第六戦隊と!   作:SEALs

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1月末になりましたが、С Новым годом!(あけましておめでとうございます)。
と、遅くの新年の御挨拶を送ります。
今年も本作品ともども宜しくお願い致します。

今回もお待たせした事に伴い、申し訳ございませんが、急遽ではありますが、予告をしていたこととは、一部変更する事を改めてお伝え致します。では、前回に引き続いて迫力ある海戦をお楽しみください。
長いようで短い回ですが、いつも通り楽しめて頂ければ幸いです!

それでは、どうぞ!


第72話:孤高の黒騎士 中編

「オノレ!卑劣ナ艦娘ドモメガッ!」

 

ギギギっと奥歯を噛み鳴らして、途切れ途切れの雲が浮かぶ碧空に、一群の航空機を睨みつけながらも、艦隊指揮を務める重巡ネ級が叫ぶが、その眼下の敵を確認した烈風改隊を仕切りに、勢いよく降下する。

 

「全艦回避!取舵一杯!――」

 

瞳に映る恐怖に振り動かされるネ級が、声をうわずらせた。

彼女の叫び声に反応して、回避行動に移り、各自は思いっきり身体を回し、唸り声を上げて揃って波を蹴る。早く……早く、と焦る気持ちが露わになるが――行動を遮る凄まじい機銃の発射音が、ネ級たちの鼓膜を打ちのめす。一瞬の間、烈風改の両翼に装備された九九式20mm二号機銃が咆哮した。威力はそれだけで充分だった。炸裂弾を含んだ20mm機関砲弾は、ネ級の頭蓋を真上から叩き潰した。

一瞬にして頭部を微塵に砕き、飛び散る脳漿と血肉が混じった破片が四散して、未だに動きをする手足が無意味に突っ張り、痙攣する。次の瞬間、ゆっくりと倒れていき、そのまま動かぬ死体と化した。

その様子を、指揮を執っていたネ級を葬った烈風改部隊を皮切りに、上空から勢いよく急降下態勢を取り、全ての彗星部隊、流星改部隊が二手に分かれ、一式陸攻部隊もまた各々と目に付いた獲物たちを目掛けて突入を敢行した。

 

上空から見れば、海上にいる者など狩るのに容易いことだった。

突入してきた各機の搭乗妖精たちが照準器を覗きつつ、爆撃手が飛行コースを指示する。やがてその動きが止まり、裂帛の気合いが迸った。

 

「撃てぇ!」

 

爆撃手の指が、投下ボタンを押した。

彗星、一部爆装した流星改の両翼から機体下に吊り下げていた250Kg及び、500Kg航空爆弾を投下する。各々の機体下や、両翼下から解放された爆弾が、魔女の悲鳴ににも似た叫換を上げて、標的に向かって、真っしぐらに落ちていく。

大量に降り注ぐ爆弾の嵐が、魂を消し飛ばすほどの轟音に伴い、火薬を孕ませて爆ぜた水柱に押し寄せられていく勢いが木霊する。

直弾を受けた者たちは体内から、艤装まで膨張した水蒸気に火薬や、燃料が猛烈な勢いで吹きつけて、粉々に砕かれて、抵抗すら許さずに四散する。

 

自分たちの指揮官や仲間がやられてもなお、少しでも攻撃を受けまいと、鬼のような形相で雄叫びを上げる深海棲艦たち。猛然と主砲、対空砲・対空機銃を撃ちまくる。しかし、その抵抗は燦々たるもの。鋼鉄の猛禽類の群れの前では無意味に過ぎなかった。

一部は隠された才能に目覚めた者たちが、回避運動の鬼と化して、豪快に、華麗に、そして回頭を繰り返していく。が、逃れることの出来ない死の運命をいたずらに先延ばしているに過ぎなかった。

空から降り注ぐ災厄を払おうとする対空砲火。投下される爆弾の雨を必死に躱すうちに、右舷に肉薄した流星改及び、一式陸攻部隊が放った魚雷攻撃への注意が散漫となり、爆発音とともに、破片と爆煙の交じった幾つものの水柱が噴き上がる。

 

あらゆる方向から、戦爆合同、一式陸攻部隊が堪えず突入する。

猛攻の序曲を奏でるように、上空を乱舞する猛禽の群れは、まるで弱った黒豹に襲い掛かる禿鷹たちのように入れ替わりに殺到していく。

流星改、陸攻部隊が放たれる魚雷を運良く躱しても、別の方向から数発の機銃弾が殺到する。それを回避しようと転舵しても、上空からは爆弾が、別方向からは魚雷の群れが吸い込まれるように押し寄せる。

数多くの投弾された死の豪雨。黒死病にも似た恐怖に浸されたせいだろうか。回避に気を取られたうちに、側にいた一部の深海棲艦は、側にいた仲間と激突する。その瞬間、双方のバルジを食い破り、波濤の奔流を叩き込む。あれほど溌剌とした機動を見せた敵艦たちは、瞬きする間もなく衝突により爆沈、その骸は波間に姿を消した。

 

戦爆連合・陸攻の猛攻に集中するあまり、泊地を襲撃されて肉薄する第六戦隊の古鷹たちと、阿武隈率いる水雷戦隊を見落としていた。

報復の意気に燃えて叩きつけるような砲声に、古鷹たちの身体が揺れて、その視界が眩く一瞬閉ざされる。再び蹴り上げる飛沫を貫いて放たれた砲弾は、空気摩擦によって弾体が白熱し、緩やかな弧を描いて飛んだ砲弾の嵐は、抵抗し続ける深海棲艦の周囲を覆い尽くした。

再び襲い掛かってきた砲撃に、怒りの目を剥くも、焦燥を滾らせても砲撃は止むことはなかった。

瞬きすら忘れるほどの攻撃の前では無傷ではいられない。

次々と損傷を被り、猛攻により、みるみる落伍する深海棲艦たちには、もはや双方を撃退する力は残されていなかった。

満身創痍。紅く滴る血涙とともに、唇から鮮血を溢れさせて、苦痛をあげる彼女たちの頭上から何千トンという鋼鉄の濁流が雪崩れ落ち、吸い寄せられるように命中して、瞬く間に押し潰した。

その衝撃は凄まじく、空を揺るがし、海水を沸騰して搔き回す。

宙に吹き飛ばされた艤装の破片と、深海棲艦の肉片が、鮮血の霧に混じって落下した。

 

「敵護衛艦隊、全て撃沈!」

 

濁流が渦巻くなかに沈んでいく敵艦を見送って、歓喜に狂った叫びを上げる。

瀬戸内海に、歓声が木霊する狂騒のなかで、古鷹は落ち着いた声音で命じた。

 

「次の目標。敵仮装巡洋艦に標準!」

 

各自の主砲塔が旋回し、各々の砲身が上下して、この場から慌てて逃げようとしている無傷の仮装巡洋艦《ハドソン》に指向した。

相手が何やら拡声器を通して、こちらに『やめろぉぉぉ!私を攻撃したらママたちが黙っていないぞ!』と喚き散らしていた。

だが、躊躇うことなどなく、素早く位置を読み取り、砲撃諸元を弾き出し、裂帛の叫びを上げた。

 

「一斉射撃開始、撃てぇーーー!」

 

瞬間、耳を聾する轟音が溢れていた。

新たな獲物に向けられた、重々しい砲声が轟くと、瞳を真っ赤に染まるほどの眩い閃光を放って分散し、其の砲口からオレンジ色の炎が吹き出すと同時に、灼熱したガスが砲尾に向けて突進した。

吹き上げる砲煙を貫いて、各種の砲弾が勢いをつけて飛翔する。

古鷹たちの信念が乗り移ったかのように、敵仮装巡洋艦《ハドソン》に目掛けて突進する。敵艦を覆い隠した水柱の中に、明らかに発砲の閃光とは異なる爆煙が迸り、双眸にも複数の彩な紅蓮の劫火を噴き上げた。

 

 

 

 

其の頃。

提督が辿り着いたヘリパッドには、AH-1《コブラ》シリーズよりいささか小柄な機体が、いままさに戦海の空へ飛び立とうと待ち兼ねていた。新鋭機のOH-1XA《ニンジャ・改》攻撃ヘリだ。

若鷹の嘴にも似た機首部には、比類のない高い命中率を持ち、素早くしかも強力な一撃を射ることが出来るM320A1 30mm機関砲。

猛禽が広げる鋼鉄の両翼には、AGM-114《ヘルファイアⅡ》空対艦ミサイルを搭載。他にもハイドラ誘導ロケット弾ポッド、そして遂には空戦用のAIM-92スティンガーミサイルも兼ね備えるほどの潤沢な重装備が、すでに備え付けられている。

 

「給油は大丈夫か、愚零主任!?」

 

問いかける提督に向けて、愚零は顔を向けた。

手塩にかけた戦闘ヘリを、初の実戦に送り出す彼の双眸には、息子を戦場に向かわせる武将のような温かみがこもっていた。

 

「ご心配なく、提督。装備ももちろんご覧の通り、フル装備です。どんな相手でも、充分過ぎる武装です」

 

最後の点検とばかり、座席も見渡していた。

操縦席に設けている航法システム、FLIRやLLTV、火器管制システム、オールグリーンなど全てのシステムに異常なし。燃料満タン。全てが最良の状態。総力を挙げて開発された畢生の新鋭攻撃ヘリ、OH-1XA《ニンジャ・改》の出撃準備は、ここに全く整った。

にこりと笑った愚零は、機体を軽く叩いてみせる。

 

「それじゃあ、行ってくる」

 

満足げに頷いて、提督は言った。

彼にとっては、あらゆる攻撃ヘリの操縦にも慣れてはいるが、武装を強化し、機体設計も望み得る限り、レシプロ戦闘機並みの速さを持つ、最大限の性能を引き出せるように回収を加えた、高速な攻撃ヘリに初めて搭乗できると思うと、麻薬にも似た刺激的な興奮とスリルがある。悪い認識とはいえ、これほどの醍醐味を、胸が高まりは誰にも止められないものだ。

 

「どうぞ、ご武運を」

 

完全装備されたOH-1XA《ニンジャ・改》攻撃ヘリに搭乗前――にっこりと微笑する愚零主任が手を出したので、提督は反射的に手を差し伸べて握り返した。

すると、グローブ越しにも関わらず、ぬるっとした、ぬめりを纏ったプラスチックを握ったような不思議な感触を感じた。

同時にあり得ない事、普通の人間の指は5本なのに対し、愚零主任の指が6本もあったような錯覚を覚えた気がして、思わずゾッとした。

その瞬間、気のせいだろうが、バチっと身体中に落雷を頭上から感電したようなショックが走り、眼の前が真っ暗になった。

ふと視界が戻ってきたとき、《ニンジャ・改》の操縦席に座っていたのだった。

 

……俺はいつの間に、操縦席に?

 

幻でも見ていたのか。それとも本当だったのか、若しくは泊地が襲撃されたせいで焦燥していた為に見たある幻影だったのか? と疑問を抱きつつも、提督は頭を軽く振った。

 

「恐らく何かの思い過ごしだろう、今は……!」

 

次の瞬間には、空気を捉えたメインローター及び、テールローターにより、ずんぐりした重い機体を宙に浮かばせる。

重そうに、ゆっくりと、機体は上昇を開始した。吹き付ける風に揺れて、うるさいくらいのローター音がかえって頼もしい。

力強くヘリパッドを蹴って、OH-1XA攻撃ヘリは舞い上がった。

期待を込めて、猛々しい唸りを上げて、泊地近海へと飛翔する。

その姿はAH-1シリーズの毒蛇を思わせる獰猛な姿に比較して、大鎧を纏った鎌倉武士が振るったという日本刀を連想させた。

 

鋼鉄の猛禽は空を駆ける、ローター音を響かせながら――

 

目指すは海域――敵艦隊の撃滅。

 

機体は一直線に速度を保ったまま、陽光降り注ぐ碧空へ飛び渡る。

唸り出すローターやエンジンの出力を伴奏に、速度計の針が、機嫌よく小刻みに上がっていく。

さらに操縦桿が大きく引かれ、回転するメインローターと、エンジンの唸りが、一段と高まる。

重力が働く方向を変えて、泊地の景色が急速に、後方に遠ざかる。

眼の覚めるような蒼色に潤されたような海上の景色が、一面に広がっていた。

 

――オリンピア軍や深海棲艦たちに、相当の報いをくれてやる。

 

目の前の光景を見れば、誰でもそう言わざるを得まい。

獲物を見つけた鷹の如く、突入するのみ。表情を引き締めて、必勝の信念を胸に刻み、二つの感情によって兼ね備えながら、操縦桿を引いた提督は、間もなく標的が鎮座する海域に突入する。

しかし、新たなる戦い、底の知れない脅威が襲い掛かる。

瀬戸内海を戦火の色に染める激闘は、まだ終わる気配すら、見ることは出来なかった。さながらその光景は、近い将来、新たに繰り広げるであろう惨劇を、先取りしているかのようだった――




「……では、私は行って来ます」

対岸の火事視。
遠くには古鷹たちに応戦する哀れな囮、黒々とした砲煙を吐きながらも、もはやいつ落城の炎に陵辱される、悲劇の女城主を彷彿させた仮装巡洋艦《ハドソン》を、遠くから見遠くから見通す、深海皇女たちの側にいた、一人の深海棲艦は口を開けた。

「そう。貴女の活躍に期待しているわ。ただし殺すな。私の受けた屈辱以上の、奴らに生き恥を晒して上げなさい」

全ては整えた。そう考えるだけでも心が踊る。
堪えきれず、唇を歪ませて、凄まじい笑みを閃かせる深海皇女に対して、準備を整え、今まさに出陣する一人の戦乙女は頷いた。
其の戦乙女の真摯な熱情が溢れる瞳から、全てを焼き払わんと濛々とする、焔を孕ませて靡かせたような双眸を、全身から伝わる迸る電流が、闘志をより滾らせ、そして騎士としての誇りを漲らせていた。

「……さあ、いざ戦さ場に」

そう言い放った戦乙女は笑みを浮かべつつ、針路を、古鷹たち以下の艦娘たちがいる海域に指向する。
この意志を、信念を持つ者同士の戦いが始まろうとしている。お互いの信念に、直接の影響はない。……しかし、このうえ大きな意味を持つ海戦が、幕を上げようとしていた。

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