、そして同じく新約聖書の『黙示録』でも人々の前でも蝗の群れが穀物を食べ尽くし、人々の食料がなくなってしまう被害を齎した、と書かれているほど恐れられている光景を、この双眸で災いを目撃し、この身で体験しているような錯覚すら覚えた。

かつての災厄を、同じように再現された姿は、もはや不気味というよりは壮観すら覚えてしまう光景と言ってもいいほど圧倒的な数だった。

 

「標的補足。各機、ミサイル発射!」

 

射程距離内に入ったと判断した、隊長機の指示に応じて、各機は操縦桿に取り付けられた赤いボタンを押し込んだ。其の一瞬後、フワッと両翼下から放たれた鋼鉄の火矢が一斉に白煙を上げて、次々と標的に突進して行く。

閃光。爆発。たった一瞬の交戦で、数十機の無人機が散華した。

仏英西戦闘機連合部隊から放たれた、各機の様々な空対空ミサイル攻撃を受けて撃墜する光景は、さながら枝垂れ桜を思わせる、オレンジ色の火焔の帯が、鮮烈な光の軌跡を曳いて落下していく。数機が反転、入り乱れての空中戦を幾度も繰り返していく。

放たれたミサイルの豪雨は、如何なる敵機をも破壊する威力を込められていたが、しかし損害にも気にせず、怖気付くことなく押し破った無人機部隊がそのまま艦隊に目掛けて勢いよく降下していく。

 

「全艦、対空戦闘開始!」

 

時同じく、各国の砲術長が叫びを上げた。

各国の対空兵装が、レーダーから送られたデータに従って、速度によって算出された多数の目標を捉え、軽やかなに動き、白煙を上げて轟く艦対空ミサイルは舞い上がり、CIWSなどの様々な対空火器が、オレンジ色の発射煙を噴き出した。滝を逆流したような勢いを放つ濃密な火線。空も焦がそうと撃ち上げられた対空ミサイル、対空機関砲弾の火線。レーダー運動などによって予想位置を計算して放たれた対空兵器は、与えられ取得した諸元に従って宙を飛び渡り、目標に狙いを定め、敵無人機を破壊していく。

しかし、死をも恐れない無人機部隊の、整然とした編隊を崩すには至らない。寧ろ紅蓮の炎が主翼を侵し、胴体にまで纏おうと、眩い炎の尾を引いても、挑み掛かって来るのだ。業火に包まれた無人機の群れが、全身を炎に炙られながらも火の鳥と化して、焼け爛れた機体が急速に拡大されていく爆発の光景。

引き裂かれた機体に搭載されていた機銃・爆弾・ミサイルが爆発、さらなる破壊が発生したのだ。砕け散り、破壊された機体の破片は四方八方に飛び散る物から、機体を撃ち抜かれ、空中爆発の連鎖が絶えることはなかったのだ。

 

――次の瞬間、《クレンマンソー》に凄まじい衝撃と一瞬の激痛が全身を貫き、ロブグリエたちは異なる次元に吹き飛ばされた。

無人攻撃機が抱えていた兵装が、飛行甲板に突入し爆発したからだ。

運良く軽傷で免れ、衝突の衝撃から立ち直ったロブグリエが、再び足元を掬われた途端、我が眼を疑う光景を眼にした。

火焔の炎が、痛手を被ったのと同様に、巻き上げ、潮風に煽られた火焔をたなびかせて赤々と照らしているのだ。

哨戒任務ではあるものの、本来ならばNATO艦隊は大きな優位を与える兵力が、恐るべき落下速度を与えてくる鋼鉄の渡り鳥たちによって、各国の艦船を瞬く間に、海上に漂う鉄屑の山に変えられた、という信じられない大損害だった。

自国を含めて、各NATO諸国の保有する半数近くの艦船がこの攻撃で沈没・大破・中破という、そして防空部隊もあまりの数の多さに対処が仕切れずに苦戦しており、艦隊上空を覆っていた防空圏内どころか、制空権もその効果を大いに減じたのだった。

この艦隊が大損害を被った光景を見て、さらに頭に血がのぼった。

それでなくても、フランス人はカッとしやすいラテン気質がある故、思わず大声を上げて神を罵った。

 

「おお、神よ!あなたは何と不公平なものなのだ!」

 

なんという事だ!こうなった以上はやむを得ない、この場から早々と撤退し、我が友軍がいる制空権内に撤退するまでだ、と、全艦隊の指揮官に打電した。

 

“《クレンマンソー》《クイーン・エリザベス》、《プリンス・オブ・ウェールズ》、敵無人攻撃機突入、第二次防空隊出撃不可。 直ちに反転せよ!現在する艦船は速やかに友軍がいる制空権内まで後退せよ!”

 

と、打電した瞬間―― 噴き上がった硝煙混じりの海水が、雪崩となって飛行甲板に叩きつけられる。再び《クレンマンソー》が鳴動した。

弾薬庫内に納められていた各種類の航空兵装(機銃弾・ミサイル・爆弾)の全てが同時に誘爆、艦体は揺れて、そしてロブグリエたちのいた艦橋は閃光、爆発と衝撃波に包まれたのだった。これらは彼らの慢心が招いた結果とも言えた。

 

この時NATO連合艦隊では、敵の猛攻により、旗艦《クレンマンソー》に乗艦していたロブグリエ司令官は部下共々戦死を遂げた。

混乱する最中、艦隊の指揮系統・指揮権を継承するのは、イギリス艦隊のスコット中将になった。彼がまず行ったのは、自分たちの空母を含めて、各空母戦闘群に被害状況を問い合わせたのだが、各群からは悲惨な被害報告が届けられると、血が滲むほど強く唇を噛み、スコットは危惧を露わにする。

 

最新鋭空母は撃沈されてしまい、各国の護衛艦は約60%が大破ないし漂流という有り様。総数60隻近くのうち半数が喪失している。

自分たちの空母を含めて、フランスやスペインの切り札でも空母や揚陸艦が喪失したのでは戦闘継続は不可能である。

 

旗艦《クイーン・エリザベス》も中破はしているものの、辛うじて持ち堪えている。しかし、作戦続行は不可能と見たのだ。

この状況を考えずとも、非情な決断を下さざるを得なくなった。

敵の反復攻撃があれば、残された艦船も殲滅され兼ねないため、ここは撤退するほかなかった。炎上中の各艦船からは、多数の乗組員たちが海に飛び込み、救助を求めているが、全員を助ける余裕すらない。

日本で大規模なテロ攻撃を起こしたオリンピア軍の圧倒的な戦力を思い知らされたNATO艦隊には、もはや反発力は残っておらず、戦死したロブグリエ司令官の代わりを務める、仮にストット司令官の命令がなくとも自発的に撤退しただろう。

 

“健在する艦船は全力で退避せよ!救助活動は後に部隊を派遣するため、乗組員救助は行わないものとする”

 

という救助部隊は後に派遣し、多数の漂流者たちを拾うということも打電しておいたので、この命令を打電した。

 

命令が下された途端、我先に争って撤退し始めた。

哀れをとどめたのが、海に取り残されたNATO各国の乗組員たちである。いくら救助部隊を派遣させようとはいえ、味方艦が撤退し、さっさと立ち去り始める光景を見た瞬間、自分たちは、このままこの場で死ぬのではないか、と考えるほど絶望していたのだった。

しかし、スコット中将はおそらくこの攻撃が最後であり、あとは大破し漂流した艦船部隊を処分する一方、その間に漂流者たちには見向きもしないはずだ、というものだった。

謂わば、一種の賭けを信じたのである。

 

同時刻。イギリス艦隊司令部から発信された、撤退せよ、との命令を傍受したオリンピア軍の指揮官たちは、大破し漂流した艦船の後始末のために前進した。

今回の目的は、空母率いるNATO艦隊に己の無力さを教え、台湾の支援を断ち切らせるのが最大の目的であり、其れが果たされたものと判断した。戦意喪失した獲物を攻撃しても何の価値もなければ、良いプロパガンダ映像にもなるから充分であるのだから。その為にも大破した艦船部隊は、沈める必要があり、その為に前進を命じたのである。

これもまたマザーの思し召し。味方から何を言われようが、戦意を挫くのが目的なのだから。と、そっと呟いたのだった。

 

そう、確かにこのメッセージは効果的だった。

各国は台湾有事の支援はおろか、暫くの間、自国の海域防衛すら危ぶまれると言う形に陥り、その日の演説を主題としようとした学校の指導者たちの面子及び、勝利の切り札が、各海域上で潰えた知らせる海軍からの緊急電を聞いた瞬間、味わったことのない痛みを思い知らされ、視界が暗転し、膝が崩れ落ち、大地が急速に接近する有り様のだった……

 




今回は悲劇的にもNATO艦隊壊滅と言う展開になりました。元ネタは『天空の冨嶽』最終巻辺りをモチーフにしております。
実際にオリジナルでは、此方の場合はある出来事により、NATO艦隊(途中からロシア艦隊参戦)VS米国艦隊と言う展開が起きています。
同時にCoD Bo2の空母《オバマ》率いる空母戦闘群に襲い掛かるドローン群をモチーフにもしておりますが。

では、次回は視点を再び台湾側に戻ります。
リアル過ぎる現大戦にもなるかと言う展開になる故に、現実味を帯びている展開が繰り広げられます。
それでは、第79話まで…… До свидания(響ふうに)

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