第六戦隊と!   作:SEALs

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お待たせしました。
本当ならばGWに投稿する予定でしたが、加筆に加筆を重ねた結果、この日になりました。戦闘描写になりますと大抵こうなります。故に予告とは違う物になり兼ねないのもこの為かなと。

今回は敵の襲撃。なお某有名な作品などに登場した兵器、オマージュですが、一部登場します。この兵器を知っている読者は思わずにんまりするかなとも思います。

では、いつも通り楽しめて頂ければ幸いです!どうぞ!


第68話:泊地炎上 中編

柱島泊地

X-day 時刻1035

 

「くそ。彼奴ら嫌がらせにも程があるな……」

 

視線を向けた光景に、提督の奥歯が、ぎりりと音を立てる。

鉄筋コンクリート造りの司令部棟、執務室が吹き飛ばされたのだ。

眼の眩むような紅蓮の炎に炙られて、爆破の衝撃と爆風の嵐により、脆くなった建物は、積み木細工を崩すように倒れていく。

先ほどの爆発の正体。徹底的に司令部棟を木っ端微塵に破壊したのは古典的だが、数十年経ってもなお、今でも通用する爆破工作。

先ほどの様なステルス兵士部隊、または発展途上国の軍隊では制式採用されている中国製の徘徊型無人機、自律型AI搭載ドローンによる攻撃なのかは、残骸を集めて調べない限り知る術はない。にしても別れの挨拶とはいえ、実に効果的なもの、嫌がらせ攻撃以上に、心理的に大打撃を与えるには充分なものだ。

 

「……逃げ足だけは早いな、奴は」

 

今すぐ捜索部隊を編成、追い掛けて見つけ出せばまだ間に合うか、と思いきや、降り注ぐ災厄は止むことなく、再び襲い掛かって来た。

埠頭付近の海面が割れ、今にも天に昇る巨大な水柱が立ち上がった。

その中を突き破って、姿を現した黒い物体。

海上から突如として現れたそれは、濛々と水蒸気が吹き上がる巨大な金属塊。大きさは約20〜30メートル。その大きさにも関わらず、移動速度は急行列車並みのスピードを持っていた。

前後左右に揺れ動きながら近づき、まるでクトゥルフ神話の代名詞、その名に冠されている《クトゥルフ》、果ては異常に発達した頭脳に対して四肢は退化したタコのような火星人が、浅瀬を経て、上陸を開始した。櫓は禍々しく冷たい光を放つ頑丈な装甲や砲塔。深海棲艦によく見られる特徴的な歯。彼女たちが持つあの独特な妖しく光る紅い双眸。機体下にはタコやイカなどの頭足類が持つ腕に似た複数の金属製の触手が蠢いていた。その巨体を支える3本の金属製の脚。関節部分からは、足元を隠すようにしきりと極めて濃い緑色の煙を噴き出していた。

表情を窺い知ることは出来ないが、与えられた任務はただ一つ。あの嫌な女狐、グランド・マザーの思うまま、この柱島泊地を徹底的に破壊することであるだけは理解した。

 

《被弾、被弾! テイルローター損傷!くそ!持ち堪えてくれ!》

 

衝撃、爆音。気が付けば、上空警戒中のAH-1Z攻撃ヘリが被弾。しかも尾翼がぼうぼうと赤い炎を吹いていく。必死に機体を安定して持ち堪えようと操縦桿を握るパイロットと、同じく甲高い悲鳴を上げる機体。ヘリの命とも言える心臓でもある安定性を保つためのテイルローターを破壊されたAH-1Zは、グルグルと回転を始め、非情にも周囲のクレーンやビルを砕きながら地面に堕ちていった。

蠢めく金属製の触手は飽き足らず、今度はストライカー装甲車に狙いを付けた。ヒュンっと空気を裂くその太い触手の一撃は、ぐわっと、何トンもあるはずの装甲車の車体は、いとも容易く見えない巨人の脚に蹴飛ばされたような強い衝撃を受けて舞い上がった。地面を抉り、装甲車をひっくり返り、横倒しになった。

 

「今度は宇宙戦争のトライポッドに似た新兵器かよ」

 

思わず泣けるぜ、と、提督は言った瞬間。

 

《アッハハハハハハ!その通り!》

 

高揚感な笑い。囃し立てる叫び声が木霊した。寧ろ逆だ。二度と聞きたくもない声。この聞き覚えのある声の持ち主に対して、提督だけでなく、古鷹たち全員が思わず本音を洩らした。

 

《驚いたか、柘植よ!また会えて嬉しいぞ!》

 

覚える価値すらないあの市民団体の長であり、国会議員の黒田だ。

悪名高い参謀長時代もだが、議員活動、被災地でも周囲に構わず、誰にも迷惑を被るにも飽き足らず、ここまで嗅ぎつけに来る時点で、もはや質の悪いストーカー並みだ。

 

「ご退場いただきたいな。あんたを呼んだ覚えはない」

 

《俺様に言っても無駄だがな、アホの柘植と不愉快な仲間たち。俺は選ばれし神なのだからな。その証にこの水陸両用歩行戦車《クラーケン》を貸与してくれたのだからな、グランド・マザー様からな!》

 

黒田が搭乗する鋼鉄の櫓こと《クラーケン》は、ブオォォォォォォンと重低音に伴い、金属製のものが同時に擦れ合う独特な音、或いは反響する電子音のような怪音を吹き鳴らした。

破壊の限りを尽くさんと、地獄の業火を眺めて楽しむように木霊する終末音。これを合図と言わんばかりに2本の水柱が立つ。

後方から現れた物体も異形の櫓、3本の脚で支えられ、三脚とは別に金属の触手が無数に蠢めく同型機が続いて現れた。

 

《これだけじゃないぞ、柘植!俺以外にも他にもたくさんの愉快な来客たちがいるから遠慮するなよ》

 

「なんだと?」

 

《だから、特等席まで案内してやるぞ!感謝しな!》

 

すると、しなやかな鋼鉄の鞭に捕らわれた提督。

振り解こうにも力が入らない。束の間、20メートル以上の高さから見下ろす形で一気に持ち上げられた。側にいた古鷹たちは助けようとするも、《クラーケン》が持つ別の触手先から、紅い光線が放たれて行く手を阻まれた。威力は地面を簡単に抉るほど、人体に当たれば、ほんの数秒で焼死体に変えれるほどの物だった。

 

《おっと。抵抗するなよ。したら、こいつを叩き潰してやるからな!下にいる奴らも大人しくしてな!》

 

不本意だが、古鷹たちも抵抗は出来なかった。

彼女たちの悔しがる表情を見た黒田は、せせら嗤っていた。

 

《そうそう。大人は素直が一番だからな。それに此処からが見せ場だから特等席に招待したってことだ!》

 

「見せ場だと?」

 

その瞬間。《クラーケン》の背後から微かな閃光が迸った。

鼓膜の奥から、身体中を響き渡る砲撃音。しかし、どうやって? この泊地近海に蔓延っていた深海棲艦は殲滅した。仮に生き残りがいたとしても、そう簡単に侵入は出来ないはずと頭をよぎる。

 

「みんな伏せろーーー!」

 

考えても仕方がないと、再び来る砲撃に備えて、提督の叫びが響く。足元にいる古鷹たちに向けて。気休め程度だが、少なくとも着弾時にばら撒く破片や爆風による被害を防ぐ為だ。

次の瞬間、雷の如く振り下ろされた衝撃と爆風が巻き起こった。ほんの一瞬だけ、ふわっと身体が浮き上がりそうになった。吹き飛ばされず、どうにか無傷で済んだから儲けもの。不幸中の幸いと思えばいい。代わりに被害に遭ったのは泊地内に設けた施設。コンクリートが吹き飛び、蓄積した資材が巻き上げられ、木っ端微塵に破壊された。

 

《This is my earth(ここは私の地球だ!)》

 

遥か遠くから吼える女性の声が、提督たちの鼓膜の奥まで震わせた。

同時に木枯らしを鳴らした音が徐々に近づき、泊地のなかに閃光が弾け、地獄の底から響き渡るような爆発の轟音が木霊する。

再び槌に打たれた様な衝撃音が再び炸裂した。デジャブ。どうにか古鷹たちは無傷で済んだらしいが、砲撃は止むことはない。

発砲音が鳴り響いた方向――沖合まで視線を移した提督は驚愕した。

ポツポツと聳え立つ複数の人影は深海棲艦。重巡ネ級、リ級などを中心とした水上打撃部隊。ここまでは予想はつく。

だが、よく瞳を凝らすと意外な物の攻撃だった。沖合に姿を見せたのは、深海棲艦たちと共に白波を蹴り飛ばして、蒼海を踏みしだく巨体の舳先には《ハドソン》と記して、マストにはためく同盟国の星条旗を、束の間の虹が彩った美麗な姿を持つ豪華客船。

太平洋の覇を唱えた古代に失われた伝説の大陸を連想させた海上都市『アトランティス』とも言えた、特徴的なシルエットを持っているのに対して、鋼鉄の層が階段状に纏められた高く聳える上部構造物が、海はもちろん、陸地を睥睨するように聳え立つ。一見したところでは、ただの豪華客船にしか見えない。しかし、不自然な点は、船客たちは誰ひとりもおらず、甲板から船橋構造物に掛けて、そして船上には人々を楽しませ、良き船旅を満喫させる為に設けられる屋外施設は一切なかった。代わりに姿を見せた物が、大量の兵装だった。

攻撃力の高いロシアの艦砲システムのAK-130 130mm連装速射砲。バランスの取れた傑作艦砲のMk.45 mod.4 62口径5インチ単装砲。

NATO同盟国が運用するハープーンSSM 4連装発射筒、Mk.20mm CIWS、小型高速艇・機雷・沿岸の警備隊などの洋上の脅威に対して、制圧射撃を浴びせる為のMk.38 25mm単装機関砲、M2重機までも備えられていた。

 

「奴らめ、仮装巡洋艦までも連れて来ていたのか!」

 

雄叫び。提督は思いっ切り見開かれた。

――かつてドイツ海軍が特に通商破壊作戦に多く運用しており、敵商船に遭遇すれば、格納された艦砲や魚雷発射管、機雷投射器で武装した艦船に早変わりする。一から巡洋艦を建造するより早く出来て、尚且つ時間と費用が節約出来るから実に経済的だった。

大戦初期には数多く活躍したが、やがて連合国軍の哨戒網の強化に伴い、航空機の発達により、高速貨物船の船体を使った仮装巡洋艦を運用しても結局は起死回生にはならず、僅かに生き残った艦も防空戦闘機部隊の指揮艦として役目を果たし、時代の波に飲み込まれ消失してしまったが――その艦船が現代技術の進歩でよみがえり、こちらに襲い掛かってくる仮装巡洋艦は白波を引き千切って、殷殷と轟く砲声。再び来るその響きは、さらなる生贄の魂を求めるであろうと叫ぶ、ローレライの哄笑を思わせた。

 

また、現代技術ならではの装備品を備え付けていた。

本来ならば救命ボートを降ろす為に設けられたボートダビットに伴い、救命ボートが配備されているが――しかし、従来のダビットや救命ボートではなく、その代わりに小型クレーンと各国の沿岸警備隊や海軍で広く制式採用されている小回りが利く複合型哨戒艇が搭載されていた。既に小型クレーンに吊り降ろされた哨戒艇は直ぐに降ろされて着水。直後、ウォーターエンジンが起動して、海上を切り裂いて走り出した。哨戒艇に備え付けられたM2重機やM240汎用機関銃、乗艦する複数の乗組員はガスマスクを装面。両手には各々とした武装を携えていた。

さらにこれでもか言うくらい、攻撃ヘリを展開した。――旧式ではあるが、ロシアは勿論、ワルシャワ条約機構や発展途上国、果てはNATO、PMCなどに未だに近代化改装、運用されているソ連の象徴する攻撃ヘリ、Mi-24《ハインド》までも展開し始めた。

どんなジョークなのか。果ては雰囲気作りなのか、敵ヘリは大胆にも某映画の如く『ワルキューレの騎行』を流しながら、空を駆け巡る。

史実でもボートを使った拿捕部隊、偵察・哨戒任務などをこなす水上機偵察機を備えていた幾つかの例もあるから不思議ではない。双方を活かして、現代技術・魔改造も兼ね備えたことで、従来よりも攻撃力が向上、多様性に富んでいた。

 

《その通りだ。だが、これだけじゃないぞ、玄関先に団体客様も到着したぞ!おっと。そのまま観賞してな、怪我をしたら俺が困るからな!》

 

黒田の言葉に対して、視線を移す。すると、複数の団体の行き交う声が聞こえた。友好的な連中でない事だけは確か。全員が重武装して、それを持った女や男たちは、ニヤッと邪悪な笑みを浮かべた。

提督の瞳に映った団体――ソ連が象徴する真紅と灰褐色の軍服姿の兵士たち。彼らに混じり、黒田との密接な関係を持つ極道組織の構成員。自称『平和の民』と言う左翼集団。そして人並み外れた巨体を持つ若者たちなどと個性や特徴のある敵兵たち。全員の両眼が燃えるように紅い。殺意。上瞼をクッと吊り上げて、提督たちや柱島泊地を睨んでいる。その計り知れない憎悪。中国・韓国・北朝鮮以外の軍隊や軍人たちを徹底的に憎む、この国ならではの異常な軍隊アレルギーを患う者が持つ独特な双眸だ。

 

《さぁ、皆さん。心ゆくまで泊地破壊及び、社会奉仕活動バーゲンをお楽しみください!頑張った方には豪華賞品が貰えます!》

 

上部ハッチから顔を見せた黒田は、拡声器を使って、ゲーム番組の司会者のような口調で嘲るように言った。

この宣言を、待っていましたとばかりに、各々の声明を張り上げた。波打つ線となって、我先に破壊せんと限りの猛攻を開始した。

 

「トレーニングビデオどおりに泊地を破壊してやるぞ!」

 

「どうせ此処は踏み潰される運命なんだ!この破壊は偉大なるマザーと革命のために接収する!」

 

「労働者として受け取るべき物を受け取りに来たぞ!さぁ寄越せ!さっさと金を出しな、軍国主義野郎!その金は有効に活用してやる!」

 

「パチンコ店は戦争不況や戦争マニアらのせいで倒産したし、これからは掠奪や恐喝だな。アハ!」

 

昔ながらのコーラの瓶に燃焼剤入りのガソリンを詰め込んだ燃え盛る炎の蓋を纏った火炎瓶、丸みを帯びた卵型及び、ジャガイモ潰しのような形をした柄付手榴弾、梱包爆薬を投擲する。

 

「フラックトルーパー隊、もたもたするな!さっさと我がマザーと、お前たちの善意の為に社会的奉仕しろ!」

 

その部隊の指揮官らしき女性に命令されたのか、チッと小さく舌打ちを鳴らしたり、嫌そうに、うわっ…と呟きながら移動。とてつもなく重い携帯式重火器を携えて、肩に掛けて撃ち始めた。

発砲焔を噴いて、駆け上がる榴弾が、厚いコンクリートに覆われた施設を砕いて炸裂し、爆発の閃光に巻き込んでいく。

凄まじい銃声、幾度もなく直接鼓膜を殴られたような衝撃が泊地全体を襲い掛かる。刹那的かつ自分たちの本位かつ、眼先の大金や利益の為ならば、何の葛藤も抱かずに、罪の意識をまるで感じさせない囃し立てる笑い声や照れ隠しめいた笑い声等がその狂気をより一層引き立たせていた者たち。

 

「やれ!善人を気取る軍国主義者の家を壊せ!」

 

如何にも強欲かつ冷血かつ狡猾な性質を持つ極道組織の組長が命じた。すると馬力のあるエンジン音を轟き、青白い蒸気を噴き出し、無限軌道を軋ませながら、玄関を押し潰して姿を現した。

建設・土木作業会社が持つ2台の特殊自動車《ブルドーザー》。軍用車輌としても運用され、改装次第では砲弾の断片と小銃弾に対して全周囲防御能力を持ち、キャビン・エンジン、その他を装甲に伴い、機関銃・発煙弾投射機・擲弾発射機などを取り付ければ即製戦闘車輌にもなる。だが、これよりも一際大きな車輌が姿を披露した。

 

「ウォーホホホーイ!グラインダー、用意よし!」

 

前部の巨大な破砕ローラーを備えた兵器《グラインダー》。

古くなり、現代では主力の座を譲った旧式戦車の車体を利用した破砕戦車と言う風変わりな珍兵器。しかし、場合によってはブルドーザーなどの土木工事専用の機械と、同じくらい大切な車輌だった。

巨人の腕にも似た破砕ローターが加速度を増して、敷地内を我が物顔で跨ぎ、ブルドーザーとともに泊地の庁舎を破壊して行く。鋼鉄の猛牛たちに倣い、ハンマー、つるはしを持った極道の構成員たちも壊していく。

 

《この時をどれほど待ち侘びたか。見ているだけでも楽しくて仕方ない!》

 

黒田らは、ひたすらに破壊を楽しむ。視界に施設が入れば容赦なく破壊し続ける。我が家でもある、攻撃対象と化されて壊されていく泊地が、もうやめてくれ、お願い!壊さないで!と繰り返して、叫んでいるようにすら聞こえた。

 

俺たちは――ただ指を咥えて見過ごすことしか許されなかった。

下手に動くと殺される。足元にいる古鷹たちも同じく。またしても状況が最悪。ただ、何度も何度も脳裏を駆け巡るのは『すまない。護れなくて』と言う懺悔の言葉。

 

《さて、俺たちも参加するか。その前に……》

 

黒田は《クラーケン》の触手を高らかに掲げる。この高さから見下ろす戦場の光景は、混沌の一言しかない。

 

《その前にお前を地面に投げ落として叩き殺してやる。熱線が可哀想だし勿体ない。お前の後を追うように、足元に張り付いているゴキブリどもを踏み潰して、この泊地にいる駆逐艦のクソガキどもをじわじわと虐めて嬲り殺してやるからな!あはははははは!》

 

拡声器を抱えたまま、黒田は腹を揺すって哄笑する。

 

《それじゃあ、車に轢かれた哀れなぺしゃんこのカエルになりな!あばよ!》

 

今にでも地面とキスどころか、叩き潰されそうなになった瞬間、《クラーケン》の動きが徐々に鈍くなった。

 

《な、なにっ!?》

 

俺だけでなく、黒田自身も驚いていた。一体、どうしたんだ?と自問自答したが、答えはすぐそこあった。現したと言った方が正しいが。

ここまで聞こえてくるエンジンのギアを轟かせて、轟音と共に土砂が巻き上げた物体が突き進んで来る。

 

形は装輪装甲車に似ている。それよりは少し大きく、現代の主力戦車よりもやや小さい車輌。かつ両者の良い所を併せ持っている。しかも自身の意志を持っている様な動きを見せつけ、車体には強力なM2重機関銃と4連装ロケットランチャーを備えていた。さながらSF世界から飛び出した無人戦闘車輌。内部から機械音楽を唸らせ、猪突猛進の如く、勢いを増しながら、黒田機に随伴していた《クラーケン》の距離まで、全速力で体当たり攻撃を敢行した。衝撃、敵の銃声と着弾音に混じって一際目立つ鉄の軋む音。復旧作業及び、状況の理解が進まぬうちに、無人戦闘車輌による予知せぬ攻撃を受けた機体は、たちまち三脚のバランスを崩して、側にいた同機と衝突事故を起こした。

今頃あの機内では、横転した世界。世界がひっくり返ったような衝撃を受けている様だが、そんな不届き者たちに対して無人戦闘車輌は、倒れている《クラーケン》に目掛けて搭載している4連装ロケットランチャーから、ロケット弾を撃ち続けた。

 

無人戦闘車輌《ゴライアス》。国防総省がDARPA(国防高等研究計画局)に命じた後、日米両国で共同開発した無人戦闘車。搭載武器はM2重機関銃と4連式ロケットランチャー。車体はチタン接合した硬質なアルミ板の上から更に鋼鉄の板で固めて、岩や木、或いは他の軍用車輌との接触や衝撃にも耐え、対EMP構造も施されている。内部には最新式のサスペンションが組み込まれ、泥濘が酷い荒地でも悠々と走行可能な故に、バリケード、側溝や積み石程度の障害物でも乗り越えることが出来る。さらに有効加重及び、装甲の総重量は上限3600キロまで積載可能な、巨人の名を受け継いだ鋼鉄の軍馬だ。

 

奇襲攻撃によって、2機の《クラーケン》を撃破した《ゴライアス》は、攻撃対象をMi-24《ハインド》に変えて、自動装填しつつロケット弾を撃ち続けた。これに気づいた敵ヘリはフレアを放出。すぐさま回避行動を取るものの、誘導ロケット弾は追尾し、遂には機体下に突進した。ロケット弾の直撃によって機体から黒煙が上がり、束の間、亀裂から火焔を吐き出しながら反り返り、きりもみ状態になったロシアの誇る最強の攻撃ヘリは海上に落ちて爆発した。

そうとも知らずに呆気にとられた黒田。《クラーケン》が破壊され、立て続けに《ハインド》が墜落した。これを見て何とやらの顔を露わにした襲撃者たちは動揺し始めた。

 

チャンス!とばかり、この攻勢に乗じて、故障のおかげで、緩くなった鋼鉄の触手から解放された提督は脱出。さらにグラップルを射出。標的は機体ではなく、黒田に向かって。勢いよく黒田の胸板のすぐ下を貫通、突き刺さる。堪え難い苦痛を孕んだ悲鳴を上げて、黒田は咳き込み血を吐いた。提督はグラップルを作動させて引き寄せる。止めてくれ、と慈悲を乞う黒田を機内から放り投げられ、悲痛な叫び声を上げながら、地面に落ちていく。

この引力の法則を上手く利用して、すれ違う形で機体に乗り込む提督。直後、レッグホルスターから素早く拳銃を引き抜き、機内にいた敵搭乗員たちを射殺した。

 

主人を失った鋼鉄の櫓は、数秒間は沈黙を続けた。しかし、ありがたい事に多くのシステムが自動システム化している為、一人でも操縦は容易い。一時的な故障は自動復旧システムにより回復。出力も上がり、《クラーケン》の関節部分から緑色の排気煙が噴き出し、本格的に動き出した。鋼鉄の櫓、元より見た目の割には器用に歩く様は、最新式自動操縦装置の働きにより、本物の生き物に近い。その為かいちいち一歩ずつ脚を操らなくても良いのも頷ける。

 

「それにしてもまた助かったな、ありがとう。明石、夕張」

 

「いえいえ。急いでゴライアスを直した甲斐がありました。それに試作品のEMPランチャーも効果を発揮出来ましたので満足ですよ」

 

「提督も、また敵から良い兵器を鹵獲したわね。宇宙戦争のトライポッドに似た戦車とは驚きね。あとで調べてみたいわ」

 

「あとでな。こいつらを一掃して、OH-1XAに乗り込んだら、あとは好きにして構わないからな」

 

無人戦闘車輌《ゴライアス》の後ろから、ひょいっ、と顔を見せた二人に礼に伴い、簡単に返答した。戦場にも関わらず、相変わらずの兵装データを知りたがるのは流石と言うばかりか。感心してしまうほど肝が据わっている。

 

「俺は地上部隊を片付ける。古鷹たちは出撃可能な者たちと出撃せよ!深海棲艦・仮装巡洋艦率いる敵海上部隊を攻撃してくれ!片付け次第、俺もそっちに向かう!」

 

『了解しました。提督(司令官)!!!!』

 

古鷹たちも反撃と言わんばかりに返答。これから海上にいる深海棲艦、仮装巡洋艦及び、そして海上の襲撃者たちの迎撃に向かう。

 

「こっちも早々と片付けるぞ!」




今回もまた新たな新兵器登場に伴い、此処から反撃という展開回になりました。なお、久々に8000文字以上になりました。
執務室を爆破は嫌がらせレベルであり、敢えてこうして鎮守府をじわじわ破壊するのも士気低下を招かす攻撃をするのも一つの手段ですからね。

今回登場した《クラーケン》の元は、マイナーですが、『第二次宇宙戦争 マルス1938』という、かの有名な『宇宙戦争』を、架空戦記的にアレンジ、その作品の後日譚小説した架空戦記です。作中に登場する火星人が残したトライポッド(歩行戦車)や熱線砲などの兵器が日本を含めて各国軍によって使用されています。作中で燃える場面は新王ジョージ六世の観艦式に参列した各国の艦船が肩を並べて、火星人たちの侵略軍との戦う場面が好きです。今回一機だけ奪われましたが、スパルタン式奪取ですよ、だから気にするな!(魔王様風に)

今回登場した仮装巡洋艦は『海底戦艦イ800』に登場する米海軍の仮装巡洋艦です。名前は同艦名から。意外にもこの艦船がイ800の姉妹艦を鹵獲するという活躍しています。こっちの場合は20cm砲で艦橋など命中させた後、海兵隊がガス銃で乗組員を眠らせています。
その名残として、この世界では一部現代兵装に変更、活躍しているという場面に当たります。

破砕戦車《グラインダー》は、かの有名なコマンド&コンカー、レッドアラートシリーズの一つ、レッドアラート3 アップライジングに登場しているソ連軍の車輌です。因みに少し出たフラックトルーパーもこの作品に出ています。某笑顔動画でプレイ動画を観て知りました。こういった珍兵器も好きなものなので。世の中にはダイオウイカなども兵器としていますから、突っ込んだり気にしたら負けですよ。……多分。

ゴライアスは、FPS『HOMEFRONT』に登場する無人戦闘車輌です。軍事・経済的にも披露したアメリカが、まだ余裕がある最中に国防総省がDARPA(国防高等研究計画局)に命じた無人兵器です。中盤まで心強い味方として活躍します。小説版では最初は北朝鮮軍が運用していた物をレジスタンスが直して、これを味方にした物を使っています。この世界ではその様な事はなく、日米共同開発して造られた無人兵器になっています。
因みに英語版と小説版ではゴリアテ、日本語吹き替え版ではゴライアスと呼ばれています。私は後者の呼び方が好きですね。

長くなり兼ねませんので、次回予告に流れます。
次回は提督たちがこの敵部隊を駆逐します、陸戦になります。
古鷹たちとの海戦は、提督視点が終了後に書きますのでお楽しみを。
ネタバレですが、今回投げ飛ばされた黒田は死んでおりません。まだ痛い目に遭う為に残っていますが、どうなるかは少しお待ちを。
レッドアラート3 アップライジングに登場したある物になる為でもありますので。

今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。次回もお楽しみくださいませ。

それでは、第69話まで…… До свидания(響ふうに)

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