第六戦隊と!   作:SEALs

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С Новым годом!(あけましておめでとうございます)。
新年早々、今年も本作品ともどもよろしくお願いいたします。
では新年の挨拶は終わりますが、前回予告した通り、今回は深海皇女視点になります故に、新たな戦いが起きそうな前触れ、そして最後には分かる人には分かるネタがあります。
いつも通り楽しめて頂ければ幸いです!

それでは、どうぞ!


第74.5話:災厄の焔

 

「ふふふっ♪ まさに相応しい最期ね。試作品とはいえ、あの使い捨ての仮装巡洋艦に仕込んで置いた、私たちとオリンピアが共同開発した戦術核爆弾《アルテミス》による核爆発によって、この光景が出来たのだから最高の眺めね」

 

高度8000メートルまで上昇していた深海観測機は、柱島泊地付近に起きた核爆発及び、津波被害の状況を映している。

観測機に搭載されている高性能カメラのレンズ越しには、全ての生命体を焼き尽くす劫火。破壊と殺戮の嵐は、怨念の塊のようになり、劫火に焼き尽くされ、赤い闇を震わせた狂気を孕んだ映像には、巨大なきのこ雲。死者、行方不明者、放射能による二次被害は依然として不明だが、此れで厄介なあの柱島泊地は消滅したのは確かなことだ。

これは神罰だ。我が物顔で海を支配した愚かな人類及び、其奴に味方するか弱き艦娘たち、そして何よりも前回の戦いで誰よりも美貌を誇る自分を醜い、姥鮫、挙げ句は婆さんと侮辱し、自分を追い詰めたあの忌々しい異教徒たちへ下した神の裁きなのだ。

だからこそ当然の報いである、自分の手で裁きを下したことは間違いはない、全て正しいのだ。と。同時に表情も変わっていく。ざあまあみろ、という言葉を脳裏に浮かべて、その顔に宿るのは狂気という名の笑顔すら零れた。

 

「跡形もなく消毒されたけど、せいぜい無力な艦娘たちと仲良く地獄に落としてあげた事と、苦しまずに一瞬で死を与えた、この私の海よりも深い寛大かつ深海的優しい裁きにも感謝しなさい。

あーあーあーあーあーあー、あと使い捨ての可愛げのないガキ指揮官ら、確か何処かの欧州出身とは聞いていたけど、初対面の私たちに対しても余りにも生意気かつ反抗的で、何かと怒りと恨みで顔が歪んだ不細工なヒステリック女だったし、いちいち使い捨てだから、いちいち不要で哀れな名もなき乗組員たちの事なんて忘れたし、せいぜい貴女方の事は2秒くらい覚えておいてあげるからね」

 

神の如く下した裁きは、心底から楽しくて仕方ない。

自分がしたことについて後悔の念など一抹も持ってはいない。

寧ろ重要の目的のためならば味方すらの命も容易く奪えることすら躊躇しない。狂気に立ち向かうには、自らも狂気になるしかないのだ。

全ては恐怖の、恐怖のため、恐怖による理想の景色を描いた事すらも、誰もが各々の苦しみから解放され、また新たに生まれる恐怖、絶望、大混乱に陥るのか、どんな新たな災いが起きるのか、と想像を膨らますこと、自身の腕時計が刻々と時を刻んでいく様さえ愉快な眺めだった。

 

死のフェンスとも化した、この効果的な核攻撃は、自分たちと、そして最後には海が己の力によって、より拡散させていくのだ。

計り知れない核爆発に伴い、広範囲による津波は陸地を洗い流し、多くの海流も悉く汚染されて行き、瀬戸内海から流れ出した汚染水は、太平洋にまで広がっていく。こうして日本国内の陸・川・海が汚染されることになる。汚染された海に伴い、其れに隣接する島々の空気は、例え離れた距離でも充分に気をつけなければならない。

弱く愚かな人類や艦娘どもがどれだけ死のうが、汚染しようが一向に構わない。だが、双方による恐ろしい死が自分たちにまで降り掛かるのだけはごめん極まりない。

危険な化学物質が僅かでも浴びてしまっては大変になる。この研究開発に携わった同志たちが少なくとも60人は犠牲になっている。

既に勝利のために命を賭した誇るべき功績を残した英雄たちと認定されて祀られるだろう。化合物の安定を示すための人体実験も兼ねて、モルモット用として無理やり拉致した市街地にいたホームレス、平等主義を装った公平な求人募集を装った素体確保、内部にいた非力で使えない者たちすら利用したほど、努力の賜物とも言える。

 

仮に爆発に免れたとしても、強力な毒性を含まれた放射能汚染は、計算通りならば、この余波は数年後も続く。人体への長期的な影響としては、染色体異常、白血病、貧血症などの様々なものが多発。

さらにモルモット同然の実験対象者たちを使い、被爆した水や食べ物を通じた際は、早くて数時間後には症状が現れる。先ずは疲労感と激しい吐き気に襲われ、次には虚脱状態な半眠半覚の症状に蝕まわれ、その後は体内での堪え難い痛みを発する内臓死滅が起こり、下痢、内臓出血、脱水症状が絶えない。やがて循環器系と神経系統が全て破壊され、最期には譫妄状態や昏睡状態を経て死に至るほど効果は抜群。

そして四季折々に恵まれた日本において、放射線に汚染された動植物の死骸が散乱することに生まれる疫病の発生などの被害も簡単に引き起こしてくれる。

この作戦の成功が今後の深い心理的影響を与える事も見逃せない、また新たな不安や恐怖、混乱や不信、そして絶望に襲われる。多くの者たちが思考停止に陥り、我々とオリンピア軍の軍事攻撃に対して正常な対処が出来なくなる。

 

念入りに数ヶ月も準備を施したおかげで、実に完璧な作戦だ、まさに我々の世界新秩序の始まりとも言える完璧な勝利とも言える。

其の瞳の奥には歪んだ感情に伴い、正気の沙汰とは思えない、狂気の思考を孕んでいた彼女の側にいた者たちも、其の憎悪と、殺意に満ちた様子なのは手に取るように分かる。道端に生えた雑草を抜く、無力な家畜でも屠殺した程度にしか、そんな存在にしか認識していなかったのかもしれない。別段、何の躊躇も後悔も見せないほどに。

突然の恐怖に固まっていた護衛艦隊に、誰よりも早く口を開いたのは、深海皇女の側にいた深海執事だった。

 

「皇女様。このまま観賞するのは一向に構いませんが、早く此処から撤収しなければなりません。此れだけの騒ぎを起こしたのですから、敵がすぐさま駆けつけ兼ねません故に、何よりも次の作戦会議の為に、一度お戻りになられた方が宜しいかと思われます」

 

「……ふむ、そのようね。ちょうど良い時間帯になるし、私たちの弾薬や燃料もそろそろ危ないから戻りましょうか」

 

――もう少しこの地獄絵図を心ゆくまで楽しみたかったが、深海執事の言うのも正しいわ、と妙に納得した様子を頷いた深海皇女は、すぐさま撤収命令を下した。鮫のような獲物を探し求める眼が、同行する艦隊に指示を徹底させるようにして視線を送る。皆、黙って頷いた。

この襲撃は強烈なメッセージとなる。間違いない。其れに自分たちが帰るまでも、また別のところで面白いことが起きるのだからね、と。本拠点地に帰るまでは、とても退屈はしなかったのだった。

 

前菜とも言える第1段階から、第2段階の作戦は終了。

今頃は各鎮守府・泊地、軍事基地も慌ただしくしており、他の市街地などにも慈悲と哀れみの賜物を味わっている。

 

其の最中に、此処から第3段階が始まる。

この結果、世界がどんな反応を示すか、自分と、グランド・マザーは完璧に予測している。当然我々に対する憎悪はより増すだろうし、当然日本の味方として変わらないが、現在の世界情勢からして、日本に軍事援助するまでには数ヶ月、或いは其れどころか数年になるだろう。其の時はすでに遅きに失しているはずだ。

オリンピア軍の工作部隊や協力者たちはすでに展開している。

まずは一般人を含めて自分たちがいかに無防備であるかを思い知らせる、交通機関によるテロ攻撃。次にハイブリッド戦争の要であるサイバー攻撃によって、愚かな政府と軍にも己の無力さを突きつけるなどと、この作戦によって完膚なきまでに無力化されるはずだと言うのは、自分たちの配下の戦略分析官たちも保証するところだ。

我々とオリンピア軍の合同艦隊がこの時間帯を含めて48時間以内に、日本の咽喉元である南西海域のシーレーンを押さえる。

インフラ攻撃を主とする潜伏工作員に伴い、先遣隊としての特殊部隊を上陸させて、より内陸部には空挺部隊を降下させる。此れらで橋頭堡を確保、その後は上陸部隊が蹂躙する。特に敵の重要拠点として――最初は放送局をはじめ、政府施設や軍事基地、警察署、市民センターなどを次々と乗っ取っていく。

そして御飾り程度だが、占領した場所に新たな指導者を置いて新たな政治を創る、特に恐怖支配による統治を敷いてくれればなお良いものだ。敵の重要拠点を除き、さほど重要ではない地域は放っておくか、あるいは降伏及び、自然と手に入ってくる時を待っても遅くない。そうした地域に敗走した軍隊、そこに古くからいる住民は解放者である我々に反抗したり拠点を守ろうとしたりしないものだ。

徹底抗戦ならば、己の無力さと愚かさを呪わせてやるまで。どうせ臆病で脆弱な原始生物に過ぎない、ならば19世紀の生活レベルにまで釣瓶落としにしてやるのも悪くない。

 

其れがいかなる成果を生むのか、我々を含めてよく承知している。

 

すなわち、我々とオリンピアが統治する世界新秩序が誕生するのだ。新たな偉大なる力と慈悲の世界を治める、新たな時代の幕開けの瞬間を、人類どもに宣伝することを大いなる意味を持つのだから。

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

ただ一人だけ、深海騎士は違っていた。

深海皇女を含めて、誰にも悟られないように冷静さを装うものの、心の中では激昂していた。提督との決闘から離脱、負傷しながらも何とか皇女たちとは無事に合流した。

しかし、去り際に約束をしておいた自分のプライドが、此れまでにない戦いを見せてくれた彼との決着をつけないまま、こんな馬鹿な話が、こんな事が赦される筈がない、狂っている、と心のなかで抑えきれない怒りを、胸の内から怒りがこみ上げて、今にでもはち切れそうだったのが正直な気持ちだった。

正々堂々と戦いは無論、自分の戦いを貶された怒りを、自分の立場を忘れてしまうくらいに激しい感情が、消えることのない怒りを、直接ぶつけようとしたが、自身の静かな怒りを察知したのか、深海執事によって阻まれた。

 

――チッ、深海執事め。余計なことを。余計なことをしてくれたものだ……と心の中で毒づいた。

深海執事なりにこの場を荒らしたくなかったのか、確かにあの場で沈黙を続けていたら、首が痒くなり兼ねないほど見るに堪えないことが起きていただろう。深海皇女は些細なことで機嫌を損ねると、プライドが高い高飛車でもあり、たちまち激発となると手に負えない。

其れはまだ優しいもので、下手をすれば、腹いせに甚振り、《粛清》という名の解体ショーをし兼ねない。ただし食肉用家畜の解体作業の場合には、まず家畜を安楽死させてから行うが、深海皇女は生きたまま苦しませて出来るだけ長引かせるように殺していく。

敵は無論、例え味方でも躊躇しない。特に強がりを見せたり、動けない身体で反撃を試みようとしたり、そのままの状態で放置して数日後にはどうなっているのか、命乞いを求めさせる、生き恥を晒させるためだけのペットにする、と悪趣味なだけに虫唾が走る。

だからこそ、あの場を切り替えるために促したのだろうが、其の彼女自身も何かを考えているのか分かり兼ねない。何れにしろ、また邪魔立てをするならば、いつの日にか始末をする、まで。

 

「……さらば、戦士よ。ヴァルハラで安らかに」

 

自分なりの敬意。勝負を正々堂々と承ってくれた英雄への尊敬を込めて、来世での幸福を、また相見えることを心から祈った深海騎士。

此の拭えない激しい怒りを返すように、海面上を歩くたび、かつ、かつ、かつ、と足音が響き渡った。

この場から早々と去ろうとした時、ふと不思議な感覚に襲われた。

現は夢か、夢は現なのか、誰かが残した言葉かは分かり兼ねないが、深海皇女が起爆した核兵器をなかった事に、この史実を無効にしようとしているかのように、何なのかは分からない、まるで時間が逆行するような勢いすらも感じられた。

 

「……まさかな」

 

もしも我々が知らない存在。この過ちを、深海皇女を含めて、我々が作り出した地獄を赦さない何者か、例えば人々が崇拝する神が、我々を超える何者かが本当にいたしたならば……

――馬鹿な、神だと。こんな行いをいとも容易く抹消し、人智を超えた力を持つ者がいたのならば、正気を保つなど確信は出来ない、と首を横に軽く振った。辛うじて顔を出さない程度に自分の感情を押さえ込みはしたが、其れでも誰かにはきっと見抜かれていたのだろう。

考えても致し方ない。さっさと基地に帰投したら、此の疲れを癒さねばならない。傷ついた身体を休め、また新たな戦いに備えなければならない為にも。

 

――様々な感情の間に知る由もなかった。この時、深海騎士が察知した予感がすでに現実になっている事に、消滅した筈の柱島泊地及び、各島嶼、そして沿岸部などに大きな異変が起ころうとしていた。

 

では、早速始めますか、と、呟いた第三の人物が此処にいたことを知らずに……




今回は深海皇女視点に伴い、おまけがありました。上手く深海皇女の狂気描写が伝われば幸いです。高飛車なところに加えて、性格も歪んでいて、雑草を引き抜く感覚で悪意もなく、自分のお気に入りの仲間以外は平気で使い捨てとするというのもありますので。
深海騎士も深海騎士で生真面目なところはあっても心の中ではこういう事を、心情はこういう事も隠しています。
最後に分かる人には分かる人であり、今後も活躍しますのでお楽しみを。某作家の架空戦記作品では有名な方ですが。

では長話はさておき、次回は新たな戦いが始まります故に、オリンピアたちによる台湾侵攻作戦が始まります。同時にCoDシリーズみたいに其の回だけの兵士視点などになるかな、と思いますのでお楽しみを。
もしかしたら変更する場合もございますので、其の際は予めご理解頂ければ幸いです。

今回も元日早々と最後まで読んでいただきありがとうございました。次回もお楽しみくださいませ。

それでは、第75話まで…… До свидания(響ふうに)

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