第六戦隊と!   作:SEALs

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イズヴィニーチェ。今回イベントで遅くなりました故に長く待たせて申し訳ありませんでした。

今回のイベントで大和さん、涼月ちゃんなどを迎えました。
沖縄海域は不沈戦艦紀伊を思い出します、あちらはチート級もありますが。相手に列車砲がなかっただけマシかなと思います。実際に設置するのに何ヶ月は掛かりますが。

また気づかない内にUA2万5000も突破し、お気に入り数も少し増えましたから嬉しい限りです。

前置きはさておき、では予告通り……先生という人物が登場します。実際には最初だけ言われ、のちに名前が明らかになります。提督一同はこの危機を乗り越えるためにある作戦を行います。また一部アンチがありますのでご理解頂ければ幸いです。

それでは、本編開始です。

どうぞ!


第62話:希望の灯し火 後編

日差しの強かった太陽は既に弱まり、大きく西の空に傾いていた。

空が憂いの暗青を纏いつつあった。夕焼けが空の三分の一ほどを、鮮やかに覆っており、遠くから見える穏やかな海から潮風が吹き掛ける。その場にいた提督一同から、全ての人々を撫でてくれる優しい感触が両頬に伝わり始める。

 

――あの暗く禍々しい赤い炎に覆っていた地獄の海とは違い、夕陽を浴びた海面が赤や黄色、金や銀色に輝くキラキラと宝石のような美しさを醸し出していた。サラサラと響かせる波の音と、群れをなして飛ぶ海鳥たちの歌に似た鳴き声が紡ぐように空を鳴く。

 

「……よし、無事に任務完了だな」

 

提督が呟いた。彼の視線先には、救助した子どもたちを嬉し泣きを浮かべながら抱き締める男女の姿。救助活動の最中――捜索も兼ねて、各野戦病院や臨時病院を訪れたところ、その兄妹の両親が無事に見つかったことが幸いだった。再会時には『兵隊さんありがとう』とお礼を言いに来てくれたほど感謝された。

 

「はい。そうですね」

 

側にいた古鷹が囁くと、全員が嬉しそうに頷いた。勇気ある行為。同時に勇気あるところ、常に希望が存在するのだから。

 

「よし、最後に俺たちが彼らを元気付けるために飯を作らないとな」

 

落ち着くにはまだ早い。礼は皆を無事に元気づけてからだ、と。

軍隊でも戦場であっても同様である『日常』である『食』というものこそ飯を食うことは大切。かの有名なナポレオンの名言『腹が減っては戦はできぬ』があるほど食事は欠かせない。日常が当たり前の民間人でも非日常が日常茶飯事の軍隊でも欠かせない。

 

「FASTシステムの準備は出来ているか?」

 

提督の問いに、古鷹たちは頷いた。

彼が言うFASTシステムとは、米軍が制式採用しているフィールドキッチンであり、英語で『早い』を意味する単語が、偶然にも同じ意味合いを持ち、その名の通り、野戦で迅速に兵站サポートするFASTは、折り畳まれた状態で車輌に牽引され、使用時には兵士2名が1時間で展開できる。しかも2基の圧力釜や冷蔵庫が装備され、一度に550人分の食事を供給する能力を持っている調理機能を有する最新鋭の野外炊事である。戦時であっても軍隊は戦闘糧食だけで戦い抜くことは想定されておらず、米軍では戦場でも充実した食事を配給出来るシステムが研究され続けているほど進化している。戦闘時の戦闘糧食とは違い、その場で温かい食事なので、民間人が食べる一般の料理と大きな違いはない。因みに違いがあるとすれば、米軍では一番ボリュームがあるのが夕食ではなく昼食だと言われており、昼食を『ランチ』ではなく、『ディナー』と呼んでいる。

 

「……元帥たちもだが、彼女たちのおかげだな」

 

提督が目を向けた先には、以前知り合ったオカルト雑貨店のレ級たちが盛んに手を振っていた。この非常事態に応じて、全国にいる穏健派たちを集めて、食料品や衣服などを含めた救援物資を届けに来てくれたのだ。なお、彼女たちは深海棲艦とバレないように上手く民間人に変装している。本人たちは『普段からスーパーや大手有名デパートなど買い物に行くから変装は慣れている』との事だ。

 

「それじゃ、皆を笑顔にさせるために……」

 

「待ったーーー!!!」

 

制止するかのように響き渡る第三者の大声。ざわざわと騒ぐ避難民たちのことを気にせず、姿を現れたのは例によって嫌な団体。

 

《平和憲法九条を世界遺産に、軍備撤廃を求める平和の会》

 

見ただけでもきな臭い団体。言わずもがな不安や憎悪を煽らせる悪質な設定マニアの左翼たち。今でも数多くのメディアウイルスというタチの悪い病気を人々に蔓延させる為に、遠路はるばる来たとは御苦労な事だ、と言いようがない。

相変わらず役立たずの憲法九条という物を心酔している証に、反戦プラカードを携えながら、パレードに撒く紙吹雪のように派手に反戦ビラをばら撒いていた。平和の民と掲げるも真逆なもの、こちらの肌に突き刺さってくるような殺意を孕んだ目付きで、こちらを睨む一般人ら。周りに威圧を掛けている労働組合組織員――実際にはそれを装ったヤクザなどの裏社会にいる構成員が複数いることが分かった。幾ら演技で誤魔化そうが、平和を訴えてる反基地活動家たちと同じように、目的を果たすためならば殺人をも厭わない平和とは真逆な行為をやるテロリスト独特の殺意や目つきまでは誤魔化せない。

 

「お前たち、いったい何の用だ?」

 

落ち着いた口調で訊ねる提督。彼に答えるように口を開いたのは、如何にも絵に描いたようなエリート出身の、アニメなどで見るステレオタイプの役人的な風貌をした男性が言った。

 

「私たちはただお話しに参りに来ました。その件に関しては、先生からお聞きになった方が宜しいかと。それでは先生、どうぞ!」

 

名前も言わず、場を弁えない礼儀知らずだなと思いつつ、怪訝な顔を浮かべる提督一同。彼らにお構いなく、後ろに一歩下がる役人男性。すると――のこのこと呑気にパイプをふかし、堂々と胸を張りながら姿を現した代表者と思われるひとりの男性。服装はありふれたスーツ姿をしていたが、胸元にあるもの記章――赤紫色のモールを取り付け、その中央には金色に施した金属製11弁菊花模様を配していた議員記章を着用した人物は、言わずとも国会議員だったが……

 

「!!」

 

提督は驚愕した。無理もなかった。忘れもしない人物……

 

「久しぶりだな。柘植」

 

「……黒田」

 

ニヤニヤと嫌味な薄ら笑みを浮かべ、下髭を生やしていた猿顔の男性を見た提督は呟いた。

 

黒田参謀長。かつては海軍参謀長を務めていたが、海軍の神重徳、陸軍の富永恭次や牟田口廉也たちなどの如く、机上の秀才や馬鹿げた神懸かり的な作戦ばかりを考えるしかない無能な参謀長であり、後退を許さず玉砕を強制、退却命令を出した連隊長には自決を強制。失敗した部下たちには口癖のように『死ね!死んで責任を取れ!死ぬまで連日出撃しろ!死ね!』と言い続けたが、それなのに作戦開始前に、敵の攻撃が予想されると、さっさと日本へ平然と敵前逃亡していた。また力による特権を利用しては私腹を肥やし、自分の面子のためにも平気で部下すら切り捨てる事すら辞さなかった。とある出来事で提督を殺害計画、果ては元帥を不当逮捕させようと企てていたが、事前に情報を掴んでいた元帥一同は、直ぐさま黒田参謀長を逮捕、軍法会議による厳重処罰、最終的に不名誉除隊にさせて海軍から追放した。

しかし、本人は何があろうと生き延びて再起を期すという、泥臭さがあったため、一部では、地方市議会議員、または国会議員になったという噂は聞いていたが、まさか本当だったとは驚きだった。だが、今更のこのことここまで来て、いったい何の用なんだ?と、提督は怪訝な顔を浮かべて警戒した矢先――

 

「俺たちがここにいるのは他でもない。ここにいる全ての軍人諸君、特に提督。我々の平和的解決である正義の裁判所命令により、お前や仲間たち全員を逮捕しに来たんだ」

 

「……何の罪でだ?」

 

提督が訊ねた。

 

「とぼけるな!お前を含めてここにいる全員が敵兵殺害による殺人罪及び、一般市民に対する脅迫罪や婦女暴行罪など数多くの罪状を自衛戦争という名前で隠蔽したのが明らさまに出たんだ!その証拠に裁判所出頭命令まで出ているんだ!この戦争殺人者が!」

 

「先生が言うことは正しいのです。今回の事件はあなた方がいたから起きたんです。観艦式という無意味なお披露目会が行われたために、何百人、いや、何千人という尊い命が消えていったのよ。無駄なことをしなければ、軍に掛かったお金を公共や福祉などに向けられ、より多くの市民が助かったでしょうに!」

 

「脅迫と暴力!結局そういう事なのよ!世界がこんなになって、アジアにも困っている人が無数にいるというのに、平和を乱す獣ような軍人や暴力に酔った艦娘たちがいたから日本は攻撃されたのよ!」

 

提督たちが反論させないように、黒田の言葉とともに、攻撃的な目つきを露わにする中年の婦人たちが腹立たしそうに言った。

 

「全くだ!我々の税金を無駄なことに使ってくれたものだ!おたくら好戦主義者が我々を苦しめ、今日までの生活を犠牲にしているにも関わらず、我々よりもブルジョワな生活をしているとはけしからん!」

 

「そうだ!黒田先生の言うとおり、我々は前々から暴力に頼らずに問題を平和的に解決する努力を指摘したのに、その努力を踏み躙ったのはお前たちこそ悪魔の使いだ!」

 

反戦プラカードを掲げていた中高年、初老の男たちが顔を憤った顔で言った。

 

「軍はおろか、全国にいる提督や艦娘らは謝罪すべきです。戦争法案を強行採決して、戦争を始めたという事に誤りがあったことを!」

 

「本当だよ!人殺しの軍や艦娘らは早く解体、そんなに戦争したかったらゲームしろつーの。海外の海まで行ってガタゴトやったって間抜けなだけだって!」

 

労働組合構成員、20代の若者たちまでも、全て否定的な言葉、中指を立てながら感謝の気持ちすらない罵声や非難ばかりを叫び続けた。

 

「皆が言うように、お前たち提督や艦娘そのものが無理があったんだよ。聞く耳を持とうとさえしなかったから、今回のような事が起きたし、早々理解していればたくさんの犠牲者も、税金の無駄使いも防げたのにな……」

 

元軍人でありながらも国防や自国民を護りたいという愛国心より、自身の名誉や地位、面子、私腹を優先している黒田がそれを楽しんでやっている。現役時代からこの嫌味な性格……根っからのサディストな性格は変わっていない。

 

「くくく。だから国会議員命令であり、参謀命令だ。大人しく逮捕されて死刑を受けろ。この国は民主主義国家だからな。ただし、俺様に飯でも振る舞ってくれたら……死刑から無期懲役に出来る様に手配してやってもないぜ。柘植提督」

 

「……分かった。振る舞えば良いのだな?」

 

訳の解らない謎理論を含めた挑発に対して、提督は落ち着いた口調に伴い、微動することなく答えた。

 

「ああ。どんなものでもな。どんな飯か楽しみに待っているぜ」

 

と言わんばかりに傲慢な態度を取る。

 

「……分かった」

 

提督は言った。今の発言に対して責任は取るし、見せなければならないと。

 

「……提督。本当に大丈夫ですか?」

 

古鷹だけでなく、全員が心配していた。

全員が同じく、あんな奴に振る舞う必要はない。追い出せば良いと述べていたが

 

「振る舞うんだ」

 

『……え????』

 

「それにいい考えがある。こういう場面こそ相応しいものだ。彼奴らが居なくなった頃は皆に海軍自慢の飯を振る舞うことが出来る」

 

俺に策がある、と言うばかりに、にんまりと笑った提督。

頭に『?』を浮かべる古鷹たちに対して、浅羽たちは、なるほど。お前らしいな、と直ぐに理解した。

 

 

 

 

 

「それじゃあ、行ってくる」

 

何時もの戦闘服から、コックコートに着替えた提督。

彼の姿を見た古鷹たちは『かっこいい』と見惚れ、浅羽たちは『律儀だな』と苦笑いしていた。

提督はより雰囲気を醸し出すために、西洋料理でメインディッシュが運ばれてくる時にかぶせられている釣り鐘型――クロッシュ(本来の目的は料理の保温用として使われている)を覆い、持ち運んでいた。

 

古鷹たちに対して、黒田らはニヤニヤと不毛するような態度をかましながら待っていた。しかも言うことを聞かない駄々をこねる可愛げのない悪ガキのように『早く持ってこい』などと連呼していた。

 

「お待たせしました。お客様」

 

「待ちくたびれたぞ。柘植」

 

代表者である黒田は、どんな料理か、と言わんばかり期待していた。元海軍参謀長だから、さぞ良いご馳走と上質なワインが振舞われるだろう、と思うと嬉々していた。

 

「当海軍の自慢の一品でございます!」

 

提督がクロッシュを取り、自慢の一品を披露した。

純白な皿の中央にあるものは、たった一粒の種実類――マカダミアナッツだった。

 

「ナッツだ」

 

提督のひと言を聞いた、黒田は今にでも脳卒中で倒れ兼ねないほど、顔が真っ赤に紅潮していた。

 

「貴様ぁぁぁぁぁぁ!俺に対して、馬鹿め!と言っているのか!」

 

黒田の怒鳴り声が響き渡る。

後ろにいた活動家たちは理解できなかったが、史実で起きた有名なバルジの戦い、その一環であるバストーニュの戦いにおいて、第101空挺師団長代理として師団を指揮していたアンソニー・マコーリフ准将が、ドイツ軍の降伏勧告に対して言い放った名言である。ただし、戦後のインタビューの際では、実際には『Shit』と答えたと、本人は語っているとの事だ。

 

「不名誉除隊されたが、俺の強さを甘く見るな!」

 

その意味を理解していた黒田は、怒りの頂点に達していた挙げ句、皿ごと払い退け、怒りに纏い、論より抗議。そして鉄槌を下そうと、海軍現役時代に幾度も鍛えてきた渾身の拳をお見舞いしようと振りかざしたが――見事に躱された。

 

「そこまで相手をしたいのならば、この柘植が僭越ながら御相手しましょう。ただし……」

 

短めに身なりを整えながら――

 

「こちらからは一切手出しはしません。どんな相手であろうと弱き者を助け、お客様に大切な『おもてなし』するのが我々提督として、海の紳士としてのスタイルですから」

 

「だぁぁぁまぁぁぁれぇぇぇ!!!!」

 

本性を剥き出しにし、逆ギレした黒田は、殺意を込めた拳を躊躇なく見舞おうとしたが――

 

「ど、どこに行った!?」

 

キョロキョロと周りを見渡す黒田。

 

「後ろでございます。お客様」

 

――すると、その背後から、ぬっと顔を出した提督。

白昼に姿を見せた幽霊の如く、背後から現れた提督を見た黒田。思わず、ひいっと情けない短い悲鳴を洩らした。

 

「次は当てるからな!おらぁぁぁ!」

 

気を取り直して離れた黒田は再び殴りかかるが、まるで蝶が舞うようにまたしても華麗に避ける。

 

「汗をかかれていますが、御身体は大丈夫ですか?」

 

穏やかな口調に伴い、ニコッと微笑しながら、気遣う提督。

慌てて離れ、その紳士的な対応が気に喰わない、今度こそ顔面に当たってやる!と、黒田は勢いをつけたものの――

 

「ハンカチは如何ですか?」

 

同じ結末。華麗に躱した直後、一流の有名マジシャンの如く、何処からともなく出現した上質なハンカチを勧める提督。この丁重かつ、徹底ぶりなおもてなしであったが――

 

「貴様……よくも俺をおちょくりやがって!だが、今度はそうはいかないぞ。お前みたいな人殺しの疫病神は死ねば良いんだ、柘植えぇぇぇ!」

 

当の本人は、提督のおもてなしに満足するどこらか、血が沸き立ち、やがて我慢の限界に達していたのか黒田の頭に憤怒の血が駆け上がった。

 

この苛立ちと狂気が入り混じった焦燥の表情を表した黒田は、今度は後ろに待機している3人の構成員らで襲わせようと、指示を出そうとした矢先――

 

「ねぇ、ねぇ。おじさん?」

 

「お話ししてもいいかな?」

 

君たちは……と呟いた提督。見違える訳はなかった。

救助活動で助けたふたりの子どもたち、あの兄妹がいたのだ。

 

「な、なんだよ?お前らは」

 

怒りを抑え、落ち着いた口調で黒田は訊ねた。

 

「なんでお兄ちゃんと、お姉ちゃんたちをいじめるの?」

 

「人をいじめるのは悪いことだよね」

 

男の子と女の子から発した言葉に、「えっ……?」と唖然する黒田。

 

「お兄ちゃんとお姉ちゃんたちは僕たちを助けてくれたんよ。暗くて怖かった場所から、僕たちを見つけたり、怪我も治してくれたんだよ」

 

「一緒にお話ししてくれたり、遊んでくれたり、ママとパパも見つけてくれた優しいお兄ちゃん、お姉ちゃんたちなのに、どうして怒ったり、いじわるするの?」

 

「そ、それは……我々平和の民は、悪い人たちを……」

 

子どもたちの訴えに狼狽える黒田。

 

「悪い人たちはおじさんたちだよ。みんなをいじめて、いじわるそうに楽しいんでいる悪いやつらだ!」

 

「ママもパパ、先生もいつも言っていたよ。ありがとうが言えない、優しい人とおともだちをいじめる悪い人たちとは、おともだちになってはいけないって!」

 

「くっ……」

 

黒田は答えるどころか、返す言葉すら出来なかった。

何しろ自分より年下、子どもたちによって、論破された挙げ句、提督たちを確実に社会的抹殺することすら困難を極めた。

 

「すみません。うちの子が」

 

「本当に申し訳ありません」

 

提督たちが見つけたらあの子どもたちの両親が言った。

黒田は今度こそ、邪魔する者たちがいなくなるな、と一安心していたが……

 

「でも、私たちも思いますよ。私たちの子に友達と嘘つきの違いを教えて分からない子たちでない事は言いますよ」

 

「人それぞれ考え方はありますが、子どもたちを怖がらせ、私たちの為にこの子たちを助けた恩人たちの悪口を言わないでください」

 

静かな怒りをぶつける子どもたちの両親。彼らだけでなく、提督が手当てした若い男女、他にも多くの人たちが声を上げ始めた。

 

「この人たちは、僕や彼女を手当てしてくれた恩人たちだ!邪魔しに来たあんたらは何様のつもりだ!」

 

「見知らぬ私たちのためにわざわざ頭を下げて、誰よりも早く手当てをしてくれました!こんな事も知らない癖に、知ったような口を言わないでください!」

 

「何が平和の会だ!」

 

「お前たちの方が悪人だ!」

 

「黙っていないで何か言え!」

 

「話し合いで解決と言いながら、暴力とは呆れる!」

 

全員を敵にまわすのが、よほど怖かったのか、1つ1つに反応して、民間人たちから敵意の目が、自分に向けられたと言うことを理解した黒田を含め、市民団体も、彼らの非難を避けるように縮こまっていた。 一部の労働組合構成員たちも堪えずに、睨みをより効かせ、高圧的な態度をしていたが、数多くの戦場を駆け巡った双眸で睨み、無言の圧力を加える多国籍軍兵士たちに睨み返された途端、次第に怖気づいたのか、さっさと静かに後退りをしていった。

その瞬間、黒田が築き上げてきたもの全てが、音を立てて崩壊したように、もはや逮捕どころか、この場にいた者たちが提督たちを護り、黒田たちに味方する者はいなかった。日頃から被災地などに必ず恨みを買うほど妨害活動しかしない市民団体やメディアに対する見方は、実に容赦が無い非難が絶えず向けられたのだった。

しかも提督によって逆に自分たちが追い詰められ、過去の失態を繰り返すように同じ過ちを犯すという惨めな末路を迎え、その醜態を民間人たちに冷ややかな目で見られてしまった。

 

「ぐ、ぐぬぬぬ!よくも恥をかかせやがったな!覚えていろ、柘植!不愉快な同類ども!今回は大人しく引き上げてやるが、この恨みは必ず晴らしてやるからな!」

 

『黒田先生の言う通り、必ず報いを受けさせてやる!覚えていろ!平和を乱す国家権力の犬どもと、哀れな兵器女、そして馬鹿な原始生物どもめ!!!』

 

この仕打ちに苛立ちを覚え、ついには醜い本性を現し、言い終えた黒田は背中を向けた直後、さっさと逃げ出した。他の市民団体も同じく蜘蛛の子を散らすように、時代劇に登場する悪人らの如く逃げ去っていく。最初の敬語はなく、あるまじき言葉が混じった捨て台詞を吐いた黒田たちに対して、提督は『覚えたくない、寧ろ忘れたい』と心の中で呟いていた。

その災厄の嵐が過ぎ去り、提督は深々と頭を下げて最敬礼をした。彼だけでなく、古鷹たち全員も同じく最敬礼をしていた。

提督たちを助けた民間人たちは、困った時はお互い様、恩を返すのは当たり前だ、と感謝の気持ち、笑顔を交わしてくれた。

 

「ありがとう。君たちのおかげだ。ありがとう」

 

ふたりの子どもを抱き抱える提督。希望の灯火でもある子どもたちの笑顔と勇気がこの危機を救ってくれたことに大いに感謝した。さて、お礼にと彼らの為に、もうひと仕事、任務を遂行しなければな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「熱いから、気をつけてね!」

 

FASTシステムから、漂う芳醇な香り。

提督たちは、民間人たちに温かい食事を振る舞った。

温かい食事だからこそ、心の奥底から温まり、士気も上がる。

ありふれたものだからこそ拘る事は忘れてはいけないが、だからと言って、高級料亭のように気取ったものにしてはいけない。味は素朴な物こそ引き立てる料理だ。

出汁は海軍式水出し昆布で丁寧に引き、豚肉、大根やゴボウなど複数の根菜類をごま油で炒め、香りが漂って来たら、ちょうどいいくらいの出汁を張る。一煮立ちさせたあと、大豆や米、麦等の穀物に、塩と麹を加えて発酵させた麦味噌を溶き入れた豚汁とともに――

 

母の思いやりを優しく包み、災害派遣でよく振る舞われるおむすび。

その歴史は古く、戦場における携行食(兵糧)の代表としても今でも活用された。諸説は様々だが、一説では、現代のように海苔を巻いたおむすびを作ったきっかけを生んだのは、大正時代の海軍であった。1930年(昭和5年)に神戸沖で行われた観艦式の際、江戸時代よりも豊富な海苔景気とも言われ、しかも海苔には亜鉛などの栄養も多く含まれており、表面に貼り付ければ食べる際に手に飯粒が付着しない、その便利さも相まって海苔はおにぎりに欠かせない食材となったとも言われている。

 

なお、おむすびと名付けたのは、女官たちの御所ことば、所謂しゃれ言葉「おむす」から「おむすび」になったと言われている。

御所ことば――室町時代から続く、宮中の奥で、陛下の側に仕える女官たちによって使われた特殊な言葉。

元々は宮中言葉だったが、一般に広まり始めたのは、幕末から明治初期に掛けて、宮中言葉がブームとなり、夫人教養書が上品な言葉として教え、今日までこの言葉は日常生活に溶け込んでおり、誰もが使っている言葉として受け継いだものである。

2600年以上から続く皇室とともに歩んだ日本だからこそ伝わり、次の世代、未来に残したい言葉を、政府・元帥の新たな教育方針の一環として、再び取り上げた。この言葉の意味に伴い、人々の無事、希望、幸福を願うための祈願を込めて、御結び、そして人々に幸福が訪れますように、と、おにぎりではなく、おむすびとしてこの名を採用したのだ。

 

その証しに、絶望や悲壮感に沈んでいた空気が消え去り、人々の笑顔で場の空気が、パッと明るくなった。

 

手作りならではの温もりの味。まろやかな味、かつおと昆布の合わせ出し(混合だし)、隅々まで染み渡る麦味噌、双方を豊かにさせる炒めた野菜と豚肉の味が溶け込み、これほど贅沢な汁物はあるのだろうか。その優しい味付けがしみじみと染み渡り、腹の底から、次第に身体中が温まり、人々は顔がほころんだ。

 

交互に味わうため、握りたてのおむすびを囓ると、ほんのりと温かい米の味は優しい旨味と甘味が、口の中でいっぱい広がり、磯の香りと独特の香ばしさを醸し出すのり、程よい塩加減、ほのかな酸味を感じる梅干しが良い塩梅を生み出す。

 

美味い、幾らでも食べたい、温まる、という声が聞こえた。

 

疲れ切った人々の心を癒し、涙が出るほど美味く、身体も温かくしてくれた食事は、まさに飯は剣よりも強し、と言った方が良いだろう。戦う力だけでなく、人々を救う力があってからこそ、その力が発揮することが出来たし……

 

「お兄ちゃん」

 

「お姉ちゃん」

 

『ありがとう!!アメあげるね!!』

 

「ありがとう、嬉しいな」

 

「ありがとう」と古鷹たち。

 

――同時に、俺たちは必ず、乗り越えていく。人々と、この子たちを護るためにも務めなければならない。

 

例え、この先にどんな険しい戦いがあったって、変わりはしないと――




今回は久々に9000文字になりました、前作以来ですね。
少しこだわったりしますのが、私なりの癖でもありますので。
今回は提督たちのしたおかげで、不届き者たちを撃退、希望の灯し火を護り、彼らに感謝される温かい回になれたかなと思います。
因みにネタバレ、今回出た黒田たちはまた近々出ます。どんな風に現れるかは暫しお待ちを。交渉すらないという事だけは確かです。

実際には自衛隊は野外炊具シリーズを運用していますが、将来は米軍が運用するFASTシステムになるかと思い、こちらを採用しました。550人分を作るとは流石ですし、最近は味も向上し、レストラン並みになっているらしいです。ミリメシもですが、御所ことばも調べるとなかなか奥深く、楽しく勉強しているようで面白いですね。
今回出した御所ことばのひとつでもある『おむすび』の他には、おかか、お造り、おひや、など様々なものがあり、また……

あさがお→お麩
いもじ→いか
たもじ→たこ
おこうこ→漬け物
おみおつけ→味噌汁
おかべ→豆腐
のもじ→海苔

一例ですが、これ以外にも様々な御所ことばがあり、とても奥深いものです。大切なことですから二回言いました。

では、長話はさておき……
次回は久々の日常回、甘々回になります。
戦時中、緊迫する最中でも何気ない日常もですが、偶には甘いものも食べたくなりますからね、仕方ないねぇ♂(兄貴ふうに)
海の景色が見られるある場所で起きる、甘々回とまで言いますね、どんな風になるかはお楽しみを。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

それでは、第63話まで…… До свидания(響ふうに)

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