第六戦隊と!   作:SEALs

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お久しぶりです。
時間の都合上などを含めて投稿が遅れてしまいました。気づいたら6ヶ月振りの投稿でごめんなさい。投稿したくてもいろいろありまして。
では話を改めて戻りますが、今回は予告どおりこの二人の決闘になります。
いつも通り楽しめて頂ければ幸いです!

それでは、どうぞ!


第74話:過ちへの決闘

只ならぬ空気に包まれる、蒼海の決戦。

兵としての伝統を重んじ、お互い対峙して間のないものの、敵同士でありながらも、意思疎通を図るように比較的距離を取り、刻を超えた、この現在に蘇った異形な決闘が始まろうとしていた。

 

一騎討ち。一対一の状態で対峙する両者。

いつの時代でも変わらない。強者を求める者こそが、武士の本懐――昔からある本心。其の言葉どおり、これが兵なのか。と思うと、武者震いするなどは滅多に起きないが、この小刻みに震え、全身に電流が駆け巡ることが分かる。

双方の瞳が闘志で輝いている、視覚がより感化したのか、嗅ぎ慣れた硝煙と火薬の匂い。其れらを撫でる潮風の向きが、白い霧状態となり、幾筋もの帯と化した潮風が、不思議な空間を作り出していく。

 

 

不思議なくらい、邪魔する者はいない。

幸いにも敵の仮装巡洋艦は、海上を漂うだけの鉄屑となっている。

先ほどの攻撃を受けて、艦橋にいた敵指揮官たちも戦死していたならば、余計に混乱しているであれば都合が良い。いまや艦首から艦尾までその全てが燃え上がり、あの様子からすると、艦内及び、甲板にいる僅かに生き残った乗組員たちも鎮火活動とともに、如何にか艦を沈まないように応急処置を施すのに精一杯なのだろう。

 

――干天の慈雨、という言葉を表して良いだろうか。

自分の通達を受け取って、駆けつけた睦月たちも大破した古鷹たちを救助したものの、この異様な空気を悟ってくれたのか、その場から古鷹たちを曳航して、すぐに引き下がった。後ろ髪を引かれつつ、古鷹たちは、彼が勝つことをただただ祈ることしか出来なかった。

 

「……気持ちはお互いに高まりますね」

 

「……ああ、まったくだな」

 

敵であるものの、きちんと文武両道も弁えている。深海騎士の言葉に同意しながら、気を引き締める提督。

交戦規定は唯ひとつ。お互い全身全霊を打つけ、どちらかが倒れるまで戦う。戦い、一騎打ちにおいて、これ以外でもこれ以上はない。

 

強い者が生き残る――それが戦いの掟。

 

「………」

 

「………」

 

ここは荒野のウエスタンか、と、お互いに身構える。

そっと潮風に揺れつつ、鳴り響く波音。白波を掻き立てた、蒼色に染まる絨毯が、まるで荒野を模している。同じように戦場で養われた眼のよさと実戦経験の豊富さ。陸海空という異質に伴い、次元の違いがある死線を幾度も乗り超えて、そして潜り抜けたのだから。相手の実力が未知数であろうと、お互いそう簡単にやられる事はない、と――

眼がかっと開いた両者は、お互いに銃口を向け合い、刹那、引き金を引いた。――蒼海に木霊する、空気摩擦によって轟いた二つの銃声。

しかし、不思議なことに偶然なのか、奇しくも撃ち放たれたお互いの銃弾は交差したものの、僅か数ミリほど擦れ違った。

 

『!!』

 

なんだと。まさか、外したのか!? こんな事があり得るのか、と思ったのか、ほんの一瞬――呆気に取られる。束の間。即座に頭を切り替え、両者は動き出した。地形を生かした戦いをする戦術は基礎中の基礎だが――お互い遮蔽物のない海、さらには蒼空と蒼海。三次元と二次元という、各々と次元の異なる者同士の戦い。提督の場合は、鋭い爪と嘴を持った鋼鉄の猛禽類。深海騎士の場合は、しなやかな身体に鋭利な牙を携えた鋼鉄の戦狼、と表した方が良いだろうか。

 

「そこだ!」

 

エンジンを一杯ふかして、名前を彷彿とした忍者じみた細身の機体を存分に舞わせて、回転数がさらに跳ね上がり、鼓膜を弾けさせるほどの負けじと己の牙を剥き出した、機首に装備された一門の30mmチェーンガンの太い火矢が、眼も眩むばかりの閃光を放った。

僅かな隙を逃さず、ディスプレイに浮かび上がる光の環が、深海騎士をしっかりと捉えた。

 

閃光。一刀両断とも言える灼熱した機関砲弾。一条の火線の火矢が、その身体と深海艤装を貫くより早く、ひらりと軽やかに躱した深海騎士の姿が眼中に映った。

提督は素早い反応に驚き、直後に倍返しとばかりの銃弾の群れが叩き込まれた。が、飛んできた鋼鉄の火矢を回避した。

さらなる闘志を燃え上がる炎を纏い、兵は戦えば戦うほど気高く咲き誇り、そして散り際にもまた美しいとも言われている。だからこそ、この深海騎士は、ただで勝てる相手ではないことを悟っていた。

深海皇女の護衛を務めるのだから当然だが、深海執事のように、撃ってきたミサイルを蹴り返して、こっちを撃墜するのは容易いだろう。

 

――胸の内に呟きながら、提督は戦闘を続ける。

 

互いに移動しながらの戦闘。――被弾は未だにしていない。本当に当たっていない事自体が不思議なくらいの攻撃が交差していく。

だからと言って、出し惜しみはもちろん、同時に長期戦は避けたい。《ニンジャ・改》の、時速、秒速、燃料計には時速による消費量と飛行可能距離などを頭に刻み込みながら、エンジン変調の回転限界を熟知した操縦。そして何よりも各兵装の残弾数にも気にしなければならない。

だからこそ、正確に命中可能な位置に捉えられるのは、約0.1秒か、0.2秒の間で、しかも標的は此方と同じく移動し続けている。

例えば30mmチェーンガンの発射弾数は625発/分。――搭載する兵装によって装弾数は異なるが、最低440発から、最大で1200発。

現在の技術の進歩により、命中率の向上はしているものの、命中可能な時間帯が、0.1秒とすれば、正しければ、おそらく一撃で1.6発。

下手な鉄砲数撃ちゃ当たるとはよく言うが、映画のように簡単に見えて、実はそうではない。一撃必殺とは、まさに「至難の技」なのだ。

こいつは一苦労しそうだな。このまま長期戦を覚悟したら、圧倒的な火力で押されてしまうのがオチだろう。

 

――落ち着け。何か対策がある筈だ。

 

英国特殊空挺部隊(SAS)の金言「もし役に立つのなら、どんな物でも使え」と。対ゲリラ、対テロ作戦などの比較のない経験を持つSASだからこそ出来る戦法。敵に恐怖を広めて、隙を引き起こせば、それが効果的な煙幕となり、どんな困難な戦いを乗り越えられ、あらゆる任務を遂行する事が出来る。

 

これまでの戦いを糧に、対応すれば対抗出来る。

――ほんの一瞬だけ。この機体の名前らしく、そしてこの機体を最大限に生かすためにも。

 

自分の装備を確認しつつ、何時でも放てるように備える。

一か八か、やるしかない。例え非力なものでも、使い方次第では強力な武器に早変わりすることもある。

――幸いにもまだこいつが残っている。最大限の注意を払いながら、この秘密兵器を利用する上手くいけば、相手に大打撃を与えられるかもしれない。どんな戦いでも同じ、獅子は兎を狩るにも全力を尽くすように、ぐっと操縦桿を握りつつ旋回行動――胸の鼓動が高まる。同時に身体に圧し掛かってくるGを堪えながら、今度は反航戦で挑む。《ニンジャ・改》の機体損傷を覚悟の上とばかり、猛然と加速させる。

 

「……なるほど」

 

其方から終止符を打ちに来たか、とばかりに深海騎士も動き出す。

提督の策を見透かしているのか、最大限の注意を払いながら、危険だが、この相応しい戦場に一輪の華を咲かせても悪くない、と思うと自然と気持ちが高揚するのだ。例え相手は誰であろうと、この敬意は変わらない。ならば……!とばかりに反航戦に挑む。

 

――少しの辛抱だが、どうか耐えてくれよ。と言い聞かせ、お互いに損害を省みることなく突進していく。

提督は甲冑を全身で纏い、長柄の大身槍を振り翳した死すら畏れを知らない騎馬武者に、深海騎士は白銀に煌めく板金鎧で覆われた其の身とともに、長大な騎槍を振るうという其の名に恥じない誇り高き騎士が対峙する。

深海騎士の対空機銃が咆哮し、爆焔の華。耳を聾するばかりの射撃音が、死の旋律を奏でる。放たれた火矢の奔流を回避に次ぐ回避。攻撃を見極めながらかい潜り、機体に激しい衝撃を感じると同時に、身体を打ち据えるような轟音が機内にも轟いた。

こちらもチェーンガンが炎が噴き上げ、機首の下から長大な火焔の矢で対抗する。互いの銃弾が激突に激闘。相対速度を忘れるほど、幾つもの火花が散る残光を突っ切りながら。一瞬の後。

 

「今だ!」

 

お互いすれ違う寸前――思いっきり投下レバーを引っ張る。すると、両翼下からある物か投下された。駆け上がった深海騎士に投下した二つの増槽タンク及び、幾つもの兵装が真正面から突っ込んできた。すぐさま攻撃しよう全てを葬ること、迎撃にも間に合わず、直後、激突。叩きつけられる衝動力に、海面及び、空中に幾つもの火の粉が散る白熱光と、OH-1XA《ニンジャ・改》を包み込むような衝撃を放つ爆発エネルギーが生じた。

瀬戸内海全体に響き渡る轟音とともに、爆発が鼓膜の奥まで震えるのが分かる。

 

「……危うく、俺も巻き込まれ兼ねなかったな」

 

凄まじく押し寄せる爆風。其の衝撃波に翻弄されかけ、危うくコントロールを失いかけたが、必死に機体を操り、辛うじて爆焔から振り切った提督の《ニンジャ・改》は、数発の命中弾を浴びていた。

だが、奇跡とも言うべきなのか、高い防弾性のおかげでまだ飛んでいる。其の悉くが幸運にもコックピットも、自身の肉体も、致命的な傷を受けていないが――

 

「……っ!さすがに俺も無傷は無理だったか」

 

痛みの分かち合いというべきか。太股を貫通した一弾が唯一の深傷だったが、激痛を堪えながら提督は胸ポケットから純白のハンカチを引き裂いて、太股を付け根から縛り付け止血する。

 

「……すまないな、せっかく古鷹たちから貰った大切なハンカチを引き裂いて。帰ったら帰ったで古鷹たちに怒られるな、これは」

 

たちまち真紅に染まり、赤い滴が座席に滴り落ちる状態を、口には出さずに呟いて、鼓動の度に押し寄せる痛みを堪えて飛ぶ提督。

連戦に次ぐ連戦。そして一騎打ちに勝ち残ったが、押し寄せる疲れた精神を活気づけるために、僅かに残っていたハードキャンディを口に放り込む。ガリガリと咀嚼すると、果糖が持つ快い甘さと酸味の刺激が癒してくれる。ほっと息を吐く、ようやく強敵と戦い、生き残った自分を見出した瞬間。

 

「……さすがですね。燃料タンクや兵装を全て投下して、其れを瞬く間に……武器にするなんて想定外でした。……あの一瞬でも、私の艤装を盾にしなければ危うく撃沈するところでした……」

 

地獄の劫火を彷彿させる、灼熱地獄の中から、こつりこつりと靴音を立てて、負傷した頭を抑えて姿を見せた深海騎士。

 

「……おいおい、嘘だろ」

 

戦慄と伴い、倒せなかったという歯痒さも口走った。

しかし、もっとも、深海騎士も無傷ではない。

彼女が纏うオウムガイを彷彿させた深海艤装は大破。

あの投下攻撃により、主要から中枢区画までの装甲は亀裂が生じており、一溜まりもなく貫通され、攻撃力の要となる兵装――主砲塔は全て使用不能に、対空銃座も大半が破損し、五割程度まで落ちている。

それほどの被害を受けながらも、辛うじて持っているのが奇跡的でもあり、なおかつ騎士らしく未だに闘志は絶やさない。

 

「……マジかよ」

 

不運にも、深海騎士に止めを刺そうと、頼みの綱となる唯一の兵装、30mmチェーンガンを撃とうとした瞬間――空しくカチカチと音を立てるのみ。『此処まで来て故障なのか!?』と思いつつ、確認のためにもう一度発射ボタンを押したが、コックピット内に鳴り響くデジタル画像には“残弾数0”と表示されていた。

 

「……良き闘いでした。……ですが、此れでお終いです」

 

確実に撃墜するため残っている対空砲などを全弾撃ち込もうとする深海騎士。

 

「やられる!」

 

心臓の鼓動よりも早く、コックピットに響く警報音。

反撃しようにも、先ほどの奇策に伴い、《ニンジャ・改》の機動力を上げる為に、主力となるべき兵装は、増槽タンクとともに全て投棄したのが仇となってしまった。敵の対空砲火を浴びて、木っ端微塵になる自機の姿が眼に浮かんだ。

 

――俺も如何やら此処までか。今まで勝てたのは、単なる偶然に過ぎなかったのか。

 

過去の自分。あの頃みたいに孤独を忘れるために戦い続けた、幾度も、幾度も、決して逃れる事もない、そして長い戦いの果てに追い続けた答えが、現に今、自分よりも一枚上手の敵に敗れようとしているのだから。

 

――みんな、俺もすぐにそこに行くからな。

 

「諦めないで!」

 

突然、通信機に入り込んできた声の持ち主に、ハッと我に返った。

 

「私たちが援護します!」

 

「古鷹、加古、青葉、衣笠!?」

 

声の持ち主は古鷹たち。救援に駆けつけた睦月たちに曳航されてのに、どうして戻った!?と当惑する提督。

 

「私たちならば大丈夫です、だから信じて!」

 

信じて! この言葉を聞いた瞬間――

 

「……ああ、分かった。俺の妻たちが言うならば其れでいこう!」

 

「提督は右に回避を!」

 

「分かった!」

 

彼女たちの言葉を信じて、操縦桿を右に倒すと、同時にターボ・エンジンを噴かせながら、右に急旋回。其の直後――視界を遮るほどの蒼き一閃の紅い熱線が飛び込んできた。

提督の動きに伴い、古鷹たちの攻撃に気づいた深海騎士は、即座に対空射撃を止めて、回避されてしまう。

 

「……っ! 大破しても轟沈覚悟で来るとはいえ…… 其れに、まさか我々の新兵器をこの時間帯で応用するとは!」

 

深海騎士も突然の古鷹たちの砲撃に驚いたらしい。

死兵間近とはいえ、まさか自分たちの最新兵器《クラーケン》を鹵獲して、其の触手をこの時間帯で携帯用火器に改造して使うとは、悔しいが、敵ながらあっぱれ、と認めざるを得なかった。

 

「次はそうは簡単に……!」

 

再度態勢を整えると、1通の通信が深海騎士の耳に飛び込んだ――

 

《皇女様の御命令です。例の時間になりました、あなたも今すぐこの場から一刻も早く撤退をしてください》

 

「……時間を掛け過ぎました、か。決着は次の機会にしましょう」

 

時間が来たか。と双眸を落とす。

命令とはいえ、激しくも、此れまでにない、心の奥底から渇きを潤してくれる決闘の時間を邪魔され、思わずチッと舌打ちをしたくなるのを堪え、深海騎士はそう言って、足元に何かを撃ち出す。

すると、みるみると視界を遮るほどの黒煙が噴き出し、其の中に紛れ込むとともに、深海騎士は戦場から姿を消した。

 

「待て!」

 

しかし、追尾しようにも、あいにく此方には残弾数はなく、燃料も心細い。しかも煙幕として使用された、この黒煙のなかには一時的にレーダーを含めた電子機器を撹乱させる微細のアルミ箔片――チャフを黒煙の中に紛れ込ませているなどと、尾行されないように徹底的に施していた。

 

「……みんな、聞こえるか? 敵は――」

 

疲れたように一息を吐き、提督は通信機に向かって言った。

古鷹たちが応答しようとした、まさにその時だった。

視界を遮るような眩い閃光が、《ニンジャ・改》のコックピットを、古鷹たちを、柱島泊地全体を包み込んだ。

提督は視線を移すと、僅かに瞳に映ったが、置き去りにされたのだろうと思われる傷だらけの敵仮装巡洋艦からパッと閃光が上がり、数秒後。カッ、と突如、全てを吹き飛ばすように柱島泊地近海で、白昼堂々にも関わらず、この澄み切った蒼海を蹴飛ばすかのような勢いで、巨大なエネルギーを生じた爆発を起こした。強烈な光が駆け巡る、其の光はまるで太陽だった。二つ目の太陽。そして柱島と瀬戸内海の間に生まれた二つ目の太陽は、光の津波となり、其の凄まじい力を持って、蒼海を灯る光が根こそぎ、命を刈り取っていく熱波、同時に吹き飛ばす衝撃波を生み出した。

 

安定した飛行を続けていたOH-1XA《ニンジャ・改》は忽ち、グルグル、グルグルと視界が掻き回され、まるで洗濯機の中に放り込まれたかのように機体が回転し始めた。

機内で響く計器の警告音、通信機は甲高いを高音を鳴らす悲鳴。

提督は如何にか機体を、態勢を立て直そうとしても制御が利かない、操縦桿を懸命に動かして何度やっても直せない、まるで荒波に晒されたかのような態勢が崩れた機体は、強い衝撃波に弄ばれたまま、海面に叩きつけられた。

同時に着水した途端、ガンッ、と頭部を強く打った提督は、仄暗い水底へと沈むように意識が深く途切れたのだった――

 

 

 

提督だけでなく、一体何が起きたのか理解出来なかった古鷹たち。泊地に退避していた全ての艦娘たち、各妖精たち、警備部隊。

哀れにもその場に取り残された傷だらけの仮装巡洋艦《ハドソン》、激しい攻撃を受けて崩壊した艦橋から、やっとの思いで瓦礫の下敷きから脱して姿を現した負傷した敵指揮官や副官たち。

主君と自分たちの勝利と帰還を諦めずに、共に努めていた艦内から甲板にいた敵乗組員たち。全ての者たちは理解出来ないまま、艦内中心部から押し寄せた光の衝撃波と、次いで海底火山の噴火を思わせる、量感のある爆焔に飲み込まれた。

 

柱島泊地近海の中心部から発生した双方は一つとなり、光の津波と化して、湾に沿った海岸部から内陸にも広がり、数千度の熱風は人体や建築物すらも躊躇なく、全てを崩壊させて焼き尽くした。

自然豊かな柱島泊地の森は地獄の劫火に包まれ、各地で大火災が発生。泊地に設けた工廠、弾薬庫、入渠ドック、飛行場、軍港、兵舎などを含めて、柱島にある全ての建物は衝撃に吹き飛ばされて、瞬く間に薙ぎ払われ、倒壊する建物は瓦礫の山となった。

無論のこと柱島付近の島々、岩国市を始めとする沿岸部も押し寄せる大津波と衝撃波の被害に遭い、市街地の半分が崩壊。南にある屋代島や東方の東能美島も被害甚大。勢いをつけた津波は広島市街地まで襲い掛かり、太田川や天満川を遡り、市街地まで浸水した。

空襲・敵襲に備えて念入りに造られた堅牢な防空壕及び、掩蔽陣地、トーチカなども身を守る意味を持たず、燃え広がる泊地から市街地などに対して自動消火システム、消防活動すら全く役に立つことなく、鎮火活動すらままならず、津波による浸水被害も兼ね合わせ、市民たちの避難する時間も全く与えられず、文字通り、躊躇もなく面影を残さなかった。

 

光と灼熱の劫火の中から、嘲るような、或いは哀れむような声すらも、全てを灰燼に返していく戦慄が渦を巻くほどに沸き上がり、禍々しい奇怪な雲が立ちのぼる。

 

かつて起きたあの悲劇は、もしかしたら何者かが放った警告…… 仄暗い、底の知れない虚無に飲み込まれた瞬間、誰もが、ふとそのような感慨を覚えた。

 

だが、確かなことは、混沌、恐怖の坩堝から一瞬で容易く、地獄は作れるのだと刻み込むのだった……

 




今回は二人の決闘に伴い、最後は衝撃的な終わり方になりました。
元ネタはきちんとあります、ええ、柱島が消滅する元ネタは『超空の連合艦隊』(因みに学研版は『超空の大和』)です。オリジナルの場合は、ロシアの原潜による核ミサイル攻撃で、此処に停泊していた連合艦隊の何割か消滅しています。大和率いる第一艦隊などは山本五十六長官が見た悪夢を信じて、日本政府が対策したので無事ですが、その後はまた新たな戦いが起きましたが。
今作は其れを彷彿させる場面にしています。
其れから伏せていますが、超戦闘機出撃のネタもありますので、本作品はまだまだ続きますので暫くお待ちを。お察ししている読者さんたちはいますが、そろそろあの人、田中光二先生作品の読者の方々ならばご存知の方も出ますので(ボソッ)

では、長話はさておき……
次回はその柱島襲撃を下した、深海皇女視点になります故に、新たな戦いが起きそうな前触れがありますのでお楽しみを。
今月にまた投稿出来たら良いですが(汗)
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。次回もお楽しみくださいませ。

それでは、第74.5話まで…… До свидания(響ふうに)

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